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三十五、三家による捜索
しおりを挟む「ジェイミー。今、少しいいですか?」
未だ、午後の授業中の筈のカシムが、少し慌てた様子で来た時、ぼくは、魔法陣が埋め込まれた風車を持って、庭を走り回っていた。
いや、この風車が凄いのなんのって。
走れば、羽根の部分が回るのはもちろんなんだけど、その時に色と光も同時に出る。
そして、一定の速さに達すると、何ときらきら輝きだすのだ。
初めて見たときは、興奮しすぎて前方不注意を犯し、見事に頭から突っ込んだ。
低木の、藪のなかに。
『ジェイミー!』
それに驚いたのが、ぼくにその風車をくれたカシムで、これは危険だということで、そのまま取り上げられそうになったんだけど、絶対にもう転ばない、よく注意するからと訴えて、何とか取り上げるのをやめてもらえた経緯がある。
その時、切り傷を負った顔中から血を流しながらも『やあの!も、ころばなっ!こえ、しゅき、ぼくの!』と訴え続け、執念を見せたのが良かったんじゃないかと思っているんだけど、周りは真っ青だったらしく、それからは、ただ一緒にじゃなく、誰かがぼくとぴったりくっついて走るようになった。
なんか、色々すみません。
でも、そう思っても手放せない。
そんな魅力が、この風車にはある。
「かちむ」
「ごめんね、ジェイミー。楽しく風車で遊んでいるのに」
「んん!」
呼ばれたから、急いでカシムの方へ走ろうと思ったんだけど、その時には既にカシムはぼくの傍に来ていた。
むむ。
かなりの距離があったのに、カシムは一瞬で来てしまった。
やはり、足の長さだろうか。
「ね、ジェイミー。ジェイミーは、お父様のこと、好き?」
「う!ちーうえ、しゅき!」
しゃがみ込んで、ぼくの両手を掴むカシムは、やっぱりいつもより焦っているみたいで、前置きも無しにいきなりそう聞いたから何事かと思ったけど、ぼくが父様を好きなことに変わりはないので、元気に右手を挙げて答えた。
「では、お母様は?好き?」
「うう!あーうえ、だあしゅき!」
お、すまん父様。
父様も大好きだから、安心してくれ。
「そうか・・・。そうだよな。初めて会った日も、家に帰ると言っていたし・・じゃあ、ジェイミー。クロフォード公爵って、分かる?」
「う!ヴぃ!」
懐かしい名前が次々出て来て、ぼくは風車を、その場で勢いよく回しまくる。
「ヴィ?って、誰?」
「ヴぃは、ヴぃ」
誰かと聞かれても、カルヴィンはカルヴィンだと、ぼくはどう答えたらいいのか分からず、首を傾げた。
「ああ、じゃあ。ジェイミーの何?」
「こにゃくしゃ!」
ああ、そういうことか!
カルヴィンは、ぼくの婚約者だよ、カシム。
「こにゃくしゃ・・・婚約者、ってこと?」
「う!」
「そうか・・・だから」
ぼくの答えに、何か合点がいったように、カシムが小さく呟く。
「かちむ?」
「そしたらジェイミー。王家は?第一王子殿下とも、仲良し?」
「んんんん!きあい!だいちおうじ、きあい!」
一体、何があったのかと思ってカシムを見ていたぼくは、とんでもない奴の名前を聞いて、嫌いだと首をぶんぶん振り回した。
「ああ、分かったから。そんなに頭を振ったら、倒れてしまうよ」
大嫌いだと、必死に訴えるぼくの頭をそっと止めて、カシムが優しい笑みを浮かべる。
「驚かせてごめんね。実は、ジェイミーを捜索している家を見つけたんだ。でもそれが、三家あってね」
「う?」
どうして三家?
うちと、カルヴィンのクロフォード公爵家が探してくれるのは分かるけど、もうひとつって何処・・・って、もしかして!
「きあい!だいちおうじ、じぇいみぃ、きあい!んと、あっちも、こっちも!」
ぼくは、ぼくもマグレイン王国の第一王子を嫌いだけど、あっちもぼくを嫌いなのだと、懸命に訴える。
「うん。分かったよ、ジェイミー」
「う」
良かった。
分かってくれた。
「実はね、ジェイミー。マグレイン王国のクラプトン伯爵家の紋章と、ジェイミーが持っていた品にあった紋章とが、一致したと報告があったんだ」
「う!?」
ほんとか!?
じゃあ、ぼく帰れるのか!?
「それで、早速クラプトン伯爵家に連絡を取ろうとしたら、あちらもジェイミーを探していることが分かって。これはもう、間違いないと思ったんだけど」
「・・・けろ?」
ぼくが持っていた紋章から、うちを探し出して。
家族もぼくを探してくれているというのに、何が問題なのかと、ぼくは首を傾げる。
「その後、探しているのは、クラプトン家だけでないことが分かったんだ。クラプトン家と同じく、クロフォード公爵家と、王家も、ジェイミーの行方を捜している」
「っ!」
王家も!?
王家は、ぼくが居なくなった方が、都合がいいはずだから・・・まさか。
コリンって、王家の手先?
「行方不明になった貴族の子息を、複数の家が捜索するのは珍しくないけど、クラプトン家とクロフォード家は、共同で探しているようなのに、王家は別だったから。どうしてかと思って」
「うう・・う?」
ええと、カシム。
それってつまり、どういうこと?
うちと、カルヴィンの家が一緒にぼくを探すのは、当たり前だし、王家がぼくを探しているとしたら、それは、とどめを刺すためだと思うから、絶対に引き渡さないでほしいんだけど。
「ああ、つまりね」
「う」
「クラプトン家とクロフォード家、それから王家。ふたつに分かれるどちらかが、ジェイミーにとっては脅威なんだろうと思ったんだけど、どちらか、判別できなかったんだ」
「かちむ!ぼ・・じぇいみぃ、おうち、あーうえ、ちーうえ、かぁにいに、くぅにいに、いぃにに、そえから、ヴぃ!しゅき!」
ぼくは、父様も母様も、そして兄様達、もうひとりの兄様のようなカルヴィンも好きだと、必死にカシムの袖を掴んだ。
「うん。分かったから、もう大丈夫だよ」
「うう・・おうしゃま・・ごめなしゃ」
カシムは優しく言ってくれるけど、ここでぼくは重大なことに気が付く。
つまり、マグレイン王国の王家を、カシム達は敵に回してしまうってことじゃないか?
「ん?どうして謝るの?ジェイミー」
「らって・・あっちのおうしゃま・・おこりゅ」
「ああ。あちらの王家と敵対したら大変、って心配してくれているのかな?」
「う」
「大丈夫だよ、ジェイミー。我が国は、それほど弱くない」
そう言って、カシムは優しくぼくの頭を撫でてくれる。
「かちむ」
「ねえ、ジェイミー。私はね、ジェイミーに会うまで洞窟の魔女の占いなど、信じていなかったんだ。だって、お昼過ぎになって突然『占いの結果が出た、今日、今から棗椰子の実を収穫して祝え』なんて言うような奴だよ?ジェイミーも一度体験したけど、予定が狂って仕方がないでしょう?」
おお。
あの日、突然ああいうことになったのは、洞窟の魔女さんの占いの結果でだったのか。
「でもね。ジェイミーが、私の運命の君だっていうのは、信じられる。あの森に居たからってだけじゃなくて、ジェイミーとは、絆とか縁を感じるんだ」
「う」
それは、ぼくもだよ、カシム。
きっとぼくは、カシムとハリムを結びつけるために来たと思うんだ。
まあ、いうなれば縁結び・・お仲人さん・・は、違うか。
「だからね。その縁をもっと強固なものにするために・・・ジェイミー、吾と共に、ジェイミーの生家を訪れてください」
「うう!」
何故か跪き、きっちりとした態度でそう言うカシムの手を取り、それは、ぼくの方がお願いすることですと、ぼくはしっかりと頷いた。
~・~・~・~・~・~・~・
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