男しかいない世界に転生したぼくの話

夏笆(なつは)

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四十八、交差する文化

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「ジェイミー。そろそろ着くよ」 

「う」 

 広い甲板を存分に走り回って疲れ、用意してもらった椅子に座って、海を眺めながら果汁を飲むという、正に観光気分を味わっていたぼくは、カシムの言葉を合図に、空いたコップを侍従さんに渡して、椅子からよいしょと下りた。 

 いやあ、この椅子がまた素晴らしかった。 

 ぼくの、ちっこい体でも安全に、しかもちゃんと海が見えるようにって、高さもあるのに、安定感とか座り心地の面でのクッションとかもしっかり準備されてて、座りごこち抜群。 

 そのうえ、何でもひとりでやりたがるぼくのため、椅子の脚部分には二段だけのはしごも付いていた。 

「かちむ、あーと」 

 とはいえ、そのはしごをひとりで下りるのは危険ということで、今もカシムがしっかりと支えてくれている。 

 因みに、座る時もカシムが支えてくれていた。 

 たぶん、ぼくがひとりで上り下りしようとすれば、カシムか侍従さんが飛んで来るんだろうなって思う。 

「どういたしまして。さあ、行こう」 

「う」 

 船から降りるときは、危ないからとカシムがだっこしてくれ、ぼくは悠々と周りを見ながら進んだ。 

「とうちゃく!」 

 そして、遂に降り立った港。 

 

 いや、自分の足じゃなくて、カシムにだっこされてなんだけど。 

 まあ、いいだろう。 

 

「ジェイミー。お腹、すかない?まずは、昼食にしようね」 

「う!おひりゅぎょひゃん!」 

 最早、何を言っているのか分からない状態だが、ぼくは『お昼ごはん』と言ったつもりである。 

 

 ・・・・ぼく、二歳を越えて数か月経つんだが。 

 大丈夫なのか? 

 まあ、三歳までは未だあるし、これからだよな! 

 ・・・・・と、信じたい。 

 いや、信じる! 

 というか、努力する! 

 

「おひりゅ、おひりゅ」 

 そう決意はしても、すぐに直るはずもなく、相変わらず舌足らずな言葉に、適当な節を付けて歌いながら、ぼくはカシムに連れられて、カシムがこの国、セパアラ王国で仕事をする時の拠点だという場所へ行った。 

「ここれ、おちごちょ」 

「そうだよ。ここで、お仕事をするんだ。それで、奥が住居になっているんだよ。私は結構好きなんだけど、ジェイミーも、気に入ってくれるかな」 

 そう言いながら、カシムは当たり前のように居住区域へとぼくを連れて行ってくれる。 

 どうやら、仕事用の建物の後ろに居住用の建物があって、それぞれに庭も付いているようなのだけど、どちらの庭も、趣が違って面白い。 

 それに、結構、広い。 

「あ」 

 『そういえばカシム、それこそ当たり前のように『仕事』っていうし、しているけど、未だ十二歳なんだよな』なんて思っていたぼくは、目の前に出現した建物、その一角に目を見開いてしまう。 

「どうかな?この建物は、二代前の王弟が、妃にセパアラ国の貴族令息を迎えたことで建てたものだということなのだけれど。ジェイミーの生まれた国の建物も、こんな感じかなって」 

「じぇいみぃ・・おうち」 

 そこに立っていたのは、サモフィラスで見ていた建物とは違う、ぼくが生まれた場所にあるのと、とても良く似た建物だった。 

 

 ああ・・そうだった。 

 ぼくの家って、庭から見ると、こんな感じで。 

 ぼくの家の庭には、とても大きな木があって、いつか登るんだって・・・。 

 

「ジェイミー?」 

 建物をじっと見つめるぼくを、カシムが不安そうに見ている。 

 

 そっか。 

 建物だけで、こんなに胸が切なくなるのか。 

 

「なかも、見てみる?」 

「うぅ」 

 泣きそうになりながら、それでもぼくは頷いて、カシムと手を繋ぎ扉を潜った。 

「・・・・・おうちら」 

 そして中に入れば、そこには懐かしい空間が広がっていた。 

 まるで、今にも母様が、その辺りから顔を出しそうな廊下、階段。 

 すべてが懐かしく、そして我が家にそっくりでありながら、そこに居ない家族の喪失感に、ぼくは思わず涙が出てしまう。 

「あーうえぇ・・ちーうえぇぇ・・にいにぃ・・・うぅ」 

「必ず、お父様やお母様に、会わせてあげるからね」 

「う・・あーと・・おねぎゃ・・ちまち」 

 自分ではどうにも出来ないぼくは、精いっぱい頭を下げてお願いする。 

「私には、そんな言い方をしないでほしいな。ジェイミー」 

 そんなぼくに、少し怒ったように言ったカシムは、即座にぼくの顔をあげさせ、涙を拭ってくれる。 

 だけど、怒っているというよりは、拗ねたようにも見えるカシムが何だか可愛くて、ぼくは思わず笑ってしまった。 

「さあ、ごはんにしようね」 

「う」 

 言われて頷きはしたけれど、こんな郷愁溢れる、切ない気持ちでは食欲なんてわかないだろうなと、ぼくは思った。 

  

 母様が恋しい。 

 父様が恋しい。 

 家が恋しい。 

 そして、兄様たちやカルヴィンと過ごした、楽しい日々が恋しい。 

 

 そんな思いを抱えたまま、食卓に着いたぼくは。 

「おいちい!」 

 その食事のおいしさに魅了され、カシムも安心の食欲を見せた。 

 

 うん。  

 安定のぼくだな。


~・~・~・~・~・
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