男しかいない世界に転生したぼくの話

夏笆(なつは)

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八十六、ぼくを捨てる気だ。なら、拗ねる。

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 え!? 

 ぼくの伴侶候補に、カシムを? 

  

「ふぇ!」 

 前にも言ったとカシムは言うけれど、ぼくはよく分からなくて、またおかしな声を出した。 

 

 え。 

 ごめん、カシム。 

 ぼくたち、そんな色気のある話になったこと、あったっけ? 

 

「その顔。もしかして、覚えていない?きょとんとしていて、凄く可愛いけど、ひどいな。『ジェイミーは、吾の運命だ』と何度も言ったし『ジェイミーは、好きな事だけをしていていい』とも言ったよね?あれは、私の妃となって、私の宮で好きな事をして過ごしていいということだ」 

 

 えええええ。 

 カシムの運命って、てっきり生贄かと思ってたんだよな・・って。 

 最近は、それすら忘れていたけど。 

 

「ともかく、場所を変えましょう。このような所でする話ではありません」 

 カルヴィンが苦い顔でそう言い、カシムも納得して、ぼくたちは、鶏もどき売りの前から離れた。 

 その時、鶏もどきが羽ばたいて、まるで手を振っているみたいに見えたから、ぼくは、カルヴィンい抱っこされたまま、鶏もどきに手を振り返す。 

「ジェイ?誰に手を振っているの?」 

「といしゃん」 

「ああ。鳥に手を振っていたのか。振り返してくれた?」 

「んと、といしゃんが、ふってくえたから、じぇいみぃ、ふりかえちた」 

「そっか。ジェイは優しいね」 

 カルヴィンに頭を撫でられて、くふくふと笑い、ぼくは、ご機嫌のまま市のなかにある野外休憩場へと向かった。 

 もちろん、カルヴィンの抱っこで、楽ちん状態で。 

「ジェイミー。何か飲む?」 

「う!じゅちゅ」 

 カシムに優しく問われて、ぼくは迷わずそう言った。  

 だって、隣のテーブルの子が飲んでいるジュース、何のジュースだか分からないけど、おいしそうだから。 

「分かった。クロフォード公爵子息も、同じでいいか?」 

「ありがとうございます。ですが、私が」 

「いいから」 

 代金は自分が出すというカルヴィンを片手で制して、カシムは、ナスリさんに指示をして、ナスリさんが、更に他の侍従さんに指示を出し、その侍従さんが、すぐさまジュースを買いに動いた。 

 うん。 

 素晴らしい連携。 

「それでね、ジェイミー。先ほどの話だけれど」 

「う。かちむ。じぇいみぃ、ヴぃ、こにゃくしゃ」 

 カシムも知っているとは言っていたけれど、改めてぼくが言えば、また何か違うかと思って、ぼくはカシムの婚約者だと言ってみる。 

「うん。でも未だ先のことは分からないだろう?」 

「しゃきにょ、こと」 

 それは確かにそうだと頷きながら、ぼくはジュースのコップに口を付けた。 

 コップが大きくて難儀したけど、さり気なく手を添えてくれるカルヴィンのおかげで、飲むことが出来た。 

 

 カルヴィン。 

 感謝。 

 

「俺とジェイミーは、正式に婚約している」 

「しかし。ジェイミーが攫われた原因は、クロフォード公爵家内部の者が関係していたのだろう?しかも、クロフォード公爵子息は、その者を信頼し、ジェイミーをひとり残した結果だと聞いている」 

 カシムの厳しい声に、カルヴィンの顔に苦渋の表情が浮かぶ。 

「確かに、その通りです。その点において、弁解はしません」 

 己の正当性を主張することはないとカシムに言い切って、カルヴィンは、ぼくを真っすぐに見つめた。 

「ジェイ。俺の判断誤りで、ジェイミーを危険にさらしたことは事実だからね。とても、後悔している。そしてその、危険な状況にあったジェイミーを、サモフィラスの第二王子殿下が救ったことも、また事実だ」 

「ヴぃ」 

 言い切るカルヴィンが凛々し過ぎて置いて行かれるような不安を覚え、カルヴィンをひしと見つめ返したぼくに、カルヴィンが優しく頷く。 

「でもね、ジェイ。俺は、ジェイの手を離すつもりは無い。ジェイが、俺と一緒に居ると言ってくれるなら、ずっと一緒にいたい」 

「やくしょく、ちた。ちゅれていって、くりぇりゅって」 

 カルヴィンが行くところに、連れて行ってくれると言ったじゃないかと、ぼくは、カルヴィンの袖を掴んだ。 

 途端、カシムの顔が歪む。 

   

 ごめん、カシム。 

 でもぼくは、どうしてか分からないけど、カルヴィンと居るのが一番幸せなんだ。 

 

「ねえ、ジェイミー。ジェイミーは、私が嫌い?」 

 悲しい瞳で問うて来るカシムに、ぼくは、ぶんぶんと首を横に振った。 

「んん!しょにゃこと、にゃい!」 

「じゃあ、ジェイミーのこと、諦めなくていい?ジェイミーのこと、好きなままでいい?」 

「う!・・・う?」 

 元気に答えてから、ぼくは、待てよと首を捻る。 

 

 ぼくは、もちろんカシムが好きだ。 

 命の恩人だっていうことを除いても、大好きだ。 

 だけど、カシムの言う好きと、ぼくの好きは違う・・・んだよな? 

 それでも、好きでいていいよと言っていいのか? 

 どうなんだろう。 

 未だ子どもだからってことで、了承していいのか? 

 

「殿下。それは、殿下の権利でしょう。心までは、誰にも止められません」 

「では。将来、もしもジェイミーが私の方を選んだら、身を引いてくれるということでいいか?クロフォード公爵子息」 

「それは、私たちだけで決めるべきことではないかと存じます」 

  

 おいおい、カルヴィン。 

 それって、ぼく次第、状況次第では婚約解消するってことか? 

 それは、ひどいんじゃないか? 

 

「ヴぃ。じぇいみぃ、しゅてゆ、きら」 

 つんと拗ねて、ぼくは、ふんとカルヴィンに背を向けた。 


~・~・~・~・~・~・
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