男しかいない世界に転生したぼくの話

夏笆(なつは)

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八十八、最強暗殺者といっしょ!

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「ジェイミー様。お口に合いませんか?何か、お気に召しませんでしょうか?」 

 ぼくひとりだけの昼食。 

 周りには、ぼくのためだけに世話をしてくれる侍従さんたちがいるけど、席に座って食べているのはぼくだけという状況で、いつも一緒のカルヴィンもカシムもいないのが何とも寂しく、いつもよりずっと食が進まないぼくに、さっきの侍従さんが心配そうに問うてきた。 

 たぶん、今ここの責任者みたいな人なんだと思う。 

 心配させて、申し訳ない。 

「んん。しょなこと、にゃい」 

 そんな侍従さんに、気に入らないことなど何もないと、ぼくは慌てて答えるけど、本当は味がよく分からない。 

 どうして、カルヴィンもカシムも、ぼくを置いて行ったのか、何も言ってくれなかったのか、考えれば考えるほど、地の底に沈むような絶望を覚えてしまう。 

「ジェイミー様。ご無理は、なさらなくて大丈夫ですよ。クロフォード公爵子息と、サモフィラス国第二王子殿下のことが、ご心配なのでしょう?」 

「ちんぱい?」 

 侍従さんに言われ、はて何がと思いかけて、ぼくは、はっとなった。 

 

 そうだ。 

 今、マグレイン王国は国王が不正を犯した責任を取って退位するという、いうなれば政変の最中にあるんじゃないか。 

 そんな時に、カルヴィンやカシムの身を案じるのではなく、自分のことを考えてしまうぼくは、自己中心的なのかも知れないけど。 

 

「じぇいみぃ、おいてかれた」 

 やっぱり、それが凄くこたえている。 

 そりゃ、そんな大変な時に、面倒かけるぼくが居たら邪魔だろうけど。 

 でも、せめて、何か言って行って欲しかった。 

 だって、マグレイン王国へ行ったとなれば、長く離れることになるんだから。 

「そう気落ちされずとも、すぐにお戻りになります」 

「おみおきゅり、ちてない」 

 ぼくは、フォークで小さく切られた肉を刺しながら、見送りさえしていないと訴える。 

「ジェイミー様にお見送りされたら、離れがたいとお感じだったのでしょう」 

「んん。じぇいみぃ、じゃま、おもた」 

 侍従さんが、根気強く相手をしてくれる甘えが出て、ぼくは、いじいじと言い続けてしまう。 

 邪魔だから、見送りなどして『付いて行く』と我儘を言われたら面倒だから、だから見送りさえさせてくれなかったに違いない。 

 そこまで考えて、ぼくは、首を大きく横に振った。 

 

 ああ、違うな。 

 カルヴィンとカシムは、ぼくにそんなこと言わないし、思いもしない。 

 ぼくがずっと拗ねていたから。 

 だから、マグレイン王国へ行くって言うタイミングが無かったんだと思う。 

 ということは、カルヴィンとカシムこそは、ぼくに言わずに旅立ったことを気にしているに違いない。 

 カルヴィン、カシム。 

 ほんとにごめん。 

  

「いえいえ、ジェイミー様。本当に邪魔だと思う相手は、むしろ危険な場へ連れて行きます」 

「ふぇ?」 

 ぼくが、反省とともに考え込んでいると、何だか少し雰囲気が変わって、ぴりっとなった侍従さんが、笑わない瞳であやしいことを言い出した。 

 ぴりっとなったといっても、ぼくに対してではないことが分かるから、怖くはないけど。 

 

 なんだ? 

 邪魔な相手は、むしろ危険な場所へ連れて行くって。 

 

「自分にとって邪魔な相手。そんな相手でも、あからさまに疎外したり、消したりすれば、煩わしいことに、自分に火の粉がかかって来る場合がありますからね。そんな相手がいるときは、わざと危険な場所へ連れて行って消えてもらい『彼の尊い死を無駄にしないためにも』とか演説に盛り込むのが、最良なのですよ」 

「・・・・・」 

  

 うん。  

 嘘だった。 

 この侍従さん、充分怖い。 

 笑顔なのに、目の圧が半端ない。 

 迫力凄し。 

 このひとに本気で凄まれたら、ぼくなんてそれだけで昇天する。 

 

「じゃま、けしゅ」 

 邪魔者は消す。 

 消えてもらう。 

 つまりそれって、この世から消す、いなくなってもらうってことですかと、ぼくは侍従さんを見上げた。 

「そうですよ、ジェイミー様。ですから、お見送りもできなくて寂しい気持ちもおありでしょうが、信じてお待ちください。おふたりとも、絶対にジェイミー様を邪魔になど思っておられません」 

「うん」 

 まあ、ぼくが勝手に拗ねて話を聞かなかっただけで、カルヴィンもカシムも、ぼくを邪魔なんて思っていないとは思うし、もう置いて行かれてしまったのだから、大人しく待っているしかないと諦めのため息を吐き、ぼくは、鶏肉っぽい物を口に入れる。 

「あ。おいちい」 

「それは、ようございました。ジェイミー様。クロフォード公爵子息も、サモフィラス国の第二王子殿下も、そして我が陛下も、ジェイミー様を大切に思っておられます。その証拠に、私をジェイミー様のお傍にお付けになりました」 

「ん?どゆこと?」 

 にこにこと人好きのする笑顔で言うこの侍従さんを、ぼくの傍に残して行ったのが、ぼくを大切に思う証拠って何だろうと思って首を傾げていると、侍従さんがまたもとんでもないことを口にした。 

「はい。私は、最強と呼ばれる暗殺部隊の長ですから」 

「うぐ」 

 何だか照れたように言う侍従さんの本職を知って、ぼくは、思わず喉に詰まらせてしまう。 

 

 いや、でもなんか納得。 

 そうか。 

 だから、この迫力と凄みなのか。 

 

「ああ、すみません。驚かせてしまいましたか。ですが、腕には自信があります。たとえ、ファロ伯爵の残党が束になって挑んで来ようとも、私の敵ではありません。お任せください。あ、昨日のお出かけの際にも、密かにお守りしていたのですよ。ジャギに手を振るジェイミー様、とてもお可愛らしかったです」 

 ぼくの背を、優しくとんとんと叩き、コップの水を飲ませてくれる侍従さんの本職は暗殺部隊の長。 

「んくっ・・あいがと。んと、じゃぎ?・・・あ!あにょ、といしゃん!」 

「ああ。名前をご存じではありませんでしたか。あの鳥はジャギと言って、食用です」 

 そうか、あの鳥の名前はジャギというのかと、ひとつ学んでご満悦といった表情をしたのだろう、侍従さんは優しい瞳でぼくに頷いてくれた。 

  

 この柔和な表情で、暗殺部隊の長なのか。 

 ああ。 

 でもだから、さっき、ぴりっとした感じに。 

 

「ジェイミー様。お口の周りを拭きましょうね」 

「う」 

 汚してしまったぼくの口の周りを拭いてくれる優しい手つき、優しい眼差し。 

 こんな、優しさで溢れているようなひとが武器を手にする時。 

 その時、どんな瞳をし、どんな声を発するのか。 

 ぼくは、少しだけ知りたい気がした。 

 
~・~・~・~・~・~・~・
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