掃除屋

夏笆(なつは)

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序、

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朝を迎えて昼となり、また時間が過ぎれば、夜が来る。 

そして今日も、羽国うこくに双子の月が昇る。 

 

 

「・・・ええ、なになに。羽国うこくの地下には、巨大なシェルター帝国が広がっており、地下で数十年生き延びられるだけの、充分な施設と蓄えがあるが、この情報が公開されることはないだろう。なぜなら、一般市民がそこに受け入れられることは無いからである・・・って、絵南えな。こんな記事書いちゃって大丈夫なの?この間も、緒国華国喜国おこくかこくきこくは何とかって記事を書いたばかりなのに」 

 渡された新聞を読んだやまめは、美味しそうにビールのジョッキを傾ける親友へ心配そうな目を向けた。 

「ん?大丈夫って何が?・・ああ、軍に捕かまらないかってこと?まあ、平気でしょ。だって、そういう噂があるのは本当なんだから。それに<おかきが仲良し>だなんて今時子どもだって知っているじゃない」 

「また、そんなこと言って。政府に対して悪意ある記事を書いたとか難癖付けられて、罰せられたりしない?国家反逆罪とか」 

 緒国華国喜国おこくかこくきこくでおかき。 

 これは枝豆だけどと笑って言いながら枝豆をひらひら振って見せる親友には、焦る様子など微塵も無いが、やまめは不安だと眉を下げた。 

「大丈夫だって。だって、そんなことをしたら、真実ですって認めるようなものじゃない。しないわよ。地下のシェルター帝国は、お偉いさんたちだけの秘密の移住場所なんだから、藪をつついて蛇を出すような真似しないって」 

「はあ。シェルター使わなくちゃいけないようなことをするのもお偉いさん、シェルターに逃げることが出来るのもお偉いさん、ってことね」 

 ため息を吐くやまめに、絵南えなは、その通りと枝豆を向ける。 

「そ。後は、お金持ち」 

「それだって、一握り。後はみーんな働き蜂」 

「言えてる」 

 かちん、と再びジョッキを合わせ、ふたりは楽し気に笑い合う。 

「そういえば、やまめ社長。仕事はどう?儲かっている?」 

「社長がひとりで頑張っているわよ」 

 苦笑して、やまめは唐揚げを口に入れた。 

「でも驚いたな。やまめがお掃除屋さんを始めるって聞いたときは」 

「そう?」 

「うん。だってやまめ、あんまり人と関わるの得意じゃないでしょ?お掃除屋さんだと、いつも初めましての人と会うようなものじゃない」 

 長年の付き合いの親友らしい心配に、やまめはこくんと唐揚げを呑み込む。 

「そうなんだけどね。どうやら私、初対面の人とか、浅い付き合いの方がいいみたい」 

「浅い付き合いね。つまり、一緒にお茶したり出かけたりは一切なしの人間関係ってこと?」 

「そ。極々一部を除いてね」 

 我ながら人付き合いが下手だと笑いながら、やまめは追加の注文のため品書きを手に取った。 

 
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