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二、
ああ、癒し。
ほんとに格好いい。
レタスちぎっている姿も素敵だなんて、マスターってば国宝なのでは?
「小鹿ちゃん。こんなに早いってことは、今日は<ラッキーな日>だったんだね」
カウンター席にひとり陣取り、これぞ至福と、作業するマスターをにまにまと見つめていたやまめは、顔をあげないままのマスターに言われ、満面の笑みで頷いた。
「当たりです!今日はあの、嫌味で傲岸な鬼畜上司の命令はありませんでした!」
『しかも現在、マスターを独占状態で更に幸せです!』とは、心のなかだけで付け加えたやまめが嬉しく報告すれば、マスターがにこりと笑みを深めた。
「そんなに嬉しい?」
「はい!それはもう」
「そうか。それは良かった。いつも、お疲れ様・・・はい、お待たせ。先にサンドイッチの盛り合わせと、スープをどうぞ」
「ありがとうございます。いただきます・・・うーん。おいしい」
スープをひと口飲んだだけで極楽、そのうえおいしいサンドイッチと共にとなれば、より一層と、やまめは美味しい食事に舌鼓を打つ。
「小鹿ちゃんは、本当に美味しそうに食べてくれるよね」
「だって、おいしいですもん!」
『美味しそう』なのではなく『おいしい』のだと言い切って、やまめは,早くもサンドイッチを完食する勢いで食べ進めた。
「嬉しいことを言ってくれる。そうやって美味しいって全身で表現しながら食べてくれると、作り甲斐があるし、すごく幸せだって思う」
「マスターの幸せを私が提供できるなんて、こちらこそ幸せです!」
『この職業を選んでよかった思う、瞬間なんだよね』と、ほっこり微笑むマスターも国宝級に素敵だと見つめるやまめに、忙しく手を動かしながらも、マスターは優しく声をかける。
「そういえば、小鹿ちゃん。上司さんの命令が無かったってことは、今日のお掃除場所は、楽だったってことかな?」
「優しいおばあさんのおうちでした。追加とか、残業の命令もなくて、ほんとについていました」
サンドイッチをぱくつき、すらすらと言いながら、やまめはちくりと心が痛むのを感じた。
・・・なんか。
全部が嘘じゃないけど。
本当のこと言えなくてごめんね、マスター。
やまめが営む掃除屋<やまめの巣>に、やまめ以外の従業員はいない。
やまめが鬼畜と呼ぶ上司がいるのは、裏の仕事の方なのだが、まさかここでそんなことを言うわけにもいかない。
いかないが、心は痛むと、やまめはピザトーストをきれいに焼き上げ、満足そうなマスターに、心のなかで謝罪した。
~・~・~・~・~・
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