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五、
「違うな。造ったのは、自分のクローンじゃなくて、他人・・操り人形用。つまりは、そいつを、自在に操るってことだ」
「操り人形用・・・。でも、クローンって実在する人を造るんだよね?いくらなんでも本人に気づかれるんじゃない?」
最初から、新しい人間を生み出すわけでも、無から実在の人物を造り出すわけでもあるまいと、もずは益々頭を抱えた。
「ああ。奴らは、本人も与り知らぬところでその人物の細胞を採取してクローンを作ったんだ」
「へえ。そんなことができるのね・・実感はわかないけど、なんとなく理解はできた・・と思う」
『そもそも、そんなことするなんて意味わからない』と言うもずに、キキョウはうっすらと笑う。
「じゃあ、これならどうだ。あの鬼畜上司がもずのクローンを勝手に造って、その思考は自分に都合のいいように後付けする」
「え。最悪」
一気に身近に感じ、実感をもって理解したもずが身震いすれば、キキョウが楽しそうに笑った。
「お前、分かり易すぎ」
「だって、そんなの恐怖しかないじゃない。本当の私の意見じゃないのに、クローンの意見・・つまりあの鬼畜上司に組み込まれた思考回路の私が出した意見が、私の意見・・意思として扱われるってことでしょ。なにそれ気持ち悪い・・・・って。ん?待って。その時、私はどうなっているの?」
自分がふたりいるなど、周りから見てもおかしいだろうと言うもずに、キキョウがにやりとした視線を寄こす。
「そうなれば、本物のもずは邪魔でしかないからな。もちろん、消される」
当たり前だろと言って、キキョウもぱちりと碁石を置いた。
「邪魔になる本物を消して、自分達に都合のいいように扱える操り人形を造るなんて。えげつないこと考えるわね。良識はどこに行ったのよ」
自分を例に出され、よりリアルに感じてしまったもずが顔を顰めれば、キキョウが思慮深い顔になる。
「そんな奴らに良識を求めるなよ。まあ、単純に考えても色々と使い道はあるしな。研究者だって、儲かればいいって奴もいるだろうし、自分の研究を形にしたいって欲求もあるだろうからな」
理論的に完成すれば、それを実際に造ってみたいと思うのだろうと、キキョウは訳知り顔で頷いた。
「で?その操り人形を使って、自在に経済を操るってわけね」
『金の亡者どもめ』と口汚くののしって、もずもぱちりと碁石を置く。
「政治に経済・・まあ、最終目的は戦争だろうけどな」
「戦争?クローン戦争?でも、そんなに多くのクローンがいるの?一騎打ちならともかく。そんな時代錯誤じゃないんでしょ?」
自分は安全な場所に居て、クローン同士で戦わせでもするのかと、もずは、自分の分身を自分の代わりに戦わせる状況を思い浮かべるもうまくいかずに首を傾げた。
「ああ・・もずが何を想像したか、大体想像つくけど。今回は、もずが考えているようなことじゃない。今、七か国間では、ぎりぎり戦争になっていない状況も多いだろ?その均衡を崩すのが目的だ」
「<おかきは仲良し>だけどね」
キキョウの説明に、もずは揶揄うような声をあげた。
「それだよ、もず。<おかき>が仲良しだからこそ、そこに亀裂を入れたい国もあるだろ?」
「互いに疑わせ合ったりとかってこと?はあ。つまり。均衡を崩したり、仲たがいさせたりして、戦争賛成者を増やすのが目的ってことか。平和じゃない方がいいなんて、お偉いさんの考えることって分からない」
理解不能とため息を吐いて、もずは再び碁石を手に取った。
「というわけで、作戦司令だ。もず」
「え」
「『え』って。作戦司令でもないのに、こんな話をするわけないだろ?」
機密事項だぞと言って、キキョウは困った奴ともずを見る。
「そんな言い方しなくてもいいでしょ。クローンについての基礎知識学習かと思ったんだから」
「だから、それが必要な理由ってのがあるだろって話だよ・・・まあ、いいや。それで」
「いいなら、言わないでよ」
ぶすっとしてもずが遮るも、それを無視したキキョウが、先に進めるぞと作戦の詳細を話し始めた。
「まず、クローンと本体を入れ替えるのは、神泉病院だと確定できている」
「病院?そのひと、入院でもしているの?病気持ちとか?」
そんな都合のいいことがと、もずはキキョウの顔を見る。
「いや。ぴんぴんしているが、近く事故に遭う予定だそうだ」
「うわあ」
「毒使いのくせに、そこでそんな反応するか」
毒を扱わせたら右に出る者はいないと言われるもずに、キキョウが、わざとらしく口元を歪めて見せた。
「あら。言われてみれば、その通りね」
自分の作った毒で、誰かの命を奪うのは日常だったと、もずは素直に納得する。
「納得すんの早。まあ、今回は、事故に遭う前に保護する予定。で、同時に、予め病院に運び込まれているクローンの方を回収する」
「回収か。病院に忍び込んで、盗み出すってことね・・じゃあ、なんで私?」
しかし、密かに盗み出すというのなら自分の役目ではないだろうと思い、もずは訝しむようにキキョウを見る。
「いいや。病院に潜入して、相手に気付かれないようクローンを奪取する。そして、病院と研究者を糾弾するまでが、今回の作戦だ」
「分かった。その時、病院関係者にでも毒を盛るのね」
それで自分に来た仕事かと、もずが納得するも、キキョウは首を横に振った。
「いいや?今回、毒の使用は求められていない」
「は?じゃあ、なんで私?」
「別に、毒を使わない任務なんて、初めてじゃないだろう」
『適材適所はどうなった』とわめくもずに、キキョウが方を竦める。
「そうだけど。あれは、キキョウが適材とされた仕事で、そのキキョウとパートナー適正が一番高いのが私だからとかっていう、よく分からない・・・あ」
もしかしてと固まったもずに、キキョウがにんまりと笑った。
「お、気づいたか」
「気づいたってことは、つまり。今回、私に下された理由って、またそれなの!?」
「安心しろ。同じ理由で、お前が適材だとされた現場に、俺も派遣されているから」
『お前の実力も認められているってことだよ』と、片手をひらひらさせるキキョウを、もずはじろりと睨む。
「そんな、子供をなだめるみたいに」
「似たようなもんだろ」
「そんなに年齢、変わらないでしょうに」
互いの素性は知らないが、大した年の差はないだろうと、もずはキキョウを見やった。
「精神年齢は違うってこと、あるだろ」
「なっ」
「ま。お前がここで何を言っても、この作戦に<もず>が参加するのは決定事項だ。既に病院の採用通知は作成済み。ああ、もちろん、偽名でな」
思わず立ち上がりかけたもずに、キキョウは、笑みを深めてそう言った。
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