掃除屋

夏笆(なつは)

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七、



「なあ、もず。俺が戦闘の訓練してやろうか?そのモップ。上司からの折角の贈り物なのに、実戦で一度も使ったことないだろう?」
 本日の足である軽トラに乗り込むなり、揶揄うようにモップを指さし言ったキキョウに、もずは本気で嫌な顔をする。
「は?贈り物って、本気で言ってる?仕事道具なだけでしょうが。部下への労りでも何でもない。今日だってこんな、とんでもない任務をねじ込んで」
 あの鬼めと、もずは憎々しく鬼畜上司を思った。
 とはいえ、もずは彼に直接会ったことがないので、どんな容姿をしているかも知らないのだが。
「ねえ、キキョウ。鬼畜上司ってどんなひと?中年のださ男で、ぶっくぶくに太って、偉そうにしているんじゃない?」
 なので、単なるイメージで言ってみる。
 それはいつも、もずが上司をののしるときに仮定している姿。
「はは。もずのなかで、上長ってそんななんだ。でも、全然太ってないよ。未だ若いし、切れ者で、顔も整っている。美男って言っていい部類」
 一方、伝達係として上司とも会うキキョウは、楽しそうに笑いながら答えた。
「切れ者・・それは、まあそうなのかもって思うけど。ええええ。ハンサムなの?あの鬼が?ぶっくぶくじゃなくて?」
「ぶっくぶくって・・おお、何たるタイミング」
 何やら操作しながらもずと会話をしていたキキョウが、おかしみの籠った目でもずを見る。
「何よ?」
「うん。終了の連絡入れたら、このまま次のお仕事に向かえって指令が来た」
「えっ。これから!?」
「そ。これから。今すぐに。まるで、上長の悪口言っていたのが、聞こえていたみたいだねえ」
 音声での連絡ではないので、そんなことはないと思いつつ、もずはキキョウを微妙な目で見た。
「やだ。なんか、ほんとに聞かれているみたいな気持ちになるから、やめて」
「うん。あのひとなら、人外の力で、とか言われても信じられるのが怖いよね」
「鬼畜だから、ほんとに鬼だったり?」
 やっと帰れると思った矢先にこの仕打ちと、もずは大きくため息を吐く。
 今日は、既に潜入している病院でパートタイムの仕事をこなし、その後、この任務に臨んでいる。
 そして陽は、当然のよう、既にとっぷりと暮れている。
 というか、もう明日の方が近い時刻。
 ついでに言えば、明日も病院の仕事がある。
 任務を終えて、高揚していたもずのテンションは、一気に下がった。
「はあ・・今から、またお仕事」
「気持ちは分かる。でも、ま。嘆いていても仕方ないんでね。それじゃあ、行きましょうかね。あ、シートベルトは締めてね・・と、その前に」
 どんよりしたもずを揶揄うように言い、キキョウは一度車を降りると、外装に張り付けていた偽装清掃業者のラベルをはがす。
「これでよし」
 その、偽りのラベルの下から現れたのは、掃除屋<やまめの巣>の文字。
「では、次のお仕事へしゅっぱーつ!」
「あっ!今日は、アンプル複数、予備に持っておけって、これのため!?あんの鬼畜上司ぃ!」
 『毒のアンプルは、予備を複数用意しておくように』という指示を思い出し、走り出した軽トラックのなか、もずは力の限りに叫んだ。


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