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八、
「あっ、やまめ!・・やまめってば!無視しないでよ!」
「え?」
結局徹夜で任務を熟し、そのまま病院へ行ってパートタイムの仕事も熟すという離れ業を成し遂げ、よろよろ家を目指していたやまめは、かけられた声に反射的に振り向いて首を傾げた。
「あれ?絵南じゃないひとから、絵南の声がする」
「何言ってるのよ!私よ、私!絵南だってば!」
ぶつぶつと小さく呟いたやまめの声を聞き取った絵南が、手を腰に当ててやまめの前に立つ。
「うわあ。お高そうな、きれいな振袖着て、腰に手を当てるとか・・・ほんとに絵南だ」
「『ほんとに絵南だ』って。しっかりしてよ。いつもとちょっと、違う格好しているだけじゃないの」
絵南は呆れたようにそう言うが、髪をきれいに結い上げ、可憐に振袖を着こなす姿は別人のようで、とても見慣れた親友とは思えない。
こうして近くで顔を見て、その表情を確認して、漸く本人と分かるレベルである。
「そんなに化けて、どこ行くの?」
「ふふん。お見合いよ。両親と待ち合わせして、一緒に行くの」
「お見合い?ご両親も一緒に?」
その言葉が意外すぎて、やまめは、まじまじと絵南を見た。
「そ、お見合い。私、絶対に結婚したいんだけど、今って普通に生活しているように見せかけて、裏稼業を持っている人も多いっていうじゃない?だから、親を通して紹介してもらうなら、大丈夫だと思って」
「・・・・なるほど」
裏稼業持ちと聞いて、ぴしりと固まりかけたやまめは、何とか表情を保って絵南を見た。
そっか。
絵南は、裏稼業持ちじゃないんだね。
記者なんてしているから、もしかしたらって思ってたけど。
「というわけで、張り切ってお見合いに行くところ。分かった?」
「分かった」
こくりと頷くやまめに、絵南が心配そうな目を向ける。
「ところで、やまめは?何か、凄く疲れているみたいけど大丈夫?」
「うん。ちょっと汚れが酷くてね。思ったより夜間清掃に時間がかかっちゃって。仕方ないから、直行でそのまま病院も行って来たの。でも、もう帰るところだから。帰ってシャワーしたら、寝る」
「そっか。大変だね。よく頑張った」
「ふふ。ありがと」
やまめ、否もずが、どんな夜間清掃を行ったのか知ったら、この明るい絵南の態度も変わるのだろうなと、やまめは何処か遠くで思いつつ、淡く笑った。
「ね、絵南」
「うん?なに?」
するりと口から出てしまった、親友の名前。
続くのは、聞きたいのは『裏稼業持ちは嫌い?』という言葉だが、やまめは寸前でそれを回避する。
「お見合いってことは『ご趣味は?』なんてやるの?」
「たぶん、そんな感じじゃないかな。お互い両親同席の、かなりきっちりしたお見合いだから」
絵南の答えに、やまめは考えるように首を傾げた。
「絵南の趣味っていうと・・・スクープをものにすること?」
普段の彼女からは、それしか想像が出来ないが、お見合いの席でそれでいいのかと、見合いについて詳しくないやまめは、不安に思う。
「それもそうだけど、それだけじゃないわよ。一般的なもの・・お茶とか、お花とか」
「え?出来るの?」
「うん。こう見えて、両方とも師範のお免状持っているわよ」
えっへんと、先生とお呼びとおどけて言う絵南を、やまめは呆然と見つめてしまう。
「すごいんだね・・絵南」
「興味があったら、教えてあげる。特別に、お菓子代とお花代だけで・・・あ、来た。それじゃあ、またね、やまめ」
「うん。素敵なひとだといいね。そして成功を祈る」
「ふふ。ありがと」
立派な車から降りて来た運転手が開けたドアから、長い袖を器用にあしらって乗り込むと、絵南は窓を開けて、品よくやまめに手を振った。
「じゃあ、またね。やまめ」
「うん。気を付けて」
何気なく見やれば、運転手もやまめに小さく頭を下げてから、エンジンをふかして走り去って行く。
「そっか。絵南って、お金持ちのお嬢さんだったんだな」
会う時は、いつもざっくばらんで、絵南と言えば記者で、食事も飲みも大衆酒場だったから分からなかったと、やまめは少し寂しい気持ちで、絵南を乗せた車が見えなくなるまで見送った。
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