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十一、
「ねえ、キキョウ。私たち、病院潜入の最中じゃなかったっけ。この間と言い、仕事の量がおかしくない?やっぱり、私があの鬼畜上司に嫌われているから?」
いつもより華やかな装いのもずが、憂鬱そうなため息と共に隣のキキョウに囁く。
「ったく。いつもより可愛いカッコしてんのに、話すのは仕事のことか?そんな、しけた顔して」
同じく、いつもよりきちんとした装いのキキョウが、声を潜めて呆れたように言い返す。
「こんなカッコしてたって、そもそもが仕事じゃない。テンション上がるはずもなし、ってね。それより、質問に答えてよ。今の私たちのお仕事は、病院に潜入することでしょ?もうちゃんとやっているのに」
見学場所のひとつである引き出物のコーナーで、もずは怪しまれないよう、けれど適当にその辺りを見回しながら、苛立ちを込めてそう言った。
そう。
ここは、結婚式場。
もずとキキョウは、今日、結婚を控えたカップルの体で、式場見学に参加していた。
「そんな質問するとか、正気か?もず。まさか、大切な任務を忘れたんじゃないだろうな?病院勤務が最終目的じゃないんだからな?ん?」
「忘れてないから、確認してるんでしょ。ね?そうよね?最終目的のために、病院潜入任務遂行中よね?」
最終目的がクローン回収であるとは、口に出さずとも分かっていると、だからこそ、今日なぜここに居るのかと言っているのだと、もずはキキョウの手の甲を軽く摘まんだ。
「いてっ。地味に痛いから、それ。ああ、そうだぞ。俺達は、病院にも仲良く潜入捜査中だ。もちろん、それに間違いはない」
わざとらしく手の甲を摩りながら言うキキョウの行動は見なかったことにして、もずは大きく頷きを返す。
「じゃあなんで、また違う場所に潜入してるの?」
きゃっきゃ、うふふと微笑ましく品物を選び合う、本当に仲のいい本物のカップルに混ざり、紛い物のふたりも、見た目それらしい行動をとりながらも、会話は酷い。
「そりゃ、この任務が一日もかからず済むもので、メイン任務である潜入先の病院が、
今日休診日だからだろうな」
うんうんと頷きながら、キキョウは銀のスプーンを手に取った。
「お、これ。名入れも可能だって。俺、何かの本で読んだことある。どっかの国では、銀のスプーンを持っていると幸せになれるっていうとか」
「ちょっと、誤魔化さないでよ!そうよ、今日は休診日。つまり、お休みなのよ?それなのに、おかしいでしょ。休診日っていうのは、職員が休むためにあるのよ?私は、表家業の掃除屋もあるっていうのに」
『これじゃあ、休み無しじゃない、まったくあの鬼畜上司め』と、もずは唇を尖らせる。
「え。表の掃除屋って、今もやってんの?」
「もちろんよ。病院がパートタイムだから、それ以外の時間で受けているわよ。当たり前でしょ。掃除屋なんて家業、やったりやらなかったりしたら、すぐに潰れちゃうんだから」
何を当たり前のことをと言いながら、再びキキョウの手の甲を狙ったもずから素早く逃れ、目だけで『聞こえてないだろうけど、見られてる』と告げたキキョウは『俺の婚約者、怒った猫みたいで可愛いでしょ』などと、周りに言っておどけてみせた。
仕方ないので、もずも合わせて笑ってみれば、周囲のカップルから『仲いいのわかる』などと言われ、少々複雑な気持ちになる。
キキョウと仲のいいカップル、ねえ。
まあ、息は合う、かな。
キキョウと仲がいいと言われ、存外嫌な気持ちにはならないと、まんざらでもなくもずが思っていると、キキョウは、それを忘れ去ったかのように、話題を戻した。
「そうじゃなくて。今もほんとにやってんのかってことだったんだよ。ほら、建前でそういう表の職業持っている奴も多いからさ。ちょっと驚いた」
「そうなの?」
「なんだよ、知らなかったのか?特に、お前みたいに職員が自分だけの会社やってる奴なんて、そういうのの代表みたいなもんだぜ?形だけ、社会に溶け込んでいますよー、ってやつ」
「へえ。知らなかった・・・あ、このカップ。マスター好きそう」
式場の見学は、それこそ建前であり、他の見学者や式場の人間に不審がられない程度に行動していたもずが、ひとつのカップに目を止めた。
「お、確かにいいな。じゃあ、それにするか?候補にしとく?それが入っているカタログにするか?」
「うん。いいかも」
丁度他のカップルも傍に来たため、ふたりは微笑み合ってそのカップを見つめる。
傍から見れば、可愛い言い合いをしながら選ぶ仲良しカップルにしか見えないのだろう。
目が合った他の参加者の女性と会釈を交わしながら、もずは、また他の人間がいない場所へと移動した。
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