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十二、
「さってと。今日の標的さんは、どこかな」
「愛娘の結婚式に来ている親父だからな。今頃は、娘の花嫁姿に涙してんじゃねえか?あ、そうそう。俺らの最終目的は、この国の平和維持だからな?」
「え?何よ、急に」
人波から少し離れ、急に真顔になったキキョウに、もずはきょとんとした顔を向ける。
「さっきの話だよ。確かに俺らは病院に潜入捜査中だけど、それ以外にも任務を振られるのは当たり前ってこと。それは、好き嫌いの問題でなく、お前の能力を見込まれてのことだ」
「何それ。誇っていいってこと?でも、そしたら、キキョウも同じじゃない」
「そういうこと。言ったろ?俺たちの相性はばっちりなんだ、って。よろしくな、相棒」
軽くウィンクして言うキキョウは、気障ではあるものの、茶目っ気もあって嫌みが無い。
「はあ。そうですか・・・。それで?今日の実行は、式が終わってからだよね?」
なんとなくキキョウのペースに乗せられたもずは、頭を振って、今日の目的に集中することにした。
「ああ。お前の毒薬を俺が運んで、トイレでぶしゅっと」
『俺、蜂みたい』と言いながら、キキョウが『ここらへんでいいんだよな?』と、もずの首筋を指でつつく。
「そう。遅効性だからすぐには倒れないけど、失敗かと驚かない、焦らないでね?」
「ああ。お前の腕は、信用している。花嫁の父は、娘の結婚を見届けたその晩に病死するんだ。『ああ、娘の花嫁姿を見られたのが、幸いだったね』って話だな」
ふむふむと頷いて、イッキュウは時計を確認した。
「そろそろか」
式場見学も終わり、ふたりは帰るふりをしながら、標的が居る階まで移動する。
「ちょうど、披露宴も終わったみたいね」
「見送りの中に居る、あれか」
標的を確認し、ふたりは暫し近くに潜む。
「もし、トイレに行かなかったらどうするの?」
「その時は、通りすがりにぶつかるさ。でもまあ、利尿剤入れられてるから、今も結構、我慢してんじゃねえか?ほら、あの動き」
「ほんとだ。今すぐにも行きそう。じゃ、お願いね」
キキョウが楽しそうに言い、もずは、キキョウに毒を仕込んだ針付きの特製アンプルを渡した。
「お任せあれ」
小さく敬礼して、自然な動きでトイレへ向かったキキョウは、ほどなくして招待客の見送りを終え、急ぎトイレへ向かう標的と、出入口でかち合う。
「これは、失礼」
ぶつかったキキョウに針を刺されたとも気づかず、標的はそう言うと速足でトイレへと入って行った。
「いえ、こちらこそ」
その背を見送り、キキョウは役目を終えた針付きのアンプルをにやりと見つめ、もずのもとへと戻る。
「終わった?」
「ああ。無事終了。じゃ、帰るか」
「うん。帰ろ、帰ろ」
『お仕事終わり!』と首を鳴らし腕を伸ばして、もずは満足の表情で式場の出口へと向かう。
「お前なあ。せっかく可愛いのに、そんな動きするとは」
「私は私だもん」
「まあ、そうだな」
割りとあっさりと納得したキキョウの、その優しい眼差しに、もずはどきっとした。
え?
いやだ、なんで?
なんで、キキョウ相手に?
私の心臓、不良品?
「・・っと、まさかこれから表稼業の掃除の仕事とか言わないよな?」
もずが、自分の心臓の出来を訝しんでいると、キキョウが心配そうな目を向けた。
「言わない。幸い、ここへ来る前に終わらせられた」
『ほんとによかった』と言うもずを、キキョウが呆れたように見つめる。
「もう済ませて来たのかよ!お前、ほんとによく働くな」
「だって、お金が欲しいから」
「こんの、守銭奴」
「何とでも言って」
ぽんぽんと、いつものように遣り取りしながら、もずは、この感じが心地いいと、足取りも軽くキキョウの隣を歩いた。
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