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十三、
「許さない」
半身の自由を奪われた男は、呪詛を込めて呟いた。
「絶対に、復讐してやる」
『・・・このように、わたくしは病院経営に臨むにあたって、崇高な精神を持ち合わせていると、自負しております』
「崇高な精神、って。はあ・・よく言うわ」
「もず。まあ、そう言ってやるなって。きっとこいつにとっての崇高な精神っていうのは、馬鹿高い医療費を不当にひっかけて、払えなければ身売りしろっていうことなんだよ」
院長室に仕掛けた盗聴器から聞こえる声に、もずが分かりやすく呆れた声をあげれば、優雅にコーヒーを飲みながら、キキョウが嫌みっぽい言葉を吐く。
「でも、抜けてもいるわよね。こうして敵方の侵入を許したうえに、作戦室まで確保されているんだもの」
「まあ、それは。うちの上層の力でもあるんだろうよ」
「それもそうか」
悪事を働いている人間は、自分を守ることに鋭敏であるが、金で解決しようとする向きも強く、それゆえに、懐に暗殺者を招き入れる結果にもなるのだと、もずは身をもって知っている。
暗殺者など、報酬で動く人間がほとんど。
それこそ、崇高な精神など持ち合わせてはいない。
組織に忠誠を誓っているのも、自分の身を守るため。
金と安全の保証先が変われば、所属先も変わる。
その読みが出来なければ生き残れない。
それが、もずの生きる世界だった。
「まあ、今回はクローンを回収するのが目的だから、どんな悪徳野郎であろうとも、院長の身は安全だけどね」
胸糞悪い経営をする男ではあるが、今回のターゲットではないため、もずはさっさと意識から院長を追い出す。
「安全ねえ。社会的に抹殺されるのを、安全というなら、だろ?」
『だって、私の管轄外だし』と切り捨てたもずに、キキョウが胡乱な声を出した。
「何を言っているのよ。殺されないんだから、安全じゃない」
今回、クローンを有していた証拠を掴み、クローンを作成した組織と共に沈んでもらうことになってはいるが、死ぬわけではないのだから安全だと、もずはあっさり言い切った。
「社会的な死は、罰にはならないって言い方だな」
「なる人には、なるんじゃない?栄誉とか、権力とかが大事なひと」
興味なさげに言い切って、もずは盗聴器の録音状況を確認する。
「だよな!?そういう奴らにとっては、実際の死より、社会的な死の方が痛手だよな!?」
「そう、思うけど。そういう奴らって、しぶとそうだから、またそのうち復活するんじゃない?表は無理でも、裏で糸引くとか、」
「・・・・ああ、確かに」
もずの言葉に、少し考えてから、キキョウは納得と頷いた。
「まあ、私たちがそんなに深く考えなくてもいいんじゃない?」
「そうだな。んじゃ、次の段階に進みますか」
深刻になりかけた空気を一新するよう、キキョウは、ぱちんとウィンクをした。
「やめて、それ。気持ち悪い」
「ひどっ!」
~・~・~・~・
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