黄金の魔族姫

風和ふわ

文字の大きさ
21 / 145
第一章 エレナの才能開花編

21:魔族姫の誕生

「──エレナ様、お目覚めになったのですね!」

 アムドゥキアスがぱぁっと目を輝かせ、エレナの両手を己の両手で包む。エレナはアムドゥキアスの美しい顔に心臓が昂ってしまった。

「嗚呼、なんて華奢な手なのですか! 今すぐアドラメルクに言いつけて食事を作らせましょう!」
「え、ちょ、ちょちょちょっと待って! 貴方、誰!?」
「? わたくし、テネブリス国王直属右補佐官のアムドゥキアスですが……」
「いやいやいや、名前じゃなくて! なんていうかその、貴方、私の事大嫌いでしたよね……?」
「嗚呼っ!」

 アムドゥキアスが大袈裟に身体をふらつかせる。そうして壁に両手をつくと、そのまま思い切り頭をそこにぶつけ始めた。これには流石のエレナもドン引きである。

わたくしの!! 私の馬鹿!! こんな!! 尊いお方に!! どうして!! あんな失礼な行いを!! 嗚呼、エレナ様、お許しください……っ、私は、私はぁああああ!!」
「えっと……」
「すみませんエレナ様。アムドゥキアスはちょっと執着心が強いというか何かを尊ばないと生きていけない体質のようでして、こういうところがあるんですよ。多分、治癒魔法を使用して黄金に輝くエレナ様の姿に感銘を受けてしまったのではないかと。エレナ様にとってはあまりの手の平返しで不愉快だとは思いますが……あれでも面倒見のいいやつなんです」
「いやいや、不愉快じゃないよ! 驚いただけでむしろ嬉しいけど……」

 エレナはチラリとアスモデウスを見た。アスモデウスは眉を顰める。

「何こっち見てんのよ」
「いや、貴方まであんな風になったら怖いなって思って」
「なるわけないでしょ! アタシは腐ってもアンタの事をエレナなんて呼ばないっ!」

 ふんっとそっぽを向くアスモデウスにエレナは胸を撫で下ろした。アスモデウスの方は通常運転のようで安心したのだ。そこでエレナはアムドゥキアスにふと自分の疑問をぶつける。

「えっと……アムドゥキアスさん。質問いいですか」
「はっ、なんなりと」
「貴方とアスモデウスさんはその、人間に色々と嫌な事をされていたんですよね? だから人間を毛嫌いしている。であるならば、今の私は貴方達にとって何なのでしょう?」

 これは当然の疑問だろう。アムドゥキアスがこんな風に態度を変えてしまっては、彼がエレナをどういう存在として確立しているのか気になるところだ。アムドゥキアスはにっこり微笑んだ(なお、額から流れる血のせいでせっかくの美形の笑みが台無しである)。

「……私とアスモデウスは約二年ほど、人間の奴隷だった時期がありました」
「! 奴隷って……!!」
「ろくに食事も与えられず、臭い汚いという最悪の環境で人間の虐待の対象になっていたのです。魔族の血は一時的な魔力リソースとして使えるので、限界まで血を抜かれたこともありますね。その時の苦痛と屈辱といったら……っ、二十年経った今、思い出すだけでも震えが止まらなくなる」

 アムドゥキアスが目を伏せ、唇を噛みしめる。アスモデウスも舌打ちをして、俯いた。エレナは何を言っていいのか分からなかったので、何も言わない。アムドゥキアスの言葉は続いた。

「私は人間が怖くて堪らない。おそらくこの城にいる魔族達の過半数はそうでしょう。ですが、あの時。マモンを救うべく、長時間戦い続けた貴女に心を動かさなかった者もいないでしょう。美しい黄金色に輝き、苦痛に耐えながらも必死に前を向き続ける貴女をどうして『我らを虐げた者達と同じ種族、故に憎むべき対象』だなんて思えるのでしょうか」
「アムドゥキアスさん……」
「私は、我らを虐げた『人』は憎みますが、『種』は憎まないことにしました。……と、いうことで私は魔王の一人娘であり、我らが尊い姫である貴女様に相応しい態度へ改めております。今までのご無礼、誠に申し訳ございません」

 深々と、頭を下げるアムドゥキアス。するとここでマモンがアスモデウスの腕を肘でつついた。アスモデウスが「何よ」とマモンを睨む。

「何よ、じゃないですよアス。貴方もエレナ様に言わなければならないことがあるのでは?」
「…………、」

 アスモデウスがエレナに視線を向けた。エレナは思わず姿勢を正す。何を言われるのか、緊張してしまった。

「……悪かったわね」
「!」
「人間、それも元白髪の聖女だった貴女を憎むべき存在としか思っていなかった。でもアンタは違ったのよね。アタシ達を、“救うべき対象”として想ってくれていたんでしょ。多分アンタはマモンじゃなくても、全然知らないゴブリンの腕が吹き飛んでも同じことをしたと思う。アンタがそういうなんだっていうのは理解できたわ」

 ここでアスモデウスの言葉にマモンとアムドゥキアスが大きく頷く。

「……アムも言っていたけれど、人を憎めど種は憎まず。憎しみなんて汚いもんを全人類に向けるのも何の得にもならないし馬鹿な話よね。でも、憎しみとか恨みってそういうことにも気付けない沼なの。目が覚めたわ、有難う」
「っ、アスモデウスさん、」
「……っ、そ、それに一応、親友のマモンも救ってもらったし。尊敬する陛下が悪夢に魘されることもなくなったし。……あ、アンタには、かっ、感謝してる」

 アスモデウスはそう言うなり、くるりと振り返って足早に部屋を出ていった。その後姿にアムドゥキアスが再度エレナに頭を下げた。

「引き続き弟がご無礼をしでかしてしまい、申し訳ございません。もしエレナ様の気が済まないのであればアスモデウスを引きずり出して頭を下げさせます」
「ううん。そんなことしなくても私は怒ってないから大丈夫だよ。一部の人間が貴方達に酷いことをしているのは理解しているし、私も白髪の聖女だった時はただ聞いたことだけを本気にして貴方達を誤解していたから」
「エレナ様……」

 アムドゥキアスが熱のこもった瞳でエレナを見つめる。しかし、そこでどういうわけか部屋の外が随分と騒がしくなった。

「なんか部屋の外が騒がしくない?」
「あぁ、きっとアスモデウスが皆にエレナ様が目を覚ました事を伝えたんでしょう。エレナ様、覚悟はいいですか?」
「覚悟? なんの?」

 キョトンとするエレナにマモンがニヤリと口角を上げる。

「城中の魔族達がエレナ様に今までの無礼を謝罪したいから部屋に押しかけてるんですよ。一人一人懇切丁寧に謝罪させていただきますので、今日丸々一日は付き合ってくださると助かります」
「えっ!? 一日潰れるの!? 本当に!? 謝罪なんていらないって言ってよ!」
「いえいえそんなわけには。謝らずにはエレナ様に顔向けできないと皆言っておりますので……」
「お食事はこのアムドゥキアスがお持ちしますからご安心を!」
「……パパぁ……」
「すまないエレナ。そんなに愛らしい目を向けられても我には何も出来ん……」
「そんなぁ」

 エレナはため息と共にがっくり肩を落とした。



***



 この日、テネブリスに魔族の姫が誕生した。
 彼女はそれはそれは美しい金髪をもち、また奇跡にほぼ等しい治癒魔法の才能があった。
 魔族達は言う。エレナが治癒魔法を用いる姿は黄金の光に包まれてまるで女神のようだ、と。
 そして後に、彼女はその特徴からこう呼ばれるようになる。



 ──黄金の魔族姫、と。
感想 35

あなたにおすすめの小説

イリス、今度はあなたの味方

さくたろう
恋愛
 20歳で死んでしまったとある彼女は、前世でどハマりした小説、「ローザリアの聖女」の登場人物に生まれ変わってしまっていた。それもなんと、偽の聖女として処刑される予定の不遇令嬢イリスとして。  今度こそ長生きしたいイリスは、ラスボス予定の血の繋がらない兄ディミトリオスと死ぬ運命の両親を守るため、偽の聖女となって処刑される未来を防ぐべく奮闘する。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです! フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

巻き込まれではなかった、その先で…

みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。 懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………?? ❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。 ❋主人公以外の他視点のお話もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。 ❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

死ぬ瞬間にだけ、愛してほしい

しょくぱん
恋愛
「代わって。死なない程度に、ね?」 異母姉リリアーヌの言葉一つで、エルゼの体は今日もボロボロに削られていく。 エルゼの魔法は、相手の傷と寿命を自らに引き受ける「禁忌の治癒」。 その力で救い続けてきたのは、初恋の人であり、姉の婚約者となった王太子アルベルトだった。 自分が傷つくほど、彼は姉を愛し、自分には冷ややかな視線を向ける。 それでもいい。彼の剣が折れぬなら、この命、一滴残らず捧げよう。 だが、エルゼの寿命は残りわずか。 せめて、この灯火が消える瞬間だけは。 偽りの聖女ではなく、醜く焼けた私を、愛してほしい。

転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり
恋愛
ある日、私は殺された。 歩道橋から突き落とされた瞬間、誰かによって手が差し伸べられる。 気づいたら、そこは異世界。これは、私が読んでいた小説の中だ。 私が転生したのは、悪役令嬢ベアトリーチェだった。 しかも、私が魔王を復活させる鍵らしい。 いやいや、私は悪役令嬢になるつもりはありませんからね! 悪役令嬢にならないように必死で努力するが、宮廷魔術師と組んだヒロイン聖女に色々と邪魔されて……。 魔王を倒すために、召喚された勇者はなんと転生前の私と関わりの深い人物だった。 やがて、どんどん気になってくる魔王の存在。前世に彼と私はどんな関係にあったのか。 そして、鍵とはいったいーー。 ※毎日6時と20時に更新予定。全114話(番外編含む) ★小説家になろうでも掲載しています。

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。

As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。 例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。 愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。 ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します! あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 番外編追記しました。 スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします! ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。 *元作品は都合により削除致しました。