白昼夢

峰岸ゆう

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白昼夢(感染)

エンドレス・today(56日目)

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太一は久しぶりに屋上で寝転んでいた。
里奈先輩にフラれてからは一度も来たことがなかった。
瞳を閉じて、静かにこれからを考える。
相変わらず、『昨日と同じ今日』を続投中だ。

……この町を出てみるか。

三回試した。富山と仙台と名古屋で一泊したはずなのに、朝、起きた時には何故か自宅だった。

……クラスメイトや知人に起きる人生に関わる大きな運命を変えてみたらどうだろう。

五人以上に試したが、効果なし。そもそも一日で人生に関わるような重大な事件など、そうそう起きない。

……諦めて、一日を有意義に過ごしてみるか。

十日以上遊んだわ。遊びつくした。ゲーセンでメダルを増やしても、パチンコ・スロットで大儲けしても、一日が終わったら無くなると思うと、ちっとも盛り上がらない。

……いっそ、死んでみるか。

一度だけ、自棄になって首を吊ってみたが、目が覚めるとベットの中。
本当に夢の世界なんじゃないかとたまに思うが、夢にしては自由度が低すぎる。
もっとこう、空をとんだり、波動の力に目覚めたり、女性に惚れられまくるとか、男性の妄想が広がってもいいはずだ。
むしろ、他人の夢にいるような感覚に近い。自分が夢を見ていることに気づいていない夢。
そんなことを考えていると、校舎から授業が終わりの合図の鐘が鳴った。
だが、太一は起きない。
しばらくすると、休み時間を有意義に過ごそうと、教室から生徒たちがでてくる足音が聞こえてきた。
「君、もしかして太一くん?」
閉じていた目を開くと、見知らぬ女性が見下ろしていた。里奈先輩と同じ三年生だろうか。
大人びた顔と余裕の表情。スタイルもよく、短いスカートから伸びるすらっと細い足が印象的だ。風で時折なびくスカートから黄色いものがちらちらと見え隠れしている。
「そうですけど……?」
太一は見ていることに気づかれないか、ドキドキしながら答える。
「里奈のことなんだけど」
田中里奈。太一が告白した次の日に失踪した少女。空想病を患っていると言っていた。
彼女もこの世界のどこかにいるのだろうか。もしくは、この世界をうんだのは彼女なのか。
「君の事は里奈から聞いたよ。失踪する前の日に、ね。表情は哀しそうだったけど、本当はすごく嬉しかったんじゃないかな。あの子は消えるつもりだった。だから断ったんだと思う。君の告白を」
先輩の友達は、話していて当時を思い出したのか、涙があふれそうだった。
「先輩……いえ、里奈さんの病気についてなにか聞いていますか?」
「病気? ううん。……あ、もしかして都市伝説になっている<<空想病>>ってやつ?」
「里奈さんから聞いたんですか?」
太一の問いにため息をつきながら小さく首をふる。
「違うわ。ちょっと、最近、あの子の様子がおかしかったからネットで調べてみたの」
「様子がおかしい?」
「ええ。ぼーっとすることが増えたり、独り言が増えたり、よくわからないことを言うようになったわ。でも、そのことを里奈に言っても覚えていないの」
確かに、それは太一が調べたことがある<<空想病>>の症状だ。
「最初は、精神病だと思ったの。でも、里奈の他にも最近そういう症状の人が増えているってネットの掲示板で騒がれるようになっているのを知って、一種の<<都市伝説>>のように言われているわ。最新の書き込みでは、渋谷に行くと感染するとか……」
「渋谷」
そう言われてみれば“今日”が始まってから渋谷にはまだ一度も行った事が無い。
行ってみれば、もしかしたら、一日をやり直すという呪縛を抜け出すヒントになるかもしれない。
「ちょっと渋谷に行ってきます」
そう言うなり、太一は屋上を飛び出した。
「え? た、太一くん?」
呼び止められたが、太一はそれを振り切って階段を駆け下りる。
無視するのは心苦しかったが、どうせまた“今日”をやり直すことになったら、すべて覚えていないのだ。
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