楽しい落語の話し方

峰岸ゆう

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落語ツアー

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 梓が市民会館で大立ち回りをしてから一月が経った。

 小学生で自分と違う世界で努力している左近に感化され、しばらくはネットで落語の動画を見たりしていたが、あの時ほどの興奮は感じられそうになかった。

「……やっぱり、直接、生で見ないとダメなのかな~」

 ノートパソコンを閉じて、梓はベッドに横になってつぶやいた。
 おじいちゃんに言えば、喜んで連れて行ってくれるだろうけど。

 だが、左近の口座でもなければ、途中で寝てしまうかもしれない。
かと言って左近の落語を聞きに行くのも、なんか負けた気がする。

「…………」

 このもやもやした気持ちはなんだろう。
 行動を起こしたいような、だけどなにをしたらいいのかわからない。
 自分の気持ちがよくわからない、憂鬱な感情。

 梓は『芝わん』のぬいぐるみを抱き抱えながら、ごろん、と寝返りをうつ。
 五分ほど、壁をじっとみつめていると、一階から母親が自分を呼ぶ声が聞こえた。

「梓ー。ちょっとーっ」
「……はーい」

 気分を切り替えるために、梓は体をベッドから起こしながら下に向かって返事をした。

「なーにー?」

 とんとん、と階段を降りながら問いかけると、ダイニングテーブルで祖父・昭雄とお茶を飲んでいた。

「お母さん、なに?」
「昨日、貴女が学校に行ってる間にね、この間、おじいちゃんと行ってきた公民館でお世話になった滝川さんという方がいらっしゃってね」
「えっ。子供の方じゃない……よね?」
「?」
「左近くんの方じゃなくて、お父さんの方じゃよ」

 お母さんが梓の質問の意図がわからず、首をかしげると、昭雄がフォローをする。

「だよね。それで?」
「今度、落語協会の懇親会があるとかで、そこにあんたと風音ちゃんに来てもらえないかって言われちゃってね」
「…………は?」

 今度は梓がぽかんとする番だった。
 事情を一番知っている昭雄の顔を見る。

「この前、風音ちゃんと梓が公民館で落語を演じたじゃろう。どうやら、あれが好評だったようで、他の落語家の卵たちにも見せたいというらしいんじゃよ」
「えー……」

 わかったような、わからないような説明に、梓が机に顔をつける。

「会場は温泉みたいよ。お父さんとも話ししたんだけど、行ってきなさいよ。招待ということで、貴女とおじいちゃんの交通費から宿泊代まで全部向こう持ちだって。この不況のご時世、太っ腹よね」
「……当然、おじいちゃんは……」
「大歓迎じゃ」
「そうだよね」

 いきなりな話しだが、どうやら外堀は埋められているようだ。

「風音が行くかなぁ?」
「あ、風音ちゃんはいいって」

 せめてもの抵抗もむなしく、こうして落語ツアーに参加決定となった。
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