陰陽師と伝統衛士

花咲マイコ

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あやかしと幽霊の恋愛事情

3☆薫の無断欠勤

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 紫陽花咲き誇る六月。
 夏に向けて蒸し暑くもあり肌寒くなる季節。
 そして、今日は蒸し暑い。
 熱中症になってしまうほどの暑さだった。
 だが、宮中の陰陽寮はエアコンもないのに風通しが良くて、心地よい。
「瑠香さま……
 薫、今日も学校に来なかったのですが…なにか知りませんか?」
 と、李流は眉間にシワを寄せて真剣に心配している様子だった。
 薫は三日も学校にも宮中にも来なかった。
 伝統衛士の仕事も連絡もなしに休んだ。
 李流が代わりに入ったからいいもののこんな事は初めてだった。
「連絡もなしに学校に来てないのか……」
 瑠香は夏は神々、あやかしたちが活気づく季節なので時たま宮中に入り込む神やあやかしを審神者として見極めて陛下に仇なすものを排除する役目や、宮中の神事に関わる掌典の仕事も兼ねている。
 陛下の神事にも恐れ多い事ながらそばで霊的なものからお守りさせていただいている。
 そして、今は夏の大祓の準備で忙しい時であった。
 
 瑠香は息子と仲違いを解消させたとはいえ、今更息子の行動を父親らしく縛ることはしない。
 薫のプライベートを尊重して何かある時以外注意しない。
 けれど、薫に関して直感で嫌な予感がする……
 ルカの神が反魂香の副作用の話を昨夜したことも気になっていた。
「申し訳ないが、李流君。薫の様子を今すぐ見てきて欲しい。頼む。」
 何ともなければいいのだが……と祈りながら、李流に向き直り頭を下げて言った。
「あ、頭をあげてください!オレもどうしても気になってたんです。許可さえいただければ薫の様子を見に行きたかったんです」
「ありがとう。李流くん。」
 ほっと、瑠香は一息つく。
 李流に任せておけば何とかなりそうな安心感が生まれる。
 李流は頼りになる所も瑠香は気に入っている。
「で、申し訳ないが、野薔薇にもお願いがある。」
 暦のシフト表を整理していた野薔薇を瑠香は呼ぶ。
「異界の道を繋いであるところから、私の香茂家に李流君を連れて行ってくれ。」
「はい、わかりました!」
 野薔薇は二人の会話を聞いていたので、薫の事が少なからず気になっていた。
「本当は私が行きたいが、今から祭祀の手伝いをしなくては行けなくてね。」
 国民のために祈る祭祀を邪魔する不届き者もいるので、晴房は今は気を宮中に張り巡らせている。
 さらに、瑠香が加われば最強の守りだ。
 晴房を車で跳ねたものも、宮中にあらぬ恨みや妬みをもつレッドスパイの輩であった。
 近頃は不思議な力を持つ荒くれ者が挑んでくる。
 それは容赦なく密かにことごとく晴房がねじ伏せている。
 そのために、最近は桜庭の屋敷に通うことが安心して出来ない。
 だがそれは仕方のない事なので、愛しい妻の雪に、
「お仕事専念してね!」
 と息子の李流に伝言を頼んでいる。
 晴房も李流に毎日伝言を頼んでいて、李流は宮中から実家に帰ることも忙しくもある。
 そのうえ、薫のことも頼んでしまうのは心苦しくもある。
 なので、せめてもの出来る事をしてあげようと瑠香は思う。
 瑠香は、自分の使っている局の壁になっている襖を開けると、真っ暗な空間が広がっていた。

「なっ!?宮中にブラックホール!?」
 李流は驚愕する。
「ふふ、やはり能力が身についてきてるね。何も霊力がなければ単なる壁だよ。」
「私にはちゃんとまっすぐ繋がってる道が見えまつよ。」
 野薔薇の瞳には李流が見えない道が見える。
 それは野薔薇のずば抜けた特殊能力だった。
 それをわざと自慢するように言うところはまだまだ子供だと瑠香は微笑む。
「でも、宮中に異界を繋げていいのでつか?」
「これは力のあるあやかしが作った特別な通路をルカの神が繋げてくれているんだ。」
 それは野薔薇の生まれる前の事件の産物だった。
 瑠香にも使い勝手がいいので丁度いいので繋げたままだった。
「別になんでもなく、ズル休みしているようなら、縄で縛って私の前に引き立ててくれ。
 親として叱らなくてはいけないからね?」
 と言いながらも、薫の事を一番心配していると李流は察した。
「わかりました!薫を連れて戻ってきますね」
「李流くん、私の手を離してはダメでつよ?では、おじさん行ってきまつね!」
 野薔薇は李流の手を遠慮なく握って暗闇の空間に入っていった。



 しばらく歩くと、同じ襖が現れてそこを開けると、十畳以上ある畳の大広間だった。
「ここは、香茂と阿倍野の親戚が盆と正月集まって一族会議するところでつよ」
 野薔薇はこんなところにつくのかと感嘆のため息を吐いた。
 一応、入ってきた異界の襖は開けておくことにした。
「で、薫は自分の部屋にいるのかな…?」
「薫くんのお部屋はこっちでつよ。」
「よく知ってますね?」
 普段方向音痴の野薔薇が自分の家のごとく把握してる事に李流は疑問に思っている。
「私の親が瑠香おじさんと従兄弟どうしで、仲良くて何度もお邪魔させてもらってたんでつよ。薫くんのお兄さんの桂君とも仲良くて、姉弟みたいなものでつ。」
「そうだったんですか。納得しました」
 他人の家なのに堂々として歩き回ることに少し抵抗感があったので安心した。
 香茂屋敷は二軒に分かれていて、広間のあったところは、神社のようなつくりに似ていた。
 そして、渡り廊下を渡ると普通の近代的な家と廊下が繋がる。
 鍵を掛けていないのは不用心だと思うが、薫がいる証拠かもしれない。
 そして、薫の部屋だという二階の扉をノックする。
 返事がない。
「薫くんお邪魔するでつよ?」
 と遠慮なく扉を開けると煙に包まれた部屋だった。
 部屋の中は蒸し暑さを感じるが背筋を凍らせる寒さが、ぞくりと撫でる感覚がした。
 それは、香る煙が女の人にも見えて目をこするとただの煙が怪しく揺られながら部屋を漂っている。

 薫は制服のままベッドに倒れ微動だにしない。
 しかも、顔色が真っ青で死人のように見える。

「薫!薫!起きろ!薫!」
 李流は叫ぶように必死に薫の名を呼び頬を叩いた。
 だが、眉ひとつ動かすこともしない。
 昏睡状態になっていて李流は焦る。李流こそ、顔が青くなるのを感じた。
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