臣と野薔薇の恋愛事情

花咲マイコ

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ドキドキ両親に挨拶

7☆家族円満夫婦円満

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「臣おぼっちゃまのおかえりですよ!可愛いお嬢様……っ!奥様もお連れです!」
 六十代のお手伝い女中の格好をした女性は二人をまっていて二人を見た瞬間瞳を輝かせて広い廊下をパタパタと走りながらみんなに宣伝するがごとく奥に消えていった。
「お、おぼっちゃま……」
 野薔薇はあっけに取られてぽかんとする。

「もう、『お坊っちゃま』はやめてくれ……」
 顔を真っ赤にする臣。
「でも、安心しました。明るいおばさんもいるんでつね。」

 厳しい雰囲気をおもっていた野薔薇は明るいおばさんが好印象で迎えてくれたことに正直ほっとした。

「あの人は長年屋敷に務めてくれている中井光子さんで、最大のムードメーカーだから、重い雰囲気のある屋敷にドギマギする人を柔らかく楽しく向かい入れてくれて救われてる所もあるよ」
 その人を玄関に置いていてくれたことは配慮してくれた事だと思ってほっとする。
 弟が、自らの嫁をビビらせてしまったことがあるので、嫁に中井さんを出迎えさせて!と言われたと電話で連絡してくれたが、『お坊ちゃん』は禁止って、言っておくべきだったと思う。
「さ、遠慮なくあがって野薔薇ちゃん」
「はい……」
 臣は野薔薇を促して上がらせていると、奥から凛とした着物姿が似合う、中井さんと雰囲気が百八十度違う中年のおばさんがでてきた。
 そして開口一番。
「全く、いい歳して若い子を妊娠させて……出来ちゃった結婚なんて醜聞が悪いですよ。臣さん」
 と、お義母さんはやっぱり嫌味というか本心を言った。
 よそよそしいと言うよりハッキリものを言うお義母さんだと野薔薇は直感する。
「……」
 臣は黙ってしまうことしか出来なかった。
 義母も言い方がキツかったと反省しているのか口元を一瞬押さえて黙り込む。
 気まずい雰囲気が流れる。
(この二人……相性が悪い星に生まれてしまったのかも知れませんね……後で調べてみようっと……)
「は、初めまして、阿倍野野薔薇ともうします!」
 緊張しすぎて、口癖の、「つ」が「す」になった。
 沈黙を破った野薔薇にお義母さんは鋭い凛とした顔を少し緩める。
「詳しい馴れ初めは奥でお父様と一緒に伺います。ついてきていらっしゃいな」
 そう言うと無駄のない綺麗な踵の返し方に感心する。
 こんなに美しい作法をする人を野薔薇は関心してしまうし憧れる。
「お義母さま、かっこいい人ですね。」
「そうだね、そういう所は参考になるよ……身を引き締めねばってね」
 宮中では常に陛下、殿下方がいらっしゃる時に粗相の内容に振る舞うのが常識で、中務の宮殿下の仕切る陰陽寮は緩い所がある。
 社会不適合な超能力者が集まる秘密機関でもあるので、礼儀をきっちりこなすことが難しい人もいてまちまちだった。
 李流が無理やりにもきっちりすることを教え伝えて諭して規律正しくなっている最中だ。
 野薔薇の部屋の汚さを知られて以来毎日のように遠慮なくチェックされている。
 そんな毎日口煩い李流に比べればなぜだが、義母が怖いとは思わなかった。
 むしろ身の子なしを素直に憧れる。男で年下の李流に言われたり注意されるより心地よいと思う。
「でも、あのお義母さんを憧れるのか、ちょっと以外だったなぁ」
 と小声で言う。
 苦手な人物を憧れしすぎてそっくりになったらやだなぁと、わざと雰囲気が伝わって、
「あ、憧れるからって私は変わりませんよ!」
「ふふ、どんな野薔薇ちゃんでもすきだよ」
「もう!臣さんったら!」
 そんなことをいってラブラブな雰囲気を醸し出す二人を前を歩くお義母さんは大きくため息を吐いて、
「きこえてますけどね……」
 と、釘を指した。
 奥の客室広間に着くと、長髪の白髪で顎に逆三角形の髭を生やした六十代後半の父が座っていた。
「待っていましたよ。よく来てくれたね」
 一見お父さんは厳しい武将のような雰囲気だけどニコッと笑った微笑みは臣に似て優しかった。
「阿倍野野薔薇でつ!あ、でふ、です!不束者ですがよ、よろしくおねがいいたしますつ!」
 野薔薇は改めて義父と義母に向かい正座をして深々とお辞儀をした。

 途中で再び緊張して「つ」が「す」と出るはずが、あまりの緊張で言葉が絡まって真っ赤になる。
 そんな野薔薇にポンポンと頭を撫でて微笑む。
「若くて可愛い嫁だの。一回り以上離れた女子をお前が娶るなんてなぁ……」
 今にもフォッフォッフォと言いそうな雰囲気だ。
「まるで親子みたいですけど……」
 お義母さんは素直に口に出す。
「まぁ、良いではないか、臣より年上じゃ、子宝に恵まれない可能性もあるだろ?」
「あなた……」
「痛っ!」
 義母は義父のおしりをつねった。
「俺は彼女を愛してる、出会いや馴れ初めはどうあれ、今後野薔薇と二人で人生を歩みたいと思っているんだ」
「勝手にせい。いい歳した信頼してる息子に口出しするほど過保護ではないわ。なぁ、母さん」
「え、ええ……ですが……」
 お義母さんは腑に落ちないように憮然とする。
 とりあえず両親は臣と野薔薇を認めてくれた。
 むしろ認めざる得ないだろう。
 二人は成人済みなのに中絶しろなどと言う方が醜聞悪い。
「それにしても、野薔薇さんは臣の母親に少し似てるな……」
 じーっと野薔薇を見つめていた義父は突然そんなことを言った。
「そうかな。阿倍野家の雰囲気そのままだとおもうけど……」


 滝口家と阿倍野家は接点がない。
 血縁も入ってない。
 似るということはないと思う。
 どこからどう見ても、阿倍野の家の雰囲気がある。
 阿倍野家の家系を知る臣は思う、葛葉子や晴房や薫と似た目がぱっちりして、少し子供っぽさが残る可愛らしい独特の雰囲気は阿倍野のものだと思う。
 それ以前に、
(親父は……性格丸くなったどころじゃなくて認知入ってるわけじゃないよな……?)
 と、臣は内心思う。
 たまにおちゃめなことをするがこんなに緩んでいなかった気がすると不安になる。

「まさか、野薔薇さんは臣の嫁になるために生まれ変わったのかな?」
 と、さらに冗談交じりに優しく言う言い方は臣に似ている。
 厳しい武士の家のイメージを保っているのは義母の方だと野薔薇は悟り、冗談好きな義父に野薔薇は調子に乗って、
「陰陽寮の前世が見える職員さんが教えてくれたのでつが、前世で親子関係って相思相愛になるっていいつたえありまつよ。」
「……いえ、この人以前にも花代さんにも言ってたんですよ……変な冗談いうから答えに困るんですよ」
 義母はムッと叱るように義父を睨む。
 臣の弟の嫁の花代にも同じことをいっていたらしく、気まずい雰囲気が流れたことを思いだし、お義母さんがイライラピリピリした感じで言う。

 野薔薇はそういう雰囲気になる事を察して、
「もし、前世でお義父さんの妻だとしても、前世の私の妹と夫婦になって仲良くしてくれているなら嬉しいと思いますよ。絶対に!お二人共とても素敵な夫婦でつもの」
 野薔薇は思ったことを素直に口に出して言った。
「……っ」
 野薔薇のその言霊はとても柔らかい雰囲気を醸し出していて、ピリピリした気配を出していた義母は不意にポロポロと涙が零れた。

「あれ……これは……?」
「お母さんどうした?」
 心配した義父が透かさず義母の涙を拭う。
(なんだかんだいってこの夫婦仲良い……)
 と、臣と野薔薇は思う。

「もう三十五年前に亡くなった姉に、言われたように感じて……」
 ずっと、つっかえていた、罪悪感があった。
 姉が愛していた人を奪ったみたいで…どこかで私を責めている気がして……
「野薔薇さんに言われただけで救われました……」
 義母は心から感謝するように野薔薇にお辞儀をした。
「臣さんのよき伴侶に御成りあそばしてね」
 と、帰りは手を取り合って別れを惜しんだ。

 ✩

「とーっても緊張しましたけど、みんなに祝福してもらえてよかったでつ。」

「そうだね。お義母さんはいつもイライラしたイメージだけど、野薔薇ちゃんのおかげで本来の性格にもどったみたいだよ。」
 宮中には戻らず、二人は家のリビングでくつろぎながらそういった。
 臣はの体に寄りかかりながら安心する時間を過ごす。

 ピリピリしていたお義母さんは野薔薇の言葉で柔らかく優しい雰囲気に戻った。
 ずっと呵責に思っていたに違いない。
 その雰囲気は家にいた頃の臣にも伝わって苦手意識があった。
 今後は本当の家族のように付き合えると臣は思う。

「本当に私の前世は臣さんのお母さんかもしれないでつねー?
 だって、臣さんのこと、とーっても大事で大好きなんでつもの。お母さんみたいに甘えてもいいのでつよ?」
 実際ベッタリ甘えてるのは野薔薇の方だ。
 冗談でそう言ったけれど、臣は真面目な顔で、
「俺は野薔薇ちゃんのことお母さんなんて思えないよ。愛おしい可愛い大切な奥さんだよ。」
 と心から言ってくれて尚更ふわふわ幸せなになってしまう。

「だけど、父さんには合わせたくないな。前世が母さんってことてなんか仲良くされるのは複雑だし。
 か、母さんと野薔薇ちゃんは関係ないけど、ね。」
「やきもちでつか?」
 じとっと野薔薇はにやにやしながら臣を見やる。
「う、うん。そうなるかな。」
 臣は変なことを言ってしまっ手恥ずかしくて顔を真っ赤にして困った。
「私の運命の人は最初っから臣さんてつよ。」
 そう言って野薔薇から臣にキスをする。
 軽いキスではなくて愛おしさを込めたキスを……
 本当はもっとふれあいたい。
 一度きり結ばれて子供を宿して、両親に認められただけじゃ足りない……
 もっともっと野薔薇ちゃんと愛し合いたい……今すぐに……
「順序は違いますけど、がっちり周りから固めてゆっくり長い人生幸せになっていつまでも愛し合いましょうね!」
「うん。末長くよろしく、野薔薇ちゃん。」

 臣は微笑み頷くとぎゅっと野薔薇を優しく抱きしめた。
「……今夜は寝かせないからね。お腹の子供に影響与えない程度には……」
「わかってまつよ……臣さんこそ…歳のせいだという言い訳はなしでつよ」
 そして、年の差夫婦はテレビゲームに夢中になってとことんまで遊んで仲良くなるのでした。
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