祈り姫

花咲マイコ

文字の大きさ
39 / 79
伝統の縁(でんとうのえにし)

1☆香茂薫

しおりを挟む
「祝皇陛下を嫌いなら、日和国から出て行け!」

 そう、クラスメイトに言い放ったのは、香茂薫かもかおるだった。
 十六歳の桜庭李流さくらばりりゅうは香茂薫の意見とまるっきり同じだった。
 ただ、面と向かって口に出さないだけで…

 ことの経緯は…
「何で、日和国には皇帝なんか存在するんだ?この国って時代遅れな国だよなっ!」
 とクラスの友達に賛同を得ようとした一人の男子の大声の言葉からだった。
 その男子の友達も、
「そうだよなぁ!
 なにもしてない贅沢している皇様に税金取られてえばられるなんて、ひどいよなー」
「いらないよなー!」
 と他のクラスメイトも賛同し、
「だろ?」
 と話が盛り上がっていた。
 李流はその会話を聞いて怒りより絶望していた。

(陛下は贅沢もしてなければ税金を好き勝手使えるほどの権限もないんだよ!
 遊んでるわけではなくて毎日毎日忙しく公務に専念しておられるのにっ!)
 と李流は心の中で怒りの言葉を叫んていた。
 その悔しさが握る拳に震えを生じさせる。
 まったく皇室について教えられてない事がその発言のもとで、ほとんどの生徒、いや国民があの生徒のように思い込んでいる。

 とても、ゆゆしき現状…

 いつか、愛国心に、せめて祝皇陛下を尊敬する国民が増えてくれればいいのに…
 と、怒りを通り越して心の中で嘆いていたが…

バンッ!

 と不敬を吹聴するクラスメイトの机を叩く者が現れた。

「だったら、外国に住めばいんじゃね?お前ら?」

 薫は言葉は軽いが、睨み殺せそうな表情でいう。
 不敬を先導したクラスメイトは、その殺気に怖気づくどころか、食ってかかってきた。

「この国が悪いから注意してやってんだろ!」
「俺達が変えなきゃ、日和国は、よくならないってことだよ!」
「この世の中、皇さえいなければ平和なんだよ!」

 支離滅裂なことを言い出した。
 まるで、法子様にくってかかったあの子みたいだ。
 すべて、日和国を統べる祝皇陛下が悪いと思い込んでいるようだ。

「はぁ?じゃぁ、なんで、今、平和に学校通ってんだよ?
 なんで、陛下の悪口言って警察がこねぇんだ?」
 と薫は疑問をわざと、口にする。
「隣の国なら、お前らが不敬ほざいただけで逮捕されて殺されてるわ!」
「……なっ!」
「そんなに祝皇陛下を嫌いなら、日和国から出て行け!」
 そして、更に怒りに燃える拳で机を叩く。
 メキリと机がひしゃげた。
 そのことに唖然としゾッとするクラスメイトたち。
 薫は構わず、殺気を込めてにらむ。
「それにな…我が国を治める祝皇が国民の幸せを祈り捧げられ平和にくらしている恵みに感謝しろよ!」
 その言葉をきいた李流は、
(香茂は陛下の事をよく分かってる…)
 と感嘆する。
「祝皇が皇でなくなったら、神に祈られることもなくなり、日和国は滅亡するんだよ。」
 それも本当のことだ。
 この反日教育にまみれた学校教育でそこまで言える同級生はいなかった…
 李流は香茂薫に興味を湧いた。

 薫に正論で言われてぐうの音も出ないのかと思っていた先導したクラスメイトは薫に怒りの瞳で睨み指を指し、

「そんな宗教な国なんか時代遅れでいらない!無くなってしまえばいいんだっ!」

「だったら、おまえの祖国に帰れ!売国奴のテロリストが」

 先導した生徒が実はアル国籍である事を自慢していた事を知る薫はそう言って、今度は本気の怒りにまかせて机を真っ二つに叩き壊した。
 教室中静まり返る。

「まぁ、机には罪はないからな!新しいの持ってきてやるよ。
 だけど、二度目は持ってこないからな…」

 二度目は机ではなくてお前がこうなるという含みが言葉の雰囲気にわざと含まされている事もクラスメイト全員わかってゾッとする。
 
(言っちゃったよ…みんな知らないふりをしてたのに…)

 と李流だけではなく、聞き耳立てていた生徒は心の中で思った。

 ツーチャンネルの権現とも言われてる薫は口が悪い。

 黙ってれば、見た目可愛さが残る青年なのに。
 素直で真っ直ぐな性格だ。
 今知ったことは、陛下に関して、悪口言われるとキレるということだった。
 さらに口が悪くなる。
 しかも天性のものなのか、素で正論を言うから、ぐうの音も言えなくなる。

 そんな香茂薫のことは同じクラスメイトだからある程度、こんなやつだと知っていた…

 そして、女子の前でもスケベなことを平気で口にする。
 そういうデリカシーのない所が李流は苦手に感じていた。

だけど、皇室についてこんなに熱い思いを持っている事は知らなかった…
 むしろ、知らない、関係ない!とかいうタイプに思えて近づかなかった。

 李流は、薫の態度に怯えるどころか、薫に対して、

(よく言ってくれた!)
 と、絶賛した。

 薫は李流の方を振り向いて壊れた机を抱えながら近づき、

「お前も、陛下を思うなら、このぐらい言えよ。意気地なし…」

 突然、そう無表情というかイラッとした表情にで睨まれてすれ違い様に言われて、壊した机を変えに教室を出て行った。

「………なっ!」

 ほんっと正論過ぎて腹が立つ!

(……ん?なんで?オレの考えをしっている?)

 李流は不思議に思いながら心の中は穏やかじゃなかった。
 それが、薫と会話のきっかけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

処理中です...