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あやかしと神様の補足事項

黒御足と威津那と阿倍野の土地

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「あやかしの四神って威津那の魂を陛下の力を安定させて反映させるために封印するため阿倍野の土地にいるんだよね?
 宮中の守りどうなってるの?」
 と、東殿下は瑠香と葛葉子の新居てある旧香茂家の改築祝いで遊びにいらっしゃった。
 ジジ様特製、狐耳尻尾の生えた菊松人形の式神で、東殿下と滝口臣を迎えて驚かせたが、東殿下にはとてもご満足頂けるものとなった。
 臣はあまりのことに固まって、(アニメの人形だったら良かったのに……怖すぎ!)
 と、内心怯えていた。
 宮中から鬼門であるこの屋敷、敷地自体皇居宮中を守る方位の守りとなっている。
 そして、あやかし達を管理する阿倍野殿という役割も担っていることに、ご自分の興味と陛下に神秘的な出来事や吉凶をご報告する役目を担う中務の宮として色々と聞き出すことと、ご自分の趣味が好奇心を駆り立てられて頬が興奮気味に赤いな……と瑠香は恐れながら、
(東殿下のこういうところは可愛いな……)
 と密かに微笑む。
 ジジ様を初めて見る東殿下はジジ様を観察し写真を取られて半妖の存在に興奮する。
 二頭身のはげ髭お爺さんなんて、妖怪ぬらりひょんそっくりだ。
 イメージは東殿下がお好みの最近流行っているアニメの影響もある。
 これでいて、昔は美男だったというのだから、謎が謎を呼ぶ。
 東殿下の興味の対象だ。

「四神は元々あやかしが担っておったじゃろ?
 あやかしならば行き来が可能じゃ。異界と宮中繋いで皇居、陛下の弥栄を守っているのじゃ」
 西を守るあやかしは特殊で葛葉子は引き継ぎしてくれるあやかしを探している。
 神として祀るために敷地内に、鳥居を立て異界との道を繋げているらしい。
 基本あやかしを異界に送ったり封印する装置のような特殊な空間という印のためだ。
 審神者であり阿倍野殿の称号を持ったり、異界に対して特殊能力を持っているものでは無いと普通の鳥居にしかならない。
 その説明をされれば納得が行く。

「恐れ多くも……父様は陰の帝でもあるらしいのです。」
 葛葉子はこの話は東殿下に知っていただきたい話だった。
 ジジ様に何気なく話されて、重要なことだと思い葛葉子が率先してお招きした。
 瑠香は葛葉子に相談されて、東殿下にご報告しようということになった。

「皇族でもないのに?帝って不謹慎な気がします……」
 臣はつい不服でそういった。
 世界で帝というものは日和国の祝皇陛下以外名乗っては行けないものだと強く思うほど愛国者なのだ。
「まぁ、黒御足は代々皇族と繋がってきた一族でもあるのじゃよ……恵都の時代は幕府との関わりのほうが強かったがの……」
 ジジ様は煙管を吹かせてそういった。
「威津那の父は皇族の隠し子でな、どなたかの隠し子というのは墓まで持っていくから内緒だがの……」
 それは重大な秘密だが、東殿下と瞳を合わせるとにやりと微笑む。
 東殿下は察して笑顔で思い当たる節を隠した。

「じゃ、葛葉子さんも皇族の血を引いてるってこと!?」
 臣は興奮してそう言った。
 正直な感想だ。
「こ、皇籍に入ってないなら、一般の国民だよ!たいそうなものじゃないよっ!」
 葛葉子は慌てる。
 恐れ多すぎて皇族と同じに見られるのは困る。
「……でも、晴房は兄上……皇太子殿下と葛葉子の姉さんと密かに睦併せて神の化身……宮中の守り神を作り出したかったんだよ……経緯は変わってしまったけれど、神の化に間違いないし、そういう事だよ……」
 東殿下は、やっと納得いった。
 小さい頃は無意識に晴房をいじめてしまうほど不服だった事を罪悪感と共に覚えている。

「……でなかったら、特別措置で晴房を宮中で、おじい様や陛下が育てようとは思わないでしょ?」
 神の化身といえとも、我が国の神の子孫たる祝皇の権威に障るということで、陛下、皇族と分け隔てされる教育こそ重要だと言うことで、神職の掌典達と相談して決まった。
 ハルの神の化身の晴房を将来は宮中を支配する陰陽寮長にするべく瑠香の父や瑠香が教育を任せて欲しいと進言し、今現在のあるべき場所で育っている。
 学校進学はどうするか考え中だ。
「昔からそういう役割の皇族……審神者、神を宿すものも必要ってことなんだよ。」
 東殿下はそう結論を納得して仰る。
 国の、世界の頂点に立つなら、あらぬ恨みや嫉みは巨大で集中しやすい。
 その悪意や妬みの念は大きな力となって陛下のお命を狙うことになりかねない。
 だからこそ、ハルの神や、ルカの神、あやかしの四神に、太刀の者達、伝統衛士……ありとあらゆる一般の人間には持っていない力を持つ人間が必要として宮中に集まり伝統と陛下をお守りし御代が続いているのだ。
 
「いまや反逆者になってしまった、黒御足の血筋も、重要な役割大切な存在なんだよ。
 僕も前世の阿闍梨の力と皇族独特の力を駆使して微力ながらお手伝いするけどね。」
 東殿下のお言葉はわかりやすくて胸に落ちる。
 そして自らの役目の重要性を各々が再確認する。
「黒御足の血筋とハルの神の力を宿し陛下を陰から役割をしている父様も守り神としての役割を見出して、目に見えないけど私たちのそばに居てくれて見守ってくれているんだよね……父様と母様は神様だから……」
 葛葉子はふと天井を見つめる。
 あやかしとはいえ、神の御霊の父の姿を見ることは出来ない。
 それは生きている限り、ありえない事だと思う。
 会いたい、だけど、会えないけど傍にいることは感じる……
 それだけでも満足だ……と、思うと葛葉子の瞳から涙が一筋零れた。
 瑠香はそっと葛葉子によりそい、肩を抱く。
「……そうだな、本来死したものは見えないのが普通だ。オレには幽霊が見れないが……」
 幽霊はいる存在だと理解しているが瑠香はなかなか見ることができない体質でもある……だが、
「本来目に見えない思念や幽霊や神は『思いの祈り』の存在でもある。
 それらの思いを世界に言祝ぎとして巡らせるのが『祝皇陛下』であり『祈り姫』だ……そして」
 瑠香はふと思い出す。
「ハルの神の計らいで晴房の母、葛葉子の姉である房菊は家族を見守る思いは残り、御霊は黄泉に行ききっと人として巡る繰り返しをするんだ……」
 と瑠香は言ったら、

「なんだか、壮大すぎて、ついていけないですね……」
 臣はやっぱり素直な感想を言う。
 ただ、世界は目に見える現実よりもかなり複雑ということは理解出来た。
「それが、世界でありこの世の不思議でことわりなんだよ、全て知ることは出来ないよ、生きているものには。
 明日のことも分からない事と同じなんだよ。今を一生懸命生きていくことが僕らに課せられた運命で宿命の輪廻の営みなんだよ。」
 東殿下はいかにも前世が阿闍梨のような事を語ってくださった。



 お茶を飲んで一息ついて、東殿下は阿倍野屋敷を冒険なされて、ジジ様のお友達のあやかしを紹介されて満足だった。
 そして、ジジ様の案内で異界から陰陽寮に付いてお帰りになられた。
 まるで秘密基地を見つけられたご様子は少年の純粋さの素の東殿下全開で楽しい一日を過ごされた。

「やっぱり、東殿下の本当のご訪問はこっちだよねぇ」
「だな。満足いただけて良かったけどな……そういえば、叔父さんの屋敷でも同じ事があったよ」
 瑠香はあの時の事を思い出し疲れたように笑った。
「え、その話しらない、おしえて!」
「ゆっくりしながら、話そうか、今夜は……」

 嵐の去った後のように、ほっとした新婚夫婦だった。
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