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あやかしと神様の修学旅行

5☆雪を楽しむ誘惑

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 空は晴天で昨夜吹雪いていたらしくとても素晴らしいゲレンデだと上級者は喜んだ。

 葛葉子の友達のグループはみんな初心者で楽しく練習できた。
 滑れるようになると、インストラクターについて滑っていくのも楽しかった。
 一息ついていると、スイスイスーッと上から勢い良く滑ってきた臣の孤を描いてキレイな止まり方に女子たちだけではなくみんな惚れる。
 葛葉子は臣の滑ったあとを霊力の瞳で見ると白く煌く魔除けの足跡が線になっていた。
 歩いたときと同じく、細かい煌めくキラキラが浮き出ていてとても綺麗でいつもの足跡とは違う美しさだと思った。
 芸術のような結界みたいだ。
 臣の力のおかげで、あやかしのたぐいの事故はなくなるだろうなと思う。
「臣の能力ってすごいなぁ!滑るだけでも結界貼れるなんて…」
「そうなの?結界になってる?」
 臣自身は自分の能力を見ることはできない。
「うん。それにスキーの滑りもすっごくかっこいいよ!」
 葛葉子は興奮して褒める。
「あ、ありがとうっ…はっ!」
 と言って瑠香の気配がないか、キョロキョロする。
 嫉妬されるのは勘弁だ。
 その様子を見て葛葉子や友だちたちは笑う。
 臣も照れて笑う。
 穏やかな雰囲気が流れた。

「そういえば雪山ってあやかしとかいるのかな?」
 臣はあやかしに詳しくないので葛葉子に聞く。

「うーん。雪女とか?雪男かな?雪爺てのもいるらしいけど…」
 葛葉子は首を傾げて考える。

「あんまり知らないなぁ。
 でも瑠香と修行したときはサトリのあやかしがいたよ。私は見なかったけど…」
 瑠香はそのサトリと仲良しだと言っていた。

「東親王殿下と瑠香達はその伝承探しにそういう話をよく知っている民家にいってるよ。」
「伝承さがしだけなら…いいけど…」
「うん…そうだね。雪女見つけようとかいいそう…」
 葛葉子と臣は黙ってうつむいた。
「わ、私達は私達でスキー楽しもうよ」
 と不安を消すように葛葉子は明るく言う。
「じゃ、またね。何かあったら、オレを頼ってね。みんなもね」
 葛葉子の友達にも少し照れながらも言った。
「ありがとう!臣くん!」
 そういって上級者の臣と初心者の葛葉子はわかれた。
 その後、友達に臣のことをイロイロ聞かれた。



 葛葉子はトイレ休憩してスキーに戻ろうと思ったら、

《葛葉子よ。狐にならないか?雪で遊びたい!》
 菊はウキウキ気分でそう聞いてきた。

「えーっ!裸になるのやだっ!凍え死に間違いなしだしっ!」
 菊はもう、ワクワクとウキウキで耐えられそうにないと感じる。

《十五年の間に死ぬことはないから安心しろ!》
「そういう問題じゃなくて!」
《少しの間じゃ!》
 そういって、ドロンっと煙を出すと白狐で九尾の狐になる。
 その場で着ているものが雪の地面に落ちる。

(こんなところに服だけあるのは不自然だし誰かにいじられるのもやだ!)
 と、強い気持ちを伝えたら、菊は木の葉のネックレスに着ていたものを変えた。
《人になった時にこれに口づけで戻るそれでよかろう?》
 大妖怪で天狐の菊は簡単にそういうことも出来るみたいだ。

(それにっ!みんなに心配かけるし!)
《すでに呪術をかけておいた。瑠香のもとに行くとな》
 用意周到ということか……
 菊は意外と抜け目がない。
 葛葉子も、スキーよりも何故か狐になって遊ぶ方が楽しいかもと感じるのは菊の強い思いの影響だろうか……?

(……うーっ…それならいいやっ!)
 そして、葛葉子の意志をのっとった菊は山をかけて遊ぶのだった。
 それは、人間会で濁った穢を浄化しているようで葛葉子も悪くはなく菊の心に同化してなすがまま大自然の清らさに身を任せた。
 そして、いつの間にか、しめ縄が施されている木々の間にふみこんでしまった。
 神域と言われているめったに人が入らない場所に踏み込んだことに気が付かなかった。
 抜け目のない性格のくせに結界に鈍感な九尾の狐だった。



『すごい力のある妖気を感じる…』
 夜中吹雪を降らした山のあやかしは昼だというのに目を覚してしまった。
 白い着物に青い冷たい色の髪の色に傷ひとつない美しい白い肌のあやかしは、和風の屋敷の内装の異界で氷の鏡に現世の様子を見る。

「白狐がわれの縄張りをあらしているのか…いや…あれは…」
 そのあやかしもは一見白き狐に見えるが、九尻尾だ。
 あやかしでもあり神でもあるような神々しい存在だった。
 神でありあやかしであり人でもある稀なる存在らしいが、白い毛並みが美しい不思議な神気でキラキラ光っている。

「……あれを捕らえて我の美しき毛皮にするのもよいのぉ…」

 そうつぶやきブルーの艶やかな唇が三日月型に微笑んだ。
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