あやかしと神様の恋愛成就

花咲マイコ

文字の大きさ
72 / 181
あやかしと神様の恋の枷

7☆皇族と神と誓し者

しおりを挟む
『椿の迷路』という観光スポットに東一行は来た。
 昔からある立派な尼寺の庭園は、椿だけでつくられた、迷路になっていて知る人ぞ知る観光スポットだ。
 いまは沙羅双樹がさいている。
 季節とりどり咲き誇るが、常緑木と夏なので緑が青々しく、暑い夏に背の高い緑の壁は涼しい。

 東が求める冬椿は、まだ咲いていない。
 けれど枝葉は生い茂り密集するから緑の壁を作る。
それが迷路の壁になっている。
 葛葉子は東と一緒に迷路に入る。
 瑠香と臣は別行動だ。

 噂でこの場所は、時どき、人を惑わすという。
 しかも、何百年も前からあるとかないとか、八尾比丘尼伝説まで残ってる。
 絞りに絞ってこの場所に決めたのだった。
 
 東の護衛を任させた葛葉子は守る立場なのに、手を引かれる。恐れ多い。

「私が引っ張ってお守りしなくてはいけないんじゃ……?」
「男が女の子をリードするのは義務だよ。」
 どんな女の子にも優しい東のポリシーだ。
「こんなふうに手を握るなんて、初めてあった時以来だね。」
 あの時のことを思い出し、口元に手を当ててふふっと笑う。
「そ、そうですね。」
 葛葉子もあの時のことを思い出す。
 まだまだ初々しい、初顔合わせを…



「瑠香といるとあやかしや幽霊逃げちゃうし…」
 東は少し不服だった。
 
 瑠香は東の護衛を任されているが、神の化身のため幽霊は逃げるしあやかしは近づこうとはしなかった。
 それは適任な護衛だった。
 学校で何も起こらなくても東は学校が終わると、臣をつれて幽霊スポットに出かけることが多々あって、瑠香を連れて行かなかった。
 それはそれで構わなかった。
 宮中に戻れば瑠香の役目は晴房をお守りすることだったのだから。
 瑠香は余計な仕事はしたくないみたいだった。

 なのに、瑠香は、面白い者のを連れてきた。

「お、お初めにかかります、阿倍野葛葉子と申します」
 きつね耳に狐のしっぽに金に光る瞳に白銀の髪で巫女装束の同い年の女の子。
 葛葉子は、おずおずとしてお辞儀をする。
 宮中で働いていたのだから東のことを知っていたが巫女だったので、親王さまにはちかづかなかった。
 いや、誰もが近づけるわけではないけれど。

「ほんとに、白狐っていたんだね。しかも可愛らしい」
 幽霊とか救われない魂や呪われた付喪神は見たことあるけど、本物のあやかしを、いや白狐のあやかしを見たのは初めてだった。

 葛葉子の手を取り、手の甲にチュッと口付ける。
 いつもの悪いくせ。
 女の子は可愛いし好きだ。

 葛葉子は真っ赤になって、恐れ多くも宮様にキスをされて真っ赤になる。
 東が祝皇だったら速攻人間に戻るためのキスをしてもらえるのに…
 と考えを覗いた瑠香は少しムッとして葛葉子の唇に突然キスをする。
 東に見せつけるように…

「恐れ多いことを考えるならオレだけにしておけ、メギツネが…」
 東は、瑠香が口が悪い事も、初めて知った。

 すると、普通の女の子に戻る。
 黒髪の巫女少女だ。
 それはそれで可愛らしい。
「宮様の前で恥ずかしいことするな!」
「その恥ずかしいことを、してもらいたいと思ってたのはお前の方だろう。」
 頭を覗かれて恥ずかしいが売り言葉に買い言葉で、
「お前とキスしたいと思ってないよ!宮様が祝皇だったらホントの人間に戻れたのにって思っただけで…」
 言ってしまって恥ずかしくも恐れおおくて黙る…

「もし、皇子の僕でもキスして人間に戻ったら、僕の恋人になる?」
「え?」
 葛葉子は考えてから、

「恐れ多くて…恋人にはなれません!」
 はっきり断られた。
「だけど、父のキスは欲しいんでしょ?」
「はい…人間に戻れる条件で陛下に寿ぎ貰えたらうれしいです、陛下を愛しているので」

 恋しているように頬を染める。
 それは、神誓いしたからではなく、本気だ。
 葛葉子の心か白狐の心かわからないが、生き永らえさせられているなら後者のほうが強いだろう。

 それほど人を愛せる心とは羨ましいすら感じる。

「それは祝皇という立場になれば恋は次の祝皇を愛するということになるのかい?」

「それはそうです。祝皇はただお一人しか成られないのですから」
 瑠香は当然に言う。
 瑠香も、神の化身でルカの神と神誓いしている。

 その人、個人ではなく祝皇という存在を守るのが神の化身なのだから。

 じゃあ、白狐神はどの時代の祝皇に恋をした?
 と、疑問が湧く。
 その謎を調べてみたいとワクワクする。
 葛葉子の中にいる白狐の心は
 敬愛ではなく恋だ。
 恋は一方通行。
 決して結ばれない今上帝、父に恋しているようだけど…

 そこが謎だった…

 まぁ、『神誓い』とはそういうものかもしれないけれど、それでは本当に陛下以外を誰かを愛してしまったら、どうなるのだろうか?
 それを言霊にしたら…心から言霊にしたら、

 その時点で死んでしまうらしい。

 なんて、罪づくりな契約なんだろうと東は思う。

 けれど、皇族に生まれたこの宿命も似たようなモノかと思う。

 国民にがっかりさせるような皇族だったら、それだけで、皇族の存在価値や、長らく続く日和国が滅びてしまう切っ掛けを作ってしまう。
 ならば、清く正しく美しく、皇族として生きるのが僕の勤めだと心に決めることができた。

 それは、神の誓いで、祝皇を守り、皇族守り、愛してくれる者たちを守る義務だと東は覚悟を決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

ワイルド・プロポーズ

藤谷 郁
恋愛
北見瑤子。もうすぐ30歳。 総合ショッピングセンター『ウイステリア』財務部経理課主任。 生真面目で細かくて、その上、女の魅力ゼロ。男いらずの独身主義者と噂される枯れ女に、ある日突然見合い話が舞い込んだ。 私は決して独身主義者ではない。ただ、怖いだけ―― 見合い写真を開くと、理想どおりの男性が微笑んでいた。 ドキドキしながら、紳士で穏やかで優しそうな彼、嶺倉京史に会いに行くが…

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...