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死後の世界と真紅のドラゴン
モンスターの生態
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ガードが遅れたベストは無防備な腹に、アツヤの電雷を纏ったパンチをただ受ける事しか出来ない。
轟雷が響き渡り、ベストは回転しながら後方に弾き飛ばされ、背中から谷底へ倒れ込んだ。
「ざっとこんなもんか」
自分の想像通りいったことを心の片隅で喜びながら、残りの二体へと視線を向ける。
『先輩、まだです』
脳内に凜の声が届く。凜に言われ、さっきぶっ飛ばしたゴブリンに視線を動かすと、倒れ込んだゴブリンは起き上がり蛮刀を握り構えていた。
「おいおいまじかよ」
びっくりした敦也はすぐに思考を切り換え地面を蹴り前へ駆ける。
手は決まっている。さっきみたいに後ろをとって、強い一撃を繰れてやる。
不意打ち。戦略など咄嗟に考える事が出来ない敦也はそれが一番最善と考えた。
大回りにベストの背後に回り込み、腕を引いたところで、敦也は異変に気付いた。
ゴブリンは敦也をしっかりと見ていた。いや、多分見てはいない。敦也の行動を先読し、振り返って待っていたのだ。
「そのような猿知恵の不意打ちなど二度はくらいません」
敦也には目の前にいるゴブリンが大きく見えた。もとから二メートルは優に越しているであろうゴブリンだが、さらに大きく見えた。
だからと言って、恐怖し屈する気など敦也にはもう無かった。
引いた右の拳を力強く叫びながら前に繰り出す。
「オォォォ!!」
ベストは繰り出された拳に蛮刀を振り対抗する。
敦也の強く握りしめた拳からはビリビリと電雷が迸り、ベストの蛮刀と競り合っている。
「ーーうおぉぉぉ!!」
短い咆哮と共に敦也がさらに力を込る、すると電雷の迸りも増していく。
「我々の餌風情がこんな力ーーあってたまるか!」
ベストもさらに蛮刀の柄を握る腕に力を込め、姿勢を前のめりにする。
「ーーよしっ……!」
次の瞬間、敦也は何か思い付いたみたいに笑みを溢し、身体を後ろに跳ばした。
すると、ベストは姿勢を前のめりにしていたせいで身体が前に倒れていく。
敦也はバックステップの着地と同時に両足に力を込めて、倒れるベストと間を一瞬で詰める。
「俺はもっと強くならなきゃいけないんだ。こんなところで死ねるかよ!」
「食らえぇぇ!」
電雷を纏う右の拳をベストに突き出す。
ガードのない無防備な腹に、繰り出された右の拳は勢いよく腹に命中し、轟雷を響かせながらベストを弾き飛ばし、崖に身体を余った勢いのままぶつけそのまま倒れ込んだ。
しばらく、敦也はベストが起き上がらないか待ったが起き上がらないのを確認すると、残りの二体へと身体を動かす。
「……次は誰だ」
敦也は二体を睨むがそれほど体力は残されていなかった。先程ボスゴブリンから受けた一撃がかなりきいていて、魔力がなければ立つこともできていないだろう。このまま戦闘していたら、キツいのは敦也のほうだ。一体倒したとはいえ、まだ二対一。数としてはゴブリン側が有利だ。しかも、残っている二体は無傷。敦也の魔力がいつ底を尽きるかわからない。戦闘が初めての敦也がベストを倒せたのは偶然に近いだろう。なので、アツヤ先手必勝に動いた。
「ーーハッ!」
右手を広げ前に突きだし、二体のゴブリン目掛けて電撃を放つ。
遠距離からの攻撃である。敦也自身これで決まるとは一抹も思っていない。威力はあまり無い。受けても致命傷にはならないだろう。この電撃はあくまでも布石、電撃に気をとられた隙に距離縮め確実な一撃を決めるための。
敦也はゴブリン達は避けるか、受けるかの選択をするだろうと、気づかれないよう大回りに距離を縮めながら考えていた。
「おい。お前の寿命はここまでだ」
ボスゴブリンが小さく呟く。
「なんでヤンスか?」
ボスゴブリンはボルグの頭を掴み手前に身体ごと突き出す。まるで盾にするみたいに。
「ギャァ、ガガガがァァッ!!」
飛来した電撃は突き出されたボルグに当たり、身体には焦げた部分もある。
「……ボス……何するでヤンスか?」
ぼろぼろになったボルグに哀れみの言葉を向けるためか、ボスゴブリンは口をゆっくりと大きく開く。
ガリッ!!
言葉ではなく、そのような音が谷底に生じた。
「ーーなんだよアレは……!?」
距離を縮めようと走っていた敦也は、眼の前の光景を眼にすると動きが止めた。
ボスゴブリンがボルグの頭部をかじり咀嚼しているのである。
ガリガリと頭蓋骨が噛み砕かれる音が、敦也に恐怖を与え一歩後退させた。
「うむ。やはり焼いて喰うのもなかなか美味いものだな。だが、人間はもっと美味いんだよな」
ボスゴブリンの不気味な笑みは、敦也に大きな恐怖を与えるものだった。
なんだよコイツ。仲間を喰ったんだよな。
『先輩、アレはボスゴブリンなんかじゃありません。下っ端ゴブリンは一ツ星。大将ゴブリンは二ツ星です。そして、今目の前にいるのは共食いゴブリン。三ツ星です。共食いゴブリンはゴブリンを喰うゴブリンです。ですから、人間なんて基本無視してゴブリンを喰いにいくはず。しかし、あいつは獲物であるはずのゴブリンを自らボスゴブリンに成りすまし従えていた……異常です』
テレパシー内で唸り考え込む凜。
「馬鹿なんじゃないか」
『その答えを出す先輩ほうが馬鹿だと思います』
テレパシー内で馬鹿にされた。
『とりあえず、あいつの動きを探りましょう』
そう言われ、大将ゴブリン改め共食いゴブリンを見やる。
そこではボルグの上半身全てが無くなっており、青色の血や上半身の骨であろうものが散乱していた。
「うっ……」
目の前のおぞましい光景に引いてしまう。こんなの見たら誰でも引くだろうな。恐怖に気絶しないよう堪えながら、共食いゴブリンの動きを待った。
しばらくして、共食いゴブリンはボルグの亡骸を離し血で汚れた口を腕で擦った。
「俺はゴブリンを喰うのが好きだ。今まで何百ものゴブリンを喰ってきた」
その言葉だけでも敦也には恐怖を与えた。
ゴブリンを喰うのが好き。お前だってゴブリンだろ。そんなの自分で自分を喰ってるみたいで変だろ。
「俺は気まぐれで、大将ゴブリンだけを喰い、残った下っ端達を大将ゴブリンに成り代わり引き連れた……」
『とんだ変人ですね』
人じゃないけどな、と凜と敦也はテレパシーでそんな会話をしながら続きを待った。
「たくさんのモンスターを下っ端達と狩り、たまに下っ端が殺される。今まで体験したことのないような日々を送っていた……そんなある日俺は人間と出会った」
「下っ端をその人間にたくさん殺された。なぜかそのとき感じた事のない衝動が俺を駆り立てた。そして、俺は人間を殺し、人間を喰らった。今でもその衝動の正体が何かわからないが、一つだけわかったことがある。人間はすげー美味いってことがな!!」
共食いゴブリンは、言葉が言い終わるや否や突進を始めた。二メートル後半はありそうな身長と、豊富な脂肪からは考えられないスピードだった。
敦也はすぐに戦闘モードに意識を切り換え横に走りだす。
『気をつけてください。無茶だけはしないでね』
凜の言葉に心で、はいよ、と頷き共食いゴブリン必勝案を練りはじめる。
こいつの力はとんでもないからな。
右に走りながら腹に手を当てる。まだ先程の一撃の痛みが残っていて動きが鈍くなる。
「グガアアァッ!!」
その鈍くなった瞬間を突いてか、共食いゴブリンは咆哮と共に拳で地を掴み右に跳んだ。
「うおぉぉ……らぁ!!」
跳んでくるゴブリンを迎え撃つために足を止めて、右の拳に魔力を集める。
「食らいやがれっ!」
「グガアアァッ!!」
叫びと咆哮がアツヤの繰り出した右の拳と、ゴブリンの巨大な拳がぶつかる音が谷底に響き渡る。
小さな拳と巨大な拳とではやはり力の差がかなりあり、敦也が押し負けていた。
「くっ……!」
このままじゃ駄目だ!
そう思い敦也はベストと戦ったとき使った戦法を使うことにした。
短い気合いと共に敦也は素早く背後に跳んだ。
が、流石は三ツ星の共食いゴブリンと言うべきか、一ツ星のベストのように前のめりになることはなく、すぐにバックしたアツヤとの距離を詰めてきた。
「ウォォガァ!!」
大きく振り上げた、丸太のような右腕がアツヤに襲いかかる。危機を察しさらに後ろに跳ぶ。
「や……」
ばい!!
巨大な腕が敦也の前を通りすぎ、地面を砕く。数コンマ避けるのが送れたら死んでいただろう。
「勝ち目あるのかよ」
弱音を吐きながら、ゴブリンから見えない岩陰に電光石火で隠れこむ。
もとから暗いこの谷底で戦うこと事態が危険である。なんとかゴブリンが持っているライトストーンを目印にしているが、攻撃を当てるのはかなりきつい。
「よく吼えてくれて位置特定しやすいけど」
気づかれないよう小さく呟いた声をかき消すかのような根太い声が上空から届く。
「グラエエェッ!!」
声のした方は敦也の真上だった。そこには共食いゴブリンが落下してきていた。もう間近まで。
「えっ、やば……!」
共食いゴブリンは腕をなぎ払い敦也をぶっ飛ばした。咄嗟に腕を組みガードしたが、腕は攻撃を全て吸収しきれず身体でも勢いを受けてしまった。敦也は数回転してから崖に身体を打ち勢いが止まった。
『先輩!』
凜が心配して叫ぶ。
痛ててとぼやきながら敦也は立ち上がる。
なにかないか。いい作戦は。
腕を組み唸りながら辺りを見回す。
光っている聖水とほのかな明かりを灯している岩柱。
なにができるこの場所で。
「ドゴダァァッ、ニンゲン!!」
共食いゴブリンの咆哮が敦也の思考を遮る。
「あー、もう。どうにでもなれ」
曖昧に出した作戦を胸に共食いゴブリンに素早く突進する。
「おらあぁぁっ!!」
気合を迸らせながら、敦也は雷を纏う拳を突き出す。
拳が共食いゴブリンの腹に直撃すると、谷底全体をを一瞬雷が眩く照らし出した。
「ヌゥッ!」
ゴブリンは短く痛みに堪え、反撃のモーションに入り拳を高く挙げる。
敦也はそれを見越して、地面を蹴り後ろに下がると頭の中で強くイメージした。
一瞬で。もっと速く。もっと速く!
イメージが強くなる度に敦也の身体に纏う雷の迸りが増していく。
「オラアァッ!!」
ゴブリンは野生丸出しの野太い声を出しながら、敦也に接近する。
全体の筋肉の量が膨大で、地面を蹴る力は普通の人を踏み潰してしまうくらいあるだろう。更に凄まじいその膂力。敦也はそれを一撃受けただけで意識が飛びそうだった。魔力が無い昔なら死んでいただろう。
共食いゴブリンは両の拳を強く繋ぎ地面に叩きつける。
地面にひびが入り、砕け岩が飛び散る。
敦也はそれをかろうじて避けると、思考を回転させて動作に転じさせた。
「らぁーーっ!!」
雷が敦也の尾を一瞬だけ引くと、ゴブリンの正面に立ち壮絶なラッシュを始めた。
右の拳、左、右の回し蹴り。
共食いゴブリンは雷を纏った攻撃を受けるたび痛みを発する。
「ガッ……ギッ!……ガッ!」
雷の量が最初の攻撃より増しているため、威力も強まったのだろう。
勝機と思い両の正拳突きを共食いゴブリンの腹に突き出した。
「はぁぁっー!!」
轟雷と閃光が谷底を照らす。
敦也はこれで決める思いと覚悟があった。
だが、敦也は違和感を感じていた。
確かにゴブリンは痛みの声を挙げた。拳が決まった手応えもあった。
しかし、目前にいるゴブリンは憎たらしく歯を見せながら笑い、立ち尽くしていたのだ。
嘘だろ。
そう思いたかった。
敦也の体力は限界に近くなってきている。
初めての対モンスターの戦闘というのと、戦闘経験皆無というハンデを持つ敦也は、自分が持てる力を出したつもりだった。
凜に今さら助けを呼んでも来てはくれないだろう。自分一人でどうにかすると宣言したんだし。
自分の拳が通用しないと判断した敦也は電光石火で移動して、ベストが使っていた蛮刀を手にする。蛮刀は思ったより重かったが今の彼なら十分振り回せる重さだった。
木刀を使ってもあっさり負けた過去のある敦也は前と同じような展開にならないよう念じながら、ゴブリンに接近する。
それに合わせたかのようにゴブリンが巨大な腕を猛烈な勢いで繰り出す。
「ハァッッー!!」
轟雷が響き渡り、ベストは回転しながら後方に弾き飛ばされ、背中から谷底へ倒れ込んだ。
「ざっとこんなもんか」
自分の想像通りいったことを心の片隅で喜びながら、残りの二体へと視線を向ける。
『先輩、まだです』
脳内に凜の声が届く。凜に言われ、さっきぶっ飛ばしたゴブリンに視線を動かすと、倒れ込んだゴブリンは起き上がり蛮刀を握り構えていた。
「おいおいまじかよ」
びっくりした敦也はすぐに思考を切り換え地面を蹴り前へ駆ける。
手は決まっている。さっきみたいに後ろをとって、強い一撃を繰れてやる。
不意打ち。戦略など咄嗟に考える事が出来ない敦也はそれが一番最善と考えた。
大回りにベストの背後に回り込み、腕を引いたところで、敦也は異変に気付いた。
ゴブリンは敦也をしっかりと見ていた。いや、多分見てはいない。敦也の行動を先読し、振り返って待っていたのだ。
「そのような猿知恵の不意打ちなど二度はくらいません」
敦也には目の前にいるゴブリンが大きく見えた。もとから二メートルは優に越しているであろうゴブリンだが、さらに大きく見えた。
だからと言って、恐怖し屈する気など敦也にはもう無かった。
引いた右の拳を力強く叫びながら前に繰り出す。
「オォォォ!!」
ベストは繰り出された拳に蛮刀を振り対抗する。
敦也の強く握りしめた拳からはビリビリと電雷が迸り、ベストの蛮刀と競り合っている。
「ーーうおぉぉぉ!!」
短い咆哮と共に敦也がさらに力を込る、すると電雷の迸りも増していく。
「我々の餌風情がこんな力ーーあってたまるか!」
ベストもさらに蛮刀の柄を握る腕に力を込め、姿勢を前のめりにする。
「ーーよしっ……!」
次の瞬間、敦也は何か思い付いたみたいに笑みを溢し、身体を後ろに跳ばした。
すると、ベストは姿勢を前のめりにしていたせいで身体が前に倒れていく。
敦也はバックステップの着地と同時に両足に力を込めて、倒れるベストと間を一瞬で詰める。
「俺はもっと強くならなきゃいけないんだ。こんなところで死ねるかよ!」
「食らえぇぇ!」
電雷を纏う右の拳をベストに突き出す。
ガードのない無防備な腹に、繰り出された右の拳は勢いよく腹に命中し、轟雷を響かせながらベストを弾き飛ばし、崖に身体を余った勢いのままぶつけそのまま倒れ込んだ。
しばらく、敦也はベストが起き上がらないか待ったが起き上がらないのを確認すると、残りの二体へと身体を動かす。
「……次は誰だ」
敦也は二体を睨むがそれほど体力は残されていなかった。先程ボスゴブリンから受けた一撃がかなりきいていて、魔力がなければ立つこともできていないだろう。このまま戦闘していたら、キツいのは敦也のほうだ。一体倒したとはいえ、まだ二対一。数としてはゴブリン側が有利だ。しかも、残っている二体は無傷。敦也の魔力がいつ底を尽きるかわからない。戦闘が初めての敦也がベストを倒せたのは偶然に近いだろう。なので、アツヤ先手必勝に動いた。
「ーーハッ!」
右手を広げ前に突きだし、二体のゴブリン目掛けて電撃を放つ。
遠距離からの攻撃である。敦也自身これで決まるとは一抹も思っていない。威力はあまり無い。受けても致命傷にはならないだろう。この電撃はあくまでも布石、電撃に気をとられた隙に距離縮め確実な一撃を決めるための。
敦也はゴブリン達は避けるか、受けるかの選択をするだろうと、気づかれないよう大回りに距離を縮めながら考えていた。
「おい。お前の寿命はここまでだ」
ボスゴブリンが小さく呟く。
「なんでヤンスか?」
ボスゴブリンはボルグの頭を掴み手前に身体ごと突き出す。まるで盾にするみたいに。
「ギャァ、ガガガがァァッ!!」
飛来した電撃は突き出されたボルグに当たり、身体には焦げた部分もある。
「……ボス……何するでヤンスか?」
ぼろぼろになったボルグに哀れみの言葉を向けるためか、ボスゴブリンは口をゆっくりと大きく開く。
ガリッ!!
言葉ではなく、そのような音が谷底に生じた。
「ーーなんだよアレは……!?」
距離を縮めようと走っていた敦也は、眼の前の光景を眼にすると動きが止めた。
ボスゴブリンがボルグの頭部をかじり咀嚼しているのである。
ガリガリと頭蓋骨が噛み砕かれる音が、敦也に恐怖を与え一歩後退させた。
「うむ。やはり焼いて喰うのもなかなか美味いものだな。だが、人間はもっと美味いんだよな」
ボスゴブリンの不気味な笑みは、敦也に大きな恐怖を与えるものだった。
なんだよコイツ。仲間を喰ったんだよな。
『先輩、アレはボスゴブリンなんかじゃありません。下っ端ゴブリンは一ツ星。大将ゴブリンは二ツ星です。そして、今目の前にいるのは共食いゴブリン。三ツ星です。共食いゴブリンはゴブリンを喰うゴブリンです。ですから、人間なんて基本無視してゴブリンを喰いにいくはず。しかし、あいつは獲物であるはずのゴブリンを自らボスゴブリンに成りすまし従えていた……異常です』
テレパシー内で唸り考え込む凜。
「馬鹿なんじゃないか」
『その答えを出す先輩ほうが馬鹿だと思います』
テレパシー内で馬鹿にされた。
『とりあえず、あいつの動きを探りましょう』
そう言われ、大将ゴブリン改め共食いゴブリンを見やる。
そこではボルグの上半身全てが無くなっており、青色の血や上半身の骨であろうものが散乱していた。
「うっ……」
目の前のおぞましい光景に引いてしまう。こんなの見たら誰でも引くだろうな。恐怖に気絶しないよう堪えながら、共食いゴブリンの動きを待った。
しばらくして、共食いゴブリンはボルグの亡骸を離し血で汚れた口を腕で擦った。
「俺はゴブリンを喰うのが好きだ。今まで何百ものゴブリンを喰ってきた」
その言葉だけでも敦也には恐怖を与えた。
ゴブリンを喰うのが好き。お前だってゴブリンだろ。そんなの自分で自分を喰ってるみたいで変だろ。
「俺は気まぐれで、大将ゴブリンだけを喰い、残った下っ端達を大将ゴブリンに成り代わり引き連れた……」
『とんだ変人ですね』
人じゃないけどな、と凜と敦也はテレパシーでそんな会話をしながら続きを待った。
「たくさんのモンスターを下っ端達と狩り、たまに下っ端が殺される。今まで体験したことのないような日々を送っていた……そんなある日俺は人間と出会った」
「下っ端をその人間にたくさん殺された。なぜかそのとき感じた事のない衝動が俺を駆り立てた。そして、俺は人間を殺し、人間を喰らった。今でもその衝動の正体が何かわからないが、一つだけわかったことがある。人間はすげー美味いってことがな!!」
共食いゴブリンは、言葉が言い終わるや否や突進を始めた。二メートル後半はありそうな身長と、豊富な脂肪からは考えられないスピードだった。
敦也はすぐに戦闘モードに意識を切り換え横に走りだす。
『気をつけてください。無茶だけはしないでね』
凜の言葉に心で、はいよ、と頷き共食いゴブリン必勝案を練りはじめる。
こいつの力はとんでもないからな。
右に走りながら腹に手を当てる。まだ先程の一撃の痛みが残っていて動きが鈍くなる。
「グガアアァッ!!」
その鈍くなった瞬間を突いてか、共食いゴブリンは咆哮と共に拳で地を掴み右に跳んだ。
「うおぉぉ……らぁ!!」
跳んでくるゴブリンを迎え撃つために足を止めて、右の拳に魔力を集める。
「食らいやがれっ!」
「グガアアァッ!!」
叫びと咆哮がアツヤの繰り出した右の拳と、ゴブリンの巨大な拳がぶつかる音が谷底に響き渡る。
小さな拳と巨大な拳とではやはり力の差がかなりあり、敦也が押し負けていた。
「くっ……!」
このままじゃ駄目だ!
そう思い敦也はベストと戦ったとき使った戦法を使うことにした。
短い気合いと共に敦也は素早く背後に跳んだ。
が、流石は三ツ星の共食いゴブリンと言うべきか、一ツ星のベストのように前のめりになることはなく、すぐにバックしたアツヤとの距離を詰めてきた。
「ウォォガァ!!」
大きく振り上げた、丸太のような右腕がアツヤに襲いかかる。危機を察しさらに後ろに跳ぶ。
「や……」
ばい!!
巨大な腕が敦也の前を通りすぎ、地面を砕く。数コンマ避けるのが送れたら死んでいただろう。
「勝ち目あるのかよ」
弱音を吐きながら、ゴブリンから見えない岩陰に電光石火で隠れこむ。
もとから暗いこの谷底で戦うこと事態が危険である。なんとかゴブリンが持っているライトストーンを目印にしているが、攻撃を当てるのはかなりきつい。
「よく吼えてくれて位置特定しやすいけど」
気づかれないよう小さく呟いた声をかき消すかのような根太い声が上空から届く。
「グラエエェッ!!」
声のした方は敦也の真上だった。そこには共食いゴブリンが落下してきていた。もう間近まで。
「えっ、やば……!」
共食いゴブリンは腕をなぎ払い敦也をぶっ飛ばした。咄嗟に腕を組みガードしたが、腕は攻撃を全て吸収しきれず身体でも勢いを受けてしまった。敦也は数回転してから崖に身体を打ち勢いが止まった。
『先輩!』
凜が心配して叫ぶ。
痛ててとぼやきながら敦也は立ち上がる。
なにかないか。いい作戦は。
腕を組み唸りながら辺りを見回す。
光っている聖水とほのかな明かりを灯している岩柱。
なにができるこの場所で。
「ドゴダァァッ、ニンゲン!!」
共食いゴブリンの咆哮が敦也の思考を遮る。
「あー、もう。どうにでもなれ」
曖昧に出した作戦を胸に共食いゴブリンに素早く突進する。
「おらあぁぁっ!!」
気合を迸らせながら、敦也は雷を纏う拳を突き出す。
拳が共食いゴブリンの腹に直撃すると、谷底全体をを一瞬雷が眩く照らし出した。
「ヌゥッ!」
ゴブリンは短く痛みに堪え、反撃のモーションに入り拳を高く挙げる。
敦也はそれを見越して、地面を蹴り後ろに下がると頭の中で強くイメージした。
一瞬で。もっと速く。もっと速く!
イメージが強くなる度に敦也の身体に纏う雷の迸りが増していく。
「オラアァッ!!」
ゴブリンは野生丸出しの野太い声を出しながら、敦也に接近する。
全体の筋肉の量が膨大で、地面を蹴る力は普通の人を踏み潰してしまうくらいあるだろう。更に凄まじいその膂力。敦也はそれを一撃受けただけで意識が飛びそうだった。魔力が無い昔なら死んでいただろう。
共食いゴブリンは両の拳を強く繋ぎ地面に叩きつける。
地面にひびが入り、砕け岩が飛び散る。
敦也はそれをかろうじて避けると、思考を回転させて動作に転じさせた。
「らぁーーっ!!」
雷が敦也の尾を一瞬だけ引くと、ゴブリンの正面に立ち壮絶なラッシュを始めた。
右の拳、左、右の回し蹴り。
共食いゴブリンは雷を纏った攻撃を受けるたび痛みを発する。
「ガッ……ギッ!……ガッ!」
雷の量が最初の攻撃より増しているため、威力も強まったのだろう。
勝機と思い両の正拳突きを共食いゴブリンの腹に突き出した。
「はぁぁっー!!」
轟雷と閃光が谷底を照らす。
敦也はこれで決める思いと覚悟があった。
だが、敦也は違和感を感じていた。
確かにゴブリンは痛みの声を挙げた。拳が決まった手応えもあった。
しかし、目前にいるゴブリンは憎たらしく歯を見せながら笑い、立ち尽くしていたのだ。
嘘だろ。
そう思いたかった。
敦也の体力は限界に近くなってきている。
初めての対モンスターの戦闘というのと、戦闘経験皆無というハンデを持つ敦也は、自分が持てる力を出したつもりだった。
凜に今さら助けを呼んでも来てはくれないだろう。自分一人でどうにかすると宣言したんだし。
自分の拳が通用しないと判断した敦也は電光石火で移動して、ベストが使っていた蛮刀を手にする。蛮刀は思ったより重かったが今の彼なら十分振り回せる重さだった。
木刀を使ってもあっさり負けた過去のある敦也は前と同じような展開にならないよう念じながら、ゴブリンに接近する。
それに合わせたかのようにゴブリンが巨大な腕を猛烈な勢いで繰り出す。
「ハァッッー!!」
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