鍵の在処ーカギノアリカ

カルトン

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死後の世界と真紅のドラゴン

さぁ、覗いてみようか

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 「いや、わたしにしか解らない絶望感だよ」
 「……え?」
 咲夜のひきつった笑いを見て、凜は不思議に思うことしかできなかった。
 「凜ちゃんは自分の罪に気づいてないんだねー」
 祐希ののほほーんとした声で、凜の不思議はさらに大きくなった。
 「わたしの罪ってなんですか?」
 「それはマスターに聞いてみたらー。ねぇ、マスター」
 「うっ、なんで夢猫のメンバーはみんなわたしより胸が大きいんだ」
 半分涙目になっている咲夜を落ち着かせるように、祐希は言った。
 「だってみんなマスターより年上じゃん。マスターだっていつかはおっきくなるよ」
 祐希の言っている、いつかは閉ざされた世界ではやってこない。閉ざされた世界では歳をとらないのである。生長しないのだ。身長が伸びたり、髪が伸びたりしないのだ。だから、咲夜の胸が大きくなることは閉ざされた世界ではありえないことである。
 そのことを理解している咲夜はまた泡をぶくぶくさせ始めた。
 「そうだ凜ちゃん昼はごめんね、部屋まで運んでもらっちゃって。敦也くんの部屋にいて怪しかったでしょ……大丈夫だよ、敦也くんをとっちゃったりしないよ」
 祐希がからかうように言うと、凜は顔を真っ赤にした。
 「べつに先輩なんてとっちゃっても構いませんよ、祐希さんこそ先輩なんてもらったら大変でしょうね」
 今度は凜がからかうように言うが、祐希は平然としていた。
 「敦也くんならべつにいーよ。だってぼくを運んでくれたの敦也くんでしょ。敦也くんはしっかりしてるし、それにいつか必ず強くなるし」
 祐希の言葉を聞いた凜は衝撃にみまわれ、冷静を保てなかった。
 「せ、先輩ですよ。祐希さんには似合いませんよ。もっと他にいい人がいますって」
 「ん、なんだい。まるでぼくと敦也くんがくっつくのに反対みたいな口ぶりだね。ぼくが誰となにしようがぼくの勝手でしょ。ぼくは自由人だからね」
 祐希さんなら本当に敦也の寝込みを襲ったりしそうだと凜は思った。祐希さんはとても自由な人だから先輩なんて簡単に。そんな想像をすると凜の頭から湯気が出てきた。
 「先輩と祐希さんなんてだめですよやっぱり。だって……」
 「凜ちゃん凄い必死だね……まるで敦也くんがとられるのが嫌みたいだね」
 「そうだよ、敦也くんは凜ちゃんのじゃないよ……ぼくのだよ」
 咲夜と祐希がニヤニヤしながら凜を見る。祐希の言っていることは、ずれている気もするが。
 「え、そんな必死じゃないですよ。べつに先輩なんてなんとも思ってませんから……先輩は祐希さんのじゃないですからね!」
 顔をさらに赤くしながら凜はしどろもどろしながら、最後は冷静に祐希につっこんだ。
 「凜ちゃんさっきから顔が赤いよ?」
 咲夜はニヤニヤを保ちながら凜を心配する。
 「顔が赤いって、それは、このお湯が温かいからですよ。先輩のことなんてなんとも思っていませんよ」
 顔に手を当てながら、敦也とは関係ないことをあきらかにしようとする。
 だが、敦也のことを否定するたび凜の顔の赤さはさらに増していき、咲夜と祐希のニヤニヤも増していく。
 「「へー」」
 「なに考えているんですか二人とも!?」
 「べつに凜ちゃんはメロンパンが好きかなと」
 「クロワッサンは好きかなと?」
 「それ嘘ですよね」
 「凜ちゃんこそわたしがなにを考えてると思ったのさ」
 「え、メロンパン食べたいなー」
 「凜ちゃんこそなに言ってるの、ぼくはなにも考えていないよ」
 「ちなみにわたしも」
 祐希と咲夜の自由過ぎるマイペースに付いていけず凜は呆然と呟いた。
 「…………もう疲れた」
 普通こんな咲夜と祐希のこんなマイペースぶりに付いてこられる人間などそうはいないだろう。
 「まー、マスターだっていつか大きくなるよ。二十年後ぐらい」
 「そうか………………遠いな」
 咲夜は一度明るくなってから、二十年後という言葉を理解するとまた暗くなった。
 「いつかマスターより小さい人が来ますよ。マスターの同年代とか」
 咲夜を慰めるつもりで言ったが、それは逆効果だと凜は知らなかった。
 咲夜の歳に近い少女がが『閉ざされた世界』にいることを咲夜は知っていた。それは咲夜と同じギルドのマスターであり、同年代であり、女の子なのだ。その女の子にさえ咲夜は負けているのを思いだし、咲夜は奇行に走った。
 「凜ちゃんは持っているからわからないんだよ、わたしの気持ちが!」
 咲夜は凜の胸を鷲掴み湯内に押し倒した。凜は抵抗する瞬間もなく、咲夜の勢いに呑まれた。
 「ふぇ、マスター!? 何するんですか、ちょ! え! 祐希さん助けてぇ!」
 凜は可愛らしい声をあげながら祐希に助けを求めるが、
 「ぼくはなにもしないよ~、なにもやらないよ~、ぼくは見てるだけで十分だから~」
 凜と咲夜の壮絶すぎる一方的な光景を笑顔で見ながら、祐希はのほほーんとした。
 祐希は自由人だから、気が変わるかもしれないと祐希に必死の眼を向けるが、祐希はそれを笑って流した。
 「祐希さん……マスターやめて。ふぇ、あ!」
 そんな咲夜と凜の光景を千里眼で覗いていた京子さんが鼻血を大放出して倒れているのが見つかるのはまだ先のことだった。
 
 「隣はなにしてるんだろな」
 広太は隣から聞こえてくる艶かましい声に対して笑っているが、
 「まったく、なにしてるんだよ」
 敦也は顔を赤くしながら呟くことしかできなかった。 
 男湯と女湯を区切っているのは、咲夜が創ったそんなに厚くない樹の壁だけなので、音と声が筒抜けである。
 空は風呂に入り温まりすぎて今は脱衣所で横になっている。
 隣からの艶かましい声はまったく止まず、広太は「よし!」と言って立ち上がった。
 「どうしたんだ?」
 「そらぁ、あれだよあれ……」
 広太が敦也を誘い実行に移そうと考えていたものは男なら考えそうなものだった。
 「覗きだよ覗き」
 「覗きって、まさか」
 「この壁の向こうに決まってるだろう」
 トントンと壁を叩き示す。
 もちろんこの広太の覗き作戦も隣の咲夜達には筒抜けである。
 さすがにずっと使って、補修もなにもしていないとしたら、壁は薄いので穴や切れ目などがあってもおかしくなかった。
 「広太ってそんな人だったんだな」
 失望したかのような眼を広太に向けるが、
 「変態じゃない男はいないと友人は言っていた」
 隣を覗ける穴をせっせと探し始める。
 「ほら、敦也も手伝え」
 「え、なんで俺も。広太一人でやれよ、マスターと凜にあとで怒られそうだから」
 「たしかにマスターは怒ったら恐いな。でもに虎児入らずんばを虎穴を得ずだぜ。ん、逆か。マスターの恐怖なんて恐くないぜ」
 もう一度言っておくと男湯の会話も女湯に筒抜けであるので、広太の言葉がまだ凜の胸を鷲掴み揉んでいる咲夜の目をピクッと動いたことを祐希はちゃんと見ていた。
 「なかなか見つからないな、そっちはどうだ?」
 「んー、見つからない」
 広太が穴を探し始めて十分後、男湯にいる男二人は壁にはりつき穴を探し続けていた。
 結局敦也も広太の押しと、自分の内なる欲に負けて穴を探している。
 「あー駄目だ。!見つからねー。マスターがしっかり補修してんのかなぁ」
 穴を見つけることを投げ出し湯船に浸かり、素直に夢猫のマスターの善良性を褒めている広太。
 広太が言った通り、ギルドにある物や道具などは月の初めに作り替えているらしいことを後で知った。
 広太が諦めたので敦也も湯船に浸かり、ゆったりしようと思ったが、
 「いや、まだ策はあるぜ!」
 広太はまだ隣の女湯を覗くのを諦めてはいなかった。
 
 所変わって壁の向こうの女湯では、凜が広太に警戒心を向けていた。
 「広太まだ続ける気ですよ」
 咲夜はもう奇行に走るのを止めたらしく、ただゆったりしていた。凜は疲れを顔にだしていた。
 「え、いーよいーよ。どうせ何もできないから、そのうち諦めるよ」
 奇行を走り終えた咲夜はなぜか笑顔で嬉しそうにしていた。凜から大きくなるエナジーでも吸いとって、大きくなると思っているみたいだった。
 「頑張るね敦也くんたち、そんなに凜ちゃんの裸が見たいのかな?」
 「なんでわたしだけなんですか。祐希さんも見られますよ」
 そうだこの人はそういうのあまり気にしない人だった。
 
 所戻って男湯。
 「ほんとに行けるのかこれで」
 「もちろんだ、空がいてくれたら楽だが敦也と俺なら行ける!」
 空がいるならば楽という意味をこの体勢の敦也は理解できなかった。
 一言に言うと、広太が敦也を肩車しようとしているのである。
 たしかに敦也と広太の身長を合わせれば、この女湯と男湯を分けた壁を頭が乗り越え、向こうの女湯を覗くことは容易いだろう。だが、頭を出して覗くということはかなり大胆なことなので簡単に見つかってしまうだろう。
 「五秒見たら交代だからな」
 「了解だ」
 広太の言う交代とは肩車の上と下のことだろう。
 敦也は見つからないことを願いながら、広太の肩を叩き立ち上がらせる。
 「よっしゃー、最終奥義だー!」
 「うぉ、あんま揺らすな!」
 広太が下から叫びながら立ち、上からは揺れに驚く敦也が叫ぶ。
 徐々に敦也の目線が高くなり、壁が隠しきれる限界点である頂点が見えて、すぐ前に凜や祐希の姿が見える直前にそれはやって来た。
 「なにしているんだい少年二人組?」
 その優しく冷たい鋭さを持った声を発した女性は、男湯の入口のドアを開き、そこに腕を組み仁王立ちしていた。
 長い黒髪と右で留められた赤いカチューシャ。長い黒髪はスラーと背中まで伸びている。腰の左からは黒い鞘に納められている黒い刀ぶら下げられている。青のショートパンツに柄ありのシャツ。青いスニーカーと黒いニーソ。胸は凜よりは大きくて祐希よりは小さかった。
 男湯に女性が入ってくることじたい驚くことだが、広太は入ってきた女性に対して驚きバランスを崩して敦也は上から落下した。
 「なんで夜鶴さんが!?」
 倒れた広太と敦也に歩み寄ってきている女性に向かって広太が叫ぶ。
 「わたしがここにいるのが不思議かい、広太くん」
 広太と敦也の前まで近づくと、夜鶴はしゃがみこみ二人を見下ろす。
 「ちょっとマスターに頼まれたんだよ、男湯(こっち)にいる人が何か変なことをしようとしたら懲らしめてくれとね」
 「用意周到なマスターだぜ」
 広太は立ち上がり観念したように、首をやれやれと横に振った。
 敦也は座りながら嫌な予感がすると寒気がしていた。
 夜鶴は立ち上がると、腰の左からぶら下げている刀の柄に左手を当てながら笑顔で言った。
 「さて、少年達にはどうやって罰を与えようか」
 何か良い案はないか夜鶴が考えていると、
 「今回は大目に見てくれよ。次はやんないからさ」
 広太は夜鶴から逃れようと、入口へ歩きだす。
 「わたしから逃げれると思っているのかい、広太くん」
 夜鶴が広太の肩を右手で掴み動きを止める。
 「夜鶴さんの優しさなら見逃してくれるかと」
 振り返ろうとしない広太が坦々と言う。
 「そうか、わたしの優しさを信じているのか」
 「そうです、だからその手を離してく、だっ!」
 夜鶴は刀の鞘を握り、広太の横腹に叩き込み一回転させてからぶっ飛ばされ、湯内に叩き込まれた。水飛沫が飛び、後から広太が浮かんできた。
 「少年もこうなりたくば土下座しながら、もうこんなことしないと誓え」
 ぶっ飛ばされた広太に一瞥もせず、夜鶴は敦也に向き直る。
 「すいません、もう絶体にしません」
 あんなもの見せられたら、素直に従うしかできなかった。敦也は土下座して誓った。
 「うん、よろしい」
 敦也はやっぱり『攻略組』はヤバすぎると再確認した。
 
 所変わって女湯。
 「準備してたんですね」
 やっぱりマスターは凄いと絶賛する凜。
 「まぁ、小さくてもみんなをいつでも守るマスターだからね」
 咲夜はまったくない胸を反りながら言った。
 
 ※
 
 
 
 「や、敦也くん良いものは見れた?」
 女湯と男湯からちょうど、先程まで温まっていた面々が出てきた。
 空と広太はまだ気絶から目覚めていないため、夜鶴さんに担がれている。
 祐希はいつも通りの紫陽花模様の浴衣。咲夜と凜はパジャマだった。
 「結局なにも見れていませんよ」
 敦也は残念そうに呟き咲夜は笑った。
 夜鶴さんのせいで広太と敦也の最終奥義は失敗に終わったのだ。
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