鍵の在処ーカギノアリカ

カルトン

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死後の世界と真紅のドラゴン

さぁ、ダンジョン攻略始めよう

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「だいぶ動きが良くなってきたんじゃないか。これなら今日中にこの特訓は終わりそうだな」
広太は銃を指で器用にくるくると回して遊んでいる。
「わたしって優秀ですか?」
「調子に乗るなコラ!」
広太に怒られ、すいません、と笑う凜。
「それより広太は雲竜寺さん達の見送りに行かなくてよかったんですか?」
「行ったら雲竜寺さんに殴られるからな。見送りに来るくらいなら、少しでも強くなる時間に使え、ってな。もとから俺は見送りには行かないけど。行く意味ないからな」
「どうして?」
「また会える人になんの見送りするんだよ」
「それもそうなのかな……?」
広太は確信しているのだ、雲竜寺達が無事に夢猫に帰ってくるであろうことを。だから、広太は見送りに行かなかったのだ。
「おら凜、もう一回やるぞ。今度は弾増やすからな!」
「広太もスパルタなんですね」
凜は《神威》を強く握り構えた。





朝、食堂に行くと祐希がメロンパンをリスのようにかりかりとかじり、となりでは氷道がアイスティーを飲みながら本を読んでいた。
祐希は、バンドモードじゃないからかいつもの紫陽花模様の着物だった。氷道は、学校の制服みたいな青と白のセーラー服を着ていた。
敦也は食堂のおばちゃんではなく、食堂のお兄さんの次郎さんにいつものと告げて、いつものがトレイに載って運ばれると受けとり祐希のとなりに向かった。食堂のお兄さんの次郎さんとは、その名の通り食堂のお兄さんである。いつも食堂にいて、注文通りのメニューを的確に素早く用意する。次郎さんは調理師志望だったらしく、夢猫の食堂の実権のほとんどは次郎さんが握っている。もう半分はもちろん京子さんだ。
「祐希となりいいか?」
祐希はメロンパンのかりかりを中断し、敦也を見上げる。
「いいよっ、一緒に食べよ」
「わたしは嫌よ。こんな阿呆の擬人化をした奴と朝食なんて」
祐希は笑顔で敦也を受け入れたが、氷道は冷たい視線で拒絶した。阿呆の擬人化をした奴って誰だよ。
敦也は氷道の冷たい言葉を聞こえなかったふりして祐希のとなりに座った。
敦也のいつもの朝食は、トーストとベーコン付きの目玉焼きに牛乳とすぐに済ませられるものだった。
「あ、敦也も目玉焼きだ。ねーねー、敦也は何かけるの?」
祐希の前にも目玉焼きが載せられている皿がある。どこか期待の眼差しで敦也を見る。
「ん、俺は何もかけないぞ……こうやって、トーストで目玉焼きを挟んで食べるんだ」
と、言いながらトーストで目玉焼きを挟んでみせる。あまり挟みすぎないのがコツだ。挟みすぎたら黄身が潰れ、半熟の黄身が流れ出してしまうからだ。
祐希は敦也の答えを聞くと、少しむすっとしたがすぐにいつもの表情に戻り、テーブルに置いてある塩を手に掴んだ。
そして、にやっと笑うと塩を目玉焼きの上で何回も振り始めた。
「ぼくは断然塩派だよ。塩が大好きなのさ!」
そんなにかけたら塩分高くなりすぎて死ぬぞと思ったが、この世界じゃその程度のことでは死なないのだ。それ以前に味覚が壊れそうだ。
「わたしは胡椒派ですよ!」
「俺はケチャップ一択だな!」
「僕は何もかけないよ」
順に凜、広太、空が朝食の載ったトレイをテーブルに置いて席に座った。
「じゃあ、氷道姉は何かける?」
氷道は静かな朝食タイムが大所帯になったのに怒ったのか、こんなどうでもいい話をふられてから怒ったのか、読んでいる本を勢いよく閉じた。
冷たい眼で敦也達を一瞥すると、ため息をついた。広太は一瞬死を感じたのかゾクッとした。
「わたしは目玉焼きなんて食べないわ。朝はアイスティーだけで済ませるの」
氷道の答えに敦也達はぷっと笑ってしまった。氷道が真面目に答えるのが予想外だったからだ。てっきり、ナイフのような冷たい氷柱の言葉が飛んでくるとばかり思っていた。
「氷道姉一回食べてよ、目玉焼き。美味しいよ。ぼくが言うんだから間違いないよ」
祐希は胸を叩き氷道に力説する。
「あなたが言うんだから、さぞや間違いだらけでしょうね」
「氷道姉、ぼくを信用してないの?」
「ツインのあなたしかわたしは信用してないわ」
「うぅー」
潤んだ瞳で覗き込む祐希を、氷道は冷たい言葉で一蹴した。祐希は残念そうに小さく唸った。
「それより、あなたに氷道姉って呼ばれるのにわたしは違和感しか感じないのよ」
「え、何で?」
「あなたのほうが年上じゃない」
「ギター歴は氷道姉が年上だよ」
「今のあなたはツインのあなたじゃないでしょ」
「……そうだね、じゃあ呼び方変えよう!」
祐希は手を打ち、良い案を考え出す。
「美崎ちゃん、目玉焼き食べたら。美味しいよ、ぼくが保証するよ!」
考えた結果、名前のちゃん付けって、凜と一緒かよ。
氷道は「はぁ」とため息をつくと祐希を見た。
「あなたにそんな風に呼ばれると違和感しかないわね」
なかなか難しい注文をする氷道。これ以上何しろとあだ名か?
「じゃあ、いつも通り氷道姉でいっか!」
「えぇ、なんだかどれをあなたから言われても違和感しか感じないから、それでいいわ」
割りきるの早いな二人とも。もう少し考えろよ。
「祐希さん、今日から特訓手伝ってくれますか?」
凜が話が一段落したのを見計らって祐希に話しかける。
「嫌よ。わたしはギターの練習で忙しいの。阿呆の相手はできないわって、氷道姉なら言いそうだよね」
祐希が氷道の声マネしながら言った。結構似てて、まじびっくりした。
「わたしはそこまで酷くないわ。凜ちゃんに阿呆なんて言わないもの」
「そうだねー」
おいおい、ツインの二人とも話をずらすな。凜が困惑してるから。
「で、凜ちゃんやろっか。わたしは手を抜かないよ。スパルタだよ」
祐希も月影と同じなのかよ。
「敦也は俺と訓練場に行くぞ」
「……わかった」
やっとランニングが終わりですか。
「僕は、僕はー!」
空が元気よく手を挙げ主張する。
「昼寝でもしてろ!」
「りょーかいです!」
広太の命令に空は明るい声で敬礼する。
「ほんと、夢猫って変な奴が多いよな」
敦也が何気なく呟くと凜が苦笑いで答えた。
「変人から変態まで様々な人がいますね」
変わった奴しかいないのな。





ダンジョン攻略当日がついにやって来た。
前日まで特訓は続きメンバーの力はかなり高まっているはずだ。
ギルド内の新領土にあるダンジョン前には、ダンジョン攻略メンバーを見送ろうと咲夜や京子さんと氷道が集まっていた。空が寝坊しているので出発が遅れているのだ。
敦也は軽く準備運動を始め、いつでもダンジョン攻略が始められる用意をしている。
ギルドの仲間が作ってくれた、白いシャツにオレンジの上着。群青色のスボンを身につけている。右の手首には朱色の腕輪を着けてある。
「準備は大丈夫か?」
腕のストレッチをしている広太から声が飛んできた。
「いつでも行けるぜ。広太は大丈夫か?」
「おう、俺はいつでも大丈夫だ!」
広太は黒色のスボンと狼のイラストが描かれたシャツを着ている。スボンにはベルトが巻かれていて、左右に銃をしまうであろうホルスターがあった。後ろのほうには小さい本がしまわれているケースがぶら下げられていた。灰色の少し長い髪はいつも通り寝癖のようにツンツンしている。
「氷道も何か言ったら」
咲夜が氷道を腕でつんつんつつく。
氷道はマスターの咲夜に言われたからか、敦也の前に立った。
「……心配して待ってるから、祐希を」
わかってた。そんな感じで言わないでよ。大事なバンドメンバーを心配するのに倒置法なんて使わないでから。
「いちおう、阿呆のアツヤも心配してあげなくもないわ」
氷道がどこか恥ずかしそうに言った。
「素直じゃないなー」
広太がにやにやしながら氷道を横から見る。
「なに広太先輩、百回殺してあげましょうか?」
笑顔を作り広太に冷たい言葉を送る氷道、表情はとても笑顔なのだが心では静かに怒っていた。
実際この世界では魔力を帯びたもので致命傷を受けない限り本当に死にはしないから、死ぬほど痛い衝撃を百回受けることは可能だ。
「いえ、いいです」
広太は顔を青くしながら退いた。
「祐希は着物じゃないんだな」
敦也はそう言って祐希の格好を眺める。
祐希はいつもの紫陽花模様の着物ではなくて、バンドモードのときみたいな服装だった。ブカブカのフード付きのシャツから右の肩が出ていて、水玉模様の短いスカートを着ていた。ただし、シャツの色は青と白を基調にしていた。シャツの上からも青と白のチェストプレートが胸を守っている。背中には半透明な水晶色の鞘とそれに収めれた剣をぶら下げていた。
「あの着物はお気に入りの私服みたいなものだよ。モンスターの血なんかで、あの着物を汚したくはないから」
「よっぽどあの着物を気に入ってるんだな」
「着物はジャパニーズの衣服でしょ!?」
祐希は自信ありげにふんぞり返る。
やはり外の世界のことをほとんど知らない祐希の知識は少しずれていた。着物が流行ったのはかなり昔の話だったんじゃないか。
「先輩、今日は頑張りましょうね!!」
テンション上げて凜は、両手をぎゅっと握りながら言った。
凜はいつも通りオレンジ色の髪をポニーテールにまとめている。黄色いシャツに濃いオレンジ色の肩を覆う程度のローブを身にまとっている。桃色のスカートには二重にしてあるベルトからは神威がぶら下げられていた。青色のタイツを茶色いブーツがおおっていた。
凜は初めて着る戦闘服を嬉しそうにぴょんぴょん跳ねて、ポニーテールもぴょんぴょん跳ねた。
「なにかあったら必ず助けるさ絶対にな」
「なにかが起こらないように頑張ります……でも、なにかがおこったらよろしくお願いします」
「おう、任せとけ!」
敦也は胸を思いきり叩き意思を示す。
「敦也くん、凜ちゃん期待してるからね。ちゃんと無事に帰ってくるんだよ。頑張ってきてくれ!」
咲夜が心配してから応援する。咲夜自身まだ新人の敦也と凜をダンジョン攻略に行かせるのは不安なのだろう。
「敦也くん、リンリンにもしものことがあったら責任とれよ!」
京子さんが指をぽきぽき鳴らしながら威嚇する。応援はしてくれないらしい。凜好きすぎだろ、京子さん。
「もしもがないよう頑張りますよ」
「もしもをおこさないようにわたしも頑張りますから」
敦也と凜が京子さんの威嚇をなだめる。
「ふぁーーー、……ごめん寝坊しちゃった」
長い大きなあくびをしながら、空が歩いてきた。
空は肩まで伸びた黄緑色の髪の上に猫が描かれた帽子を被っている。髪の先はくるんと跳ねていた。緑色のシャツと青色の短パンに身を包み。赤いシューズを履いていた。全体的に身体が細いからか、服が大きいように見えた。
「おい、何で寝坊なんかしてるんだ!」
遅れてきた空に怒りを表す広太。
「眠かったから、二度寝しゃったんだよ」
空は言い終わるとまた大きなあくびをした。
「ちゃんと戦えるんだよな!」
「ははは、僕は戦わないよ。見てるだけだよ」
「ちゃんと壁だせるのかって訊いてんだよ!」
「問題ないよ、任せとけって」
危機感のない声で空は広太の肩にぽんっと右手を置いた。
「はいはい、みんな揃ったね!」
両手を打合せ、咲夜はメンバーの注目を集める。
「じゃあ、張り切ってダンジョン攻略……スタート!」
敦也達が今から攻略を始めるダンジョンは洞窟ののようだった。洞窟の入り口には巨大な扉がある。
巨大な扉を開くと、地下に続く石でできた階段が現れた。左右の壁には点々と明かりが灯されている。
「地下に進めってことだね」
空は楽しそうに階段をとんとんとリズムよく駆け下りていく。
「先に行くなよ!」
広太も空を追うようにして階段を駆け下りていった。
残された敦也と凜と祐希はゆっくりと慎重に階段を下りて行く。
「祐希、ダンジョンにも色々と種類があるのか?」
敦也は階段を下りながら、後ろからついてくるに祐希に訊ねた。
「そうだね、水中にあるのもあるし、空中にあるのもあるよ。塔みたいのもあれば、今回みたいな地下に進むダンジョンもある。地下系は嫌い」
「それぞれでやっぱり仕掛けや待ち構えてるモンスターも違うのか? モンスターの強さとかも」
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