魔王シリーズ サタンライフ・オワ・デッド

カルトン

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異形との戦闘

 だん、と音をたてて銃から弾丸が魔方陣を通り抜けて放たれると、火薬の力に加速の力が加わり、弾丸はキルデグの脇腹にめり込む。
 亜矢の銃に仕込まれた魔術は〈加速〉である。足元に加速の魔術を込めた魔方陣を展開したら、普段の速さより倍以上の速さで走ることができるのだ。銃に魔方陣を展開したら、放たれる弾丸が普段のスピードより速くなり貫通力が増すのである。
 「ぐ……退魔者のお嬢さん、わたしを怒らしてはいけないと教えてあげましょう!」
 キルデグが両手を上に高くあげると、両手の上に巨大な火炎の球が表れた。それはめらめらと燃え上がり、標的である亜矢に向けて落下し始めた。
 「っ……!」
 亜矢は銃を構えて魔方陣を展開して、巨大な火炎の球に向けて数発放ち破壊しようと考えた。しかし、巨大な火炎の球は高速の弾丸が撃ち込まれても、落下の勢いは止まらず、破壊される気配もなかった。
 「はははは、退魔者のお嬢さん……あなたは弱い。弱すぎますよ。見たところ、武器の扱いも魔術の扱いもあまり馴れていない様子ですね。おそらく、あなたは退魔者の新人なのでしょう。相手が悪かったですね……あなたには今ここで死んでもらいますよ!」
 巨大な火炎の球は、勢いをさらに増して亜矢に迫った。
 亜矢は動けなかった。目の前にいる魔属に図星を突かれて動揺して、銃を握る両手に震えが生まれたから。自分の力では、まだ魔属を一人では倒せないことを痛感させられたから。回避しようにも焦って、魔方陣を展開できなかった。
 「噴水華ーー!」
 紗季の呪文を叫ぶ声が聞こえると、亜矢に迫っていた巨大な火炎の球に水の槍が伸びてきて衝突し、火炎の球を蒸発させた。
 「……紗季!?」
 亜矢は水の槍が伸びてきた方に振り返った。そこには、無傷の紗季が青く輝く槍を構えた立っていた。
 「先輩、まだ諦めないでください。二人で倒しますよあの鳥頭を!」
 「え、もう一体はどうしたの」
 「もう倒しましたよ。妙な技を使われましたが、大したことはありませんでした。なので、加勢に来ました」
 紗季の言葉に亜矢は衝撃を受けていた。亜矢が、鳥頭と少しの攻防をしている間に紗季は魚頭を倒して、さらに亜矢をピンチから救ったのだ。退魔者になって紗季は、まだ日がそんなに経っていないのに、退魔者として先輩である亜矢をもう越えてしまったのだ。
 紗季は一ヶ月前に天界退魔組織、エンジェルリングの退魔者になった。退魔者半年だった亜矢が、紗季の教育係になって基礎を教えた。魔術、武器、魔界、魔属について。一週間で基礎を覚えた紗季は、自分のメイン武器に槍を選んで、槍の訓練を始めた。そこから一週間で初めて魔属と戦い、魔属を一人で倒した。日に日に紗季の戦闘は速くなった。
 退魔者を始めて三週間で退魔者内のランクを高位ランクに上昇させ、紗季の力にみ合った武器を天界退魔組織エンジェルリング本部から紗季は渡された。武器の名を、神具・水霜騎。 普通の一般人が魔属と戦い合うためには、力が必要だった。なので、天界の天使たちは、魔属と戦うために力を求めるものたちに力を授けた。そして、その力を十分に発揮できるものに神具を授けた。
 退魔者を始めて半年の亜矢は、後から始めた紗季にあっさりと抜かれていったのが許せなかった。回りは紗季は天才だからしかたがないというが、亜矢は半年でまったく進歩していなかった。これでは守ると決めた人も守れないほどに。未だに銃に完全に馴れてなくて、魔術の発動もすぐ動揺して失敗してしまう、一方の紗季は神具の水霜騎を華麗に扱い、魔属も巧みに発揮していた。
 「…………紗季、鳥頭も任せていい。わたしはあの市民たちを安全な場所に誘導するから」
 亜矢は一度頭を落ち着かせて、今自分が為すべきことを考えた。もし紗季とともに鳥頭と戦闘を始めても、自分は足を引っ張るだけと思って、魔属を紗季に任せて明たちを安全な場所に誘導することを考えた。
 「え?……了解、です。先輩の命令には従います。では、あちらのかたたちのことは任せますよ先輩。わたしは必ずこいつを倒して見せます!」
 紗季は、青く輝く槍を強く握り直すとキルデグに向かって突進した。
 「いやぁぁぁーー!」
 亜矢は明のもとに駆け寄って、状況を話そうとした。すると、明は紗季を心配していた。
 「おい、いいのかよ化物の相手を一人で任せてよ。あいつかなり強いぞ」
 「大丈夫よ、紗季はとても強いから。明くんは紗季の心配より、まず自分の心配をしなさい。とりあえず、ここから離れるわよ……明くんの彼女さんも動ける?」
 亜矢はこんな深夜に男と女が一緒にいたからか、メルを明の彼女と勘違いしたらしい。
 「ち、ち、ち、違いますよ!わたしが明さまの彼女だなんて、そんなわけないじゃないですか!」
 メルが顔を赤くして必死に否定しようとすると、
 「へー、明くん彼女に明さまなんて呼ばれてるんだ。すごい慕われてるんだねー」
 亜矢はにやにやして明の顔を見た。その笑顔が怖い。
 「勝手にこいつが言ってるだけだよ。俺に彼女なんていないよ。明くんって彼氏いるってよく聞かれるけどな!」
 明はメルとの関係を否定しながら、嫌な思い出を思い出していた。
 「はいはい、いいから行くわよ……ついてきて!」
 亜矢は明たちにそう言って、紗季とキルデグの戦闘から遠くなるように安全な場所を目指して走りだした。
 明とメルは亜矢について走りだした。
 「なー、メル……亜矢がお前の待ってた助けてくれる人なのか」
 亜矢に聞こえないように、明はメルの耳元で口にした。
 「はい、そうですね。ざっくり今説明しますと、彼女たちは化物と戦っているんです」
 メルも明を真似て、明の耳元で返事をした。
 「あとでちゃんと話してくれよ」
 明はメルの頭にぽんと手を当てると、視線を前を走る亜矢に戻して、走り続けた。
 時折、背後から衝撃音が聞こえてくるが、紗季と呼ばれた少女は無事なのだろうか。
 「亜矢、お前本当に亜矢なのか」
 「何言ってんのよ藪から棒に」
 亜矢は走りながら、明からそんなことを聞かれ焦った。
 「いや、だってさ、お前があんなに動けるところなんて見たことないからさ。偽物かなってよ……ぷっ」
 明は普段の学校の亜矢の姿を思い出して、どんくさいというかそんな姿が浮かび、思わず笑ってしまった。
 「なに笑ってるのよ、明!あたしだって、本当はこんなに動けるんだからね」
 「あー、かなりかっこよかったぜ!俺らを守るために、全力で戦ってくれたんだもんな……ありがとな」
 「ば、馬鹿!礼とか要らないから……だって、あたしはなにもできてなかったんだしさ、あたしはまだ弱いよ」
 明の言葉に亜矢は恥ずかしがりながらも、そんな言葉を言ってもらえるような人間じゃないことを思った。
 「なに言ってんだ、亜矢が来なければメルはもう死んでいたかもしれない、お前はメルを助けてくれた、それだけで十分お前は強いよ」
 「そうですよ、亜矢さん。ありがとうございます、助けてくださって。亜矢さんが来てくれなければ、かなり危険でした」
 明とメルからそんな素直な言葉が届き、亜矢は嬉しさが一杯になり、瞳から涙が流れ始めた。亜矢はそれに気づき、腕でそれを明たちに見られないように隠した。
 「先輩、戦闘完了しました。付近にはもう魔属の反応はしません。まずは、お二方の自宅まで保護する形はどうでしょうか?」
 屋根から屋根を渡り走ってきて地面に着地した、紗季が口にした。手には青く輝く槍は握られておらず、どこにしまったのだろうか。
 「ありがとう、紗季。……じゃー、明くんの家までいきましょうか」
 そこから亜矢と紗季に回りを挟まれた状態で、自宅まで向かった。
 「ありがとう、亜矢。送ってくれて」
 明の自宅に着くと、亜矢はまた驚いていた。
 「なんでその彼女さんは、明くんと同じ家に住んでるわけ!?」
 「あー、メルは昨日から居候という形で家に泊めることにしたんだよ。帰る場所がないらしいしさ」
 亜矢はため息を吐いてから、明を見た。
 「明くんってお人好しなの。見ず知らずの少女を家に泊めるって……もはや、変態にしか見えないわよ」
 「おい、俺は善意でメルを家に泊めたわけで、お前が思っているような下心は一切ないからな!」
 「はいはい、わかったわよ。あまり遅くまでイチャイチャしないのよ」
 「いや、だからしねーよ!」
 明が否定すると、隣にいたメルが言った。
 「え、イチャイチャしないのですか?」
 「ほーら、彼女さんはこう言ってますよ。明くんってほんといやらしい人なんだから!」
 顔を赤くしながら、亜矢はジト目で明を見る。
 「おいメル、言葉の意味理解していないだろ」
 「はい、九十九%理解しておりません。どういう意味なのですか?」
 首を横に傾けるメルに明は、
 「お前はもう家に入ってろ!」
 と言って、自宅に押し込んで、亜矢の方へ振り向いた。
 「明くん、彼女って誰なの?ここら辺にメイドはいないし、他の市から来た子なのかな」
 「どうだろうな、メルについては俺も名前ぐらいしか知らないんだ。あと、スプーンも知らない、世間知らずな少女ってぐらいだな。メルは……さっき出会った化物の正体について、そしてお前らのやってることについて知ってるみたいだったぜ」
 「え、なんで!?それはありえないはずよ……だって、魔属と天界退魔組織のことは国家秘密で誰も知らないはずなのよ!?」
 亜矢は驚声を上げて、口に手を当て、顔に動揺の色を浮かばした。
 「その国家秘密をなに一般人の前で喋ってんだよ」
 「あ、ごめん、今のは忘れて!」
 手をぶんぶんと振って、亜矢は、明に今の言葉をなかったことにしようとした。
 「わかったよ、お前がなにも言いたくないなら言わないでいいよ。俺もお前には聞かないよ。絶対にばらしちゃいけないことなんだろ。今みたいにうっかり話すなよ」
 「う、うん」
 亜矢がまた変なことは口にする前に、亜矢を連れてこの場から立ち去ろうと紗季が言った。
 「そろそろ行きましょうか、先輩。一度支部に戻りましょう……先程の魔属の説明と武器の補給をしましょう」
 「え……えー、そうね。じゃー、明くんまた明日……って、学校ないから会うことないのか。じゃー、また今度」
 そう言って亜矢と紗季は、明の自宅前から去っていった。明は視界から二人が消えるのを確認してから、自宅の扉を開きながら呟いた。
 「お前には聞かないって言ったからな俺は……だから、メルからは聞かせてもらうぜ、この都市でなにが起きているのか。なにより亜矢が危険な戦いをしていて、俺が暢気に暮らしていたのが許せねー」
 「その意気はいいですね、明さま……教えましょう。明さまのご学友がやっていることについてと、そのご学友が戦っている化物についてを」
 玄関に立っていたメルが、明の表情を確認して頷いた。
 「頼むメル、一体この都市でなにが起こっているんだ」
 メルは、こほんと咳払いをしてから口を開いた。
 「では、それはですね」
 「それは……」
 「……それは」
 「…………」
 溜めの長さに明は、ごくりと生唾を飲み、メルの言葉を待った。
 「それは……明日、話しましょうか。もう遅いですし。わたしも走ってくたくたですから。では、おやすみなさい」
 そう言ってメルは階段を上り、夏奈の部屋に戻っていった。
 「……はぁー」
 明日は詰めていた息を吐き出して、キッチンに向かった。明かりを点けて、冷蔵庫を開き、お茶の入った大きなペットボトルを取り出して、自分のコップに注いだ。
 「…………ぷふぁー」
 コップに注いだお茶をごくごく、と一気に飲み干してコップを台所に力強く置いて、明は考えた。
 ーーこの都市は一体なにを隠しているんだ……。
 十年前にこの浮游都市で暮らし始め、なに不自由なく生活してきた。それは亜矢が所属している、その天界退魔組織ってのが都市の平和を維持していたからなのか。明たち一般市民は、亜矢たち天界退魔組織が命懸けで戦っているのを知らないで生きてきていたのか。
 あの化物と戦ってい死ななかった人がいないわけはないはずだ、なのになんで明たち一般市民は、自分たちの為に死んでいった人がいることを知らないで生きてきたのだろうか。
 明は必ずメルからこの都市の謎を聞くことにして眠った。
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