魔王シリーズ サタンライフ・オワ・デッド

カルトン

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窮地からの助っ人

沙希は飛び込んで来た明に呆れていた。沙希と違って明は、何の力も持たない一般人だ。けれど、明はライオネルの戦斧から沙希を守るために飛び込んだのだ。明の脚は震えている。やはり、死ぬかもしれないという恐怖が明にもあったのだ。
「どうしてって……それはお前を助けるために決まってるだろうが! それぐらい理解しろよ、沙希こそバカなんじゃないのか!」
「わたしはバカじゃないですよ! 立花先輩は死んでしまうかも知れなかったんですよ! わたしなんて助けようとしなければ、怖い思いをせずに済んだんですよ! それなのに、なんでーー!」
はぁ、と明はため息を吐き口を開く。沙希と出会ってまだ一日も経っていないだろうけれど、明はこれだけは言えた。
「誰かを助けるのに理由なんか要らねぇんだよ! 助けたいと思ったから助けたんだ! それに、わたしなんてとか言うんじゃねぇよ! ほら……沙希がかわいかったから助けたって理由もあるんだぜ」
沙希は明の言葉に驚いたような表情を浮かばせて、嬉しがる笑顔を作った。そして、直ぐに諭すような表情に変えた。
「……立花先輩、なんですか急に、お世辞ですか。わたしなんかより、立花先輩のほうがかわいいですよ。それにわたしがかわいいから助けたって、人を見た目で判断してはいけないのは立花先輩もご存知ですよね。あと、わたしがかわいくなかったら助けなかったんですか?」
見た目で女だとかなりの確率で思われてきた明は、沙希が言わんとすることを理解した。明が沙希よりかわいいことのほうが嫌なお世辞だ。沙希のほうがちゃんと美少女中学生だ。
「助けたさ、沙希だから助けたさ。お前と出会って、そんなに時間は経ってないけどよ、ただお前に死んでほしくないって思ったんだよ」
沙希は赤くなっていく顔を隠すために、下を向いて、明に聞こえないように呟いた。
「ありがとうございます、立花先輩……かっこよかったですよ」
そんな二人のやり取りを見ていたライオネルは、かっかっかっ、と笑って戦斧を肩によっこらせ、と乗せた。
「なんだ少年、急にアグレッシブだな! いいぞ! グット! コングラチュレーションだ! 男はそれぐらい勢いがなくてはやっていけないから!」
言って、かっかっかっ、とライオネルはまた笑った。
ライオネルに言われて、明に抱きつかれている状況を、思い出した沙希は明を勢いよく突飛ばした。
「おい、沙希なにしやがる!?」
「立花先輩こそ、なに急に抱きついているんですか! 変態ですか! セクシュアル・ハラスメントで訴えますよ!」
胸の前で身体を守るようにする沙希。
「俺はいちおう命の恩人なんだが」
「それは感謝しています。ですが、立花先輩、セクハラは行けませんよ。法律上捕まってしまいますよ。新聞の表紙に、高校生男子が中学生女子にセクハラ逮捕って」
「おい、やめろ誤解だ。俺はべつに下心があって抱いた訳じゃないからな。仕方がなく、そう助けるために仕方がなく抱いてしまったんだよ」
沙希は完全に表情を消して、
「そうですか。仕方なく……ですか。わたしなんて抱くの嫌だったですよね……わたしもそんな色気がないですし、亜矢先輩のように胸もないし、幼いから」
うつむいていた沙希が、ぶるぶると肩を振るわせ始める。それを見て明は失言してしまったと悟る。少し言い方が悪かったかもしれない。けれど、他に弁明の方法が浮かばなかったのも真実だ。
やがて氷のように冷たい無表情を崩して、沙希はキッと眉を吊り上げる。
今にも泣き出しそうで、そのくせ怒り狂っているような顔で沙希は、
「立花先輩なんて、あいつに斬られて血を流して死んでしまえばいいんです! このバカーーっ!」
そう叫びながら、彼女は明の腹に霊力を込めた全力の掌底を繰り出した。
浮游都市を包み込む結界の中の朝川市のある場所に、普通の高校生男子の悲鳴が響き渡るーー。





沙希の掌底を喰らって、彼女を抱いていた高校生男子の身体が、トラックに撥ねられたような勢いで吹っ飛んだ。
謙遜はしていても、やはり退魔者の高ランカーの力はすさまじかった。
吹き飛ばされた明は、壁に叩きつけられて動けないでいる。いちおう手は抜いてくれたのか、気を失うだけですんだ。
「かっかっかっ、なんだ少女よ恥ずかしがっているのか。一線を越えるようなら空気を読んで帰ってやろうと考えていたんだがな。俺はこう見えて、真面目なんでな」
顔を赤くしながら、いえ、結構です!、と言い放ち、沙希は重心を低くして水霜騎を構える。
「立花先輩とは、そういった関係じゃないんで! はい、これっぽっち、まったく、皆無です!」
怒りを込めた呟きを放ちながら、沙希は水霜騎に霊力を込め始める。明への怒りが沙希に力を与えているかもしれない。
「かっかっかっ、そうかつまらないな! じゃあ、そこで転がっている少年から片付けようかな!」
ライオネルは戦斧を構えて、疾駆した。大きなガタイに似合わず、ライオネルの走力はかなりのものだった。
やはり、人は見た目で判断してはいけない、と改めて沙希は思いながら、彼女も明を守るために疾走した。
「させません!」
槍と戦斧のぶつかる衝撃音が数回鳴り響く。膂力では断然ライオネルが有利だが、槍術でなんとか防いでいる状態だった。防戦一方。このままでは、人間と魔属では体力の差があるし、さらに獣人属は体力がとてつもなく多い。彼女の体力が先に尽きるのは時間の問題だった。
第四魔界の幹部クラスの相棒をしている、ライオネルの力は強大な方だった。彼はその持ち前の膂力で、どんな堅固な障壁でさえ破壊してきたのだ。まだまだ若い少女の些細な槍術と慣れていない様子の魔術など、回避するのは容易いものだった。だからライオネルはさらに笑った。
「かっかっかっ、少女よ、もっと頑張れ! 守ってるだけじゃ、俺は倒せないぞ! 退魔者ってのはこんなに弱いのか!?」
笑うライオネルが、ブン!と豪快な音を響かせながら、戦斧を叩きつける。沙希はその攻撃を後方へ跳んで避ける。地面のアスファルトがひび割れ、音を立てて砕け散った。
その瞬間、沙希は後方に着地するのと同時に、水霜騎で宙を突いた。退魔者をバカにされた彼女はありったけの霊力を込めて神技を放つ。
「噴水華ーー!」
至近距離からビームように放たれた水の槍は、ライオネルの腹部に突き刺さり、ライオネルを後方へと突き飛ばした。
「ぐぁっ!」
水の槍に突き刺さられたまま、壁にまで運ばされ衝突したライオネルは戦斧を離し、吐血した。怒りと痛みの表情を作るが、口だけは笑っていた。
水の槍か消滅して、よっこらせ、と余裕で立ち上がったライオネルは怒りと痛みの表情を消して、高笑いした。
「かっかっかっ、やればできるじゃないか、少女よ! そうだ、そうやってやるんだ! いいね、そうこなくちゃな! 楽しくなってきたぜ!」
戦斧を拾い、ライオネルは、沙希にさらなる期待を視線を向けて構えた。
しかし沙希のほうはもう限界だった。ありったけの霊力を込めて放った、神技・噴水華を喰らってなお、笑顔を見せるライオネルに打つ手がなかった。
さらに言えば、霊力が底を尽きかけているので、結界の中に存在を保つので精一杯だった。
結界の中に入れるのは、霊力か魔力を持った存在。そして結界の中に存在できるのは、霊力か魔力を持った存在だけなのだ。つまり霊力か魔力が尽きた存在はもとの世界に強制的に転送されることになるのだ。
いま沙希が平界に転送されてしまえば、ライオネルの標的は、明だけになる。つまり、明が殺される確率が増えるのだ。
考えてみれば、ライオネルは戦いを楽しんでいる。沙希が戦えなくなったと察してしまったら、明を殺しにいくかもしれない。だから、沙希はライオネルにまだ戦えると示すことだけに務めようとしたが、
「どうした、少女よ。さっきから、霊力が消えたぞ。もしや、限界か……つまらんな」
沙希の表情は一瞬にして青ざめた。なんでバレた。なんで察せられてしまった、と考えた。
昨夜は二体の魔属と戦い、今日は今まで戦ったことのない強力な魔属と戦い、連戦続きで霊力が切れかけていたのがバレたのだ。
沙希の心配とは他所に、ライオネルは戦斧を背中に乗せて高笑いした。
「かっかっかっ、かわいそうだな、戦闘の最中に力が切れるなんて! 日頃からもっと訓練をするんだな! だが、心配するな!俺はお前を殺すつもりはない! 俺に一撃与えたんだ、かなり高評価だ! 俺はこう見えて、優しいからよ! だからーー」
ライオネルの視線が、壁にぶつかり転がって気を失っている明に向いた。沙希を嫌な予感が襲った。
「ーーやめて」
「あそこに転がっている少年を、殺して帰ろうと思う! べつに殺しても構わないよな! だって、少女も少年を突き飛ばしたんだしよ!」
「やめてーー!!」
沙希は叫ぶが、疾駆する笑顔のライオネルは止まらない、少年を殺して少女が絶望する様を見るのが楽しみでしかたがないのだ。
明との距離を詰め、ライオネルが彼を殺すために戦斧を叩きつける。
「かっかっかっ!」
笑いながら叩きつけられた、戦斧は、ダン!、という音によって、ライオネルの手から離され、宙を舞って地面に落下した。
どうやら、戦斧を握るライオネルの指に弾丸が命中したらしい。ライオネルは、誰だ!? 、と叫びながら弾丸が飛んできたほうを睨む。
そこには一人の私服を着た少女が立っていた。華やかな長い黒髪を一本にまとめて、頭のてっぺんからはピコンとアホ毛が伸びている、高校生少女。
明の幼馴染みであり、沙希の退魔者としての教育係であり憧れの先輩が、硝煙が銃口から出ている銃をライオネルに照準を合わせ構えて立っていた。
「亜矢先輩ーー!」
助けに駆けつけてくれた、憧れの先輩の名前を沙希が叫んだ。
亜矢は状況を確認して、ふぅ、と息を吐いた。
「本当は明が沙希を抱いたときに着いたんだけど、ちょっとびっくりしちゃって飛び出せなくて」
「亜矢先輩、違いますからね! 立花先輩がわたしを抱いたのは、その助けるためであって、下心とかいやらしいこととか考えてないらしいですよ」
沙希が顔を赤くしながら手をブンブン振って、イチャイチャしていた訳じゃないことを訴える。
「ほんと?」
「ほんとうですよ、わたし亜矢先輩には嘘吐きませんから」
亜矢は沙希の瞳をじーっ、と見つめて、
「あとで詳しく教えてよね、なんで明と沙希が一緒にいたかとか!」
うっ、言葉に詰まった沙希は引き下がることにした。やはり、憧れの先輩にはなにも言い返せない。
「かっかっかっ、退魔者がもう一人来たか! そして、不意打ちの一発見事だったぜ! あれがなければ、この少年は死んでいただろうな!」
戦斧を拾った、ライオネルが笑って言った。
亜矢はライオネルの言葉に眉を吊り上げ、怒ったような表情を見せた。
怒った表情を滅多に見せない亜矢が、その表情を見せたことに沙希は少しばかり衝撃を受けた。
ふぅ、と息を吐き、冷静さを取り戻した亜矢は霊力を身体に集め始める。
「そんな変態男の娘なんて殺してくれてよかったのに。 そんなんじゃ、あたしは動揺しないわよ!」
そういい放つと同時に、銃口の前に加速術式を展開して、加速された超高速弾丸が銃から放たれた。
弾丸はライオネルの肩に命中し、ライオネルは肩を穿かれた痛みのあまり、一瞬亜矢から視界から外してしまった。
「消えたーー!」
ライオネルは先程まで亜矢がいた場所を凝視する、しかしそこには亜矢の影も身体もなかった。
「ぐはぁっ!」
次の瞬間、ライオネルは傷みの声を上げた。
ライオネルの脇腹には、女子高生のすらりと伸びた脚が蹴り込まれていたのだ。しかも、ただの脚ではない亜矢が得意とする、加速魔術で最大限にまで蹴りのスピードを上げた渾身の一撃だ。
「かっかっかっ、少女よ、いつの間にそこにいた! 面白い魔術を使う少女だな!」
亜矢は、やっぱり堅いか、と呟いてライオネルが叩き下ろした戦斧を加速術式を展開して後方へ回避した。
「かっかっかっ、速さ勝負なら負けんぞ! 俺はこう見えて負けず嫌いなんだ!」
笑ってからライオネルは今までより断然速い勢いで疾駆した。
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