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第三章
母と子 其の十八
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「栄慶さんっ!!」
『 あ゛ァあ゛ぁぁあ゛ア゛あ゛あ゛ッッ!! 』
風とともに声量が増していく彼の声に、彼女は耳を塞ぎうずくまる。
彼のお経が私の背後にも届いたのか、海の中からも無数の呻き声が聞こえ始めた。
「自らが犯し続けた罪の重さ、その身にしっかりと刻み込むんだ」
『 う……うぅぅううう…… 』
『 ごめ……なさい……ごめんなさい 』
『 うぅぅ……ごめんなさい…… 』
彼女は呟くように謝り続ける。
(終わった……の……?)
「大丈夫かっ」
離れた場所から栄慶さんが私に声を掛ける。
「――はい……何とか大丈夫です……」
私は少しふらつきながらも何とか立ち上がり、彼の元へ行こうと一歩足を動かす。
――が、次の瞬間、栄慶さんが目を見開き、表情が固まった。
「え?」
「癒見っ!!」
彼が私の名を叫び、こちらに向かって駆け出したと同時だった。
私の左腕上部にギリッと痛みが走ったかと思うと、彼女は私の顔を下から覗き込むように近づけ、ニタリと笑った。
『 イ ッ シ ョ ニ 逝 き ま し ょ う 』
そう言って左腕を掴んだまま、私ごと海に身体を傾けた。
グラリと傾く視界。
指を動かしながら伸びてくる無数の白い手。
落ちればもう助からないと悟った。
「手を出せっ!!」
左手を伸ばしながらこちらに向かってくる栄慶さんの姿が目に入る。
「栄慶さんっ!!」
私は彼に向かって右腕を限界まで伸ばした。
スローモーションのように見える光景。
後ろへ傾く身体。
栄慶さんの指先が……私の指先を追いかける。
「癒見っ!!」
もう一度彼は私の名を叫び、大きな手で私の手首をグッと握る。
身体は無数の手に掴まれる寸前で止まり、今度は逆方向へと引っ張られ、そのまま彼の胸へと飛び込んだ。
そしてすぐさま栄慶さんは私が持つ数珠を右手で掴み、高々と叫んだ。
「消え失せろっ!!!!」
『 ヒッ!? 』
彼女の身体から青白い炎のようなものがブワッと噴き出し、一瞬にして全身を覆った。
『 い、いや……
いやぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!! 』
『 熱い熱い熱いアツぃアツいぃいいいぃ 』
彼女は断末魔の叫び声を上げながら身体をバタつかせる。
『 熱いアツいあアあああああアあああああア
ああ゛あ゛ア゛あ゛あ゛あ゛ア゛あ゛っっ 』
そして海に飛び込むような形で 、彼女の身体は炎と共に消えていった。
「あ……あ……」
静寂が訪れた海。
何事も無かったかのような空間。
でも……私の耳には彼女の断末魔が残る。
そして彼女の……もがき苦しむ顔も。
「あ……あ……」
「癒見?」
「いやっ……いやっ!」
恐怖が止まらない。
彼女の声が鳴り止まない。
彼女の最後の顔が頭から離れないっ
「いやぁっ!! いやぁぁぁぁっ!!」
私は両手で耳を塞ぎ、頭を左右に振る。
怖い怖い怖い怖いっ!!!!!!
「癒見、落ち着くんだっ」
何も聞こえないっ
何も見たくないっ
何も聞きたくない!!
「癒見っっ」
塞いだ両耳を何かが覆った。
生暖かい何かが顔にかかった。
そして……
優しい熱が唇を包んだ。
『 あ゛ァあ゛ぁぁあ゛ア゛あ゛あ゛ッッ!! 』
風とともに声量が増していく彼の声に、彼女は耳を塞ぎうずくまる。
彼のお経が私の背後にも届いたのか、海の中からも無数の呻き声が聞こえ始めた。
「自らが犯し続けた罪の重さ、その身にしっかりと刻み込むんだ」
『 う……うぅぅううう…… 』
『 ごめ……なさい……ごめんなさい 』
『 うぅぅ……ごめんなさい…… 』
彼女は呟くように謝り続ける。
(終わった……の……?)
「大丈夫かっ」
離れた場所から栄慶さんが私に声を掛ける。
「――はい……何とか大丈夫です……」
私は少しふらつきながらも何とか立ち上がり、彼の元へ行こうと一歩足を動かす。
――が、次の瞬間、栄慶さんが目を見開き、表情が固まった。
「え?」
「癒見っ!!」
彼が私の名を叫び、こちらに向かって駆け出したと同時だった。
私の左腕上部にギリッと痛みが走ったかと思うと、彼女は私の顔を下から覗き込むように近づけ、ニタリと笑った。
『 イ ッ シ ョ ニ 逝 き ま し ょ う 』
そう言って左腕を掴んだまま、私ごと海に身体を傾けた。
グラリと傾く視界。
指を動かしながら伸びてくる無数の白い手。
落ちればもう助からないと悟った。
「手を出せっ!!」
左手を伸ばしながらこちらに向かってくる栄慶さんの姿が目に入る。
「栄慶さんっ!!」
私は彼に向かって右腕を限界まで伸ばした。
スローモーションのように見える光景。
後ろへ傾く身体。
栄慶さんの指先が……私の指先を追いかける。
「癒見っ!!」
もう一度彼は私の名を叫び、大きな手で私の手首をグッと握る。
身体は無数の手に掴まれる寸前で止まり、今度は逆方向へと引っ張られ、そのまま彼の胸へと飛び込んだ。
そしてすぐさま栄慶さんは私が持つ数珠を右手で掴み、高々と叫んだ。
「消え失せろっ!!!!」
『 ヒッ!? 』
彼女の身体から青白い炎のようなものがブワッと噴き出し、一瞬にして全身を覆った。
『 い、いや……
いやぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!! 』
『 熱い熱い熱いアツぃアツいぃいいいぃ 』
彼女は断末魔の叫び声を上げながら身体をバタつかせる。
『 熱いアツいあアあああああアあああああア
ああ゛あ゛ア゛あ゛あ゛あ゛ア゛あ゛っっ 』
そして海に飛び込むような形で 、彼女の身体は炎と共に消えていった。
「あ……あ……」
静寂が訪れた海。
何事も無かったかのような空間。
でも……私の耳には彼女の断末魔が残る。
そして彼女の……もがき苦しむ顔も。
「あ……あ……」
「癒見?」
「いやっ……いやっ!」
恐怖が止まらない。
彼女の声が鳴り止まない。
彼女の最後の顔が頭から離れないっ
「いやぁっ!! いやぁぁぁぁっ!!」
私は両手で耳を塞ぎ、頭を左右に振る。
怖い怖い怖い怖いっ!!!!!!
「癒見、落ち着くんだっ」
何も聞こえないっ
何も見たくないっ
何も聞きたくない!!
「癒見っっ」
塞いだ両耳を何かが覆った。
生暖かい何かが顔にかかった。
そして……
優しい熱が唇を包んだ。
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