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第十話 彼者誰時
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ティーモは気絶した花子を揺さぶります、花子はそれに答えるように目を覚ましました。
「ハナコ! よかった! アリエッタも一瞬気絶していて本当に不安だったよ」
「足の怪我、僕が治しておきました」
目を覚ましたメイザが花子の足から手を放します。
「大丈夫。ここを離れて」
ティーモはメイザに守られながらこの場所を離れました。ランはエルナたちが抑えていたため、ふたりに怪我はありませんでした。
戦況は均衡していました。魔物も花子たちも疲労で息が上がっています。その中でもランは楽しんでいるのか余裕な素振りで戦っています。そんな中、アリエッタはポラリスに下がってと指示します。
「何を言ってんだ!」
ウェイズは突拍子もないアリエッタの発言に苛立ちを見せます。
「以前の戦いであいつを吹っ飛ばした技使う。巻き込みたくないから、早く行って!」
アリエッタが強く言いますが、それでアリエッタがまた消えてしまうのは許せないのか皆はいう事を聞きません。
「いいから!」
初めて怒鳴るアリエッタを見た皆は体を後ろに引きます。花子はウェイズとエルナに囁きます。
「私が見ている。無理するようだったら止めるから。お願い、行って」
ランに立ち向かう花子を見届け、アリエッタと花子以外はその場から非難しました。
「花子、あなたも危ないから!」
「同じ魔法なら大丈夫・・・・・・なんじゃない? たぶん」
アリエッタはランと直接戦い、花子は周りの魔物を退治します。
「お前も遊び足りないのか?」
ランは自在に操れる影でアリエッタの攻撃を許しません。それどころかアリエッタの動きが鈍くなっているのです。
「アリエッタ! どうしたの!」
アリエッタは花子に視線をやります。その視線は力がなく、心を無くしているようでした。そんなアリエッタに近づこうとした花子でしたが、魔物に阻まれてしまいます。アリエッタは血が出るほど唇をかみしめ叫びました。
「セレスティア!!」
鈴の様な透き通った音と共に宝石が空間全体に飛び回ります。星空の中にいるように宝石たちは輝き始め、魔物をすべて浄化させていきました。
「くっ」
その光はランでさえ腕で守るほどでした。魔物を浄化させた宝石はアリエッタの拳に集まり、アリエッタはそれを叩き殴ります。そこから放たれる閃光は大きな爆発となってランに向けられました。
爆発の煙にまみれ、膝をついていた花子の前にアリエッタの足元が見えます。しかし、その足は光の粒子と共に消えていきそうでした。
「この魔法、以前使ったんだ。そしてこうやって死んでいくのも知っていた」
アリエッタは座り込んでいる花子を見下ろすように立っています。その表情は消えていくことへの悲しみは一切感じられない、柔らかい表情でした。体に力が入っている様子もなく、アリエッタは望んで消えていくのであると花子は感じました。
「私、鈴木さんが羨ましかったんだ」
声の音色が変わりました。その声は花子も何度か聞いたことがあり、息をのみます。
「自分の好きに真っ直ぐでさ。周りと合わせないと怖い私は拘りを持てないから、羨ましくて」
花子は羨ましいと言う言葉に応えます。
「沢山の人と笑っている日々は楽しくなかったの?」
「『何者になるか探すこと』を放棄するために他人と笑っているだけだよ。異世界に行くことに、なんも躊躇いはなかった。何者に勝手になれるんだから。死んでもどうせやり直せるから。私のことは気にしないでね。これ何度目かなぁ。死ぬ間際にこんな時間あるのも、知っているし。
結局、生きる覚悟がないからこうしてずっと、フワフワしちゃうんだろうね。鈴木さんは悩まず自分を貫いていてすごいなって・・・・・・」
「すごくない」
勝手に話を進める立花に花子は遮ります。地面を握りしめ、花子は逃げて行こうとする立花に言葉を残します。
「今の私が悩まずにここにいたと思う? 羨ましい? あんたがしてこなかったこと、それだけじゃん。沢山の悩みの上で私はそれでも自分を貫いていたんだ。好きだから!
小中高大、コツコツとずっと私は私がしたいことをしているだけ! 悩んで、自分の理想に近づくために生きることを糧にしていた! だから現実を生きていたんだ! 能力が勝手に秀でる甘い世界なんて、こっちからお断りだ!」
声が裏返るほど叫ぶ花子に、アリエッタは悲しげに笑います。
「この世界は鈴木さんが来て、終わりを迎えている。先に退場するね。鈴木さんに見た目、似せちゃってごめん」
アリエッタは花子に背を向け、静かにへたり込みました。
「現実でも命を賭けて必死に生きようとすることができなかった。当然、異世界でも命を賭ける覚悟なんて、そんな大層なものなかった。どうせまた転生できるからこの技を使ったわけだし」
光の泡となって消えていくアリエッタは最後に、自分に向けてぼやきました。
「結局、ずっと逃げているから生きているって感じないのかな。ははは・・・・・・」
またしても花子の反論を待たずに立花は消えてしまいました。
煙が完全に晴れると、ランが剣を支えに立ち上がっていました。花子も立ち上がり、宝石たちをランに向けます。
「お前、好きなことをしているだけって言ったな。同感だよ。なら邪魔される覚悟くらいあんだろ!」
花子はランに向かって、セレスティア以上の閃光を放ちます。ランは影で塞ぎますが、花子はランだけではなく、大峰の祭壇の上にあるゲートを包む勢いで己の両手に力を入れます。
立花は勝手に消えていきました。それは花子にとって苛立ちでしかありません。消えていく中でも後悔を述べていく立花は馬鹿でしかないと花子は歯を強く噛みしめました。
「その道を選ばなかったのはあんんた自身じゃん」
誰にいうわけでもない小さな呟きを、花子は口にしました。
花子の周りには、白色矮星のように冷たく光り弾ける宝石が増えていきます。影で己を守り続けているランは傷だらけの腕で剣を振り、斬撃を放ちましたが容易く宝石に弾かれました。
ひとつ、宝石が割れるとともに透き通るような鐘の音が鳴り響きます。まるで流れ星が落ちたかのようです。連鎖するように花子の周囲に浮いていた宝石たちが割れ、曙光のように空まで照らします。
この世界全てに、最後のケリをつけるために。そしてその光は流星のように天まで貫いて行きました。
激しく肩を揺らすほど息が乱れていた花子でしたが、倒れているランによろよろと近づきます。
「せっかくカッコイイ魔族の王に転生できたのに。また負けた」
「あんた・・・・・・」
アリエッタと同じく光となって消えていくランを見た花子は、ランもどこかの世界の人間であったと察しました。
「次の転生先はどうしようか。君らみたいな正義マンにでも、もう一度なろうかな」
「なれないよ」
花子は乱れた息を抑えながらランであった者と会話します。
「どこに行っても、お前らは何者にもなれない。ずっと逃げているなら、ずっと幸せも逃げているだろうね」
「は。お前は現実の方が幸せってことか? 随分といい環境で生きているんだろうなぁ。勝ち組かぁ」
“勝ち組”。家庭環境も、友人環境も、学歴もある花子はそちらに分類されるかもしれません。しかし、花子も一つの人生を歩んでいます。何かに悩み、誰かに嫉妬し、足りない自分にやるせなくなることもあります。誰かと比較したらちっぽけかもしれませんが、自分の感情を消化するのは自分の役目であることに違いはありません。そこは誰でも同じなのです。環境から脱却しようとするのも、環境を維持するのも本人次第であり、難しい事なのです。だから花子は今置かれた環境で地道にコツコツと自分の目指す場所へと道を歩いていこうと思えるようになりました。たとえ辛くとも自分であり続ける信念を胸に、現実を生きようとしたのです。それなのに勝手に歩むのをやめて、彼方から憧れ又は妬んでくることに花子は心底苛立ちを覚えました。消えかけているランであった者に花子は怒りを抑えて言い放ちます。
「ずっとそうやって憧れを抱だいていればいい。その憧れへ向かって迷子になろうともせず、同じ場所で歩かずにずうっと後悔していればいい」
「迷子になったら無駄じゃないか」
食い気味に答えるランであった者は、言いなれている様子でした。この者に信念はない、そう断言できる言いようでした。だからこそ花子はその言葉に応えます。
「残念。迷子の方が沢山、景色をみているよ」
その言葉に、ランであった者は反論しませんでした。花子から顔をそらし、空の眩しさに目を閉じました。そして、静かに粒子となってランであった者は消えていきました。
花子がギルドの方へ向かうと、ポラリスとティーモが迎えに来てくれました。花子が無事であることに喜ぶ四人でしたが、アリエッタがいない事に気が付きます。花子はアリエッタの最後を正直には話しませんでした。
「私を庇って・・・・・・」
それ以上、花子は何も言いませんでした。四人はそのセリフで察し、口を閉じました。眩しい朝焼けがこの世界を照らすとともに、花子の足元も光が立ち込めます。
「か、体が消えかけているよ! どうしたの?」
ティーモは手を口に持って行き、見たことのない状況に恐れ驚きます。
「もうここには来られないかも」
「おじ様が言っていた使命が終わったからでしょうか」
メイザの言葉で三人は覚悟を決めました。
「戦いが終わったから・・・・・・そっか。まぁここはお前にとっては異世界だもんな」
ウェイズはそう納得しようと、自分に言い聞かせているようでした。
「この世界を救ったというのに、讃える間も無いというのは、何ともやるせない」
エルナも目を伏せ、言葉を吐きます。
「そんな! 会えなくなっちゃうの? せっかく平和になったのに」
ティーモが花子の手を握ります。その瞳はもう潤んでいました。
「ティーモ、別れを辛くさせるな。ハナコには元々住んでいた世界があるんだ」
エルナがティーモの方を優しく包みます。
「ハナコ、巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」
「ううん。いいよ。みんなと出会って、いろいろ見て、こうして戦え終えられてよかった。私、辛い出来事から逃げるために元の世界に戻りたくないって何度か思う事があった。でも、今なら辛い事があっても進んでいこうかなって思えるようになったよ。だから・・・・・・」
異世界を選ばず、現世を選んだのは花子でしたが、長くいた仲間と別れるのは辛い事でした。鼻をすする花子にウェイズはいつものように肩を組みます。
「おいおい! 別れくらい笑顔でな!」
それに続いてティーモも花子に抱き着きます。
「ハナコなら大丈夫だって!」
そしてエルナとメイザも花子に寄り添います。
「そうだぞ。もし辛くなっても私たちを思い出してくれ。」
「この世界を救った一人がハナコです! それは絶対に変わりません!」
「勇者であるハナコなら、元の世界でも勇者になれるよ」
「最後まで支えてくれるんだね」
零れた笑顔に、四人も笑顔で返事します。
「歌、歌ってくれてありがとうな」
「私も、一緒に出掛けてくれてありがとう。感謝している」
「たくさん、楽しかったです! ありがとうございます」
「頑張って。私もハナコの事忘れないよ」
光に包まれ、花子の視界はもう朝日に溶け込んでいきました。
「さようなら。私をみていてくれてありがとう」
「ハナコ! よかった! アリエッタも一瞬気絶していて本当に不安だったよ」
「足の怪我、僕が治しておきました」
目を覚ましたメイザが花子の足から手を放します。
「大丈夫。ここを離れて」
ティーモはメイザに守られながらこの場所を離れました。ランはエルナたちが抑えていたため、ふたりに怪我はありませんでした。
戦況は均衡していました。魔物も花子たちも疲労で息が上がっています。その中でもランは楽しんでいるのか余裕な素振りで戦っています。そんな中、アリエッタはポラリスに下がってと指示します。
「何を言ってんだ!」
ウェイズは突拍子もないアリエッタの発言に苛立ちを見せます。
「以前の戦いであいつを吹っ飛ばした技使う。巻き込みたくないから、早く行って!」
アリエッタが強く言いますが、それでアリエッタがまた消えてしまうのは許せないのか皆はいう事を聞きません。
「いいから!」
初めて怒鳴るアリエッタを見た皆は体を後ろに引きます。花子はウェイズとエルナに囁きます。
「私が見ている。無理するようだったら止めるから。お願い、行って」
ランに立ち向かう花子を見届け、アリエッタと花子以外はその場から非難しました。
「花子、あなたも危ないから!」
「同じ魔法なら大丈夫・・・・・・なんじゃない? たぶん」
アリエッタはランと直接戦い、花子は周りの魔物を退治します。
「お前も遊び足りないのか?」
ランは自在に操れる影でアリエッタの攻撃を許しません。それどころかアリエッタの動きが鈍くなっているのです。
「アリエッタ! どうしたの!」
アリエッタは花子に視線をやります。その視線は力がなく、心を無くしているようでした。そんなアリエッタに近づこうとした花子でしたが、魔物に阻まれてしまいます。アリエッタは血が出るほど唇をかみしめ叫びました。
「セレスティア!!」
鈴の様な透き通った音と共に宝石が空間全体に飛び回ります。星空の中にいるように宝石たちは輝き始め、魔物をすべて浄化させていきました。
「くっ」
その光はランでさえ腕で守るほどでした。魔物を浄化させた宝石はアリエッタの拳に集まり、アリエッタはそれを叩き殴ります。そこから放たれる閃光は大きな爆発となってランに向けられました。
爆発の煙にまみれ、膝をついていた花子の前にアリエッタの足元が見えます。しかし、その足は光の粒子と共に消えていきそうでした。
「この魔法、以前使ったんだ。そしてこうやって死んでいくのも知っていた」
アリエッタは座り込んでいる花子を見下ろすように立っています。その表情は消えていくことへの悲しみは一切感じられない、柔らかい表情でした。体に力が入っている様子もなく、アリエッタは望んで消えていくのであると花子は感じました。
「私、鈴木さんが羨ましかったんだ」
声の音色が変わりました。その声は花子も何度か聞いたことがあり、息をのみます。
「自分の好きに真っ直ぐでさ。周りと合わせないと怖い私は拘りを持てないから、羨ましくて」
花子は羨ましいと言う言葉に応えます。
「沢山の人と笑っている日々は楽しくなかったの?」
「『何者になるか探すこと』を放棄するために他人と笑っているだけだよ。異世界に行くことに、なんも躊躇いはなかった。何者に勝手になれるんだから。死んでもどうせやり直せるから。私のことは気にしないでね。これ何度目かなぁ。死ぬ間際にこんな時間あるのも、知っているし。
結局、生きる覚悟がないからこうしてずっと、フワフワしちゃうんだろうね。鈴木さんは悩まず自分を貫いていてすごいなって・・・・・・」
「すごくない」
勝手に話を進める立花に花子は遮ります。地面を握りしめ、花子は逃げて行こうとする立花に言葉を残します。
「今の私が悩まずにここにいたと思う? 羨ましい? あんたがしてこなかったこと、それだけじゃん。沢山の悩みの上で私はそれでも自分を貫いていたんだ。好きだから!
小中高大、コツコツとずっと私は私がしたいことをしているだけ! 悩んで、自分の理想に近づくために生きることを糧にしていた! だから現実を生きていたんだ! 能力が勝手に秀でる甘い世界なんて、こっちからお断りだ!」
声が裏返るほど叫ぶ花子に、アリエッタは悲しげに笑います。
「この世界は鈴木さんが来て、終わりを迎えている。先に退場するね。鈴木さんに見た目、似せちゃってごめん」
アリエッタは花子に背を向け、静かにへたり込みました。
「現実でも命を賭けて必死に生きようとすることができなかった。当然、異世界でも命を賭ける覚悟なんて、そんな大層なものなかった。どうせまた転生できるからこの技を使ったわけだし」
光の泡となって消えていくアリエッタは最後に、自分に向けてぼやきました。
「結局、ずっと逃げているから生きているって感じないのかな。ははは・・・・・・」
またしても花子の反論を待たずに立花は消えてしまいました。
煙が完全に晴れると、ランが剣を支えに立ち上がっていました。花子も立ち上がり、宝石たちをランに向けます。
「お前、好きなことをしているだけって言ったな。同感だよ。なら邪魔される覚悟くらいあんだろ!」
花子はランに向かって、セレスティア以上の閃光を放ちます。ランは影で塞ぎますが、花子はランだけではなく、大峰の祭壇の上にあるゲートを包む勢いで己の両手に力を入れます。
立花は勝手に消えていきました。それは花子にとって苛立ちでしかありません。消えていく中でも後悔を述べていく立花は馬鹿でしかないと花子は歯を強く噛みしめました。
「その道を選ばなかったのはあんんた自身じゃん」
誰にいうわけでもない小さな呟きを、花子は口にしました。
花子の周りには、白色矮星のように冷たく光り弾ける宝石が増えていきます。影で己を守り続けているランは傷だらけの腕で剣を振り、斬撃を放ちましたが容易く宝石に弾かれました。
ひとつ、宝石が割れるとともに透き通るような鐘の音が鳴り響きます。まるで流れ星が落ちたかのようです。連鎖するように花子の周囲に浮いていた宝石たちが割れ、曙光のように空まで照らします。
この世界全てに、最後のケリをつけるために。そしてその光は流星のように天まで貫いて行きました。
激しく肩を揺らすほど息が乱れていた花子でしたが、倒れているランによろよろと近づきます。
「せっかくカッコイイ魔族の王に転生できたのに。また負けた」
「あんた・・・・・・」
アリエッタと同じく光となって消えていくランを見た花子は、ランもどこかの世界の人間であったと察しました。
「次の転生先はどうしようか。君らみたいな正義マンにでも、もう一度なろうかな」
「なれないよ」
花子は乱れた息を抑えながらランであった者と会話します。
「どこに行っても、お前らは何者にもなれない。ずっと逃げているなら、ずっと幸せも逃げているだろうね」
「は。お前は現実の方が幸せってことか? 随分といい環境で生きているんだろうなぁ。勝ち組かぁ」
“勝ち組”。家庭環境も、友人環境も、学歴もある花子はそちらに分類されるかもしれません。しかし、花子も一つの人生を歩んでいます。何かに悩み、誰かに嫉妬し、足りない自分にやるせなくなることもあります。誰かと比較したらちっぽけかもしれませんが、自分の感情を消化するのは自分の役目であることに違いはありません。そこは誰でも同じなのです。環境から脱却しようとするのも、環境を維持するのも本人次第であり、難しい事なのです。だから花子は今置かれた環境で地道にコツコツと自分の目指す場所へと道を歩いていこうと思えるようになりました。たとえ辛くとも自分であり続ける信念を胸に、現実を生きようとしたのです。それなのに勝手に歩むのをやめて、彼方から憧れ又は妬んでくることに花子は心底苛立ちを覚えました。消えかけているランであった者に花子は怒りを抑えて言い放ちます。
「ずっとそうやって憧れを抱だいていればいい。その憧れへ向かって迷子になろうともせず、同じ場所で歩かずにずうっと後悔していればいい」
「迷子になったら無駄じゃないか」
食い気味に答えるランであった者は、言いなれている様子でした。この者に信念はない、そう断言できる言いようでした。だからこそ花子はその言葉に応えます。
「残念。迷子の方が沢山、景色をみているよ」
その言葉に、ランであった者は反論しませんでした。花子から顔をそらし、空の眩しさに目を閉じました。そして、静かに粒子となってランであった者は消えていきました。
花子がギルドの方へ向かうと、ポラリスとティーモが迎えに来てくれました。花子が無事であることに喜ぶ四人でしたが、アリエッタがいない事に気が付きます。花子はアリエッタの最後を正直には話しませんでした。
「私を庇って・・・・・・」
それ以上、花子は何も言いませんでした。四人はそのセリフで察し、口を閉じました。眩しい朝焼けがこの世界を照らすとともに、花子の足元も光が立ち込めます。
「か、体が消えかけているよ! どうしたの?」
ティーモは手を口に持って行き、見たことのない状況に恐れ驚きます。
「もうここには来られないかも」
「おじ様が言っていた使命が終わったからでしょうか」
メイザの言葉で三人は覚悟を決めました。
「戦いが終わったから・・・・・・そっか。まぁここはお前にとっては異世界だもんな」
ウェイズはそう納得しようと、自分に言い聞かせているようでした。
「この世界を救ったというのに、讃える間も無いというのは、何ともやるせない」
エルナも目を伏せ、言葉を吐きます。
「そんな! 会えなくなっちゃうの? せっかく平和になったのに」
ティーモが花子の手を握ります。その瞳はもう潤んでいました。
「ティーモ、別れを辛くさせるな。ハナコには元々住んでいた世界があるんだ」
エルナがティーモの方を優しく包みます。
「ハナコ、巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」
「ううん。いいよ。みんなと出会って、いろいろ見て、こうして戦え終えられてよかった。私、辛い出来事から逃げるために元の世界に戻りたくないって何度か思う事があった。でも、今なら辛い事があっても進んでいこうかなって思えるようになったよ。だから・・・・・・」
異世界を選ばず、現世を選んだのは花子でしたが、長くいた仲間と別れるのは辛い事でした。鼻をすする花子にウェイズはいつものように肩を組みます。
「おいおい! 別れくらい笑顔でな!」
それに続いてティーモも花子に抱き着きます。
「ハナコなら大丈夫だって!」
そしてエルナとメイザも花子に寄り添います。
「そうだぞ。もし辛くなっても私たちを思い出してくれ。」
「この世界を救った一人がハナコです! それは絶対に変わりません!」
「勇者であるハナコなら、元の世界でも勇者になれるよ」
「最後まで支えてくれるんだね」
零れた笑顔に、四人も笑顔で返事します。
「歌、歌ってくれてありがとうな」
「私も、一緒に出掛けてくれてありがとう。感謝している」
「たくさん、楽しかったです! ありがとうございます」
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