夢の架け橋に君が隠れる

オラフ

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1日目(2) 昼 避難命令

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    東京都環境局 地球温暖化対策本部
 俺は本部に呼ばれ、足を急がせていた。
 せっかくの休日だがしょうがない。
 本部に入ると後輩の塚本が頑張っていた。

「お疲れ様です。休みの日なのに呼び出して申し訳ありません」

「お疲れ。別に大丈夫よ、今世界中で津波がせまっていて大変なんだろ」

「さすが立花さん、お耳が早いですね。だから審査を通った人をもう施設に入れたいのですが」

「分かった。俺がやっとく。日本中に避難命令も出しとくよ」

「ありがとうございます」

さぁ、俺も少しの希望のために仕事するか。
 
          市役所

「もう12時30分か、弁当でも食べるか」

 市役所で働いてもう長い年月がたつ。
 だが、今日みたいに若い学生が一人で訪ねてくることなんてめったになかった。
 しかもこの町に津波が来るとかよく分からないことを言っていたし。
 今日はいつもどおり暇すぎてその事についてずっと考えていた。
 みんな、昼飯を食べ始めたが私はパソコンでそんな情報が来ていないか調べ始めた。
 津波なんか来るはずないが、暇だから別に構わない。
 パソコンを開けると国からうちの町にメールが届いていた。

「国からメールが来てる、何かあったのかしら」

 メールを開くと避難命令が出ていた。
 地球温暖化で津波が迫ってくるからなるべく高いところに避難しろという文だった。
 嘘だと思いたいが朝現れた高校生が言っていたことが本当になった以上、信じないわけにはいかなくなった。
 私はすぐに町内放送をする準備を始めた。
         
         横尾高校
 今は学校の昼休みだ。
 学食に向かい、唐揚げ丼を頼む。丼の中にある卵を圭太にあげて、唐揚げ丼を頬張った。
 俺は卵が苦手なのだ。
 
「今日なんで遅刻してきたんだよ? 」

「いろいろあんだよ、いろいろ。ていうか今日、昼練付き合ったるよ」

「めずらしい~、いつもはあんなにサボンのに。何か良いことでもあった? 」

「別になんもねぇよ。早く食ってグラウンド行くぞ」

 この世界が終わる前にまた圭太と野球したいなんて言えるわけがない。
 唐揚げ丼を食べ終え、グローブを持って野球場に向かおうとしたその時、

「全教職員および全生徒は今すぐグラウンドに集合してください。繰り返します。全教職員および全生徒は今すぐグラウンドに集合してください。」

 放送が鳴り響いた。
 放送から聞こえたその声は力強くて俺たちは顔を見合わせた。

「なにこれ? 」

「ようやく放送入ったか。とりあえず行くぞ」

 周りの子を見ても、皆グラウンドに向かって歩いている。
俺も圭太を引っ張ってグラウンドに向かった。
 グラウンドに着くと、先生達が一人一人に防災グッズを渡している。 
 俺も自分の担任から防災グッズをもらった。その中には、乾パンや水が入っていた。
 圭太と別れて、クラスの列にならんだ。
 全生徒が揃ったのを確認してから体育教師の亀田が喋り始めた。

「今日の昼に国から避難命令が来たという町内放送が入った。この町に信じられないくらい大きな津波が来るらしい。急いで家に帰って避難しなさい。解散」

 よし、ここまでは上手くいっている。あとはみんなを無事に避難させるだけだ。
 
「結城、俺らも帰ろうぜ。」

 圭太の声を聞いて俺も校門に向かった。
 校門を方には君が友達と帰っている。 
 家族と離れているのに大丈夫なのだろうか。
 人の心配をしている場合ではないというのに君のことは心配だ。
 自転車を取りに行き、急いで家に向かった。
 
 家に帰ると玄関に荷物が積まれていた。
 俺も自分の部屋に行き、荷物をバックにつめる。
 中学の始めに父に買ってもらったグローブも持っていくとしよう。
 部屋を見渡すと幼稚園の卒園式で友達からもらった手紙や小学校の図工でつくった粘土の自画像などが目に入ってくる。
 生まれた日からずっとこの部屋で育ってきたことを実感した。
 持っていくことが出来ない思い出の品々に別れを告げ、荷物を持ってリビングにいくと咲が寝ていた。
 咲もせっかく学校にいったのに帰らされて疲れたのだろう。
 妹のバッグには旅行しに行くみたいにぬいぐるみなどが入っていた。
 ことの重大さはまだ分からないのだろう。

「咲起きなさい、もう行くよ」

 母ちゃんがリビングに入って来るのと反対に俺はリビングを後にした。
 玄関においてある荷物すべて持って家を出る。
 少しして母ちゃんと妹が出てきた。

「とりあえず横尾山に行こう。他の人達も先についていると思うから、急ぐよ」

 母ちゃんはそう言っておれたちを先導して歩き始めた。
 妹は母ちゃんと手を繋ぎながら歩いている。
 俺も今までお世話になった家に一礼してからそれに続いた。
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