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リゴンの大木

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「なぁ、ミルプル。いったい何処まで行くの? 結構歩いたけど」

「もう少しだよ。郁流も気持ちいいのをしたいでしょう?」

「うん。すっ、すっごくしたい」

 気持ちいい事したいと言ったミルプルに俺は、外に連れ出された。そして、そのまま何も聞かされないまま彼女の後を付いて歩いて行く。自転車で行けば楽なんだけど、目立つから使用をひかえるように師匠に言われているのだ。
 ただ、気持ちいい事が待っていると思うと歩き疲れたはずの足なんだけど、不思議と自然に前に出るのだ。
 でも、いったい何処へ向かっているんだ? この辺にラブホテルみたいな建物があるわけがないし……。それなら家でいいもんな。ああ、そうか。初めてのをしている最中に、師匠が突然に帰宅したら駄目だからか。
 きっと、秘密の小屋でも見つけているんだろうな。ムフフ……。勝手な想像をして顔がにやけてしまうのだ。

「到着! 目的地は此処だよ」

 その場所は、森の中の大きく立派な木の根元だった。その木は、おそらく樹齢何百年も経過した木であろうと思わす迫力の有る大木たいぼくだ。木の天辺なんて遥か上に見える感じだ……だから何だ。今の俺は、そうとも思うのだ。
 しかし、この場所で気持ちいい事を始めるのか? 明るいうちから、野外でのプレイか? ミルプルよ、それは屋内での行為がマンネリ化したカップルが、刺激を求めての新しい扉を開く行為じゃないのかい? 俺は、何だか恥ずかしさが勝ってしまうかなぁ……。まぁ、この世界は、スマートフォンやカメラが無いだろうから、隠しりされる心配は無いか。

「郁流、もう郁流! 何をボーっとしてるの? この木は、リゴンの実がなる木なんだよ。この辺りで一番大きくて背が高い木なんだ――さあ、今から登るよ」

「えっ? いやいや、俺には無理だよ。それにミルプルは、スカートだよ。冗談だよね?」

「何で? 本気だよ。たまに登ってるし。女の私も出来るんだから、大丈夫だよ。じゃぁ、私が先に登るから少しの間は見ててよ。それから後について登ってね」

 そう言うやいなや、ミルプルは木に登り始めたのだ。なるほど。慣れているのが見ていて分かる。木に自然と出来たくぼみや枝を上手に使っている。って、うおっ! み、見える。丸見えだ。ミルプルのピンク色のパンティーが……。

「郁流ぅー。ちゃんと見てる? しっかり見ててよぉ!」

 見てていいのだろうか? と良心が迷うのだが、本人が見ろと言うから仕方ないよな。しっかりと見させていただこう……。何だか中学生時代に男友達と見た雑誌掲載けいさい投稿写真を思い出すなぁ。少しの間、その素晴らしい光景を見ていた……。
 
 よしと、気合を入れる。俺も登る事を決心したのだ。そうでもしないと、ボーっと見てると俺の下半身の木が大きく育ちそうだから。

「おーい! 俺も登るからね!」

 ミルプルに元気に宣言して、俺は大木を登り始めるのだ。ピンク色の布に包まれたを追いかけて。


 *****

「ねっ、どう? 気持ちいいでしょう。この眺め」

「はぁ、はぁ。ちょっと待って……」

 ミルプルは、枝の上で隣に腰掛ける俺に微笑んで、嬉しそうに言った。俺は、息が上がって、疲労して返答する余裕がまだない状態だ。
 リゴンの大木の頂点付近。登れる限界まで辿たどり着いたミルプルと俺。どうにか生きて登れたな。途中で大変だったなぁ。ミルプルの足が枝を踏み外した拍子ひょうしすべって、俺の頭にミルプルのスカートがかぶさり、お尻が顔にめり込んだ。死ぬかと思った。と言うか、もう死んでもいいと思う瞬間とは、あんな状態かもしれないな。などと思っていると、身体も楽になってきた。
 その場所から見るながめは、確かに爽快そうかいだった。辺り一面が見渡せる。高い所から風景を見下ろすだけで、偉くなった感じもするのだ。その時、心地よい風が吹いた。隣を見ると、その風にミルプルの長い髪がなびいて。綺麗きれいだ……。

「ミルプル、俺も同じだよ。確かに気持ちいい気分だよ……それに素敵だ」

「そう。良かったわ。郁流は、頑張って登ったもんね。これは、ご褒美ほうびよ」

 無邪気にそう言うと、俺のほおに口付けをした。その瞬間だ。俺の心は、ときめいた。身体の疲労感ひろうかんは、すっ飛ぶ。いや、それどころか、力がみなぎる感覚がしたのだ。

「ありがとう。俺、凄く嬉しいよ」

 ミルプルの目を見つめて、心から嬉しさを述べた。そうすると、ミルプルも頬を赤くして照れている感じだった。
 
 今の俺の気分は、頂点に登ったのだった。






 
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