私との婚約は政略ですから、恋人とどうぞ仲良くしてください

稲垣桜

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ルカSIDE 1.

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 俺が11歳の時に父が仕事でアレドニアに長期滞在することになり、家族で父に会いに行った時の事だった。

 ちょうど夏の暑い盛りのその日は、町で星降祭という夏祭りが開かれる日ということで俺は兄と一緒に町へと遊びに行った。

 夏祭りの時期ともなると地元の人や観光客が多く、その人の波にもまれるうちに一緒にいた護衛達の姿も見えなくなって、うろうろとしている俺はあっという間に兄ともはぐれたのだ。

 知らない土地で、それも貿易港ということで王都では見ることのない他国民も多くいる。そんな街中で、俺はただ立ちすくんで周りをきょろきょろと見ることしかできなかった。
 探しているかもしれない。ここにいれば探しに来てくれるかもしれない。そんなことしか考えられなかった俺は、一分が十分に感じてほんの少しの時間しか過ぎていないのに、このまま家族に会えないんじゃないかって思ったほどだった。

 すぐ横の階段に座り込んだままどうしたらいいのかわからないでいると、目の前に小さな女の子が座り込んで俺を見ていることに気がついた。

 俺と目が合うとニッコリと笑って、その大きな瞳が父が母に贈ったブローチの深い濃い色のエメラルドと同じ色で、二つに結んである金の髪もクルクルとしていてとても可愛くて、幼い俺は思わず見惚れてしまった。
 

「おにいちゃん。どうしたの?」

「き、君は…誰?」

「私、リズ。お兄ちゃんは迷子??」

「ち、違う!疲れて休んでいたんだ!」


 小さな女の子に迷子だなんて思われたくなくて、俺は思わずそう言った。思わず出た言葉だったが、言ってから後悔した。素直に迷子だと言って案内を頼むという手もあったのだから。


「ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんもお祭りに来たんでしょ?こんなとこにいても面白くないからあっち行こ」

「あっちって…」

「お店のあるとこ。近くに大きな塔と港も見えるんだよ」


 俺はその言葉を聞いて、泊まっているホテルからも大きな塔が見えたことを思い出した。特徴のある塔だったから、見ればどっちにホテルがあるかわかるだろうとその子――リズに着いていくことにした。 
 そしてリズは俺の手を握ってひっぱって大通りまで連れて行ってくれた。

 大通りを歩いていると、大きな声でリズを呼ぶ声が聞こえた。


「リズ!どこ行ってたの?心配したんだから」

「お姉ちゃん。向こうでこの子が一人でいたから…」


 リズの姉は彼女のことを心配していたようで、俺は塔も見えたからここからなら帰れると思ってそこで彼女たちと別れた。別れてすぐに兄と会うことができて、ホテルに戻る前にもう一度振り返って二人を見た。



「あれ?マリエラ嬢と妹?」

「え?兄さん、彼女のこと知ってるの?」

「マリエラ嬢はこのアレドニアのリンデン伯爵家のご令嬢で学園の同級なんだよ。確か弟と妹がいるはずだから、一緒にいるのは妹のえっと……ああ、確か名前はエリザベス嬢だったな」

「エリザベス……リズ……」


 俺は去っていく二人の後ろ姿を見て、また会えるといいなとそう思って兄とホテルへの道を歩いて行った。




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