ダンジョンハンターズ(最強のダンジョンハンターになった俺は、今度は次世代の師匠になります)

rimurugeto

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――沖縄ダンジョン編――

――第4章・ナイトストーカーのささやき――

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――沖縄ダンジョン・第三階。

リカ、ハン、ザリアの三人は、オマリロの後について階段を下り、第三階へ向かっていた。

「サー、ちょっと休憩ってできます?」リカが尋ねる。「まだ何千階も残ってますし、足がもう限界かも……」

「ダンジョンに休憩ポイントってあるんですか?」ハンも聞く。

「ある」オマリロが答える。「十階ごと」

「ってことは、あと六階!」ザリアが宣言する。「はいはい、足動かして!」

「うぇぇ……」ハンとリカは同時にうめいた。

オマリロはもうとっくに階段を下りきっていた。
三人が追いついたとき、そこは霧と靄に満ちた広間で、大理石の柱が点々と立ち並んでいた。

「サー」ザリアが尋ねる。「どう動けばいい?」

オマリロは手を上げた。
「待て。部屋が“案内”する」

三人が足を止めた瞬間、頭上にバーが現れる。

〈規則:目を閉じろ。ペナルティ:目を開けると、鮮明な幻覚を見せられる。十秒後に開始〉

「目ぇ閉じたままで、どうやって進めってのよ……」リカが不安そうに言う。「襲われたらどうするの?」

「襲ってきたら、逆にぶっ飛ばす」ザリアが言い切る。

「お前、ほんと脳筋……」ハンがため息をつく。「ニュガワさん、どうします?」

オマリロは目を閉じた。
「目。閉じろ」

三人は一瞬だけためらったが、すぐに覚悟を決めて目を閉じた。

〈開始〉

「真っ暗……!」リカが叫ぶ。「二人ともどこ!」

「左!」ザリアが返す。

「右!」ハンも言う。

「前だ」オマリロが命じる。「目は閉じたまま」

「了解、サー!」

オマリロは一歩前に踏み出す。
「私の後ろ。足音、追え」

三人は彼の足音に集中し、そのリズムを必死でなぞる。
霧の中からは、ささやき声が絶えず響いてくるが、彼らは歯を食いしばり、拳を握りしめて歩き続けた。

「そろそろゴールですか?」ザリアが聞く。

「まだ」オマリロは即答する。「進む」

一歩、また一歩――。
オマリロはやがて、足先に何かが触れるのを感じた。

〈チェックポイント:有効。フェイズ2:開始〉

「フェイズ2って、今度は何が来るんだ……」ハンがつぶやく。

〈エネミー:レベル50・ナイトストーカー。エネミー効果:姿を見られると、対象を深い眠りに落とす。全ナイトストーカー撃破で効果解除〉

「ナイトストーカーねえ」ザリアが言う。「なんか、ダメな昔話のタイトルみたい」

「ママが昔、話してたよ」リカがぽつりと言う。「“お父さんの頭がおかしいのは、あいつらのせい”だって」

オマリロの耳がぴくりと動く。
「近い。体勢、崩すな」

低い音が陰から響いてきた。蛇のような、湿った音。

「シュー……」

「私の後ろに来い!」

三人は慌ててオマリロの背中を探り当てる。
そのとき、一体の何かが空気を裂いて飛びかかってきた。

「今の、絶対ヘビじゃないよね?」リカが震える。

音がさらに近づき、オマリロは杖を振り抜いた。
見えない何かを、そのままぶっ飛ばす。

「捕食者」オマリロが言う。「人を脅かすための存在」

オマリロはそのまま前へ押し進む。
「ここ、長居は不可」

「了解、サー!」ザリアが叫ぶ。

彼女は走ろうとして、目の前の柱にまともにぶつかり、そのままひっくり返った。

「うわ、顔面はやめて……」

「ザリア……」

「え?」ザリアが固まる。「今の誰?」

「わたしよ、ママ……」

「は? いやいやいや、そんな安い手口に――」

「目を開けて、ザリア。目を開けなさい、わたしの娘」

ザリアは必死で目を閉じ続けようとしたが、誰かの手が頬をなでた瞬間、反射的に目を開けてしまった。

「ちょ、あんたママじゃ――!」

「アハハハハハ!」

〈パーティメンバー一名、効果の対象となりました〉

ハンとリカは息を呑む。

「えっ」リカが声を上げる。

「誰だ?」ハンが言う。「リカじゃないし、俺でもない……!」

「ザリア」オマリロが短く言った。

「ザリア!」リカが叫ぶ。「どこにいるの!」

「リカ、目を開けるな!」ハンが制する。「俺たちまで巻き込まれたらマズい!」

「でも、このままじゃザリアが――!」

遠くから、声がささやいてくる。

「リカ……ハン……」

「お断りだ、この悪夢ども!」

オマリロは後方へ跳び、杖でナイトストーカーの群れをまとめて叩き落とした。
視界を使わず、気配だけでザリアの位置を割り出すと、その体を抱き上げる。

「震えてる」オマリロが言う。「効果、強い」

「わたしが治してみますか?」リカが提案する。

「ダメ。危険。まず周囲を片付ける。全部倒す。それからザリアを治す」

オマリロはザリアを片手に抱え、もう片方の手で鎧と剣を作り出した。

「ジュゲン闘士:カースドヘックスアーマー。私が少女守る。お前たち、影から奴らを引きずり出せ。私のところへ連れてこい」

「了解っス」ハンが答える。「でも、数えきれないくらいいそうですけど」

「多い」

ザリアはうわごとのようにうめき、ぎゅっと目を閉じ続けている。オマリロはそれを確認した。
「少女、状態よくない。急げ」

――五年前。

「ダメよ、ザリア。カイタンシャになるなんて。危険すぎる」

「ママ、真面目に言ってる? うち、そんなヤワじゃないし! 狩りもできるし、フロア探索だって、なんでも――」

「ダメだって言ってるの」

まだ幼い竹野ザリアは、千葉の郊外にある一軒家のダイニングテーブルで腕を組んでいた。
母親のジアは、娘と同じ褐色の肌と髪を持ち、険しい顔で彼女を睨んでいる。

「ニューヨークから連れてきたのはね」ジアが言う。「あんたに新しい人生を歩ませるためなの。マンハッタンの問題も、人間関係も、全部から離れさせたくて」

「それがさあ、ここにはカイタンシャ本部があるわけよ!」ザリアが食い気味に言う。「お願い、ママ。うちも志願したいの! ズリはカイタンシャだったんだよ? レベル900まで行ったんだよ?」

「ダメだって言ってるでしょ!」ジアは声を荒げた。「カイタンシャになったからこそ、あの子は死んだの。あんなの、無謀で、馬鹿で、中途半端な決断よ! 私は、子どもを一人も残せない母親になんてなりたくない!」

「またそれ?」ザリアがうんざりしたように言う。「ズリはちゃんと言ってた。頑張り続ければ、うちにもチャンスあるって」

「悪いけど、人生はそんな甘くないの」

ジアはため息をつき、コンロの方へ向き直る。
「こっちの学校に通うっていう選択肢はどう? それが一番いいと思うんだけど」

「最悪。外出てくる」

「相変わらず反抗期ね」ジアは首を振る。「もうすぐ出来上がるから、夕飯の時間になったら呼ぶわよ」

「はーい」

ザリアは玄関のドアを開け、外へ出ていった。
ジアは小さくつぶやく。
「何があれば、あの子は分かってくれるのか……」

家の外で、ザリアは自転車に飛び乗り、近所の道を勢いよく走り出した。
風が髪を叩き、彼女はウィリーを決める。

「トラックスタ―・ザリア、通りまーす!」

車をかいくぐりながらペダルを踏み続け、やがてスケートパークの前でブレーキをかけた。

「今日も貸し切りね」彼女は笑う。「ラッキー」

そのままパークに入り、ランプを駆け上がり、レールをグラインドする。

「さて、今日も練習」

彼女は自転車から飛び降り、パークの中央で構えを取った。
「ジュゲン闘士:カースドスピア」

黒い雷光が体から弾け、紫がかった黒の槍が手の中に形成される。

「よっしゃ! 今日も成功!」

槍をくるくると回しながら、彼女はにやりと笑う。
「ママ、こんなの知ったらブチ切れるんだろうな」

そのまま突きのフォームをいくつか試していたとき、遠くのベンチに一人の男が座っているのに気づいた。

「えっとー、すみませーん、おじさん?」ザリアが声をかける。「大丈夫? なんか、ずっと黙って座ってますけど」

男はゆっくりと顔を上げた。
床まで届くロングコートを羽織り、フードが顔をすっぽりと隠している。

「わざわざ口に出すとは、目の良い子どもだな」

「見えてることを言っただけだし」

男は立ち上がった。
ザリアがもう一言しゃべる前に、その姿は目の前へと移動していた。

「え、はやっ――」

「ジュゲン闘士、か」男はつぶやく。「かなり珍しい。カイタンシャか?」

「違う」ザリアは答える。「でも、目指してる」

男はしばし黙り、空気が重くなる。
やがて、その口調が変わった。

「そうか。なら、はっきりと教えてやろう」

男の手の中に、黒いプラズマが灯る。

「俺は、すべてのカイタンシャを殺す」

ザリアは後ずさり、槍を取り落とした。
「あんた……カイタンシャなの?」

「違う。もう違う」男は静かに告げる。「ジュゲン堕落:シジル・オブ・コラプティングタイド」

彼の頭上にシギルが浮かび上がり、黒い液体の波が何層にも押し寄せる。

「怯えるな」男は穏やかな声で言う。「お前には、なかなかの素質を感じる。俺の配下となり、カイタンシャを殺す者になれ」

「絶対イヤだ、クソ野郎!」

男は楽しそうに笑う。
「お前の姉も、同じことを言った」

「ズリを知ってるの?」

フードの奥で、紫の光がぎらりと光る。
「もちろんだ。俺が殺した」

そう言うと、男の隣に数歳年上と思しき少女の影が現れ、ザリアへと手を伸ばした。

「ザリア……逃げて……」

「な、なにこれ……」ザリアは息を呑む。

男が拳を握ると、影は霧のように消えた。
一歩前へ踏み出し、黒い水の波がザリアの足元まで迫る。

「さあ、選べ――」

波は一気に彼女の足首を飲み込み、ぐんぐんとせり上がっていく。

「俺に従うか……」

「……それとも死ぬか」

ザリアは震えながらも、槍を再形成して構え直した。
「……化け物が!」

彼女の一太刀が男の胸を裂く。
飛び散った液体は、紫色だった。

「紫……血? 人間じゃない……」

「その通りだ」男はあっさり認める。「ジュゲン堕落:アンホーリースパイク・オブ・ディスペア」

地面から闇の槍が伸び、ザリアの足とふくらはぎを串刺しにし、その場に縫いつける。
さらにもう一列、槍がじわじわと迫ってくる。

「従わぬというのなら、そのまま串刺しで終わるがいい」

ザリアは必死にもがくが、足は一歩も動かない。

「ジュゲン魔法士:イグニッション!」

ボンッ。

男のコートに、青白い炎が燃え移った。
炎は一瞬で全身に広がり、焼け焦げた匂いがあたりに立ち込める。

ザリアは、ふわりと抱きとめられた。

「大丈夫? どこか痛いところは?」

「……ママ?」

そこにいたのは、黒と白のカイタンシャ装備を身につけたジアだった。

「なんでそんな格好してるの……?」

「ザリア」ジアは低い声で言う。「立てるなら、今すぐここから離れなさい。全速力で。安全圏まで走ったら、そのまま家に戻るの。そこで待ってて。あとから必ず行くから」

「でも、ママ――!」

男は胸に手を当てた。
「ジュゲン堕落:シフティングソウル」

炎も、焼け焦げた跡も、すべてかき消える。
背中から三つのシギルが立ち上がり、その光で母娘の視界が白く染まる。

「強いカイタンシャだな」男はジアを見据える。「なるほど、娘にあれほどの反応が出るわけだ」

「娘から離れろ」ジアが命じる。

「いいとも、一つ条件をのめば」

ジアの目が細くなる。
「条件?」

「“最強のカイタンシャ”を、ここに連れてこい」

ジアは息を呑んだ。
「あいつを狙ってるの……?」

「時間はそう長くない」

「ふざけないで。仲間を裏切るくらいなら、その時計ごとぶっ壊してやる!」

男は軽く手を振った。
それだけで、ジアの胸に深い傷が刻まれ、彼女はよろめいて倒れ込んだ。

「ママ!」

ジアは震える手でザリアに触れた。
「走って……ザリア……スキルを……使って……ニュガワを……探しなさい……オマリロ……ニュガワ……」

「誰なの、それ……ママ、しっかりして!」

しかし男の放った黒い水が、ジアの体をのみ込んでいく。

「まずは母。それから、その“種”だ」

ザリアは涙を浮かべながら後ずさりし、そのまま踵を返して駆け出した。
男も追おうとしたが、その体がぐらりと揺らぐ。

「……時間切れか。構わん。娘の命はくれてやろう。代わりに――」

男は紫の光に包まれながら、不気味に笑った。

「伝説の命を取りに行く」

そう告げると、彼はふっと消えた。

少し離れた茂みの陰で、今の光景を見ていた現在のザリアは、ぶつぶつと呟く。

「違う……もう終わったこと……」
「もう過去の話……全部、過去の――」

背後から、母の姿をした幻が現れ、肩に手を置いた。

「本当に? あんたが“唯一の失敗作”だから、そう思い込みたいだけじゃないの?」

ザリアはその腕を払いのけた。
「……あんた、ママじゃない。近寄ったらぶっ殺す」

その姿はぐにゃりと歪み、ナイトストーカーの姿へと変わる。
ザリアは即座に槍を呼び出し、その胸を貫いた。

「……ここからどうやって出れば……」ザリアは息を切らす。「ニュガワさん、絶対怒るじゃん……」

――ダンジョン内部。

〈全ナイトストーカーを撃破し、効果対象のメンバーを治療せよ〉

ハンはキューブのネットで影の中からナイトストーカーを引きずり出し、オマリロがその一体一体を剣で斬り刻んでいく。

〈残りストーカー数:47体〉

「あと少し」オマリロが言う。「続けろ」

リカはシギルを手に掲げ、大袈裟に振り回した。
「ねえストーカーのみなさーん! こっちにおいで! キラッキラのシギルだよー、取りに来なよー!」

その言葉に答えるかのように、シギルが光を放つ。
数体のストーカーが音もなく近づいてくるのを感じ、リカはじりじりと下がった。

「そのまま、こっちおいで……」

オマリロが一閃でまとめて斬り捨てる。
ハンもさらに数体を引きずり出し、それらも同じように切り刻まれていった。

〈残りストーカー数:21体〉

「ニュガワさん!」リカが叫ぶ。「なんか、あいつらキレてません!?」

ナイトストーカーたちは巨体化し、赤黒い瞳が光を帯びる。

〈エネミーインスタンス:防御力+80%〉

「ここからは私」オマリロが宣言する。「お前たち、少女を守れ。目は閉じたまま」

オマリロはザリアの体をリカへと預けた。
リカは目を閉じたまま、彼女をしっかりと抱きとめる。

ナイトストーカーたちは、オマリロが一歩踏み出したのを感じて動きを止めた。

「もういい。私の仲間を戻せ」

「オマリロ……」一体が低く囁く。「過去を、忘れたか……?」

「過去」オマリロは短く答える。「本来、警告としてあるもの」

彼は低く構え、片手を前に突き出した。

「ジュゲン後備者:フォービドゥンプリズン」

足元に巨大なポータルが開き、その圧にナイトストーカーたちは震え上がる。
リカとハンは、目を閉じたままでも伝わってくる異様な気配に、ごくりと喉を鳴らした。

「ニュガワさん、ジュゲンクラス何個持ってるんですか……?」ハンが聞く。

「全部」オマリロがあっさり告げる。「さあ、送還だ」

逃げ出そうとしたナイトストーカーたちは、次々とポータルに吸い込まれ、そのまま闇の中へ消えていった。

〈残りストーカー数:0体〉

「目、開けてもいい?」リカが恐る恐る聞く。

「この階を出てから」オマリロが答える。

「はーい……でも、さっきの技、いつか教えてほしいです!」

「無理だ。お前はクラス一つだけ」

「ですよねー……」

彼らが前へ進むと、霧の中に一軒の石造りの小さな家がぽつんと建っていた。
オマリロはドアをもぎ取り、中へと入る。
中を手探りで探ったリカの手が、浮かぶトーテムに触れた。

〈トーテムシール取得。レベル4許可を付与〉

「階を出れば、少女は元通り」オマリロが言う。「ついてこい」

足元に階段が現れ、下へと続いている。
オマリロが先に降りる。

「ねえ、ハン」リカが小声で話しかける。「カイタンシャって、思ってたより悪くないかも」

「どの辺でそう思った? 世界最強のじいちゃんの弟子になったところか? それとも、死にかけてはギリギリで生還するのを繰り返してるところか?」

「両方」リカは笑った。

「まあ、数字的にはそう言うと思ってた」

「はいはい、理系くん。さ、下りよ。ザリアも早く楽にしてあげないと」

二人はザリアを支えながら階段を降り、階層が閉じていく。

〈フロア4:侵入〉

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