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第一章 出会い
01
しおりを挟む「好きです。付き合ってください。」
この僕、紀伊 達也(きい たつや)が片恋相手である川村 真帆(かわむら まほ)に告白するのはこれで5度目になる。
川村 真帆。
僕が一目惚れした女の子。
天真爛漫、天衣無縫という言葉がよく似合う関西弁の女の子。
そして、僕の初恋相手。
初めて僕が真帆と会ったのは2年と少し前、当時新入生だった僕が、格式張った入学式に飽き飽きし、トイレと称して体育館から抜け出して先に教室に戻ろうとした時だった。
教室へ向かう階段を登ろうと何気なく上を見ると
そこには天使がいた。
いや、冗談だとか大袈裟に言ってる訳じゃなくて実際にそう見えたんだよ。
階段の踊り場にある窓から入ってくる西陽も手伝って、マジで真帆の周りが光り輝いていた。
「て、んし…?」
思わず声が漏れた。
僕は慌てて手で口を塞ぎ、その天使の視界から隠れるように身を屈めた。
そして天使は天界から地上に繋がる階段を降りるように一段一段、ローファーの音をコツン、コツン、と響かせて階段を降りて来る。
天使との距離
残り3m…
コツン。
2m…
コツン。
1m…
僕は天使が近づくに連れてそれまでよりもより一層と低く身を屈め、息を潜めてその天使が通り過ぎるのを待っていた。
コツン。
そして0m。
コツン。コツン。コツン。
僕の存在など気づいてはいないように天使は僕の横を通過していく。
「ふぅ。」
緊張が解けて僕は安堵の溜息を漏らす。
「なぁ。」
ビクッー
いきなり後ろから声を掛けられたことに驚き、僕の背筋は未だ嘗てないほどに伸びた。
そして恐る恐るその声がした方を振り返ると、先ほどの天使が振り返りこちらを見ていた。
先ほどまで逆光でよく見えなかった天使、もとい真帆の顔をここで初めてちゃんと認識することができた。
白い肌にクリッとした大きな瞳、スッと鼻筋の通った全体のバランスがとれた綺麗な顔立ちをしていた。
マジで天使かよ!!
そんなことを考えてる僕を尻目に真帆は僕に話しかける
「あんたも入学式抜け出してきたん?」
これが僕と真帆との記念すべき初めての会話である。
いや、実際は会話と呼べるものではなかったのだが…
僕はパニックになっていた。
真帆の顔を認識したことで幾らか冷静を取り戻していたのだが、そんなものは一瞬だけである。
入学初日の学校という、知り合いなど居ない完全なアウェーの地で、生まれて初めて見る天使(本物ではないのだが)に戸惑っているだけならまだしも、後ろから急に、その天使から声を掛けられたのだ。パニックになっても無理はないだろう。
しかも僕には、入学式をサボっているという負い目もあるのだ。
「え…?あっ…。その…」
僕は自分でもびっくりするくらいしどろもどろになっていた。
そしてパニック状態の僕の口からようやく出た言葉が
「あの…一目惚れしました。付き合って下さい」
である。
なんでこんなことを言ったのか自分でもわからない。まったく…僕の口にも困ったもんだぜ。
まぁ、実際はこんなにすんなり言えたわけではないんだが…もっとたどたどしく、もっとつっかえつっかえだったんだけど
真帆は一瞬、驚いた様子だったんだけど、すぐに笑顔で「いきなり何言うてんねん。おかしな人やわぁ~」とそう返した。
その言葉でようやく自分の口から出た言葉の意味を理解した。僕は極限のパニックに陥った。
そして僕が最終的に取った行動はーー
逃げ出したのだ。
その場から。
その子から。
これが僕の初恋であり、初めての失恋である。いや、正確に言うなれば、その時YESもNOも返事をもらったわけではないので失恋したというわけではないんだけどね。(いや、2回目振られてる時点で1回目もダメだったんだろうだけど)
その後、教室で運命?の再開を果たし、同じクラスで行事を共にするに連れて真帆に対する気持ちがより強くなり、2回目、3回目、4回目と告白することになるのだが、すべて撃沈した。
そして今まさに僕は5回目の告白にチャレンジしているのだ。
みんなはどうせ今回もフラれるんだろとか思ってるんだろうな~
いや、でも今回の告白には自信がある。成功する根拠がある。根拠も何もなくただただ自分の感情を伝えてたこれまでとは違うのだ。僕は過去4回の失敗を活かして、綿密な作戦を立てることにした。
真帆の好きな芸能人の髪型を真似たり、幼馴染から乙女心とはなんぞやというレクチャーを受けたりして、1年という歳月をかけ、徐々に距離を縮めていき、ようやく2人で遊びに出かける間柄になったのだ。そして先週の日曜日、映画を観に行った帰り道、真帆から「達也とおったらほんまおもろいわぁ~」というお言葉をいただいたのだ。自信しか湧いてこない。これでダメならもうダメだ、きっぱり諦めよう。それくらいの決意で挑んでいるのだ。
そんなわけで、僕は5回目の告白を決意したのだ
僕はその次の日の放課後、真帆を海森高校の自転車置き場に呼び出した。
そして、真帆の前で跪き、右手に持っていた一輪の薔薇を差し出す。
ここでようやく話は物語の冒頭に戻るのである。
「好きです。付き合ってください。」
「あー。ごめんなぁ…うち来月からアメリカにry…」
「ごめん。やっぱり嘘。」
そう言って僕は、またしても真帆の言葉を最後まで聞かずに途中で遮り、逃げ出したのだ。
その場から。
その子から。
全く、2年前から少しも成長していないな僕は。
「あーちょっと!達也!最後まで話聞きや~」
後ろからそんな声が聞こえたが構っている余裕はなかった。振られるのは5回目とはいえ今回は自信があったのだ。それ故に受けたダメージも過去4回とは比べ物にならないくらいに大きい。そしてなにより、せっかく仲良くなったのにその関係が崩れるのが怖かった。告白したことでギクシャクしたり、気を使われるのが嫌だった。だから無理だと感じた瞬間にその告白を無かったことにしようとしたのである。
意気地なしで、嫌なことからはすぐ逃げる。それが僕だ。情けない…。
…ん?いや、まてよ。確か来月アメリカがどうとか行ってた気がする…。
なんだ?アメリカに旅行にでも行くのか?
気になる。気になる。気になる。
だが、逃げて来た手前、ここでそのことを聞きに引き返す訳にも行かない。
んーやっぱりちゃんと最後まで聞くべきだったな。
そんなことを考えているうちに家に着いた。
「はぁ。明日からどんな顔した真帆に会えばいいんだ…」
僕はそう小さく呟き玄関を開け、家の中に入った。
あ、鞄学校に置きっ放っぱなしだ…
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