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第三章 ヘタレ勇者
第一話 それでもやっぱり彼はヘタレだった
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「うわー、あれか、ブラックバッファローって」
「おっきいねー」
「黒毛牛なら美味そうかなと思ったけど、見た目が想像以上に凶暴だな」
「ブラックバッファローって人を襲うって話だしね」
「ヤバかったら一撃で殺していいからな」
「わかったお兄ちゃん!」
「いい返事だぞ嫁」
「えへへ!」
結婚式から一ヶ月後、俺がこの世界に来て一年が経った。
俺とエリナは東の荒野に異常発生したブラックバッファローという魔物を探しに来ていた。
魔物は餌を確保するために、基本はつがい以外は単独行動との事だったので来てみたら、大きさは日本の牛と変わらないが、角がやたらと立派で顔も怖い。
野菜屑を食うというので、適当にバラ撒いていたうちの一つに食いついてるのを見つけた。
残念ながら落とし穴を仕掛けた方にはまだ来ていない。
今は風下に身を隠した上で、防音魔法と防御魔法で俺とエリナを覆っているが、襲ってきたらひとたまりも無いだろうな。
名前:トーマ・クズリュー
年齢:19
血液型:A
職業:ヘタレ勇者
健康状態:良好
レベル:――
体力:100%
魔力:100%
冒険者ランク:D
名前:エリナ・クズリュー
年齢:16
血液型:お兄ちゃんと一緒!
職業:お兄ちゃんのお嫁さんです! えへへ!
健康状態:幸せ過ぎて怖いくらい!
レベル:28
体力:100%
魔力:100%
冒険者ランク:D
一ヶ月前のエリナとの結婚を機に二人で市民登録をしたおかげで、無事俺の名前は全て表示されるようになった。
エリナ・クズだと可哀そうだしな。
こいつならはみ出してでも全部表示できたかもしれないけど。
冒険者ギルド登録証は登録情報が他ギルドより少ないので、市民登録証と機能統合できると言われたので銀色のクズ登録証からはおさらばだ。
その代わり報酬から税金が必ず天引きされるようになるし、税率も収入に応じて上がる上、市民登録証の方に冒険者ランクや体力などの情報が表示されてしまうので、表示されてる情報は冒険者ギルドの物と同じになってしまう。
だが、冒険者ギルドで銀行口座に直接入出金できるというメリットもあって大満足だ。
ただ、相変わらずエリナの登録証はバグってやがる。
メッセージボードじゃねーんだぞ、えへへ! ってなんだ。
なんで感想欄みたいになってるんだ。
お洒落なホテルの寄せ書きノートかよ。見た事無いけどな!
しかもコイツ気分で変えやがるから門やギルドで見せるたびに色々変わってるんだぞ。
昨晩のお兄ちゃんすごくたくましかった......てへへ とか門番に見せるな。俺が死ぬ。
まあでも今はそんな訳の分からん事を考えるより、目の前の事に集中しよう。
流石に命が掛かってるからな。
「群れだったら無理でも、単体だったら何とかなるかと思ってきたけど、どうするかなアレ」
「私がばーんってやっちゃっても良いけど、お肉と皮も高く売れるんだよね」
「最悪魔石と角は確保して帰りたいけど、丸々持って帰るのにブラックバッファローを載せられる折り畳みリヤカーを買っちゃったから、早く元を取りたい」
「高かったねー」
「金属製で最大積載量二トン、ミスリルの取っ手に魔力を通せば十分の一の力で運べるとか言われてつい買ってしまったからな。銀貨五十枚もしたけど」
「異常発生してるブラックバッファローを一頭持ち帰れば金貨二枚は稼げますよって防具屋さん言ってたしね」
「しかもこの町にはブラックバッファローを狩れる猟師も冒険者もいないから独占できますよとか乗せられてしまった」
「お兄ちゃんは調子に乗ると駄目になっちゃうからね」
「それはお前もだけどな。考えてても仕方がない、まずはエリナの魔法が通用するか試すか」
「えっと、火魔法で良いの?」
「一番威力があるからな。角は無理だろうけど、魔石は魔力を帯びてるから、魔法の炎だと燃えにくいって聞いたし。風縛を試したいところではあるけど、失敗して怒らせたら怖いからな」
「ヘタレだねー」
「安全に狩る為に慎重になるのをヘタレって言うな。エリナの攻撃魔法で倒せれば、次は風縛を試せるしな」
「じゃあアレに魔法を使うね!」
「一撃で倒せなくてこっちに向かってきたら、落とし穴を掘るから俺の後ろに隠れろよ」
「わかった!」
「よし、俺が防御魔法を解除したらやれ!」
「はい!」
俺は防音魔法と防御魔法を解除する。
「<業炎球>!」
エリナの身長位ある上級魔法の馬鹿でかい火球が、時速百キロ以上の速度で、ブラックバッファローに襲い掛かる。
ドバアアアアアアアアアアン!!
着弾すると、ブラックバッファローが蒸発して、直径三メートル程のクレーターが出来た。
なにこれ、上級でも初歩の方って聞いたけど業炎球ってこんなにヤバいの?
「お兄ちゃん、ブラックバッファローが消えちゃったけど......」
「一瞬で蒸発したんだぞ。魔石も蒸発してないか? ちょっと冷やさないと駄目だなあれ。<ブリザード>!」
「おー、お兄ちゃんすごい! 流石私の旦那様!」
「バキバキ音がして怖かったけど、湯気も出なくなったしこんなもんか」
水魔法を解除した後に、念のため防御魔法を発動させて、ブラックバッファローが居た地点までエリナと歩いていく。
着弾した部分がガラス化してるじゃねーか......。
恐る恐るクレーターを覗き込むと、鈍く光る石が転がっていた。
「お、魔石は残ってたぞ」
「良かったー」
「<風縛>!」
風縛で魔石を持ち上げて、水魔法で洗って回収する。野球のボール位のサイズだな。
「<ストーンシャワー>!」
ガラス化した部分にも砂をかけて終了だ。
最近は砂粒からスイカサイズまで自由自在に出せるようになった。
「エリナ、業炎球で魔力はどれくらい減った?」
「んーと5%だね」
「風の攻撃魔法って風刃位しか無いんだよなー。竜巻系は範囲では優秀だけど単体攻撃力じゃ風刃と変わらんし」
「中級や上級は操作系ばかりだしねー。体を軽くして早く走る魔法とか色々便利だけど」
「風縛が使い勝手良いからそれを試してみてかな」
「そうだね!」
「風縛が駄目なら俺の雷魔法やエリナの風刃で試してみて、それでも駄目なら業炎球で魔石だけ回収しよう」
「わかった! でもお兄ちゃん、二人で一緒に風縛を使えば重くても持ち上がらないかな?」
「爺さんの本にも合体魔法とか協力魔法なんか無かったけどなー、でもイメージだし試してみるのはアリかも」
「ちょっとあの岩で試してみようよ」
エリナは自分の身長位はありそうな岩を指さして言う。
「あれか、牛サイズより小さめだけど質量がある分試すにはちょうどいいか」
「じゃあまず私だけでやってみるね!」
「よし良いぞ」
「<風縛>!」
ガクガクとは震えているが、一向に持ち上がる気配はない。
エリナの魔法石も輝いているので増幅はしてるようだが、それでも駄目なようだ。
「解除して良いぞ」
「うん!」
「じゃあ次は二人でだな」
「じゃーえいっ!」
エリナは俺に背中を向けて、「えいっ」とくっついて来て、両手を岩に向かってかざす。
なんとなくエリナの考えがわかった俺は、後ろから同じように両手をかざしエリナの両手に添える。
「いくぞ」
「うん!」
「「<風縛>!」」
エリナの左手にはめられた魔宝石が輝く。
俺の魔法石も輝いてるが、別属性の為か輝きが弱い。
それでも、二人の魔力が上手い事相乗されたのか、魔法石の補助も効果的だったのか、岩がゆっくりと持ち上がった。
「お兄ちゃん! 出来たよ!」
「上出来だな、これならブラックバッファローも拘束できるんじゃないか?」
「もう少し重くても、まだ持ち上がりそうな感じがするから大丈夫だと思うよ!」
「だな。よしゆっくり降ろして解除するぞ」
「うん!」
岩をゆっくり降ろして風縛を解除する。
「なんとか方法は見つけたし、あとはブラックバッファローを探しに野菜屑を撒いたポイントを確認しに行くか」
「はーい!」
てくてくとエリナとポイントを確認していく。
いくつかは既に食われてたりしてるから、あちこちにバラ撒かなくても良さそうだな。
「あ、お兄ちゃんあれ!」
「丁度食い始めって所か、さっさとやるか」
「うん!」
俺の腕に抱き着いてたエリナがくるんと回って俺と重なる。
「いいよお兄ちゃん!」
「いくぞ」
「「<風縛>!」」
風の玉に拘束されたブラックバッファローが、ゆっくりと持ち上がる。
暴れることも無く、完全に四肢の動きを封じられているようだ。
ゆっくり回転させて、首を下に向けておく。
「やったねお兄ちゃん!」
「あとは俺が首を斬るまで維持しておかないとな、風の魔法で斬れ味を強化しつつ刀身を保護したいところだけど、俺の並列魔法は魔力が分散するからそのまま斬るか」
「首を斬っちゃえばもう暴れないから、血を捨てる穴くらいは魔法で掘れるんじゃないかな?」
「だな、落としそうになったら土魔法を中断するけど、一応気をつけろよ」
「わかった!」
ブラックバッファローの側まで来たので、エリナから少し体を離すと、一気に抜刀して首を半ばくらいの深さで斬る。
抵抗をほとんど感じずに斬れた日本刀の斬れ味に感動したいところだが、血が出ててキモいので、日本刀を持ったまま即座に魔法を唱える。
「<トラップホール>!」
穴を作るまでのタイムラグの分、周囲がスプラッター状態だが、無事残りの血はダバダバと穴に入れられていく。
血振りをして刀身を確認すると、血どころか汚れ一つ着いていないようだ。
一応武器屋の親父がくれた懐紙で刀身を拭い、納刀する。
「お兄ちゃん、ちょっと首を持ち上げるから支えててね」
「わかった」
くいっとブラックバッファローの首が持ち上げられ、血抜きの速度があがる。
「ぎゅー」
「だから牛モツ出ちゃうから辞めろって、しかもこんな至近距離だし吐いちゃうから」
「ぎゅー! もつ!」
「美味いんだぞ。これは美味いのかは知らんけど。あとダジャレは上手くないからな。というかダジャレとして成立するのか言語変換機能」
「あれ? でもお兄ちゃんの斬ったところって牛タンの部分じゃないの?」
「そういやそうだな、タン下なら安いから良いけど、タン元斬っちゃってたら値段下がっちゃうかも」
「今日ギルドでどこを斬ったら一番良いのか聞かないとね」
「だな、タンが美味くて一番価値がある部位だったら目も当てられん」
しばらく牛肉の部位談義をしていると、血抜きが終わる。
「血も抜けたし、軽くなっただろうから一人で支えていられるか?」
「大丈夫!」
「じゃあリアカーを組み立てるから、組み上がったらゆっくり降ろしてくれ」
「はーい!」
籠から折りたたまれたリアカーを取り出し、展開していく。
いくつかパーツも取り付ければあっという間に完成だ。
流石防具屋、こういった細工も得意なんだよな。
クズに辛辣なの以外は最高なんだが。
「いいぞー」
「じゃあ降ろすねー」
ゆっくりとリアカーに牛肉が乗せられた。
ギシギシと言ってたが、血抜き後なら二頭は乗せられますとか言ってたし平気だろ。
取っ手部分のミスリルに魔力を流すと、急に軽くなる。
これなら余裕で運べるな。魔力消費も普通の人で数時間は使えると言ってたし、ギルドまで一時間もかからないから大丈夫だろ。
血抜き穴を埋めて帰り支度も万全だ。
リヤカーに魔力を通しながらも、探知魔法と防御魔法を展開する。
並列で魔法を使ってもリヤカーの重さは変わらない。
これなら消費魔力は低そうだな。
「落とし穴を調べて今日は帰るか」
「うん! 今日はいっぱい収穫があったね!」
「狩りもそうだけど、協力魔法ってひょっとしたら俺達が初めて使ったかもな」
「夫婦魔法!」
「爺さんに会ったら聞いてみるか。一応それまでは内緒だぞ」
「夫婦の秘密だね! お兄ちゃん!」
「はいはい」
ガラガラと金属製の車輪の音を響かせながら移動する。
ゴムタイヤを着けるとさらに高くなるので今回は着けなかった。必要なら後付けできるしな。
残念ながら落とし穴の上におかれた野菜屑には釣られてなかったが、野菜屑を撒いた十ヶ所の内、五ヶ所で食われてたので、次からは罠ともう一箇所位でよさそうだな。
筵を回収し、落とし穴を埋める。
俺達は冒険者ギルドへ牛肉を納品しに向かうのだった。
冒険者って食肉業者かなんかかな?
「おっきいねー」
「黒毛牛なら美味そうかなと思ったけど、見た目が想像以上に凶暴だな」
「ブラックバッファローって人を襲うって話だしね」
「ヤバかったら一撃で殺していいからな」
「わかったお兄ちゃん!」
「いい返事だぞ嫁」
「えへへ!」
結婚式から一ヶ月後、俺がこの世界に来て一年が経った。
俺とエリナは東の荒野に異常発生したブラックバッファローという魔物を探しに来ていた。
魔物は餌を確保するために、基本はつがい以外は単独行動との事だったので来てみたら、大きさは日本の牛と変わらないが、角がやたらと立派で顔も怖い。
野菜屑を食うというので、適当にバラ撒いていたうちの一つに食いついてるのを見つけた。
残念ながら落とし穴を仕掛けた方にはまだ来ていない。
今は風下に身を隠した上で、防音魔法と防御魔法で俺とエリナを覆っているが、襲ってきたらひとたまりも無いだろうな。
名前:トーマ・クズリュー
年齢:19
血液型:A
職業:ヘタレ勇者
健康状態:良好
レベル:――
体力:100%
魔力:100%
冒険者ランク:D
名前:エリナ・クズリュー
年齢:16
血液型:お兄ちゃんと一緒!
職業:お兄ちゃんのお嫁さんです! えへへ!
健康状態:幸せ過ぎて怖いくらい!
レベル:28
体力:100%
魔力:100%
冒険者ランク:D
一ヶ月前のエリナとの結婚を機に二人で市民登録をしたおかげで、無事俺の名前は全て表示されるようになった。
エリナ・クズだと可哀そうだしな。
こいつならはみ出してでも全部表示できたかもしれないけど。
冒険者ギルド登録証は登録情報が他ギルドより少ないので、市民登録証と機能統合できると言われたので銀色のクズ登録証からはおさらばだ。
その代わり報酬から税金が必ず天引きされるようになるし、税率も収入に応じて上がる上、市民登録証の方に冒険者ランクや体力などの情報が表示されてしまうので、表示されてる情報は冒険者ギルドの物と同じになってしまう。
だが、冒険者ギルドで銀行口座に直接入出金できるというメリットもあって大満足だ。
ただ、相変わらずエリナの登録証はバグってやがる。
メッセージボードじゃねーんだぞ、えへへ! ってなんだ。
なんで感想欄みたいになってるんだ。
お洒落なホテルの寄せ書きノートかよ。見た事無いけどな!
しかもコイツ気分で変えやがるから門やギルドで見せるたびに色々変わってるんだぞ。
昨晩のお兄ちゃんすごくたくましかった......てへへ とか門番に見せるな。俺が死ぬ。
まあでも今はそんな訳の分からん事を考えるより、目の前の事に集中しよう。
流石に命が掛かってるからな。
「群れだったら無理でも、単体だったら何とかなるかと思ってきたけど、どうするかなアレ」
「私がばーんってやっちゃっても良いけど、お肉と皮も高く売れるんだよね」
「最悪魔石と角は確保して帰りたいけど、丸々持って帰るのにブラックバッファローを載せられる折り畳みリヤカーを買っちゃったから、早く元を取りたい」
「高かったねー」
「金属製で最大積載量二トン、ミスリルの取っ手に魔力を通せば十分の一の力で運べるとか言われてつい買ってしまったからな。銀貨五十枚もしたけど」
「異常発生してるブラックバッファローを一頭持ち帰れば金貨二枚は稼げますよって防具屋さん言ってたしね」
「しかもこの町にはブラックバッファローを狩れる猟師も冒険者もいないから独占できますよとか乗せられてしまった」
「お兄ちゃんは調子に乗ると駄目になっちゃうからね」
「それはお前もだけどな。考えてても仕方がない、まずはエリナの魔法が通用するか試すか」
「えっと、火魔法で良いの?」
「一番威力があるからな。角は無理だろうけど、魔石は魔力を帯びてるから、魔法の炎だと燃えにくいって聞いたし。風縛を試したいところではあるけど、失敗して怒らせたら怖いからな」
「ヘタレだねー」
「安全に狩る為に慎重になるのをヘタレって言うな。エリナの攻撃魔法で倒せれば、次は風縛を試せるしな」
「じゃあアレに魔法を使うね!」
「一撃で倒せなくてこっちに向かってきたら、落とし穴を掘るから俺の後ろに隠れろよ」
「わかった!」
「よし、俺が防御魔法を解除したらやれ!」
「はい!」
俺は防音魔法と防御魔法を解除する。
「<業炎球>!」
エリナの身長位ある上級魔法の馬鹿でかい火球が、時速百キロ以上の速度で、ブラックバッファローに襲い掛かる。
ドバアアアアアアアアアアン!!
着弾すると、ブラックバッファローが蒸発して、直径三メートル程のクレーターが出来た。
なにこれ、上級でも初歩の方って聞いたけど業炎球ってこんなにヤバいの?
「お兄ちゃん、ブラックバッファローが消えちゃったけど......」
「一瞬で蒸発したんだぞ。魔石も蒸発してないか? ちょっと冷やさないと駄目だなあれ。<ブリザード>!」
「おー、お兄ちゃんすごい! 流石私の旦那様!」
「バキバキ音がして怖かったけど、湯気も出なくなったしこんなもんか」
水魔法を解除した後に、念のため防御魔法を発動させて、ブラックバッファローが居た地点までエリナと歩いていく。
着弾した部分がガラス化してるじゃねーか......。
恐る恐るクレーターを覗き込むと、鈍く光る石が転がっていた。
「お、魔石は残ってたぞ」
「良かったー」
「<風縛>!」
風縛で魔石を持ち上げて、水魔法で洗って回収する。野球のボール位のサイズだな。
「<ストーンシャワー>!」
ガラス化した部分にも砂をかけて終了だ。
最近は砂粒からスイカサイズまで自由自在に出せるようになった。
「エリナ、業炎球で魔力はどれくらい減った?」
「んーと5%だね」
「風の攻撃魔法って風刃位しか無いんだよなー。竜巻系は範囲では優秀だけど単体攻撃力じゃ風刃と変わらんし」
「中級や上級は操作系ばかりだしねー。体を軽くして早く走る魔法とか色々便利だけど」
「風縛が使い勝手良いからそれを試してみてかな」
「そうだね!」
「風縛が駄目なら俺の雷魔法やエリナの風刃で試してみて、それでも駄目なら業炎球で魔石だけ回収しよう」
「わかった! でもお兄ちゃん、二人で一緒に風縛を使えば重くても持ち上がらないかな?」
「爺さんの本にも合体魔法とか協力魔法なんか無かったけどなー、でもイメージだし試してみるのはアリかも」
「ちょっとあの岩で試してみようよ」
エリナは自分の身長位はありそうな岩を指さして言う。
「あれか、牛サイズより小さめだけど質量がある分試すにはちょうどいいか」
「じゃあまず私だけでやってみるね!」
「よし良いぞ」
「<風縛>!」
ガクガクとは震えているが、一向に持ち上がる気配はない。
エリナの魔法石も輝いているので増幅はしてるようだが、それでも駄目なようだ。
「解除して良いぞ」
「うん!」
「じゃあ次は二人でだな」
「じゃーえいっ!」
エリナは俺に背中を向けて、「えいっ」とくっついて来て、両手を岩に向かってかざす。
なんとなくエリナの考えがわかった俺は、後ろから同じように両手をかざしエリナの両手に添える。
「いくぞ」
「うん!」
「「<風縛>!」」
エリナの左手にはめられた魔宝石が輝く。
俺の魔法石も輝いてるが、別属性の為か輝きが弱い。
それでも、二人の魔力が上手い事相乗されたのか、魔法石の補助も効果的だったのか、岩がゆっくりと持ち上がった。
「お兄ちゃん! 出来たよ!」
「上出来だな、これならブラックバッファローも拘束できるんじゃないか?」
「もう少し重くても、まだ持ち上がりそうな感じがするから大丈夫だと思うよ!」
「だな。よしゆっくり降ろして解除するぞ」
「うん!」
岩をゆっくり降ろして風縛を解除する。
「なんとか方法は見つけたし、あとはブラックバッファローを探しに野菜屑を撒いたポイントを確認しに行くか」
「はーい!」
てくてくとエリナとポイントを確認していく。
いくつかは既に食われてたりしてるから、あちこちにバラ撒かなくても良さそうだな。
「あ、お兄ちゃんあれ!」
「丁度食い始めって所か、さっさとやるか」
「うん!」
俺の腕に抱き着いてたエリナがくるんと回って俺と重なる。
「いいよお兄ちゃん!」
「いくぞ」
「「<風縛>!」」
風の玉に拘束されたブラックバッファローが、ゆっくりと持ち上がる。
暴れることも無く、完全に四肢の動きを封じられているようだ。
ゆっくり回転させて、首を下に向けておく。
「やったねお兄ちゃん!」
「あとは俺が首を斬るまで維持しておかないとな、風の魔法で斬れ味を強化しつつ刀身を保護したいところだけど、俺の並列魔法は魔力が分散するからそのまま斬るか」
「首を斬っちゃえばもう暴れないから、血を捨てる穴くらいは魔法で掘れるんじゃないかな?」
「だな、落としそうになったら土魔法を中断するけど、一応気をつけろよ」
「わかった!」
ブラックバッファローの側まで来たので、エリナから少し体を離すと、一気に抜刀して首を半ばくらいの深さで斬る。
抵抗をほとんど感じずに斬れた日本刀の斬れ味に感動したいところだが、血が出ててキモいので、日本刀を持ったまま即座に魔法を唱える。
「<トラップホール>!」
穴を作るまでのタイムラグの分、周囲がスプラッター状態だが、無事残りの血はダバダバと穴に入れられていく。
血振りをして刀身を確認すると、血どころか汚れ一つ着いていないようだ。
一応武器屋の親父がくれた懐紙で刀身を拭い、納刀する。
「お兄ちゃん、ちょっと首を持ち上げるから支えててね」
「わかった」
くいっとブラックバッファローの首が持ち上げられ、血抜きの速度があがる。
「ぎゅー」
「だから牛モツ出ちゃうから辞めろって、しかもこんな至近距離だし吐いちゃうから」
「ぎゅー! もつ!」
「美味いんだぞ。これは美味いのかは知らんけど。あとダジャレは上手くないからな。というかダジャレとして成立するのか言語変換機能」
「あれ? でもお兄ちゃんの斬ったところって牛タンの部分じゃないの?」
「そういやそうだな、タン下なら安いから良いけど、タン元斬っちゃってたら値段下がっちゃうかも」
「今日ギルドでどこを斬ったら一番良いのか聞かないとね」
「だな、タンが美味くて一番価値がある部位だったら目も当てられん」
しばらく牛肉の部位談義をしていると、血抜きが終わる。
「血も抜けたし、軽くなっただろうから一人で支えていられるか?」
「大丈夫!」
「じゃあリアカーを組み立てるから、組み上がったらゆっくり降ろしてくれ」
「はーい!」
籠から折りたたまれたリアカーを取り出し、展開していく。
いくつかパーツも取り付ければあっという間に完成だ。
流石防具屋、こういった細工も得意なんだよな。
クズに辛辣なの以外は最高なんだが。
「いいぞー」
「じゃあ降ろすねー」
ゆっくりとリアカーに牛肉が乗せられた。
ギシギシと言ってたが、血抜き後なら二頭は乗せられますとか言ってたし平気だろ。
取っ手部分のミスリルに魔力を流すと、急に軽くなる。
これなら余裕で運べるな。魔力消費も普通の人で数時間は使えると言ってたし、ギルドまで一時間もかからないから大丈夫だろ。
血抜き穴を埋めて帰り支度も万全だ。
リヤカーに魔力を通しながらも、探知魔法と防御魔法を展開する。
並列で魔法を使ってもリヤカーの重さは変わらない。
これなら消費魔力は低そうだな。
「落とし穴を調べて今日は帰るか」
「うん! 今日はいっぱい収穫があったね!」
「狩りもそうだけど、協力魔法ってひょっとしたら俺達が初めて使ったかもな」
「夫婦魔法!」
「爺さんに会ったら聞いてみるか。一応それまでは内緒だぞ」
「夫婦の秘密だね! お兄ちゃん!」
「はいはい」
ガラガラと金属製の車輪の音を響かせながら移動する。
ゴムタイヤを着けるとさらに高くなるので今回は着けなかった。必要なら後付けできるしな。
残念ながら落とし穴の上におかれた野菜屑には釣られてなかったが、野菜屑を撒いた十ヶ所の内、五ヶ所で食われてたので、次からは罠ともう一箇所位でよさそうだな。
筵を回収し、落とし穴を埋める。
俺達は冒険者ギルドへ牛肉を納品しに向かうのだった。
冒険者って食肉業者かなんかかな?
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彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
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こうご期待。
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