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第六章 ヘタレ領主の領地改革
第二十話 人生の冒険者
しおりを挟む夜が明けると、「さんたさんきた!」「ぼくにも!」とガキんちょどもが大騒ぎだ。
プレゼントの中身は男女での違いはあるが、あとは色違い程度で全員同じ物なので、特に喧嘩や奪い合いなどの問題は発生していない。
というかこいつら喧嘩してるの見たこと無いな。良い子過ぎるだろ。
まあ一号だけ金額が桁違いのプレゼントにしちゃったけど、サンタさんからのプレゼントじゃないからな。
楽しそうに玩具やぬいぐるみ、ヘアブラシなどでわいわいやってるガキんちょどもを尻目に、今日も朝から弁当販売だ。
店舗が完成してるので、気候に左右されずに販売できるのはメリットだ。
露天売りではなく店舗を構えて販売すると税率が上がるのだが、クレアの計算では少々税金が増えたところで問題無く利益は上げられるとのことだった。
というか領主が税率の心配とかしてんのなこの町って。
「兄ちゃん、さんどいっちが足りないって、特にてりやきちきんさんど!」
「わかった、とりあえず一号は出来上がったの持って行ってくれ、すぐテリヤキチキンサンドを量産するから」
「あいよ」
「お兄ちゃん、パスタソースとぽてさらの仕込みは終わったから私も手伝うね」
「頼む。どんどん挟んで渡すから、エリナはカットして並べて行ってくれ」
「まかせて!」
安くて美味い! 店員が可愛い! と評判の人気店になったので朝から滅茶苦茶忙しいが、ここでの稼ぎだけで孤児院単体であれば運営出来る程度には稼げるようになった。
毎月の援助金は変わらないので、積立金がガンガン増えてる状態だ。
学校設立したらどれだけ資金が必要かわからないから、とりあえず稼げるだけ稼がないと。
一心不乱に作りまくっていると、材料が無くなったので厨房は片づけに入る。
「エリナ、今日はギルドの方へ顔を出すからガキんちょの勉強の方見てやってくれな。帰ってきた後は、用事を入れてないから弁当を持って狩りに行くぞ」
「うん!」
もちろん狩りでの利益で個人資産と孤児院への寄付金も忘れない。
そういや領主としての給料というか稼ぎってそのまま領主家の資産として蓄えられてるけど、公共事業とかでドカドカ使ってるんだよな。
俺の登録証からは残高を触れないようにしてクリスとアイリーンに管理させてるけど
赤字になったりしてないよな? 大丈夫かな?
◇
慌ただしい弁当販売と朝食を終えて、クリスとギルドに向かう。
改装も終わり、今日から『職業斡旋ギルド』と『人生の冒険者ギルド』に分割されたのだ。
そう『冒険者ギルド』は『人生の冒険者ギルド』と名称が変更になった。
普段は酒ばかり飲んで、金が無くなったら日雇いの仕事してるだけの、どこにも冒険をしてないクズ連中を冒険者なんて呼べるか! という俺の意見に事務員が考えてくれて、いろいろ話し合った結果決まったのだ。
といってもこの町で冒険者だったものや、今後この町で登録した冒険者が『人生の冒険者』と呼ばれるだけで、王都の冒険者ギルドで登録した連中は『冒険者』のままだ。
いずれ王国宰相の肩書を使って、この国の冒険者を全員『人生の冒険者』に替えてやろう。
あ、でも真面目に冒険をしてなくても冒険者やってる奴多いんだっけ?
なんなんだ冒険って。
などと考えてる間に人生の冒険者ギルドにたどり着く。
早速中に入ると、相変わらず飲食スペースが併設された頭の痛い間取りだが、とにかくカウンターへと向かう。
「いらっしゃいませ、人生の冒険者トーマさんと奥様」
「そういや俺も人生の冒険者ギルド所属だったわ!」
「で、今日はどのようなご用件ですか人生の冒険者トーマさん」
「人生の冒険者ギルドを辞めたいんだけど」
「トーマさんの場合は辞めるメリットが無いですからね、呼称以外は」
「ダッシュエミューの買取価格を考えたらそうなんだよなぁ、人生の冒険者ギルド所属と非所属じゃ銀貨で数枚の差が出るし。領地からの補助だから、領地の収益的に考えれば微妙な所ではあるんだけどな」
「なので頑張ってくださいね人生の冒険を」
「自分で決めた事とは言え滅茶苦茶腹立つな。まあそれはいいや。どうだ? 人員は足りてるか?」
「現在の所はなんとかという所でしょうか? 学校の敷地や南の森の開拓工事、王都への街道敷設と雇用は増えていますから、雇用先を探す人員を減らして対応しています」
「なるほど。今はそれでもいいかもしれんが、やはり民間で長く安定して就職できる雇用先を見つけないとな」
「領主さまが常に雇用先を生み出し続けてくれればいいんですけれどね」
「前領主の資産と、無駄な予算を削って作った予算枠だからそう長くは続けられないんだよな」
「人生ギルドの方は問題無いのですけれどね」
「そっちで略すのかよ」
「職業斡旋ギルドの方は、現状領主家の行っている公共事業の期間限定雇用がほとんどです」
「景気は悪くないと思うんだけどなー。どうだクリス?」
「景気指数的には、公共事業のおかげで上昇傾向ですね。ただし物価が少し上がって来てますので、現在アイリーンと対応を検討中です」
「インフレか、良い傾向だとは思うんだけどどうなんだろうな。経済学とかやってないから」
「過度なインフレは問題ですが、この程度の緩やかなインフレなら問題無いかと思いますよ旦那様。とは言え賃金もそれに見合って上昇する政策も必要ですが」
「その辺りは専門家に任せる。で、事務員、民間の求人はどうなんだ?」
「現状は公共事業の雇用の方が賃金が良いので、民間が公募に見合う賃金で求人を出し渋っているという感じでしょうか」
「ああ、不当とは言わないまでも、安く人を雇っていたところが、今までの金額以上での求人をしたくないって状況なのか」
「そうですね、業績次第じゃ賃金を上げても問題無い所も多いので、単に今までのように安く人を雇いたいということでしょうね」
「雇用促進策ねー。業績が良くて単に出し渋ってる所はともかく、人を雇いたいけどそこまでは出せないって所には補助金とかを出すか?」
「難しい所ですね旦那様。伸び代があるような新興の産業ならともかく、旧態依然としている所では一時的な解決策にしかならないかと」
「ですがトーマさん、流石に出し渋っているようなところでは、現状は賃金を上げないと人は来ないわけですからね。今後景気が良くなって業績を伸ばすためには雇用をしないと、という所では賃金を上げてでも求人を出せざるを得なくなるのではないですか?」
「その辺りは公共事業で一時的雇用を生んでいる間になんとかしないといけないわな。職業斡旋ギルドには引き続き頑張ってもらうしかないが」
「わかりました。春の採用試験での採用枠は頂けるんですよね?」
「他の部署との兼ね合いにもよるがな、あまりに多いと今年は合格ラインを下げるかもしれないし」
「では一応希望としてこれだけの人員が欲しいという書類は提出しておきますね」
「わかった。じゃあ職業斡旋ギルドの方も軽く見て帰るからよろしくな」
「はい、クズの相手はお任せください」
「口が悪いのは相変わらずだが頼もしいぞ」
人生の冒険者ギルドを出る前に掲示板を見ると、貨幣輸送馬車の護衛任務が張られていた。
またこれで町が平和になるなと思いながらクリスと隣の職業斡旋ギルドへ向かう。
間取りは人生の冒険者ギルドと同じだが、飲食スペースではなく、求人情報が張られた身長ほどもある衝立のような掲示板がいくつも置かれ、メモや検討をする為だろうか? 机や椅子も置かれているが、図書館のような雰囲気にも感じた。
今日から営業開始な上に、まだ午前中の早い時間なので閑散としているかと思ったが、結構な人がいるようだ。
職業斡旋ギルドに登録をしなくても求人情報は閲覧できるし、応募も出来る。
ただし生活支援の相談に関しては職業斡旋ギルドの登録が必要だ。
登録は無料だが、資産開示の必要がある上に、この町の住民である必要がある。
条件としては、五年以上この町に住んでいて、かつ収入の履歴がわかる市民登録証や各ギルドの登録証が必要なのだ。
登録証で虚偽の証明ができること、収入の把握が一定以上可能なことを利用した政策だ。
不正受給の可能性はある程度予防できると思う。
まあ細かな対策については追々だな追々。
まずは早急に生活支援を行わないと。
登録窓口には行列が出来ていて、事務員が三人ほどで対応している。
「クリス、事務員は足りるのかな?」
「業務に支障が出るようなら中央の市民登録窓口でも対応できるようにいたしましょう。とは言え、調査した貧困層の住民数から考えればそれほど多くは無いと存じますので、年内にはある程度落ち着くかと」
「まあこれも様子見か。新しい事をやるのに手探り状態だからな」
「まずは小規模な状態から始めてますからね、支援金自体も今はまだ少額ですし」
「予算は足りてるのか?」
「まだ大丈夫ではありますよ旦那様。ただ、この状態であと何年も続けるというわけにはいきませんから、亜人国家連合との交渉次第でなんとか交易を行いたいですね」
「そういや疫病は収まったんだっけ」
「はい、今は国民の病状の回復を待っている状態ですので、年内か年明けには使節団が帰ってくるでしょうね」
良い返事が聞ければいいんだけどな。
亜人国家連合、特に犬人国の工芸品と米は特産品で、海産物も豊富らしい。
うまく交易できればいいんだけど。
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