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二話 面倒事
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「おい、おいそこのガキ!! お前、こんくらいの獣人のガキ見なかったか? 俺達のツレなんだが、見失っちまってよ」
5人パーティーの先頭、巨大なハンマーを背中にかけた、小太りの男が声をかける。男は服従の首輪の効果が切れてることに気づいているのか、いやに焦った様子でベルを問いただした。
「獣人? いやぁ、見かけてないね。こっちに来てないんじゃないか?」
「そんなはずはない。…お前、嘘ついてんだろ。こっちはここら辺に獣人のガキが逃げ込んでんのを見てんだよ!!」
嘘ついてるのは確かだが、先程からの失礼な態度がベルの癇に障る。何より、幼けな少女を奴隷にするような輩である事をベルは知っているため、イラつきと怒りがどんどんと込み上げる。しかし、下手に刺激して目をつけられるのが一番面倒だと分かっているベルは、それらの感情を必死に押し殺し対応する。
「知らないもんは知らない。用件がそれだけなら、さっさと帰ってもらっていい?」
「てめぇ舐めてんのか!!」
ベルの健闘虚しく、どうやら相手を怒らせた様子。小太りの男はカッとなり、ベルに掴みかかろうという所で後ろに控えていた男性の仲間二人に抑え込まれる。小太りの男はそのまま退場し、代わりに派手な女性がベルの元へやってきた。
「はぁ… あんた、正直に言った方が身のためよ? 私達はB級パーティー 『竜の凱旋』なの。あんたみたいなヒョロガキ、一撃よ」
上から目線の交渉には変わりないが、小太り男とは違い、声を荒らげることも手を出すこともせず、ただただシンプルに脅してベルから情報を引き出すつもりのようだ。
しかし、この時点でベルは、相手の不用心さと危機察知能力の低さに呆れていた。というのも、パーティー名とランクを伝え脅したかったのだろうが、基本的に自分達の力量をペラペラと話すのは悪手である。
更に、自分達のいる環境を考えていない点。
ここが冒険者なりたてでも入れるような場所ならまだしも、ここは魔境の一つ『狼獄の森』なのだ。『狼獄の森』に挑む冒険者のランク平均はA級であり、B級になってようやく挑めるくらいの難易度なのだ。そんな場所に挑戦している冒険者相手に、「Bランクパーティーだぞ!」と凄んだところで――――
「はぁ、そうですか」
と、このように、脅しが効くはずもないのだ。
とはいえ、そんな事すら理解できない『竜の凱旋』の面々は、反応の薄いベルの態度が気に入らない様子だった。その中でも小太りの男はついに辛抱できなかったようで、背中のハンマーを手に取り、そのままベルを横ざまに殴り飛ばす。
「はぁ… おいおいリーダー、手なんか出して良かったのか?」
「アイツが舐めてかかってんのが悪ぃんだろ。あ、おめぇら口封じにあいつ殺しとけ」
「えーっ!? 吹っ飛ばしたのリーダーっすよね!? それに、多分あいつ死んでますって」
「うるせぇ、さっさといけ!! 手を出した以上、万が一にも生きてられちゃ困るんだよ!!」
小太りの男に怒声を飛ばされた『竜の凱旋』のメンバーは、小太りの男とベルを脅していた派手な女性を残し、ベルが吹き飛ばされた方向へと向かう。
「ふん、あんたってほんと自分勝手ねぇ」
「うるせぇ。どっちにしろ、お前もあいつのこと殺す気だったろ」
「まぁ、ね。脅した事も知られてるし、あたし達が奴隷を虐めてた事も知られてただろうからね」
「ふん。おら、さっさとあのクソペット見つけるぞ。ま、どーせ…」
小太りの男は、ベルが座っていた場所のすぐ後ろにあった、黒い布に手をかける。
「この布の下だろうけどな!!」
下卑た笑みを浮かべ、小太りの男は布を引き剥がす。だが、その笑みはそこにあったモノを見て凍りつくことになる。
「なっ…!? こ、これは…」
布の下にあったのは、逃げ出した奴隷の少女ではなく、首と胴体が離れている巨大な狼の死骸。
「フィ、フィアーウルフ…!?」
「フィアーウルフって、【狼獄の番人】っていわれる、あの!?」
魔獣の中には、その特異性から異名を持つ個体が存在する。一般的に【異名付き】と呼ばれるこの魔獣達は、強さの幅こそあれど、そのどれもが異名の名に相応しい強さを誇り、無数の冒険者を屠ってきていた。
ここ、狼獄の森で確認されている【異名付き】は三種類。中でも、強靭な脚力に人の何十倍も利く嗅覚や個体数の多さ、そしてその残忍で好戦的な性格をもつフィアーウルフは、狼獄の森において最も被害を出している魔獣だった。そのため、狼獄の森に挑むにあたっては最も警戒すべき魔獣であり、故に【狼獄の番人】という異名で恐れられていた。
「そ、それもこのサイズ… 通常個体より二回りは大きい…」
「そ、そんな馬鹿な! 通常個体ですらAランクパーティーを壊滅させる力があるのよ!? 二回りも大きいフィアーウルフを倒せる奴なんて―――」
そんなの、化け物じゃない。そう、口から漏らした言葉は、仲間達の叫び声でかき消される。その叫び声は数秒続き、力無く途絶える。そして、その叫び声の元凶であろう青年が、血で赤く染まった剣を片手に、二人の元へふらりと現れる。その様子に、二人は「ひいっ」という声を漏らし、顔を引き攣らせる。
「いやぁ、随分なご挨拶だったね」
そう微笑みながら切り出したベルの身体は、ハンマーで殴られたというのに怪我している様子は全くなかった。
「お、俺達の仲間に何したんだ!」
「いやいや、こっちは襲われてんですから、斬ったに決まってるでしょう? 」
「こ、この人でなし!!」
自分達の事を棚に上げて批難する二人に哀れみすら覚え、ベルは冷ややかに笑う。
「初対面の相手を殺そうとしたり、10にも満たない子供を奴隷にして、玩具のように扱うお前らの方が、よっぽど人でなしだと俺は思いますけど」
ベルは反論した後、剣を構え。
「…まぁ、殺そうとしたんだ、殺されても文句ないよな」
そう言い残し、一か八か逃走を試みる二人の無防備な背中を、血に濡れた剣(つるぎ)で斬り伏せた。
5人パーティーの先頭、巨大なハンマーを背中にかけた、小太りの男が声をかける。男は服従の首輪の効果が切れてることに気づいているのか、いやに焦った様子でベルを問いただした。
「獣人? いやぁ、見かけてないね。こっちに来てないんじゃないか?」
「そんなはずはない。…お前、嘘ついてんだろ。こっちはここら辺に獣人のガキが逃げ込んでんのを見てんだよ!!」
嘘ついてるのは確かだが、先程からの失礼な態度がベルの癇に障る。何より、幼けな少女を奴隷にするような輩である事をベルは知っているため、イラつきと怒りがどんどんと込み上げる。しかし、下手に刺激して目をつけられるのが一番面倒だと分かっているベルは、それらの感情を必死に押し殺し対応する。
「知らないもんは知らない。用件がそれだけなら、さっさと帰ってもらっていい?」
「てめぇ舐めてんのか!!」
ベルの健闘虚しく、どうやら相手を怒らせた様子。小太りの男はカッとなり、ベルに掴みかかろうという所で後ろに控えていた男性の仲間二人に抑え込まれる。小太りの男はそのまま退場し、代わりに派手な女性がベルの元へやってきた。
「はぁ… あんた、正直に言った方が身のためよ? 私達はB級パーティー 『竜の凱旋』なの。あんたみたいなヒョロガキ、一撃よ」
上から目線の交渉には変わりないが、小太り男とは違い、声を荒らげることも手を出すこともせず、ただただシンプルに脅してベルから情報を引き出すつもりのようだ。
しかし、この時点でベルは、相手の不用心さと危機察知能力の低さに呆れていた。というのも、パーティー名とランクを伝え脅したかったのだろうが、基本的に自分達の力量をペラペラと話すのは悪手である。
更に、自分達のいる環境を考えていない点。
ここが冒険者なりたてでも入れるような場所ならまだしも、ここは魔境の一つ『狼獄の森』なのだ。『狼獄の森』に挑む冒険者のランク平均はA級であり、B級になってようやく挑めるくらいの難易度なのだ。そんな場所に挑戦している冒険者相手に、「Bランクパーティーだぞ!」と凄んだところで――――
「はぁ、そうですか」
と、このように、脅しが効くはずもないのだ。
とはいえ、そんな事すら理解できない『竜の凱旋』の面々は、反応の薄いベルの態度が気に入らない様子だった。その中でも小太りの男はついに辛抱できなかったようで、背中のハンマーを手に取り、そのままベルを横ざまに殴り飛ばす。
「はぁ… おいおいリーダー、手なんか出して良かったのか?」
「アイツが舐めてかかってんのが悪ぃんだろ。あ、おめぇら口封じにあいつ殺しとけ」
「えーっ!? 吹っ飛ばしたのリーダーっすよね!? それに、多分あいつ死んでますって」
「うるせぇ、さっさといけ!! 手を出した以上、万が一にも生きてられちゃ困るんだよ!!」
小太りの男に怒声を飛ばされた『竜の凱旋』のメンバーは、小太りの男とベルを脅していた派手な女性を残し、ベルが吹き飛ばされた方向へと向かう。
「ふん、あんたってほんと自分勝手ねぇ」
「うるせぇ。どっちにしろ、お前もあいつのこと殺す気だったろ」
「まぁ、ね。脅した事も知られてるし、あたし達が奴隷を虐めてた事も知られてただろうからね」
「ふん。おら、さっさとあのクソペット見つけるぞ。ま、どーせ…」
小太りの男は、ベルが座っていた場所のすぐ後ろにあった、黒い布に手をかける。
「この布の下だろうけどな!!」
下卑た笑みを浮かべ、小太りの男は布を引き剥がす。だが、その笑みはそこにあったモノを見て凍りつくことになる。
「なっ…!? こ、これは…」
布の下にあったのは、逃げ出した奴隷の少女ではなく、首と胴体が離れている巨大な狼の死骸。
「フィ、フィアーウルフ…!?」
「フィアーウルフって、【狼獄の番人】っていわれる、あの!?」
魔獣の中には、その特異性から異名を持つ個体が存在する。一般的に【異名付き】と呼ばれるこの魔獣達は、強さの幅こそあれど、そのどれもが異名の名に相応しい強さを誇り、無数の冒険者を屠ってきていた。
ここ、狼獄の森で確認されている【異名付き】は三種類。中でも、強靭な脚力に人の何十倍も利く嗅覚や個体数の多さ、そしてその残忍で好戦的な性格をもつフィアーウルフは、狼獄の森において最も被害を出している魔獣だった。そのため、狼獄の森に挑むにあたっては最も警戒すべき魔獣であり、故に【狼獄の番人】という異名で恐れられていた。
「そ、それもこのサイズ… 通常個体より二回りは大きい…」
「そ、そんな馬鹿な! 通常個体ですらAランクパーティーを壊滅させる力があるのよ!? 二回りも大きいフィアーウルフを倒せる奴なんて―――」
そんなの、化け物じゃない。そう、口から漏らした言葉は、仲間達の叫び声でかき消される。その叫び声は数秒続き、力無く途絶える。そして、その叫び声の元凶であろう青年が、血で赤く染まった剣を片手に、二人の元へふらりと現れる。その様子に、二人は「ひいっ」という声を漏らし、顔を引き攣らせる。
「いやぁ、随分なご挨拶だったね」
そう微笑みながら切り出したベルの身体は、ハンマーで殴られたというのに怪我している様子は全くなかった。
「お、俺達の仲間に何したんだ!」
「いやいや、こっちは襲われてんですから、斬ったに決まってるでしょう? 」
「こ、この人でなし!!」
自分達の事を棚に上げて批難する二人に哀れみすら覚え、ベルは冷ややかに笑う。
「初対面の相手を殺そうとしたり、10にも満たない子供を奴隷にして、玩具のように扱うお前らの方が、よっぽど人でなしだと俺は思いますけど」
ベルは反論した後、剣を構え。
「…まぁ、殺そうとしたんだ、殺されても文句ないよな」
そう言い残し、一か八か逃走を試みる二人の無防備な背中を、血に濡れた剣(つるぎ)で斬り伏せた。
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