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劉備四姉弟VS呂布
しおりを挟む呂布と麾下二万騎の騎馬軍団は、袁紹軍を突き破ると、公孫瓚軍めがけて猛虎の勢いで襲いかかった。
白髪赤瞳の将軍の放つ霊圧に、戦場全体がふるえる。
呂布軍は圧倒的な攻勢で、公孫瓚軍の側面を粉砕した。呂布の方天戟が白い閃光とかして、兵士たちを両断し、引き裂き、斬り殺す。
「踏みとどまれ! 隊列を崩すな!」
公孫瓚は、白馬の上で怒鳴り声をあげた。すでに呂布によって、兵士たちは恐慌をきたしていた。
「殿! お逃げ下さい! このままでは殿のお命が危険です!」
旗本の一人が、公孫瓚にむかって叫んだ。呂布は公孫瓚めざして、真一文字に軍列を裂いて突撃してくる。
公孫瓚軍の兵士たちが、悲鳴をあげて逃げ散った。公孫瓚を守る旗本五百騎のみが踏みとどまる。
呂布の真紅の瞳が、公孫瓚をとらえた。公孫瓚の脳裏に死の恐怖が浮かぶ。
呂布は公孫瓚の旗本に突撃した。方天戟が宙にうなった。強烈な斬撃が、公孫瓚の旗本を人馬ごと両断して吹き飛ばす。
白髪赤瞳の猛将は公孫瓚まであと二十歩の距離に迫った。
「公孫瓚! 覚悟!」
呂布が叫び、公孫瓚めがけて方天戟を雷光のように閃かせた。刹那、燃えるような赤い髪をした少女が、蛇矛で呂布の方天戟を弾き飛ばした。轟音が炸裂し、火花が宙空に飛び散る。
呂布は自身の斬撃を防ぎ止めた赤髪の少女に、熾烈な眼光をむけた。
「何者だ。小娘!」
呂布が叫ぶと、張飛が蛇矛を呂布にむけた。
「我が名は張飛益徳! 逆賊董卓の犬・呂布! お前を誅殺し、大義を天下に示してくれん!」
張飛が呂布めがけて、蛇矛を宙に奔らせた。空間さえも切り裂くような神速の斬撃が、呂布めがけて襲いかかる。
「ほざくな小娘!」
呂布は劫火のような霊力を吹き上げて、張飛の蛇矛を弾いた。蛇矛と方天戟が衝突する炸裂音が、戦場に響きわたる。
張飛と呂布は、渾身の霊力をこめて相撃った。神速の斬撃が双方の空間で爆ぜる。撃ち込み、弾き返し、受け流し、切り払う。
幾十の閃光が軌跡をえがいて、空間を切り裂いていく。
(信じられん。こんな小娘が、俺と張り合っているだと)
呂布は心中で瞠目した。
張飛の蛇矛が銀の蛇となって呂布の首を襲う。呂布は方天戟の柄で、蛇矛を受け流した。
呂布が方天戟を暴風の勢いで振り下ろす。張飛が、蛇矛で音高くはね飛ばした。敵味方の双方ともに動きを止め、息を飲んで呂布と張飛の一騎打ちを見守った。
呂布が、魔獣のような咆吼をあげた。方天戟を握りしめて、猛然と張飛に撃ちかかる。方天戟が閃光となって、打ち下ろされ、水平に薙ぎ、斬り上げ、突きかかる。
張飛は呂布の猛攻を、上体をそらし、頭を下げ、蛇矛で受け流し、弾き返す。張飛の美しい赤毛が、数本、方天戟で切り裂かれる。
ふいに鮮血が宙に舞った。張飛の頬が方天戟の槍でわずかに切り裂かれたのだ。敵味方、双方から喚声があがった。
「呂布! 関羽雲長がその首をもらうぞ!」
関羽が怒号して、呂布に躍りかかった。劉備、紫音も呂布に馬を躍らせて張飛に加勢する。
「シャア!」
関羽が青龍偃月刀を水平に薙いだ。豪速の斬撃を、呂布は赤兎馬と一体になって回避する。
劉備が宝剣・蒼天で呂布めがけて刺突した。同時に紫音も宝剣・黒曜と銀霊の双刀を呂布めがけて叩き込む。
呂布は劉備の刺突をかわし、紫音の双刀を方天戟を旋回させて弾いた。
呂布が紫音めがけて、方天戟を閃かせる。紫音が右手の黒曜で方天戟を受け止めた。
「ぐうッ!」
紫音の全身に重い衝撃が走った。一撃で腕と肩がしびれ、爪先まで電流が走る。
(なんという膂力だ)
紫音は顔を歪めた。たった一撃で命も、そして魂まで打ち砕かれそうだ。
関羽が青龍刀を呂布の胸部めがけて薙いだ。赤兎馬が俊敏に動いて、関羽の斬撃をかわす。呂布と赤兎馬は信じがたい速度と反射で動き、劉備四姉弟を翻弄した。
呂布が咆吼して張飛にむかって、方天戟を奔らせた。張飛が小さな悲鳴をあげた。張飛が、馬ごと後方に吹き飛ばされる。
「張飛!」
紫音が叫んだ。張飛が吹き飛ばされるなど、初めてだった。紫音の黒い双眸に怒気の光が弾けた。紫音は左手の宝剣を逆袈裟に斬り上げた。呂布が方天戟で受け止める。
直後に紫音は右手の宝剣を呂布の頭部めがけて振り下ろした。
呂布は左手の手のひらで、宝剣の平を叩き、軌道をかえて防いだ。信じがたい武技だった。
紫音が驚愕した刹那、赤兎馬がぶつかってきた。紫音の愛馬・黒翠が赤兎馬に吹き飛ばされる。
体勢を崩した紫音を助けようと、劉備が宝剣を振り下ろした。呂布は方天戟の柄で宝剣を受け流すと、雷光のような速度で劉備の頭部めがけて刺突した。
劉備は呂布の刺突をさけられないと判断すると、馬から飛び、とんぼ返りをうって、呂布の方天戟に空を切らせた。劉備が、流麗な動作で地面に着地して剣を構える。
「おおッ!」
張飛が、咆吼しながら蛇矛を水平に薙いだ。同時に関羽も青龍刀を呂布めがけて閃かせる。
呂布は馬上で上体をひねりながら、方天戟で蛇矛と青龍刀を弾き返す。
張飛、関羽、紫音が、三方向から同時に連撃を叩き込むと、徐々に呂布が押され出した。
呂布の鎧に亀裂が走り、鞍がぶつかり合う。劉備も馬に乗って、呂布に討ちかかってきた。
劉備四姉弟が、呂布に間断なく連撃を浴びせた。数百の閃光が宙空を切り裂き、火花と激突音が炸裂する。
呂布は舌打ちした。
(さすがにこのままでは分が悪い)
「赤兎!」
呂布は逃走を決意して叫んだ。赤兎馬が、荒い嘶きを発して大地を疾走する。
劉備四姉弟は追撃できなかった。全員が肩で息をしていた。四人の全身には汗が滝のように流れている。
呂布とその軍勢は虎牢間に入った。
連合軍の兵士たちから歓声が爆発した。
「張飛! 無事か?」
紫音が、張飛に馬をよせた。
「大丈夫だ」
張飛が、切られた右頬を手でおさえながら言った。
「頬の傷は?」
紫音が心配そうに尋ねる。劉備と関羽も張飛に視線をおくる。
「浅い。すぐには完治する」
張飛が、簡潔に答えると紫音は心から安堵した。顔に傷が残らないのは良かった。 張飛の綺麗な顔がだいなしになる所だった……。
紫音は黒曜と銀霊を鞘に収め、呂布のいる虎牢間を見やった。
(あれが呂布か……)
紫音の身体が急に震え出した。呂布という怪物と闘った恐怖が今頃、襲ってきたのだ。
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