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救出
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「…ここまで来たら、もういいかなぁ。さ、お嬢さん。お名前伺っても?」
「…。」
「あらら、嫌われちゃったかなぁ。でもさ、あの手の連中はああするのが手っ取り早かったと思うのよ。俺様の経験上。」
「…あなたは、私を買ったんでしょう。そんな人の言うこと、聞けません。」
「そうは言ってもねぇ…。」
町へと向かう人波に逆らって少し早足に歩いて、兵士の姿がすっかり見えなくなったところで男は口を開いた。多少身振り手振りは大げさな印象を受けるが、兵士に対して振りまいていた笑顔は鳴りを潜めていた。とはいえ、信用など全くできそうもない相手だ。臆するな、相手は1人。さっきの兵士に囲まれていた状況からはかなり好転していると言っていい。隙を見つけて逃げ出す。それまで、注意深く相手を観察しよう。
「もし俺様があの状況で放っておいたとして、お嬢さんに何とかできたって保証はないでしょうに。」
「…。」
「まぁ確かに、褒められた方法ではなかったとは思うけども?あの人数を相手取らなくていいようになったのは、いい方向に転がったと言っていいんじゃないかなぁ。」
一理あるかもしれないが…。だからと言って、諸手を挙げて感謝するわけにもいかない。この状況で、この時代で、この世界で、私を守ることができるのは私自身だけなのだ。
「…ま、それはそうと。俺様も聖人君主で人助けをしているわけじゃないの。あの兵士どもに払った金額分は、働いてもらわないとね?」
「!?」
「大丈夫、大丈夫。俺様、女の子には優しいから。」
「おい。」
「「へ?」」
ニコニコと笑顔でこっちに寄って来られ、反射的に仰け反ってしまう。この男もろくでもない奴だ。早く何とかしないと…!そう思いながら手ごろな石でもないか視線を巡らせていると、背後から声をかけられる。またしても聞いたことのない男の声。デジャブというか、嫌な予感しかしないのだが。
「…お兄さん、何か用?」
「…。」
「おいおい、無視はないんじゃねーの?…お嬢さんの知り合い?」
「いえ…。」
何この人…。こちらを、というか私を見ている?黒髪に緑の目。質素な服を着ているけれど、それでも鍛えていることが分かるほどのガタイの良さ。…感情が読めない鉄仮面。彼の印象はこんなものだろうか。少なくとも、私の記憶にこのような知り合いはいない。
「…君、レイス博士のご息女ではないか?」
「…え…!」
「レイス博士?それって、停戦条件にあげられた『戦時の英雄』の1人じゃない。」
そう、停戦するための条件として両国があげた処分すべき人間は、『戦時の英雄』と呼ばれるようになっていた。決して賞賛や尊敬の念で呼んでいるのではなく、「戦時の英雄は平和な世界では大罪人」という意味で呼ばれている。腹が立って仕方がないったら。…でも、この状況はまずい。
「そういえば、一人娘が見つかっていないって何度もお触れが出てたけど…。え、ほんとに?」
「…どうして、そう思うんです?」
「俺は昔、博士ご夫妻に世話になったことがある。その時に、娘がいることも聞いた。博士は珍しい目の色をしていたが、娘も同じだと話していた。…君のような、赤い目。」
「…私の目。」
「さっきすれ違った時に。町から離れようと走っていただろう。」
顔を見られないように、前髪を伸ばして普段は目の前に垂らしている。確かに、男の早足の合わせるために多少駆け足になっていたことは否めないが…。まさかその一瞬で乱れた髪の隙間から目の色を確認したというのか、この男は。化け物じみた動体視力をしている。
「赤い目ねぇ。どれどれ…。」
「ちょっとやめてください!」
感心したように、私を買った男が前髪をかき上げようと額に手を伸ばしてくる。咄嗟に払おうとすると、男の手を黒髪の男が掴んで止めた。
「やめろ。」
「なーに、お嬢さんを助ける騎士様って感じ?」
「そうだ。」
「そうだって…。」
「世話になった恩人のご息女だ。例え騎士の肩書が剥奪されようと、信じるもののために行動する意志までも失ったつもりはない。」
この人の恩人は両親の方で、私はただの娘で関係はないというのに…。その緑色の目は強い意志を湛えて男を睨みつけてる。その目を見返すこと数秒。男は深いため息をついて手を引いた。
「はぁーやめやめ。今日の俺様ほんと損ばっかり…。そのお嬢さんがお尋ね者だったってのも大概だけど、あんただってそうだろうよ。」
「え?」
「…。」
「あんただろ?『黒豹』っての。お嬢さんの目の色もそうだけど、あんたの目も有名よ?途中で色が変わったんだってなぁ。」
「これは訳があってだ。恥じることは何もない。…その呼び名はやめろ、好きじゃない。」
「そーですか。」
やれやれと肩をすくめながら話す男同士に、私だけがついていけていない。クロヒョウ?目の色が途中で変わった?…騎士の肩書。
「ま、まさかっ、ロックス家のギルバート様!?」
「はい。ご存じでしたか。」
いやいやいや…。ご存じも何も、この国内であなたのことを知らない人間はいないと思いますけど!?子供はごっこ遊びしたら必ずあなたの役を取り合うし、若者はみんなあなたに憧れるし、お嬢様方はあなたとお近づきになりたいと自分磨きに精を出すし、親御さんはあなたのようになれと子供を躾けるし、お年寄りはあなたに足を向けて眠れないと拝みだす始末だ。つまり全国民に人気の超有名人。…そんな人がこんなところで何を、と言いたいところだが、こればっかりは悲しいかな察しがついてしまう。
「まったくさぁ、こんなに人気で功績も素晴らしい人間が、一転お尋ね者になるなんて。時代ってのは無情なもんだねぇ。」
そう。彼もまた、私と同じように理不尽に指名手配されてしまった人間の1人。生まれも、功績も、人柄も認められていた彼も、追手から逃げるためにここまで来たということのなのだろう。
「…。」
「あらら、嫌われちゃったかなぁ。でもさ、あの手の連中はああするのが手っ取り早かったと思うのよ。俺様の経験上。」
「…あなたは、私を買ったんでしょう。そんな人の言うこと、聞けません。」
「そうは言ってもねぇ…。」
町へと向かう人波に逆らって少し早足に歩いて、兵士の姿がすっかり見えなくなったところで男は口を開いた。多少身振り手振りは大げさな印象を受けるが、兵士に対して振りまいていた笑顔は鳴りを潜めていた。とはいえ、信用など全くできそうもない相手だ。臆するな、相手は1人。さっきの兵士に囲まれていた状況からはかなり好転していると言っていい。隙を見つけて逃げ出す。それまで、注意深く相手を観察しよう。
「もし俺様があの状況で放っておいたとして、お嬢さんに何とかできたって保証はないでしょうに。」
「…。」
「まぁ確かに、褒められた方法ではなかったとは思うけども?あの人数を相手取らなくていいようになったのは、いい方向に転がったと言っていいんじゃないかなぁ。」
一理あるかもしれないが…。だからと言って、諸手を挙げて感謝するわけにもいかない。この状況で、この時代で、この世界で、私を守ることができるのは私自身だけなのだ。
「…ま、それはそうと。俺様も聖人君主で人助けをしているわけじゃないの。あの兵士どもに払った金額分は、働いてもらわないとね?」
「!?」
「大丈夫、大丈夫。俺様、女の子には優しいから。」
「おい。」
「「へ?」」
ニコニコと笑顔でこっちに寄って来られ、反射的に仰け反ってしまう。この男もろくでもない奴だ。早く何とかしないと…!そう思いながら手ごろな石でもないか視線を巡らせていると、背後から声をかけられる。またしても聞いたことのない男の声。デジャブというか、嫌な予感しかしないのだが。
「…お兄さん、何か用?」
「…。」
「おいおい、無視はないんじゃねーの?…お嬢さんの知り合い?」
「いえ…。」
何この人…。こちらを、というか私を見ている?黒髪に緑の目。質素な服を着ているけれど、それでも鍛えていることが分かるほどのガタイの良さ。…感情が読めない鉄仮面。彼の印象はこんなものだろうか。少なくとも、私の記憶にこのような知り合いはいない。
「…君、レイス博士のご息女ではないか?」
「…え…!」
「レイス博士?それって、停戦条件にあげられた『戦時の英雄』の1人じゃない。」
そう、停戦するための条件として両国があげた処分すべき人間は、『戦時の英雄』と呼ばれるようになっていた。決して賞賛や尊敬の念で呼んでいるのではなく、「戦時の英雄は平和な世界では大罪人」という意味で呼ばれている。腹が立って仕方がないったら。…でも、この状況はまずい。
「そういえば、一人娘が見つかっていないって何度もお触れが出てたけど…。え、ほんとに?」
「…どうして、そう思うんです?」
「俺は昔、博士ご夫妻に世話になったことがある。その時に、娘がいることも聞いた。博士は珍しい目の色をしていたが、娘も同じだと話していた。…君のような、赤い目。」
「…私の目。」
「さっきすれ違った時に。町から離れようと走っていただろう。」
顔を見られないように、前髪を伸ばして普段は目の前に垂らしている。確かに、男の早足の合わせるために多少駆け足になっていたことは否めないが…。まさかその一瞬で乱れた髪の隙間から目の色を確認したというのか、この男は。化け物じみた動体視力をしている。
「赤い目ねぇ。どれどれ…。」
「ちょっとやめてください!」
感心したように、私を買った男が前髪をかき上げようと額に手を伸ばしてくる。咄嗟に払おうとすると、男の手を黒髪の男が掴んで止めた。
「やめろ。」
「なーに、お嬢さんを助ける騎士様って感じ?」
「そうだ。」
「そうだって…。」
「世話になった恩人のご息女だ。例え騎士の肩書が剥奪されようと、信じるもののために行動する意志までも失ったつもりはない。」
この人の恩人は両親の方で、私はただの娘で関係はないというのに…。その緑色の目は強い意志を湛えて男を睨みつけてる。その目を見返すこと数秒。男は深いため息をついて手を引いた。
「はぁーやめやめ。今日の俺様ほんと損ばっかり…。そのお嬢さんがお尋ね者だったってのも大概だけど、あんただってそうだろうよ。」
「え?」
「…。」
「あんただろ?『黒豹』っての。お嬢さんの目の色もそうだけど、あんたの目も有名よ?途中で色が変わったんだってなぁ。」
「これは訳があってだ。恥じることは何もない。…その呼び名はやめろ、好きじゃない。」
「そーですか。」
やれやれと肩をすくめながら話す男同士に、私だけがついていけていない。クロヒョウ?目の色が途中で変わった?…騎士の肩書。
「ま、まさかっ、ロックス家のギルバート様!?」
「はい。ご存じでしたか。」
いやいやいや…。ご存じも何も、この国内であなたのことを知らない人間はいないと思いますけど!?子供はごっこ遊びしたら必ずあなたの役を取り合うし、若者はみんなあなたに憧れるし、お嬢様方はあなたとお近づきになりたいと自分磨きに精を出すし、親御さんはあなたのようになれと子供を躾けるし、お年寄りはあなたに足を向けて眠れないと拝みだす始末だ。つまり全国民に人気の超有名人。…そんな人がこんなところで何を、と言いたいところだが、こればっかりは悲しいかな察しがついてしまう。
「まったくさぁ、こんなに人気で功績も素晴らしい人間が、一転お尋ね者になるなんて。時代ってのは無情なもんだねぇ。」
そう。彼もまた、私と同じように理不尽に指名手配されてしまった人間の1人。生まれも、功績も、人柄も認められていた彼も、追手から逃げるためにここまで来たということのなのだろう。
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