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家族
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「いいんだ、良太君。いいんだよ!
そういう矛盾を抱えた部分こそが人間らしいところだし、俺はそこが好きなんだ。
だから君にもぜひ、そういう気持ちを持っていてほしいと思うんだよ。」
「…それってもがいている人間を見て楽しんでいるってことですか?」
「そう見えるんならそうかもしれないね。俺は善人であるつもりはないしね。」
「趣味悪…。」
「誰しも暗い部分や悪い面ってのは持っているものさ。何度も言っているけどね。
その悪の部分は他人に悟られないようにしているだけさ。」
誰しも持っている悪い部分か…。
そう思えば、僕が嫌っている人間や軽蔑しているような人間と、僕自身もそう変わりないのかな。
「だけどね、人間同士でも決定的に違う部分もあるよ。それは悪の部分を曝け出すことに躊躇がない人間さ。
致し方ない理由で曝け出してしまった人じゃないよ?自ら曝け出すことに躊躇しないんだ。
いわゆる普通の人は社会的に不適切なことを考えていたとしても、それを表面化させることはまずいという理性が働くはずだからね。」
「…犯罪者とかってことですか?」
「彼らの中にもやむを得ない事情を抱えた人もいるだろうさ。物事は、一面から決めつけられることばかりじゃないよ。むしろはっきり言いきれるような出来事の方が少ないと思うな。」
「うーん…。」
「人間の二面性は悪いことじゃないよ。誰しも持っている性質だからね。
だけどそういったものを抱えているということを、自覚して認めることも必要なんじゃないかな。」
「…そうかもしれないですね。」
ロイさんの言っていることも一理ある。人間は矛盾を抱える不完全な存在だ。
そんな奴らがとんでもない数いるわけだから、世の中の出来事なんて複雑怪奇になるべくしてなっていると言えるだろう。
「むしろこの社会を形作っている規則やルールが異常なんだよ。誰がそんなにきっちり生きていると思うんだい?
そんなかたっ苦しい箱に自分を押し込めたまま生きるなんて、俺に言わせれば無謀そのものだよ。」
「でも、多少息苦しくても、そうやって枠組みを作ってやらないと、他の人と社会の中で生きていくなんてこと、できなくないですか?」
「できないよ。俺は最初から言っているのさ。人間はそういうデザインをした生き物じゃないんだから。」
「…僕たちは、社会生活を送っていくのに不適切な生き物ってことですか?」
「適切な生き物がいるのか自体俺は分からないけれど。確かに人間は進化の過程で集団生活をしていく道を選んだ。
だけども、それは自分たちに向いているからという理由だったのだろうか?
俺はこう思うのさ。周りからの脅威に対抗するために、やむを得ず手を組んだんだってね。」
「やむを得ず…。」
「そう、今まさに君たちの友達関係と一緒さ。」
「…。」
僕たちの遠い遠い先祖も、現代のように人間関係に悩んだりしたのだろうか。
仲良く一緒に生活していても裏切り者が出たり、誰かの手柄を横取りするような奴がいたり。
進化していくにつれて、人間は賢くなっていったように思っていたけれど、精神的な部分は大して変わっていないのではないと思わされる。むしろ、生き死にが今よりも身近にあったことを考えれば、人間の汚い部分はより顕著に見えていたのかもしれない。
「家族を考えてみよう。人間が一番最初に所属する集団は家族だからね。
かつての人間たちも、家族単位で生活しているところから徐々に拡大していっただろうから。」
「家族…。」
「俺は家族よりも仲間と過ごしていたから、仲間たちが家族みたいなもんかなぁ。良太君は?」
「僕は…、僕の家族は、普通の家族だと、思いますよ。」
「どんな家族なんだい?何人家族?」
「両親と、弟がいます。」
「良太君は2人兄弟のお兄さんなんだ。そんな感じするね。」
「そうですか?」
「うん。貧乏くじ引いてそうな感じしてたもん。」
「…どういう意味です?」
「兄弟の上ってさ、何だか理不尽な目に遭いやすいような気がしないかい?」
「…どうでしょう。」
「俺は何となくそう思うんだよねぇ。良太君の家では、そんなことはなかったのかな。」
理不尽な目、か。確かに、子供の頃は弟のために我慢させられることに苛立っていたけれど、そのくらいはどの家庭でもそうだろう。兄弟ってのは、兄ってのは、そんなもんなんだって。
「…弟は、僕と違って優秀ですから。そんな弟に、両親とも期待しているんですよ。」
「…どんなことろが優秀なの?弟さんは。」
「えっと、まず勉強が得意です。僕は苦手な教科があるのに、弟は何でもそつなくこなせるんです。」
「それから?」
「運動だって得意なんです。いわゆる文武両道ってやつですよ。大会なんかに出たら、毎回のように最優秀選手に選ばれちゃうような。いろんな運動部に入部してほしいって勧誘されてました。」
「それで?」
「それで、…それで、友達もたくさんいるんですよ。勉強会とか家でやったときなんて、何人も遊びに来てました。
教えるのも、きっとうまいんじゃないかなって。」
「良太君、君との関係はどうだったんだい?」
「ぼ、くとの…。」
僕と弟は、ありふれた兄弟だ。そう、世の中に何組といるような兄弟関係と変わらない。
少なくとも悪くはないと思う。でも、良いとも言えないような関係、とも思う。
そういう矛盾を抱えた部分こそが人間らしいところだし、俺はそこが好きなんだ。
だから君にもぜひ、そういう気持ちを持っていてほしいと思うんだよ。」
「…それってもがいている人間を見て楽しんでいるってことですか?」
「そう見えるんならそうかもしれないね。俺は善人であるつもりはないしね。」
「趣味悪…。」
「誰しも暗い部分や悪い面ってのは持っているものさ。何度も言っているけどね。
その悪の部分は他人に悟られないようにしているだけさ。」
誰しも持っている悪い部分か…。
そう思えば、僕が嫌っている人間や軽蔑しているような人間と、僕自身もそう変わりないのかな。
「だけどね、人間同士でも決定的に違う部分もあるよ。それは悪の部分を曝け出すことに躊躇がない人間さ。
致し方ない理由で曝け出してしまった人じゃないよ?自ら曝け出すことに躊躇しないんだ。
いわゆる普通の人は社会的に不適切なことを考えていたとしても、それを表面化させることはまずいという理性が働くはずだからね。」
「…犯罪者とかってことですか?」
「彼らの中にもやむを得ない事情を抱えた人もいるだろうさ。物事は、一面から決めつけられることばかりじゃないよ。むしろはっきり言いきれるような出来事の方が少ないと思うな。」
「うーん…。」
「人間の二面性は悪いことじゃないよ。誰しも持っている性質だからね。
だけどそういったものを抱えているということを、自覚して認めることも必要なんじゃないかな。」
「…そうかもしれないですね。」
ロイさんの言っていることも一理ある。人間は矛盾を抱える不完全な存在だ。
そんな奴らがとんでもない数いるわけだから、世の中の出来事なんて複雑怪奇になるべくしてなっていると言えるだろう。
「むしろこの社会を形作っている規則やルールが異常なんだよ。誰がそんなにきっちり生きていると思うんだい?
そんなかたっ苦しい箱に自分を押し込めたまま生きるなんて、俺に言わせれば無謀そのものだよ。」
「でも、多少息苦しくても、そうやって枠組みを作ってやらないと、他の人と社会の中で生きていくなんてこと、できなくないですか?」
「できないよ。俺は最初から言っているのさ。人間はそういうデザインをした生き物じゃないんだから。」
「…僕たちは、社会生活を送っていくのに不適切な生き物ってことですか?」
「適切な生き物がいるのか自体俺は分からないけれど。確かに人間は進化の過程で集団生活をしていく道を選んだ。
だけども、それは自分たちに向いているからという理由だったのだろうか?
俺はこう思うのさ。周りからの脅威に対抗するために、やむを得ず手を組んだんだってね。」
「やむを得ず…。」
「そう、今まさに君たちの友達関係と一緒さ。」
「…。」
僕たちの遠い遠い先祖も、現代のように人間関係に悩んだりしたのだろうか。
仲良く一緒に生活していても裏切り者が出たり、誰かの手柄を横取りするような奴がいたり。
進化していくにつれて、人間は賢くなっていったように思っていたけれど、精神的な部分は大して変わっていないのではないと思わされる。むしろ、生き死にが今よりも身近にあったことを考えれば、人間の汚い部分はより顕著に見えていたのかもしれない。
「家族を考えてみよう。人間が一番最初に所属する集団は家族だからね。
かつての人間たちも、家族単位で生活しているところから徐々に拡大していっただろうから。」
「家族…。」
「俺は家族よりも仲間と過ごしていたから、仲間たちが家族みたいなもんかなぁ。良太君は?」
「僕は…、僕の家族は、普通の家族だと、思いますよ。」
「どんな家族なんだい?何人家族?」
「両親と、弟がいます。」
「良太君は2人兄弟のお兄さんなんだ。そんな感じするね。」
「そうですか?」
「うん。貧乏くじ引いてそうな感じしてたもん。」
「…どういう意味です?」
「兄弟の上ってさ、何だか理不尽な目に遭いやすいような気がしないかい?」
「…どうでしょう。」
「俺は何となくそう思うんだよねぇ。良太君の家では、そんなことはなかったのかな。」
理不尽な目、か。確かに、子供の頃は弟のために我慢させられることに苛立っていたけれど、そのくらいはどの家庭でもそうだろう。兄弟ってのは、兄ってのは、そんなもんなんだって。
「…弟は、僕と違って優秀ですから。そんな弟に、両親とも期待しているんですよ。」
「…どんなことろが優秀なの?弟さんは。」
「えっと、まず勉強が得意です。僕は苦手な教科があるのに、弟は何でもそつなくこなせるんです。」
「それから?」
「運動だって得意なんです。いわゆる文武両道ってやつですよ。大会なんかに出たら、毎回のように最優秀選手に選ばれちゃうような。いろんな運動部に入部してほしいって勧誘されてました。」
「それで?」
「それで、…それで、友達もたくさんいるんですよ。勉強会とか家でやったときなんて、何人も遊びに来てました。
教えるのも、きっとうまいんじゃないかなって。」
「良太君、君との関係はどうだったんだい?」
「ぼ、くとの…。」
僕と弟は、ありふれた兄弟だ。そう、世の中に何組といるような兄弟関係と変わらない。
少なくとも悪くはないと思う。でも、良いとも言えないような関係、とも思う。
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