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分かれ道
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「…ロイさん。この国のアイドルが、昔ある歌を歌っていたんです。」
ロイさんの動きがぴたりと止まる。
なぜか頭がかぼんやりして、話もまともに聞き取れないし、自分の考えもまとまらないはずなのに、なぜかロイさんがオールに手を伸ばしているのははっきりと目に入った。
なぜかそれが良くないことで、止めなければならないという気持ちが湧いてきた。理由は分からない。漠然とした感覚だった。
「…急に何の話だい?良太君。」
「ある歌って言うのは、こんな感じの内容なんです。
自分が行く先を他人に任せるな。お前がいなくなって良しとする奴なんかに任せるな、って…。」
「…。」
「有名なアイドルが歌っているんですよ。曲を提供された方も有名で…。名曲だと思います。機会があったら、ロイさんも聞いてみてください。」
「…何が言いたい。」
「…とりあえずは…。そのオールから手を引いてもらっていいですか、ロイさん。」
一体何の話をしようとしているのか、よく分からないときょとんとした表情をしているロイさんだったが、徐々に苦々しい顔へと変わってゆく。その表情の変化を見て、ああやっぱりか、となぜか妙に納得している自分がいる。
散々話していたじゃないか。僕と正面から向かい合ってくれる人なんかいない。そもそも人間は、そんなことをするような存在じゃないんだって。
「僕はね、ロイさん。ロイさんとここで話していて、人間っていうのはとても面倒で複雑でいるように見えて、実は単純な生き物なんだって改めて考えさせられたんです。
みんな自分のことが一番かわいくて、何か耳障りの良いことを言っていようが、結局は周りの人間を自分のために利用することしか考えていないものなんだって。
…もちろん、あなたもそうなんだろうなって。」
「…何を言っているんだい、良太君。オレがいつ君を利用しようなんて…。」
「今ですよ。今まさに。何のために利用するのかはわかりませんが、僕を乗せたままロイさんが漕ぎ始めるのは、僕が望む、僕が決めた道ではないです。」
「何が不満だって言うんだ!良太君、君はこのオールがずっと目の前にありながら、一度だって握ることはしなかったじゃないか。俺が代わりに漕ぐって言っているんだ。目的が一緒なんだったら、むしろ君にとって得な話なんじゃないのかい!?」
「それを判断するのは僕だ。その僕が、違うと言っているんです。あなたがやっていることは、僕を利用して何かをしようとしているに違いないんです。…僕を通して、何がしたいというんです?」
短い時間ではあるが、ロイさんが苦虫をかみつぶしたような表情で息を荒げ、こちらを睨みつけている様子は見たことがなかった。僕はそれを自分でも驚くほど冷静に見返していた。
ふぅふぅと荒い息を整え始めているロイさんの様子を見て、あぁ何か僕の言い分に思い当たる部分が本当にあったのだと、少し悲しくなってしまった。やはりロイさんは、僕を何らかの目的のために利用しようとしている。
「…あぁ、もういいか。もうどうだっていいや。あはは。」
「…何がです?」
「全部だよ。ぜーんぶ、どうだっていい。良太君、君の言うとおりだよ。俺はね、君を利用しようとしていた。大正解。せっかくだから、説明してあげるよ。」
ロイさんは息が整ったかと思うと、今度は笑い始めた。今までのような明るい笑顔ではなく、自らを嘲るような暗い笑みだった。
彼の思惑を知りたくないと言ってしまうと嘘になる。どこた得体の知れない恐ろしさを感じながらも、僕は静かにうなづき、彼の次の言葉を待った。
ロイさんの動きがぴたりと止まる。
なぜか頭がかぼんやりして、話もまともに聞き取れないし、自分の考えもまとまらないはずなのに、なぜかロイさんがオールに手を伸ばしているのははっきりと目に入った。
なぜかそれが良くないことで、止めなければならないという気持ちが湧いてきた。理由は分からない。漠然とした感覚だった。
「…急に何の話だい?良太君。」
「ある歌って言うのは、こんな感じの内容なんです。
自分が行く先を他人に任せるな。お前がいなくなって良しとする奴なんかに任せるな、って…。」
「…。」
「有名なアイドルが歌っているんですよ。曲を提供された方も有名で…。名曲だと思います。機会があったら、ロイさんも聞いてみてください。」
「…何が言いたい。」
「…とりあえずは…。そのオールから手を引いてもらっていいですか、ロイさん。」
一体何の話をしようとしているのか、よく分からないときょとんとした表情をしているロイさんだったが、徐々に苦々しい顔へと変わってゆく。その表情の変化を見て、ああやっぱりか、となぜか妙に納得している自分がいる。
散々話していたじゃないか。僕と正面から向かい合ってくれる人なんかいない。そもそも人間は、そんなことをするような存在じゃないんだって。
「僕はね、ロイさん。ロイさんとここで話していて、人間っていうのはとても面倒で複雑でいるように見えて、実は単純な生き物なんだって改めて考えさせられたんです。
みんな自分のことが一番かわいくて、何か耳障りの良いことを言っていようが、結局は周りの人間を自分のために利用することしか考えていないものなんだって。
…もちろん、あなたもそうなんだろうなって。」
「…何を言っているんだい、良太君。オレがいつ君を利用しようなんて…。」
「今ですよ。今まさに。何のために利用するのかはわかりませんが、僕を乗せたままロイさんが漕ぎ始めるのは、僕が望む、僕が決めた道ではないです。」
「何が不満だって言うんだ!良太君、君はこのオールがずっと目の前にありながら、一度だって握ることはしなかったじゃないか。俺が代わりに漕ぐって言っているんだ。目的が一緒なんだったら、むしろ君にとって得な話なんじゃないのかい!?」
「それを判断するのは僕だ。その僕が、違うと言っているんです。あなたがやっていることは、僕を利用して何かをしようとしているに違いないんです。…僕を通して、何がしたいというんです?」
短い時間ではあるが、ロイさんが苦虫をかみつぶしたような表情で息を荒げ、こちらを睨みつけている様子は見たことがなかった。僕はそれを自分でも驚くほど冷静に見返していた。
ふぅふぅと荒い息を整え始めているロイさんの様子を見て、あぁ何か僕の言い分に思い当たる部分が本当にあったのだと、少し悲しくなってしまった。やはりロイさんは、僕を何らかの目的のために利用しようとしている。
「…あぁ、もういいか。もうどうだっていいや。あはは。」
「…何がです?」
「全部だよ。ぜーんぶ、どうだっていい。良太君、君の言うとおりだよ。俺はね、君を利用しようとしていた。大正解。せっかくだから、説明してあげるよ。」
ロイさんは息が整ったかと思うと、今度は笑い始めた。今までのような明るい笑顔ではなく、自らを嘲るような暗い笑みだった。
彼の思惑を知りたくないと言ってしまうと嘘になる。どこた得体の知れない恐ろしさを感じながらも、僕は静かにうなづき、彼の次の言葉を待った。
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