されど服飾師の夢を見る

雪華

文字の大きさ
5 / 46

【2話】 my place

しおりを挟む
 暫く進むと鉄骨造りの二階建てアパートが見えてくる。築十五年にしては洒落た外観で、啓介はこの住まいを気に入っていた。2DKの間取りは、母親と二人暮らしには充分な広さだ。

 玄関のドアを開けると、部屋の奥からミシンの音が聞こえてきた。服を作るのが好きな母親は、縫製工場に勤めながらも休日にまで楽しそうに裁縫をしている。趣味が高じて自作の服をネットで販売しているが、評判は上々らしい。

「啓ちゃん、おかえりなさーい」

 ダイニングキッチンと隣り合った母親の部屋のドアは、いつも開けっ放しになっている。
 冷蔵庫から麦茶のボトルを取り出した啓介に気付き、母親は手元へ視線を落としたまま声を掛けた。型紙や裁断途中の布が広がった足の踏み場もない部屋に向かって、啓介は「ただいま」と返事をする。
 ミシンから顔を上げた母親は、啓介を見るなりギョッとした。

「やだ啓ちゃん、なにその血! 怪我したの?」
「あ」

 返り血で汚れていたことをすっかり忘れていた啓介が、気まずそうに顔を歪める。

「えーと、うん。へーき、へーき。これ僕の血じゃないし」
「えっ、じゃあ誰の血なの? なんで他人の血が啓ちゃんのシャツについてんの」
「ちょっと色々ありまして……喧嘩、みたいな?」

 色々詮索されたら面倒臭いなと思いながら、手にしたグラスから麦茶を口に含んだ。

「喧嘩って誰と。もしかしていじめられてるの? 学校に抗議の電話してあげようか」

 その言葉を聞いて、啓介は思わず口の中に入っていた麦茶をシンクに吹き出した。しばらく咳き込んた後、涙目で母親を睨む。

「ねぇ、絶対やめてよ、そんなこと。高二にもなって喧嘩に母親が出てくるとか、恥ずかし過ぎてムリ」
「高二とか関係ないでしょー。可愛い息子が血まみれのシャツ着て帰ってきたら、ビックリするじゃない」

 頬を膨らませる母親は、実年齢以上に幼く見える。
 もとより、十九歳で啓介を産んだ母親は実際にまだ若く、姉に間違われることも度々あった。啓介はやれやれと首を振りながら念を押す。

「とにかく、千鶴は余計なコト絶対にしないで」
「えーっ、本当に大丈夫なの? ヘンなことに巻き込まれてない?」
「巻き込まれてないし、これからはもっと気を付けるから大丈夫」

 心の中で「多分」と付け加えた。
 また絡まれることはあるかもしれないが、出来るだけ無視しよう。最悪喧嘩になったとしても、返り血にさえ気を付ければ問題ない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~

美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。 貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。 そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。 紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。 そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!? 突然始まった秘密のルームシェア。 日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。 初回公開・完結*2017.12.21(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.02.16 *表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...