40 / 46
conflict⑤
しおりを挟む
寂しいと素直に吐露した直人に対し、啓介も今の気持ちを包み隠さず打ち明ける。
「あのね、さっき『解かる』って言ったのは本心だよ。僕も似たようなもんなの、直人に対する感情。側にいてくれたら心強いし、僕も直人の支えになりたい。でも別に、直人と恋愛したいわけじゃないんだよね。矛盾してて上手く言えないんだけど、それでも直人に恋人ができて楽しそうにしてたら、僕は物凄く嫉妬すると思う。僕は縛られたくないし自由でいたいのに、直人には僕を一番にしてて欲しいの。僕ってズルイでしょ」
今までもやもやしていたものを声に出してカタチにしたら、なんだか随分楽になった。聞いている方の直人もポカンとしていたが、啓介の言葉の意味を徐々に理解したのか、むず痒そうに首筋を掻く。
「あぁ、うん。まあ、だいたい同じか。俺もお前も」
「そ。大体おんなじ」
脱力するように、二人で同時に大きく息を吐いた。すっかり天気は雨模様に変わり、雷鳴はいつの間にか遠ざかっている。
しばらく互いに無言で空を眺めていたが、沈黙が続いても気まずさは皆無だった。むしろ流れる時間が心地良いくらいで、肩が触れるか触れないか程の距離にいる直人の気配と静かな雨音を、啓介はこっそり胸に刻む。
いつか進む道の先で途方に暮れた時、今日の出来事は灯りとなって自分を温めてくれるような気がした。
「雨にも雪にもなれなくて、中途半端って言うけどさぁ」
唐突に直人が口を開く。どうやら先ほど啓介がこぼした言葉を、ずっと考え込んでいたらしい。照れ隠しなのか、直人はこちらを見ずに真っ直ぐ前を向いたままだった。
「雹ってレアで超良いじゃん。氷の塊のまんま地上に降りるぜ! って強い信念感じるし、何かカッコいいよ。あと、問答無用で攻撃的なところは確かにお前っぽい」
いつもより早口な上に独特な表現で、啓介は思わず吹き出してしまう。ケラケラ子どものように声を上げて笑いながら、啓介は首を傾げた。
「僕ってそんなに攻撃的かなぁ」
「敵認定したら容赦ないだろ。いつもふわふわしてっから、初めて喧嘩してるの見た時『ギャップすげぇ』ってびびったぞ」
「あはは。これからは、喧嘩売られても買わないようにしなきゃ。直人、ボディーガードよろしくね」
「おう。まかせとけ」
頼まれてすぐに答えを返した直人が胸を張る。それから視線をやや下げて、手の中にある湿って表紙が少し歪んだリューレントを見た。
「来月もこの雑誌に載るの?」
「それには載らないけど、ブレイバーって新しい雑誌の方では毎月出番があると思うよ」
「じゃあ毎月買おっかな、その雑誌。……ところで、他の奴にも話すのかよ、この仕事のこと」
「まさか。バレないためにメイクしてんだから、誰にも言わないよ。この先もずーっと。知ってるのは直人だけ」
「そっか」
嬉しさを隠しきれないというように、直人の口元が緩む。啓介は綺麗な弧を描く唇に人差し指を当て、「二人だけの秘密ね」と目を細めた。直人が息を呑み、片手で顔を覆う。
「お前、時々めちゃくちゃ可愛いよな」
「時々ぃ? いつも可愛いでしょ」
「いや、まぁ。なんつーか、たまに理性吹っ飛びそうであぶねーんだよ」
今日の直人はあけすけな上に饒舌だ。啓介が調子に乗って「ほうほう、それで?」と揶揄うように身を寄せたら、頭を掴まれ押し戻された。
「近いっつーの。お前との距離は今のままが一番いい気がするから、別にどうもしねえよ」
「ふーん、そっか。僕もまぁ、その意見には賛成だけど」
そうして再び二人並んで、弱まってきた雨を眺める。直人は雑誌を濡れないようにTシャツの中に潜り込ませ、服の上からそれを押さえた。
「んじゃ、帰るわ」
啓介が返事をするよりも先に階段の下から飛び出して、倒れた自転車を起す。ペダルに足をかけて漕ぎ出した瞬間、直人がこちらを振り返った。
「啓介、お前は中途半端なんかじゃねぇよ。俺、応援してっからな!」
それだけ言うと勢いよくペダルを踏み込んでスピードを上げた。啓介も雨の中へ駆け出し、離れていく背中に向かって叫ぶ。
「ありがとう!」
直人は振り返らなかったが、きっと聞こえただろう。
やっぱりこれは恋だったかもしれないなぁと思いつつ、この感情の正体は暴かないまま、胸の奥の箱に鍵をかけて大事に仕舞っておくことにした。
雲の切れ間から、スポットライトのような光が差している。
雨もじきに止むだろう。
虹でも出たら最高なのになと、啓介は空に向かって両手を伸ばした。
「あのね、さっき『解かる』って言ったのは本心だよ。僕も似たようなもんなの、直人に対する感情。側にいてくれたら心強いし、僕も直人の支えになりたい。でも別に、直人と恋愛したいわけじゃないんだよね。矛盾してて上手く言えないんだけど、それでも直人に恋人ができて楽しそうにしてたら、僕は物凄く嫉妬すると思う。僕は縛られたくないし自由でいたいのに、直人には僕を一番にしてて欲しいの。僕ってズルイでしょ」
今までもやもやしていたものを声に出してカタチにしたら、なんだか随分楽になった。聞いている方の直人もポカンとしていたが、啓介の言葉の意味を徐々に理解したのか、むず痒そうに首筋を掻く。
「あぁ、うん。まあ、だいたい同じか。俺もお前も」
「そ。大体おんなじ」
脱力するように、二人で同時に大きく息を吐いた。すっかり天気は雨模様に変わり、雷鳴はいつの間にか遠ざかっている。
しばらく互いに無言で空を眺めていたが、沈黙が続いても気まずさは皆無だった。むしろ流れる時間が心地良いくらいで、肩が触れるか触れないか程の距離にいる直人の気配と静かな雨音を、啓介はこっそり胸に刻む。
いつか進む道の先で途方に暮れた時、今日の出来事は灯りとなって自分を温めてくれるような気がした。
「雨にも雪にもなれなくて、中途半端って言うけどさぁ」
唐突に直人が口を開く。どうやら先ほど啓介がこぼした言葉を、ずっと考え込んでいたらしい。照れ隠しなのか、直人はこちらを見ずに真っ直ぐ前を向いたままだった。
「雹ってレアで超良いじゃん。氷の塊のまんま地上に降りるぜ! って強い信念感じるし、何かカッコいいよ。あと、問答無用で攻撃的なところは確かにお前っぽい」
いつもより早口な上に独特な表現で、啓介は思わず吹き出してしまう。ケラケラ子どものように声を上げて笑いながら、啓介は首を傾げた。
「僕ってそんなに攻撃的かなぁ」
「敵認定したら容赦ないだろ。いつもふわふわしてっから、初めて喧嘩してるの見た時『ギャップすげぇ』ってびびったぞ」
「あはは。これからは、喧嘩売られても買わないようにしなきゃ。直人、ボディーガードよろしくね」
「おう。まかせとけ」
頼まれてすぐに答えを返した直人が胸を張る。それから視線をやや下げて、手の中にある湿って表紙が少し歪んだリューレントを見た。
「来月もこの雑誌に載るの?」
「それには載らないけど、ブレイバーって新しい雑誌の方では毎月出番があると思うよ」
「じゃあ毎月買おっかな、その雑誌。……ところで、他の奴にも話すのかよ、この仕事のこと」
「まさか。バレないためにメイクしてんだから、誰にも言わないよ。この先もずーっと。知ってるのは直人だけ」
「そっか」
嬉しさを隠しきれないというように、直人の口元が緩む。啓介は綺麗な弧を描く唇に人差し指を当て、「二人だけの秘密ね」と目を細めた。直人が息を呑み、片手で顔を覆う。
「お前、時々めちゃくちゃ可愛いよな」
「時々ぃ? いつも可愛いでしょ」
「いや、まぁ。なんつーか、たまに理性吹っ飛びそうであぶねーんだよ」
今日の直人はあけすけな上に饒舌だ。啓介が調子に乗って「ほうほう、それで?」と揶揄うように身を寄せたら、頭を掴まれ押し戻された。
「近いっつーの。お前との距離は今のままが一番いい気がするから、別にどうもしねえよ」
「ふーん、そっか。僕もまぁ、その意見には賛成だけど」
そうして再び二人並んで、弱まってきた雨を眺める。直人は雑誌を濡れないようにTシャツの中に潜り込ませ、服の上からそれを押さえた。
「んじゃ、帰るわ」
啓介が返事をするよりも先に階段の下から飛び出して、倒れた自転車を起す。ペダルに足をかけて漕ぎ出した瞬間、直人がこちらを振り返った。
「啓介、お前は中途半端なんかじゃねぇよ。俺、応援してっからな!」
それだけ言うと勢いよくペダルを踏み込んでスピードを上げた。啓介も雨の中へ駆け出し、離れていく背中に向かって叫ぶ。
「ありがとう!」
直人は振り返らなかったが、きっと聞こえただろう。
やっぱりこれは恋だったかもしれないなぁと思いつつ、この感情の正体は暴かないまま、胸の奥の箱に鍵をかけて大事に仕舞っておくことにした。
雲の切れ間から、スポットライトのような光が差している。
雨もじきに止むだろう。
虹でも出たら最高なのになと、啓介は空に向かって両手を伸ばした。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる