過去を捨てた男・そして女

オガワ ミツル

文字の大きさ
9 / 9

第9話 テレビ・ドラマ化

しおりを挟む
 今、東京の或るスタジオではリハーサルが行われていた。
 その秋から始まるテレビドラマに向けた関係者による台本の読み合わせである。部屋にはテレビ局のプロデューサー、ディレクター、それと出演者達がいた。

 このドラマは毎週で、計七回ほどゴールデンタイムで放映される予定だった。その日の本読みでは脚本家も出席して見守っている。ドラマのタイトルは「栄光への道のり」というタイトルで、ベストセラー作家の北川綾乃の作品であり、彼女は初主役の慎吾をイメージして書いたともっぱらの噂である。

 その綾乃もこのリハーサルをスタジオの片隅で興味深げな顔をして見ていた。
 この作品は、スターを夢見る青年が下積みを経て一歩一歩その階段を登っていくという波瀾万丈に富んだストーリーで、まさに慎吾の生き方そのものだった。

 これで三度目の本読みに終わりかけたとき、慎吾は準主役級の上川拓也に言った。
「拓也君、今は本読みだけど、本番ではもう少し感情を込めてくれないかな」
「ええ、分かっていますよ、それくらい……」

 この二人はドラマでは、お互いに激しいライバル意識を持って展開するというバトルがある、二人の関係こそがこのドラマのハイライトでもあるのだ。しかし、慎吾と拓也の関係はドラマだけでは無いようである。

「でも、いくら本読みとは言っても、もう少し感情を込めてくれないと、俺の気分が乗ってこないんだよな」
「僕は、しっかりと台詞を頭と身体で覚えさせて、本番で全てを出し切るタイプなんでね、今はまだ本読みの段階なんですよね、慎吾さん」
「なにぃ!」

 珍しくいつも冷静な慎吾は感情を露わにした、思わず共演者達も驚いて二人を見つめる。これを見ていたディレクターが間に入った。

「まあまあ、そのくらいで……限られた時間でこうやって関係者が本読みをやっているんだ、いい加減にしてくれ、慎吾君もそのくらいで、まずはこの決められた時間内でいかに皆がスムーズに終わらせるかのテストなんだ、いいね」

「分かりました、すみませんでした、皆さん」

 慎吾にしては珍しく熱くなっていた。このドラマが慎吾が初めての主演となれば、気が入るのも分かるというものだ。周りの出演者もそれぞれの立場で二人を冷静に見ていた。慎吾の恋人役の蒼井なぎさはハラハラしながら見守っている。

 脇役のベテラン俳優の沢田啓次が手を叩いて言った。

「番組ではこういうバトルが大事なんですよ、今のドラマは馴れ合いのナアナアになっている、こういった熱い情熱がドラマ造りには大切なんだ、ガッツ! でいきましょう」 

 いつも飄々ひょうひょうとしている彼が言うと、その場が和む。
「はい、じゃあ、慎吾君、そこのくだりから行ってくれ」
「はい、ディレクター」

 再び本読みが始まり、六回ほどでようやくその日は終わった。原作者の綾乃はこれを見ていて、ほくそ笑んでいた。

(そうそう、こういう熱い意気込みこそ、この本が言いたい所なのよね、もっとガチンコでぶつかって、良い作品に仕上げてね、あなた達……)
 慎吾のファンである綾乃はご機嫌である。

 その後、音響、照明が入り本番さながらにカメラ・リハーサルが入念に行われた。 全ての環境が整えられて、撮影は本番を迎えた。慎吾は自分の集大成とばかりに撮影に臨み素晴らしい演技をした。もう一方の準主役級の上川拓也も、目を見張るような演技をしてディレクターを唸らせた。

 その後、そのドラマは夜のゴールデンタイムで第一回が放送され反響を呼んだが、皮肉にも主役の慎吾よりも、上川拓也を絶賛するファンも少なくなかった。放映されたその日にネット上では直ぐに噂が広がっていった。

「今度の(栄光の道のり)では慎吾よりも準主役級の上川拓也のほうが上手いね」
「そうそう拓也のほうが慎吾を食ってるじゃん」
「そうかな、俺は慎吾だと思うけど」
「そりゃ、慎吾ファンの綾乃姉さんの作品だし、慎吾の見せ場はこれからだよ」

「あたしもそう思う、来週が楽しみ」
「瞬間の視聴率がトップだってね」
「うん、凄い反響みたい」

 そのテレビドラマを、暗い部屋でじっと見つめている一人の女がいた。



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...