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第一章 私を陥れたのは誰?
ステータスオープン
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「ステータスオープン」
私は小声でお決まりの言葉を言った。恥ずかしい言葉だ。同級生の誰かに聞かれたら、バイト仲間に聞かれたら、羞恥のあまりに逃げ出したいぐらいの言葉だ。誓ってもいい。私はこういったものからは距離を置いて生きている。これはバイトのタスクなのだと自分に言い聞かせて割り切っている。
「聖女でありながら婚約破棄されてしまい、断罪されて処刑されたヴァイオレットお嬢様。ようやくここまで……」
魔導師のジーニンは私を優しい笑顔で見つめたかと思うと、そうつぶやいてポロポロと涙をこぼしておいおいと泣き出した。ヒューは彼の肩を軽く抱きしめて慰めている。31歳同士の慰め合いは奇妙で傍目には美しいとさえ言えるものかもしれない。レアな趣味を互いに尊ぶ同士の繋がりについて、私がとやかく言って良いものでもない。私は下世話な世の中から距離を置く美しいモノを見たと思うことにしている。ヒューは周りが振り返るほどの美男子だ。
ヒューは、ホリが深くて日本人の一般的な感覚で言うと美しいだろう。世界基準で見ても韓国アイドルですら遥かに凌ぐ美しさを持っているとは思う。
魔導師ジーニンはあっさりとした顔立ちの青年ながら、どこはかとなく精悍さが滲み出る風貌だ。つまり、魔導師ジーニン役になりきる彼は只者ではない感は出ている。ボロボロのシャツにジーンズと言う格好ながらだ。
彼らの本名を私は知らない。バイト先のファーストフード店で夜遅くテーブルを拭いている時に「異世界転生バイト役を募集している」と声をかけられて、最初は何かの詐欺かと思った。しかし、彼らの真剣な表情と、iPadで転生設定を説明されて、私はどこか心惹かれてやることにした。1日につき10時間から12時間ぐらい彼らに付き合い、1ヶ月で43万円になる計算に心惹かれた。学費の納付のためだ。家賃と生活費でファーストフード店のバイト代は綺麗に消えた。足りないぐらいだった。それに断罪されたお金持ちのお嬢様というのはありがちな設定で、いかにもに思えたのだ。そういうのなら知っているという感覚だろうか。
私の目の前でおいおいと泣く魔導師ジーニンを慰めるヒューは私を慈しむような瞳で時折見つめた。
そんな最高に素敵な二人を前に、無心でラーメンと餃子を食べる私に周りの人々は時々訝しげな視線を送っている。
そうだ。ボロボロのシャツにジーンズの男性が魔導師ジーニンだ。魔導師ジーニンは先ほどの「ステータスオープン」の私の言葉を聞いて深く頷き、私の頭より少し上の部分を見つめて満足げな表情を浮かべたのだ。彼は少し茶色の瞳を輝かせて私の頭上をひとしきり見つめて微笑んだかと思うと、泣き崩れたという次第だ。
タキシード姿の男性が私の元婚約者というヒューだ。ヒューもやはり私の頭上より少し上の部分(多分、そこには何もない。フードコートの天井と私の頭上の間の何もない空間)を見ていた。
このショッピングモールのフードコートは、大学に近いのでたまに利用する。私は時給1200円の契約の中に含まれていることをタスクとして消化しているだけだが、今日の二人の反応はいつにも増して特異なものだった。
何もないはずの宙を見て、感動に唇をワナワナ震わせて大の大人が泣くのは実に奇妙だ。
私の目の前にはラーメンと餃子のセットがあった。早朝からのファーストフードのシフトをこなしてくたくただった。ただですら眠いところにこの量を食べたら午後の講義は眠くなりそうだが、あいにく朝からほぼ何も食べていないので私はひどく空腹だ。20歳の私は食欲旺盛だった。
ジーニンとヒューの前にもそれぞれ餃子とご飯がある。先ほど慣れた様子で自分たちで注文していた。
――私の食事もおごってくれたら嬉しかったのに。
今の私の状態は、平日の昼下がりのショッピングモールのフードコートのテーブル席で、ボロボロのシャツにジーンズの男性とタキシード姿の男性二人と、餃子定食を囲んでいる状態だ。特筆すべきなのは、泣き止み落ち着きを取り戻した二人の男性が目を輝かせて私をうっとりと見つめている点だろう。ため息をついてラーメンを食べている私の少し頭の上ぐらいを二人で時折見つめて、二人の男性は意味深にうなずきあっている。
――何が起きているのかまでは知る必要がないかもしれないけれど、この二人、本当に入り込んでいるわ。
つい先程フェラーリを降りて、大学近くのフードコートにやって来た。餃子とラーメンを注文して私が待っていると、いつもの二人がやってきて、私のテーブルに一緒に座った。そこで私は早速タスク消化を始めたというわけだ。
「婚約破棄されて、断罪されて、処刑されたヴァイオレットお嬢様。ようやくここまで……あんな無惨な死を迎えたのにようやくここまで……」
魔導師のジーニンは同じセリフを言ってまた涙ぐんだ。
内心、私はうんざりしている。聞き飽きた。この2ヶ月同じ設定を生きていて、彼らに私は同じセリフを言われ続けている。だが、バイト代は信じがたいほど魅力的なのだ。ファーストフード店以外の他のバイトは辞めて退路を断った。私は迫る学費の納付期限に、異世界転生バイトを全うして応じるしかない。
さっきフェラーリの運転手はショッピングモールの地下駐車場に私を送り届けると声を震わせて謝ってきた。彼の名前はサミュエルだ。
「ヴァイオレットお嬢様。ガラスの馬車で迎えに来れなくて大変申し訳ございませんっ!」
「…………まあいいわ。この馬車も快適だから」
私のことを貧乏人だと馬鹿にする人がいないわけではない。前やっていたバイト先の先輩は私の顔をみかんに例えていじめた。果物のみかんだ。「綺麗すぎて腹が立つから、何か笑っている顔がみかんっぽい」という訳のわからない理由でいじめられた。その先輩は、今の私の状態を見たらなんと言うだろうか。
私はバイトの役を全うするために尊大にうなずいて見せて、サミュエルと別れてショッピングモールの駐車場からフードコートまで上がってきたのだ。
異世界転生バイトとは、こういう不思議な人たちに話を合わせるバイトだ。このラーメンと餃子の時間もバイト時間として換算されているから気は抜けない。
聖女ヴァイオレットとは、一体どれだけ徳を積んだらこれほど慕われるのか、本人に一度聞いてみたいものだ。私に言わせれば、このお嬢様は鍛錬が足りなくて弱いのではないか。そんなに数百レベルのスキルを持ちながら罠に嵌められて処刑されたとは、スキルレベルが高いと言う割に弱すぎではないか。残された人の悲しみを考えよ、と言いたい。
ことごとく残念な人というのが、この聖女で公爵令嬢に対する私の率直な見解だ。
私の名前は三笠富子、20歳。バイト中の名前はヴァイオレット・ジョージアナ・エリザベス・バルドン。ヴァイオレットはバルドン公爵の長女らしいが、策に陥れられて冤罪で18歳で処刑された。聖女だ。転生してニホンの三笠富子20歳になった、らしい。
「ヴァイオレットお嬢様。今月の領地の収支報告です」
ボロボロのシャツを着た男性のジーニンから奇妙な文字が羅列された羊皮紙を渡されて、私はうなずいた。羊皮紙を準備する本気度に敬意を払いたい。この本気度はすごいと心の中で思う。
「葡萄の収穫が順調ですね。領地の皆に励むように伝えてね」
私は頭に浮かんだ言葉を適当に言う。ヴァイオレット公爵令嬢の設定は死守だ。
「ありがとうございます。公爵家の領地の皆がヴァイオレットお嬢様のご無事を喜んでおります」
「そう。ありがとう」
私は膝に置いた古いスマホの画面を確認して時間を確認する。そろそろ…………。
7年前に買ってバッテリーがダメになってしまった古びたスマホは、早く食べ終わって大学に行かないと講義に遅れることを示していた。
この世にはとにかく異世界転生に激しく逝ってしまった奇妙な人たちがいる。私には理解できない。
ショッピングモールはうちの大学の近くなので、私は声を顰めてあくまでさりげなさを装っている。この前は山手線の車両の中で「ステータスオープン」を言う羽目になった。四五十代のおじさんたちが目を輝かせて私を見るものだから、私は車両でひたすら項を垂れた。恥ずかしかった。
「今夜、君を食事にお誘いしたいのだけれど、良いだろうか?」
突然、ヒューのささやくような声がして私はハッと目をあげた。彼の目がキラキラと輝いて見えるのは、気のせいだろうか。これも演技なのだろうか。そうだとしたら彼は俳優になった方が良い。美貌に加えてこの演技力、世界を股にして活躍できるかもしれない。
「いいわ」
――授業料を稼ぐのだから、こちらもウェルカムよ。
彼が手を差し出した。思わず私は彼に差し出していた。まるで貴族の公爵令嬢のようなさりげなさで。彼の唇がそっと私の手に触れそうになり、私はハッとして思わず手を引っ込めた。
私の心臓がドキドキしているのはなんだろう。体が少し熱い。本当にありきたりの展開過ぎて嫌だ。私が恋するとか陳腐過ぎて無いから!と自分に言い聞かせる。
ヒューは照れたように頬をうっすらと染めて私を見つめている。彼の髪の毛は栗色というのだろうか黒ではない。彼の髪の毛と私を見つめる瞳がなぜか素晴らしいオーラに包まれているように見えて、ここがショッピングモールのフードコートだというのを一瞬忘れた。そのことは私を妙な心地にさせた。
目をしばたいた。
灰色の大地と灰色の空が果てしなく地平線まで続く景色が私の目の前に現れたように思った。ただ、それは一瞬のことで、すぐにいつものショッピングモールのただのフードコートのテーブル席に戻った。
『レキュール辺境伯領』
――今の何だろう。とっさにレキュール辺境伯爵領という単語が頭に浮かんだ。
『ラスボスが動き出す』
誰かの声が聞こえた。
ジーニンかヒューのスマホから、異世界転生バイトの演出で声が聞こえたのだろう。その時私はそう思ってあまり深く考えなかった。
――ラスボスとは誰?
きっとラスボスは、聖女を死に至らしめた犯人のことだ。
私は小声でお決まりの言葉を言った。恥ずかしい言葉だ。同級生の誰かに聞かれたら、バイト仲間に聞かれたら、羞恥のあまりに逃げ出したいぐらいの言葉だ。誓ってもいい。私はこういったものからは距離を置いて生きている。これはバイトのタスクなのだと自分に言い聞かせて割り切っている。
「聖女でありながら婚約破棄されてしまい、断罪されて処刑されたヴァイオレットお嬢様。ようやくここまで……」
魔導師のジーニンは私を優しい笑顔で見つめたかと思うと、そうつぶやいてポロポロと涙をこぼしておいおいと泣き出した。ヒューは彼の肩を軽く抱きしめて慰めている。31歳同士の慰め合いは奇妙で傍目には美しいとさえ言えるものかもしれない。レアな趣味を互いに尊ぶ同士の繋がりについて、私がとやかく言って良いものでもない。私は下世話な世の中から距離を置く美しいモノを見たと思うことにしている。ヒューは周りが振り返るほどの美男子だ。
ヒューは、ホリが深くて日本人の一般的な感覚で言うと美しいだろう。世界基準で見ても韓国アイドルですら遥かに凌ぐ美しさを持っているとは思う。
魔導師ジーニンはあっさりとした顔立ちの青年ながら、どこはかとなく精悍さが滲み出る風貌だ。つまり、魔導師ジーニン役になりきる彼は只者ではない感は出ている。ボロボロのシャツにジーンズと言う格好ながらだ。
彼らの本名を私は知らない。バイト先のファーストフード店で夜遅くテーブルを拭いている時に「異世界転生バイト役を募集している」と声をかけられて、最初は何かの詐欺かと思った。しかし、彼らの真剣な表情と、iPadで転生設定を説明されて、私はどこか心惹かれてやることにした。1日につき10時間から12時間ぐらい彼らに付き合い、1ヶ月で43万円になる計算に心惹かれた。学費の納付のためだ。家賃と生活費でファーストフード店のバイト代は綺麗に消えた。足りないぐらいだった。それに断罪されたお金持ちのお嬢様というのはありがちな設定で、いかにもに思えたのだ。そういうのなら知っているという感覚だろうか。
私の目の前でおいおいと泣く魔導師ジーニンを慰めるヒューは私を慈しむような瞳で時折見つめた。
そんな最高に素敵な二人を前に、無心でラーメンと餃子を食べる私に周りの人々は時々訝しげな視線を送っている。
そうだ。ボロボロのシャツにジーンズの男性が魔導師ジーニンだ。魔導師ジーニンは先ほどの「ステータスオープン」の私の言葉を聞いて深く頷き、私の頭より少し上の部分を見つめて満足げな表情を浮かべたのだ。彼は少し茶色の瞳を輝かせて私の頭上をひとしきり見つめて微笑んだかと思うと、泣き崩れたという次第だ。
タキシード姿の男性が私の元婚約者というヒューだ。ヒューもやはり私の頭上より少し上の部分(多分、そこには何もない。フードコートの天井と私の頭上の間の何もない空間)を見ていた。
このショッピングモールのフードコートは、大学に近いのでたまに利用する。私は時給1200円の契約の中に含まれていることをタスクとして消化しているだけだが、今日の二人の反応はいつにも増して特異なものだった。
何もないはずの宙を見て、感動に唇をワナワナ震わせて大の大人が泣くのは実に奇妙だ。
私の目の前にはラーメンと餃子のセットがあった。早朝からのファーストフードのシフトをこなしてくたくただった。ただですら眠いところにこの量を食べたら午後の講義は眠くなりそうだが、あいにく朝からほぼ何も食べていないので私はひどく空腹だ。20歳の私は食欲旺盛だった。
ジーニンとヒューの前にもそれぞれ餃子とご飯がある。先ほど慣れた様子で自分たちで注文していた。
――私の食事もおごってくれたら嬉しかったのに。
今の私の状態は、平日の昼下がりのショッピングモールのフードコートのテーブル席で、ボロボロのシャツにジーンズの男性とタキシード姿の男性二人と、餃子定食を囲んでいる状態だ。特筆すべきなのは、泣き止み落ち着きを取り戻した二人の男性が目を輝かせて私をうっとりと見つめている点だろう。ため息をついてラーメンを食べている私の少し頭の上ぐらいを二人で時折見つめて、二人の男性は意味深にうなずきあっている。
――何が起きているのかまでは知る必要がないかもしれないけれど、この二人、本当に入り込んでいるわ。
つい先程フェラーリを降りて、大学近くのフードコートにやって来た。餃子とラーメンを注文して私が待っていると、いつもの二人がやってきて、私のテーブルに一緒に座った。そこで私は早速タスク消化を始めたというわけだ。
「婚約破棄されて、断罪されて、処刑されたヴァイオレットお嬢様。ようやくここまで……あんな無惨な死を迎えたのにようやくここまで……」
魔導師のジーニンは同じセリフを言ってまた涙ぐんだ。
内心、私はうんざりしている。聞き飽きた。この2ヶ月同じ設定を生きていて、彼らに私は同じセリフを言われ続けている。だが、バイト代は信じがたいほど魅力的なのだ。ファーストフード店以外の他のバイトは辞めて退路を断った。私は迫る学費の納付期限に、異世界転生バイトを全うして応じるしかない。
さっきフェラーリの運転手はショッピングモールの地下駐車場に私を送り届けると声を震わせて謝ってきた。彼の名前はサミュエルだ。
「ヴァイオレットお嬢様。ガラスの馬車で迎えに来れなくて大変申し訳ございませんっ!」
「…………まあいいわ。この馬車も快適だから」
私のことを貧乏人だと馬鹿にする人がいないわけではない。前やっていたバイト先の先輩は私の顔をみかんに例えていじめた。果物のみかんだ。「綺麗すぎて腹が立つから、何か笑っている顔がみかんっぽい」という訳のわからない理由でいじめられた。その先輩は、今の私の状態を見たらなんと言うだろうか。
私はバイトの役を全うするために尊大にうなずいて見せて、サミュエルと別れてショッピングモールの駐車場からフードコートまで上がってきたのだ。
異世界転生バイトとは、こういう不思議な人たちに話を合わせるバイトだ。このラーメンと餃子の時間もバイト時間として換算されているから気は抜けない。
聖女ヴァイオレットとは、一体どれだけ徳を積んだらこれほど慕われるのか、本人に一度聞いてみたいものだ。私に言わせれば、このお嬢様は鍛錬が足りなくて弱いのではないか。そんなに数百レベルのスキルを持ちながら罠に嵌められて処刑されたとは、スキルレベルが高いと言う割に弱すぎではないか。残された人の悲しみを考えよ、と言いたい。
ことごとく残念な人というのが、この聖女で公爵令嬢に対する私の率直な見解だ。
私の名前は三笠富子、20歳。バイト中の名前はヴァイオレット・ジョージアナ・エリザベス・バルドン。ヴァイオレットはバルドン公爵の長女らしいが、策に陥れられて冤罪で18歳で処刑された。聖女だ。転生してニホンの三笠富子20歳になった、らしい。
「ヴァイオレットお嬢様。今月の領地の収支報告です」
ボロボロのシャツを着た男性のジーニンから奇妙な文字が羅列された羊皮紙を渡されて、私はうなずいた。羊皮紙を準備する本気度に敬意を払いたい。この本気度はすごいと心の中で思う。
「葡萄の収穫が順調ですね。領地の皆に励むように伝えてね」
私は頭に浮かんだ言葉を適当に言う。ヴァイオレット公爵令嬢の設定は死守だ。
「ありがとうございます。公爵家の領地の皆がヴァイオレットお嬢様のご無事を喜んでおります」
「そう。ありがとう」
私は膝に置いた古いスマホの画面を確認して時間を確認する。そろそろ…………。
7年前に買ってバッテリーがダメになってしまった古びたスマホは、早く食べ終わって大学に行かないと講義に遅れることを示していた。
この世にはとにかく異世界転生に激しく逝ってしまった奇妙な人たちがいる。私には理解できない。
ショッピングモールはうちの大学の近くなので、私は声を顰めてあくまでさりげなさを装っている。この前は山手線の車両の中で「ステータスオープン」を言う羽目になった。四五十代のおじさんたちが目を輝かせて私を見るものだから、私は車両でひたすら項を垂れた。恥ずかしかった。
「今夜、君を食事にお誘いしたいのだけれど、良いだろうか?」
突然、ヒューのささやくような声がして私はハッと目をあげた。彼の目がキラキラと輝いて見えるのは、気のせいだろうか。これも演技なのだろうか。そうだとしたら彼は俳優になった方が良い。美貌に加えてこの演技力、世界を股にして活躍できるかもしれない。
「いいわ」
――授業料を稼ぐのだから、こちらもウェルカムよ。
彼が手を差し出した。思わず私は彼に差し出していた。まるで貴族の公爵令嬢のようなさりげなさで。彼の唇がそっと私の手に触れそうになり、私はハッとして思わず手を引っ込めた。
私の心臓がドキドキしているのはなんだろう。体が少し熱い。本当にありきたりの展開過ぎて嫌だ。私が恋するとか陳腐過ぎて無いから!と自分に言い聞かせる。
ヒューは照れたように頬をうっすらと染めて私を見つめている。彼の髪の毛は栗色というのだろうか黒ではない。彼の髪の毛と私を見つめる瞳がなぜか素晴らしいオーラに包まれているように見えて、ここがショッピングモールのフードコートだというのを一瞬忘れた。そのことは私を妙な心地にさせた。
目をしばたいた。
灰色の大地と灰色の空が果てしなく地平線まで続く景色が私の目の前に現れたように思った。ただ、それは一瞬のことで、すぐにいつものショッピングモールのただのフードコートのテーブル席に戻った。
『レキュール辺境伯領』
――今の何だろう。とっさにレキュール辺境伯爵領という単語が頭に浮かんだ。
『ラスボスが動き出す』
誰かの声が聞こえた。
ジーニンかヒューのスマホから、異世界転生バイトの演出で声が聞こえたのだろう。その時私はそう思ってあまり深く考えなかった。
――ラスボスとは誰?
きっとラスボスは、聖女を死に至らしめた犯人のことだ。
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