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第二章 恋(もうあなたに騙されません)
スパイ 王妃Side(1)
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1867年7月2日、エイトレンスの王妃は王立魔術博物館の50周年記念祝賀祭の祝辞を述べにやってくる。
*********
私は王立魔術博物館の50周年記念祝賀会に来ていた。もちろん、心に思うところがあってやってきたのだ。祝辞を述べようと決めたのは直前なので、理事長のブレンジャー子爵にしか私が来ることは教えていない。
ブレンンジャー子爵の情報管理のずさんさは目にあまると思っていたのでちょうどいい。
あの隠れてこそこそアルベルトと付き合っていた侍女のテスを密かに私の管理下に置いているが、彼女には王立魔術博物館のチケット売り場の仕事を与えた。テス自身は私の管理下に置かれていることは知らないことだ。ついでに、ブレンジャー子爵令嬢のエミリーとまとめて私の管理下に置いている。
テスが勤める職場がエミリーの父親であるブレンジャー子爵が理事を務める王立魔術博物館なので、私の管理範囲が狭くできて一石二鳥だ。
彼女たちは私に見張られていることを知らない。
――そんなことは今どうでもいいわ。問題は、アルベルトが闇の禁書を盗んだのかどうかよ。
しかし、ここまでやってきた私の心配は、どうやら杞憂だったようだ。
私の想像は最悪のケースを想定し過ぎたようだ。
想像では、アルベルトが王立魔術博物館のチケット売り場にいる元侍女のテスに頼み込んで、闇の禁書を不正に入手したのかと思ったのだ。だが、今日のテスの様子では、アルベルトは王立魔術博物館に足を踏み入れていなそうだ。
――やはり、私の息子のアルベルト王太子は、闇の禁書を盗んではいないわ。禁書紛失事件に関わっていない方が濃厚だわ。よかった。そこだけはまともな息子のようだわ……。
――まぁそうよね。本気で惚れた相手ならば、あの子なら魔力に頼らず自分の魅力で振り向かせようと必死になると思うわ。自分の魅力を知り尽くしているでしょうから。氷の貴公子も伊達ではないわ。あの子はきっと自力で惚れた女性の愛を必死に得ようともがくはず……。
となるとだ。
一体誰が犯人か?
そう思って旅の曲芸団のテントの中を歩いていた時、突然、今世界中で話題になっているザックリードハルトのロクセンハンナ兄妹が登場したのだ。かの有名な魔法の長椅子に乗ってだ。
皇太子であるルイ・ロクセンハンナの姿は見当たらなかった。その妹と弟と見られる子供達が長椅子に乗って風を切って飛行していた。
私はピン!と来た。
私の可愛い嫁になるはずだったディアーナは、ザックリードハルトの輝くような若くてハンサムな皇太子の花嫁に取られそうになっている。
あの怪物のように大きなザックリードハルトの未来の皇后になる花嫁にだ。
父親が処刑されたザックリードハルトの現皇帝は、あれほど強烈な魔力がある花嫁を息子の花嫁に迎えることができるとあらば、全てを投げ打ってでも、熱烈に欲しがるはずだ。
親子揃ってディアーナにゾッコンになったはず。
そのディアーナは、私によって灼熱のゴビンタン砂漠に追放されていた。彼女の砂漠の家の座標と、盗まれた闇の禁書の所在座標が一致していたのが5日前。
ディアーナを取り戻そうと追いかけて行った息子のアルベルトも、きっと砂漠の家にいるに違いないと言って、もう一人の私の息子フェリクスが寝台列車でディアーナの砂漠の家に向かったのが5日前。
禁書を追ったエイトレンスの軍は、そろそらゴビンタン砂漠に着いたころではないだろうか。
そのタイミングで、盗まれた禁書を所管していた王立魔術博物館に姿を現したのが、ディアーナを射止めようとしている若き皇太子の妹と弟だ。
――誰が犯人か分かったわ。私を甘く見ないで。誤魔化せると思ったら大間違いよ。
あの新聞の第一面を飾っていた女の子だ。8代ぶりに出現した魔法の長椅子を乗りこなす『ブルクトゥアタ』である妹が、私の目の前を長椅子に乗って飛行している。ザックリードハルトのロクセンハンナ家の末裔は3兄弟とも魔法の長椅子を乗りこなすのかもしれない。金髪碧眼の男の子と、新聞に載っていた11歳のブルネットの髪にブラウンの瞳の女の子が長椅子に乗って人々の注目を集めている。
さて。なぜ、彼らはこうも敢えて華々しく、わざとらしく人々の注目を集めようとしているのか?
――もう一人の『ブルクトゥアタ』が博物館に忍び込むのを、自分たちに注目を集めることで成功させようとしているのでは?
――つまり、うちの息子のアルベルトが恋焦がれるディアーナをかすめ取ろうとしている皇太子のルイが、ここにいるということだわ!闇の禁書を返しに来たのかもしれない!
私は人々がブラスバンドの演奏と広場上空を滑空する長椅子に夢中になっている隙に、王立魔術博物館に急いだ。
――きっと、ルイ皇太子がいるはずだわ!
私は王立魔術博物館に急いで入った。慌てて飛び出してきたブレンジャー子爵と鉢合わせになった。
「お……お……王妃様っ!急に祝辞をいただけることになりまして、こんな名誉なことはございませんっ!急いでお迎えに参ろうとしていたところでございますっ!」
「ブレンジャー子爵、話は後で。それより、鍵を全てよこしなさい。そのあなたが腰につけているジャラジャラ音を出している鍵よ。そして、しばらく私が合図をするまでは、この館内に誰も入れてはダメよ。いいかしら?あなた、情報管理が甘すぎるわ。機密情報を娘のエミリーにバラしたでしょう?抜き打ちでこの館内をわたくしがこれからチェックしますわ」
私は情報管理が甘い点をついて、相手がさらに動揺して真っ青になる様をじっと見つめた。ブレンジャー子爵は慌てて腰にぶら下げた鍵を私に恭しく捧げてきた。
「はい、いただきましたわ。よいこと?私が合図をするまでは誰も入れてはだめよ。私の付き人もだめよ。あなたはここで見張っていてくださるかしら?」
「はい、王妃様、かしこまりました」
私は付き人たちが少年少女が宙返りしそうな勢いで、広場上空を飛び回っている長椅子に夢中なことを尻目にさっさと博物館内に入った。
果たして、本当に、ほぼ無人になった王立魔術博物館のロビーを輝くようなブロンドの髪に碧い目の若い男性が歩いているのを目撃したのだ。
「ルイ皇太子!」
私は慌てて追いかけて、後ろからそっと声をかけた。声を密かめて囁くように。
ハッとしてこちらを振り返ったルイ皇太子は胸を打つようなハンサムな若者だった。
――これはこれは。アルベルト、あなたに勝ち目は無いわ。ルイは本当にゴージャス過ぎる若者だわ。
「もしかして、もしかしてなのですが……アルベルト王太子のお母様でいらっしゃいますか?よく似ていらっしゃるので……」
ルイ皇太子は碧い瞳で私のことを驚いたように見つめた。
「そうですわ。初めまして。息子にお会いしました?」
ルイ皇太子は破壊的な魅力を持つ笑顔を一瞬にして浮かべた。
――おっと。年上の私ですら、くらっとくる魅力をお持ちのようで……。
「会いましたよ!彼は無事に砂漠のアリス・スペンサー邸宅にいますよ。フェリクス殿下も我々を助けるために大量の食料を持ってきてくれました。軍の襲来を教えてくださり、本当に助かりました。ありがとうございました。王妃様のおかげです!間一髪で我々は避けることができました。みな、無事です」
最後の方は小さな声で囁くように私に話してくれた。私はアルベルトもフェリクスも無事で、お礼まで言われて、軍も避けられたと聞いて。一瞬でルイ皇太子に全面降伏した。
「まぁ、それは良かったわ!」
彼は小さな包みを胸に隠している。
「あなた、それを返しにいらしたのでしょう?理由は聞かないわ。私はあなたを助けられますわ」
私はイタズラっぽい笑みを浮かべて、右手に持つ鍵をジャラジャラ揺らした。
「えっ!この博物館の鍵ですか?最高ですよ、王妃さま!」
ルイ皇太子は私に飛び付かんばかりに喜んだ。
――この若者は悪い子ではないわ。素直で良い子だわ。見た目も素晴らしいけれど、性格もきっと人を裏切らないわ。
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ブレンンジャー子爵の情報管理のずさんさは目にあまると思っていたのでちょうどいい。
あの隠れてこそこそアルベルトと付き合っていた侍女のテスを密かに私の管理下に置いているが、彼女には王立魔術博物館のチケット売り場の仕事を与えた。テス自身は私の管理下に置かれていることは知らないことだ。ついでに、ブレンジャー子爵令嬢のエミリーとまとめて私の管理下に置いている。
テスが勤める職場がエミリーの父親であるブレンジャー子爵が理事を務める王立魔術博物館なので、私の管理範囲が狭くできて一石二鳥だ。
彼女たちは私に見張られていることを知らない。
――そんなことは今どうでもいいわ。問題は、アルベルトが闇の禁書を盗んだのかどうかよ。
しかし、ここまでやってきた私の心配は、どうやら杞憂だったようだ。
私の想像は最悪のケースを想定し過ぎたようだ。
想像では、アルベルトが王立魔術博物館のチケット売り場にいる元侍女のテスに頼み込んで、闇の禁書を不正に入手したのかと思ったのだ。だが、今日のテスの様子では、アルベルトは王立魔術博物館に足を踏み入れていなそうだ。
――やはり、私の息子のアルベルト王太子は、闇の禁書を盗んではいないわ。禁書紛失事件に関わっていない方が濃厚だわ。よかった。そこだけはまともな息子のようだわ……。
――まぁそうよね。本気で惚れた相手ならば、あの子なら魔力に頼らず自分の魅力で振り向かせようと必死になると思うわ。自分の魅力を知り尽くしているでしょうから。氷の貴公子も伊達ではないわ。あの子はきっと自力で惚れた女性の愛を必死に得ようともがくはず……。
となるとだ。
一体誰が犯人か?
そう思って旅の曲芸団のテントの中を歩いていた時、突然、今世界中で話題になっているザックリードハルトのロクセンハンナ兄妹が登場したのだ。かの有名な魔法の長椅子に乗ってだ。
皇太子であるルイ・ロクセンハンナの姿は見当たらなかった。その妹と弟と見られる子供達が長椅子に乗って風を切って飛行していた。
私はピン!と来た。
私の可愛い嫁になるはずだったディアーナは、ザックリードハルトの輝くような若くてハンサムな皇太子の花嫁に取られそうになっている。
あの怪物のように大きなザックリードハルトの未来の皇后になる花嫁にだ。
父親が処刑されたザックリードハルトの現皇帝は、あれほど強烈な魔力がある花嫁を息子の花嫁に迎えることができるとあらば、全てを投げ打ってでも、熱烈に欲しがるはずだ。
親子揃ってディアーナにゾッコンになったはず。
そのディアーナは、私によって灼熱のゴビンタン砂漠に追放されていた。彼女の砂漠の家の座標と、盗まれた闇の禁書の所在座標が一致していたのが5日前。
ディアーナを取り戻そうと追いかけて行った息子のアルベルトも、きっと砂漠の家にいるに違いないと言って、もう一人の私の息子フェリクスが寝台列車でディアーナの砂漠の家に向かったのが5日前。
禁書を追ったエイトレンスの軍は、そろそらゴビンタン砂漠に着いたころではないだろうか。
そのタイミングで、盗まれた禁書を所管していた王立魔術博物館に姿を現したのが、ディアーナを射止めようとしている若き皇太子の妹と弟だ。
――誰が犯人か分かったわ。私を甘く見ないで。誤魔化せると思ったら大間違いよ。
あの新聞の第一面を飾っていた女の子だ。8代ぶりに出現した魔法の長椅子を乗りこなす『ブルクトゥアタ』である妹が、私の目の前を長椅子に乗って飛行している。ザックリードハルトのロクセンハンナ家の末裔は3兄弟とも魔法の長椅子を乗りこなすのかもしれない。金髪碧眼の男の子と、新聞に載っていた11歳のブルネットの髪にブラウンの瞳の女の子が長椅子に乗って人々の注目を集めている。
さて。なぜ、彼らはこうも敢えて華々しく、わざとらしく人々の注目を集めようとしているのか?
――もう一人の『ブルクトゥアタ』が博物館に忍び込むのを、自分たちに注目を集めることで成功させようとしているのでは?
――つまり、うちの息子のアルベルトが恋焦がれるディアーナをかすめ取ろうとしている皇太子のルイが、ここにいるということだわ!闇の禁書を返しに来たのかもしれない!
私は人々がブラスバンドの演奏と広場上空を滑空する長椅子に夢中になっている隙に、王立魔術博物館に急いだ。
――きっと、ルイ皇太子がいるはずだわ!
私は王立魔術博物館に急いで入った。慌てて飛び出してきたブレンジャー子爵と鉢合わせになった。
「お……お……王妃様っ!急に祝辞をいただけることになりまして、こんな名誉なことはございませんっ!急いでお迎えに参ろうとしていたところでございますっ!」
「ブレンジャー子爵、話は後で。それより、鍵を全てよこしなさい。そのあなたが腰につけているジャラジャラ音を出している鍵よ。そして、しばらく私が合図をするまでは、この館内に誰も入れてはダメよ。いいかしら?あなた、情報管理が甘すぎるわ。機密情報を娘のエミリーにバラしたでしょう?抜き打ちでこの館内をわたくしがこれからチェックしますわ」
私は情報管理が甘い点をついて、相手がさらに動揺して真っ青になる様をじっと見つめた。ブレンジャー子爵は慌てて腰にぶら下げた鍵を私に恭しく捧げてきた。
「はい、いただきましたわ。よいこと?私が合図をするまでは誰も入れてはだめよ。私の付き人もだめよ。あなたはここで見張っていてくださるかしら?」
「はい、王妃様、かしこまりました」
私は付き人たちが少年少女が宙返りしそうな勢いで、広場上空を飛び回っている長椅子に夢中なことを尻目にさっさと博物館内に入った。
果たして、本当に、ほぼ無人になった王立魔術博物館のロビーを輝くようなブロンドの髪に碧い目の若い男性が歩いているのを目撃したのだ。
「ルイ皇太子!」
私は慌てて追いかけて、後ろからそっと声をかけた。声を密かめて囁くように。
ハッとしてこちらを振り返ったルイ皇太子は胸を打つようなハンサムな若者だった。
――これはこれは。アルベルト、あなたに勝ち目は無いわ。ルイは本当にゴージャス過ぎる若者だわ。
「もしかして、もしかしてなのですが……アルベルト王太子のお母様でいらっしゃいますか?よく似ていらっしゃるので……」
ルイ皇太子は碧い瞳で私のことを驚いたように見つめた。
「そうですわ。初めまして。息子にお会いしました?」
ルイ皇太子は破壊的な魅力を持つ笑顔を一瞬にして浮かべた。
――おっと。年上の私ですら、くらっとくる魅力をお持ちのようで……。
「会いましたよ!彼は無事に砂漠のアリス・スペンサー邸宅にいますよ。フェリクス殿下も我々を助けるために大量の食料を持ってきてくれました。軍の襲来を教えてくださり、本当に助かりました。ありがとうございました。王妃様のおかげです!間一髪で我々は避けることができました。みな、無事です」
最後の方は小さな声で囁くように私に話してくれた。私はアルベルトもフェリクスも無事で、お礼まで言われて、軍も避けられたと聞いて。一瞬でルイ皇太子に全面降伏した。
「まぁ、それは良かったわ!」
彼は小さな包みを胸に隠している。
「あなた、それを返しにいらしたのでしょう?理由は聞かないわ。私はあなたを助けられますわ」
私はイタズラっぽい笑みを浮かべて、右手に持つ鍵をジャラジャラ揺らした。
「えっ!この博物館の鍵ですか?最高ですよ、王妃さま!」
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