ガールズバンド“ミッチェリアル”

西野歌夏

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全世界の諸君に告ぐ

47_素性がバレる(アンジェロ)

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 部屋の前にはシークレットサービスがドアの両側に立っていた。カマジリは、顔見知りのように「やあ」と声をかけ、ドアをノックした。

 すぐに若い男性がドアを開けて、顔を出した。

「ああ、カマジリさん。」
「今晩も最高だった。ちょっとメンバーに挨拶したくって。」
「そちらは?」
 そこで若い男性がカマジリの後ろに立っている俺に気づいて、聞いてきた。

「しし丸。こちらはファンのかた。今日、たまたま座席が隣になって、ミッチェリアルの演奏に感動したって言うからさ。記念に会わせてあげたくて。」
 カマジリは、しし丸と呼んだその男性に、俺のことをペラペラと説明している。
 しし丸の目は一瞬だけ細くなった。

 そりゃそうっしょ。
 俺みたいな見ず知らずの男性を楽屋に通すわけがない。俺は急にとんでもない変なファンになった気分で(いや実際そうだ、いきなり楽屋に押しかけるなんて)、恥ずかしくてどうにもならない、このまま逃げ出してしまいたい気分になった。

「こんにちは、ボス。」
 そこになんと懐かしい声が俺の後ろから声をかけてきた。

 メロンだ!
 俺はサッと後ろを振り返った。

 メロンはこざっぱりとした格好で立っていた。少し見ないうちにだいぶセンスが良くなったようだ。なんだか、バンド関係者のように見えなくもない。「くノ一」感は相当薄れていた。俺の知っているメロンとはどこか違って見えた。

「ボス?」
 しし丸と呼ばれた男性が、目を丸くした。

「そうです。私のボスはこの方です。」
 メロンがにっこり笑って俺を紹介した。カマジリは、たじたじと様子で立っていたが途中ではっとした様子で立て直してきた。
「あー、そんな偶然ってある?いつもメロンさんにお世話になっておりますっ!」
 カマジリはなぜか日本人ぽいお辞儀を何度も俺にしてきた。


「あかんわー。」
 急にドアがガッと大きく開いて、サングラスをかけた迫力満点の年配の女性が顔を出した。俺でも聞いたことがある大阪弁とかいう日本語だと言うことはわかった。

「ボス、どうぞ。」
 メロンはそう言うと、私を楽屋の中に招き入れようとした。

「あ、はいはいどうぞ。」
 しし丸という男性もはっとしたように、俺を中に招待しようとした。その時、しし丸とメロンが一瞬目を合わせたのを俺は見逃さなかった。

 なんか嫌な予感がする。
 俺は一瞬だけそう思った。メロンは俺の送り込んだ部下で、ミッチェリアルのミカナの動きを報告してくる潜入スパイのはずだ。薄い顔の女メロン。俺の部下に間違いない。

 俺はメロンの顔をサッと見た。ソフィはこいつのことを何か言っていたっけ。
 メロンには弟がいて、弟のミカエルもミッチェリアルに近づいたはずだ。
 兄弟揃って俺の部下で、俺のためにミカナの動向を見張っていたはずだ。

 兄弟揃って真面目に働いていると思っていたが、ちょっと待った。
 この俺がイカれたのだ。メロンがイカれないという保証がどこにある?

 つまり、だ。
 もし仮にメロンがとっくにミッチェリアルにイカれてしまっていて、メロンはだいぶ前から俺を裏切っていたとしてだ。
 そこに、俺がノコノコ現れたとしてだ。
 このバンドメンバーは俺に悪事を働く奴らかどうかってことだ。
 いや、違う。きっと違う。

 ミュージシャンだ。そもそも武器商人をやっている俺とはリスク度合いが全然違う。

 そう考えて俺はほっとした。
 俺は案内されるがままに、楽屋の中に足を踏み入れた。

 そこには、16歳のミカナが腕組みして立っていた。
「へえ?ノコノコやってきたんだ。」
 ドイツ語でミカナはぼそっと言った。

 まずい、まずい、まずい。
 このテンションはまずい展開な気がする。

 俺は何か言わなければと焦った。
「いや、その、バンドの演奏に感動して。」
 俺はなんとか言えた。

「へえ?私を殺しかけたり、脅しをかけたり、忙しかったのに。わざわざノコノコ?」
 ミカナは腕組みをして仁王立ちしている態度を一切変えずに言った。

「まあ、それはそのー誤解と言うか。悪かったと思っている。」
 俺は観念して素直に言った。

「悪かったって謝ってすむようなレベルじゃなかったと思うけど?」
 ミカナはドスが効いた声音で冷たく言い放った。

 あー、俺はこいつに負けるのかもしれない。
 ロシア皇帝の隠し財産を受け継ぐには、こいつみたいな器が必要なのかもしれない。
 イカれたついでに、俺は自分がみっともない存在に見えてきて仕方がなかった。

「ごめんなさい。それについては本当にすまなかった。」
 俺は謝った。俺が悪いのは間違いない。

「でもなんで、金を武器購入に使いまくっているんだ?未完成の衛星まで買いまくっているのはなぜだ?」
 俺は思わず聞いてしまった。

「ふーん、それは気になるんだ。」
 ミカナはそう言うと、ほらって横を振り向いた。

 俺もつられて横を見た。
 トルコで行方不明になった俺の飼い猫のモーリーがそこにいた。
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