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2. レエリナサウラと秘密結社 →数億年前地球 中世ヨーロッパ

第31話 ガッシュクロース公爵夫人の手紙(牡丹&琴乃)

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 間宮琴乃は、私をはしらはしらにくくりつけていたなわを解いてくれた。
「大丈夫?」

 私に優しく声をかけて乱れた振袖ふりそでを素早くととのえてくれた。
「本当にお美しい振袖ふりそでね。」

 それから、髪も整えて私のほほらしていた涙もいてくれた。

 私は申し訳ないと間宮沙織に頭を下げて、平謝ひらあやまりした。
「あなたを拉致らちしてきてしまい、本当に申し訳ないです。」

「沙織と間違えたのね。」
 間宮琴乃はそう言うと、私の顔をはたとみて言った。
「話してくれないかしら?何が起きているのか。」

「これが、ガッシュクロース公爵夫人こうしゃくふじん文官ぶんかんに渡した手紙よ。」
 私は、間宮琴乃に、黒薔薇くろばら刻印こくいんが押してある手紙を見せた。
「ガッシュクロース公爵夫人?」
 間宮琴乃はいぶかしげに見つめる。

 私は兄に危うくおかされそうになったことの憎悪ぞうあくから、琴乃に全てを話すことに決めた。兄には今後一切協力しない。協力するフリすらしない。私が協力しなくても兄は理由をさとっているはずだ。胸をさわられた。まれてはだけてしまった着物をきちんと正す。兄は着物のすそって膝を入れてきた。私が抵抗につぐ抵抗をしなければ、何が起きていたかと思うとゾッとする。

 私は絶対に負けない。あいつはけものだ。血がつながっていなくても、あってはならない犯罪だ。犯罪について貴和郷一族きわごういちぞくが語れないのは私だって自覚がある。でも、それとこれは全く別物だ。
 私は犯罪に一ミリも手をめない。私は父とも兄とも違う道を歩む。そもそも、今回の兄の気色悪きしょくわるい趣味には、反吐へどが出るほどの嫌悪感けんおかんがある。

 今後、私の体には私の承諾なしに誰にも指一本触れさせないわ。当たり前だ。
 私が忍びとしても最高レベルに強くなるよう教育を受けた力の全てを、こういった反吐へどが出るほど不埒ふらちなやからを地球から成敗せいばいするために使ってやるわ。兄には二度とこんなことができないようにしてやる。

「ぜんぜん、何が書いてあるか読めないわ。」
 間宮琴乃はその手紙を見てつぶやいた。

 私は琴乃に話し始めた。まずは、父が心臓発作しんぞうほっさを起こして亡くなるきっかけになった手紙からだ。

◇◆◇◆ 
 黒のネットワークという隠語いんごがある。とある秘密結社ひみつけっしゃを指す。マブリマギアルナアブロッシュ。
 1512年の秋のある日、ガッシュクロース公爵夫人は、文官に手紙を託した。黒い薔薇ばら刻印こくいんを押して、ろうふうをしている。それには、とある指示書しじしょに対する回答がしたためられていた。黒のネットワークの秘密要員同士でやりとりするものだ。

「黒よ。大至急、大公たいこうまでお願い。」

 文官は、一目見るなり、静かに頭を下げてした。速やかに馬を走らせて手紙をはこんだ。

◇◆◇◆ 

「何?黒のネットワークって・・・」
 琴乃は何のことかわからない様子で私に聞いた。

「黒の秘密結社ひみつけっしゃよ。数億年前の地球で始まった秘密結社よ。中世ヨーロッパを起点きてんとしているわ。あ、人間の3週目の中世ヨーロッパの方ね。」

御意ぎょい

「黒の秘密結社ひみつけっしゃは、中世ヨーロッパを起点として各時代、各国に脈々と細く長く強靭きょうじんなパイプを築いていたのよ。そのネットワークは、信じられない強さで網目あみめのように伸びているわ。」
「それは伸びに伸びたあげくに、の。間にあるのは数億年の時空じくうよ。」

 私は琴乃に話し始めた。琴乃は真剣な表情で聞いている。

「つまり、大昔の悪い組織が時空じくうを超えて私たちの時代にまで影響してきているのね。それはわかったわ。」
 琴乃はうなずいた。

「一方で、黒のネットワークに対して、赤のネットワークというものも存在しているのよ。」

「赤?」
「そう、よ。」

「赤のネットワークは、人間がほろんだ後の地球で栄華えいがほこる「忍びと恐竜」時代、つまり現在を起点とする秘密結社よ。」
 牡丹はそう言ってため息をついた。

「そして、我が貴和豪一門きわごういちもんのトップは、赤のネットワークの一員なのよ。特権階層とっけんかいそうで強烈なネットワークを築いている。」

 牡丹はだるそうな表情でゆっくり言った。

「あなたの可愛いい妹さんをねらっているのは、中世ヨーロッパを起点とする黒ネットワークの秘密結社の方よ。妹さんの命をねらっているわ。」

「な、なんで沙織がそんな目に・・・・」
 琴乃は絶句ぜっくした。顔が青ざめている。 

「でね?黒の奴らに乗じて帝の抹消まっしょうねらっているのは、我がよ。」
「まあね。わたしは賛成できないんだけど。」

 赤の密書には「赤いボタンの花」の刻印がある。「赤いボタンの花」は赤の象徴であった。
 
 あの日、私(貴和豪牡丹)の父がショックのあまりに亡くなった日、貴和豪本家に届けられた手紙は、ガッシュクロース公爵夫人の出した黒薔薇くろばら刻印こくいんがされた手紙だった。

 貴和豪一門の忍びの中でその手紙の文字を解読かいどくできたのは、私の父、それにもう一人。その娘の牡丹ぼたん、つまり私だ。

 私の兄はその中身を解読かいどくできなかった。私(貴和郷牡丹)は、幼き頃から、「黒と赤のネットワークをつなぐもの」として、育て上げられた一門の中でも特別な忍びであった。

「これが、ガッシュクロース公爵夫人が文官に渡した手紙よ。」

 私は、間宮琴乃に、もう一度黒薔薇くろばら刻印こくいんが押してある手紙を見せた。

「やっぱり、何が書いてあるか全く読めないわ。」
 間宮琴乃はその手紙を見てつぶやいた。

「でしょう?兄にも解読できなかったのよ。私も解読できないフリをしたわ。」
「で、一体全体、なんて書いてあるのかしら?」
「そこには、妹さんが何をしたのかが書いてあるのよ。」
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