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2. レエリナサウラと秘密結社 →数億年前地球 中世ヨーロッパ

第42話 恋する妹(琴乃)

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 ランフォリンクスの大群たいぐんは消えていた。
 私は姉の琴乃ことの。帝と二人っきりで恐車きょうしゃに取り残されていた。

 どうやら、土居田どいだ陸軍長官の率いる、翼竜最大よくりゅうさいだいのハツェゴプテリクスが完全に追い払ったようだ。帝を乗せた恐車きょうしゃは、陸軍の厳重げんじゅう警護けいごの元に城に戻ろうと進んでいた。

 豪奢ごうしゃな毛皮でおおわれたレエリナサウラの御者ぎょしゃもいつの間にか陸軍の者に代わっていた。

「そろそろ、戻って来るかな。」

 帝がそう言った瞬間に、恐車きょうしゃの中にケラケラ笑うまさみと美しい顔に笑顔を浮かべた牡丹ぼたんと、困ったような表情の沙織が瞬時しゅんじに姿を表した。

「戻れたわ!」
 まさみがそう言って手を叩いた。

「みなさん、ご無事で。」
 少し嫌味いやみを感じる物言ものいいで私は言った。

「あら琴乃さん。琴乃さんも来ればよろしかったのに。」
「それは結構。」

「ちょっとやめなよ。」

 牡丹ぼたんまさみをたしなめた。

「沙織は大丈夫?けがはないの?」

 私は困った表情を浮かべている沙織に声をかけた。
「大丈夫です。姉上。」

 沙織は消え入りそうな声で私にそう言った。

「私のせいで、牡丹さんとまさみさんまで巻き込んでしまいました。」
 見ると、沙織の目に涙が浮かんでいる。

「あら、もうんだことよ。仕方ない仕方ない。楽しかったわ。だから私はいいの。」
 まさみはあっけらかんとして言った。

「ええ。私も楽しかったわ。もういいわ。」
 振袖姿ふりそですがた牡丹ぼたんもイタズラっぽい表情を浮かべて、そう言った。

「さて。」
 帝がそう言った。

「城に戻ったら沙織と話したいので少し二人だけになりたい。琴乃ことのさん、よろしいですね?」

 帝は私の顔を真っ直ぐに見てはっきりと言った。
「はい。」

 私は渋々うなずいた。帝は本気で沙織のことを好いておられるようだ。帝が本当に全てを知っているならば、私がどうこう言っても帝の決意けついは変わらないであろう。この帝は、お顔がうるしいことを差し引いても、かなりの好感こうかんの持てる人物であることには間違いなさそうだった。

「沙織、城で話そう。」
 帝がそういうと、沙織は口をきつくむすんで下をむいてうなずいた。涙をこらええている。

 その様子だけで姉の私には、のはよく分かった。

 ただ、沙織がそれを帝に言えるかはわからない。
 「おしたい申し上げている」
 その言葉を言うには、沙織には葛藤かっとうがあるのではないか。
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