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3. 時間に広がるさざなみ(辺境の星からの刺客)

第64話 この惑星の技術ではない だからこそ救える(颯介)

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俺は、あれから仕事を終えて直帰すると、飲まず食わず、眠れず、ずっとパソコンに向かって検索をし続けていた。

気になって、気になって仕方がない。伯爵家はくしゃくけがあったあの国は今のどこだろう?フランスな気がするが、一体どこの地方だろう?しまった。ゲームに召喚されると、言葉が通じてしまうところがあだになっている。何語で俺たちは会話していたのだろう?

イギリスではない。オーストリアではないと思う。ドイツでもない。やっぱりどう考えてもフランスっぽい。俺は眠れない夜を過ごした。ずっとアパートの部屋でパソコンに向かって調べ続けた。伯爵家はくしゃくけの空をそもそも飛んだことがなかった。

一体全体、あの村はどこだ?グーグルアースで見たり、フランス中の地図をくまなく放浪ほうろうした。パソコン上で。

そのまま朝がきた。徹夜で会社に行く。会社に行く電車の中でもスマホで探し続ける。わからない。

伯爵の名前はジュスタン。苗字を知らない。
会社の最寄りの駅で電車降りて、会社まで歩く。スタバが目に入った。そうだ、血筋だ。ガストロノムバックストッカーという苗字みょうじは珍しい。伯爵ではないが、中世ヨーロッパの村に住む子供たちがその苗字みょうじだった。
良し!

俺は会社に着くと屋上に駆け上がった。屋上から皇居こうきょが見える。執務室しつむしつの上の屋上のベンチに腰掛こしかけて皇居を眺めて、深呼吸をする。

スマホにガストロノムバックストッカーと打ち込んだ。つづりも覚えている。アルファベットでも検索した。

そして、俺は博物館の古い文献ぶんけんを見つけたのだ。フランスのとある村に関する記述があった。

徹夜明てつやあけの目に、皇居の素晴らしい景色はしみた。涙が少し出た。これは、一晩中目が疲れているからで、なつかしいからではない。

今の現代にあの伯爵家はくしゃくけがあるとは思えなかったが、グーグルストリートビューをした。今も、同じ伯爵家はくしゃくけが現代の街の中にひっそりと建っているのを見たら涙が込み上げてきたのだ。

ナディアに連絡をしようかと思ったが、やめた。飲まず食わず、眠らず、ひたすら伯爵家はくしゃくけの場所を突き止めようとしたのだ。俺がまず現地に行って、どうなっているか確かめてから、ナディアには連絡しよう。

頭の片隅かたすみには、ゲームの設計をしたのは地球人ではないという疑いがずっと残っている。中世ヨーロッパの伯爵家はくしゃくけにしかけたやつは、この地球を調べる目的だったのではないか。

地球人ではないなら、どこの惑星わくせいから来たやつがしかけたのか。俺のかんはときどき妙に当たる。でも、飲まず食わず、眠らず、伯爵家はくしゃくけの場所を探し続けたのだから、今の俺のかんはちょっとおかしいのかもしれない。頭がちゃんと働いているのか分からない。

今日は今しかかり中の仕事を仕上げて、それから強行軍きょうこうぐんでフランスに行ってトンボ帰りする方法を考えよう。仕事はちょうど山に登る手前の谷期たにきだ。3日は休む調整はできそうだ。3日と土日をくっつけて、5日でフランスに行って、伯爵家はくしゃくけを確かめたら戻ってくるのだ。

渡航費とこうひはクレジットカードだ。貯金はこの前のニューヨーク行きでほぼ消えた。生活はカツカツになるが、まずはフランスの現地確認が俺にとっての至上命題しじょうめいだいだな。

目の前に広がる広大な皇居の緑を見ながら、数億年先の地球に生きる帝と沙織さんのことを俺は思った。今頃、二人は無事だろうか。帝と沙織さんを追い詰めているのは、違う惑星わくせいからしこまれた技術だと思う。

俺は黒より、赤より、ゲームのことをよく知っている。あれはこの惑星わくせいの技術ではないと強く思う。だからこそ、
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