上 下
86 / 107
3. 時間に広がるさざなみ(辺境の星からの刺客)

第74話 白くて大きいふわふわの寝ずの番犬に守られて(沙織)

しおりを挟む
 その夜、私は帝の自室じしつで眠りにつこうとしていた。
 私は浴衣生地ゆかたきじはかまと着物を着て、帝は浴衣を着ていた。

 私の右の手首には紐が巻き付けられ、その先は帝の左の手首に巻き付けられていた。
 ゲームの召喚しょうかんが来た場合、二人同時にゲームに参加するためだ。

「若、あの、白いふわふわの生き物はなんでございましょう? 」

 私はほのかな灯りに照らされて、大きな真っ白の毛におおわれた動物が帝のすぐ横に寝そべっているのに驚いて、静かに帝に聞いた。

「グレート・ピレニーズの一種だ。ひょうのように敏捷びんしょうなタイプで、名前はサキという。」
 帝は私の方を見て答えた。

「私が寝ている間、サキは寝ない。寝ずに見張ってくれているのだ。」
 帝はサキの白いふわふわの毛におおわれた背中を静かにでた。

「サキは強い。沙織も安心して眠るが良い。」

「分かりましたでございます。」
 私はなんとか目をつぶった。緊張のあまり、言葉使いも変になってしまう。眠らねばならない。

 でも、眠れない。帝が隣に寝ていては、ドキドキしてしまってまったく眠れない。

「わたくしも、サキをなでて見てよろしいでしょうか。」
 私は帝に聞いた。

「いいぞ。」
 帝は私にそう言って寝返りを打った。サキの方を見ている。
 そっと帝の足元から私はサキの方に回り込み、サキの背中をゆっくりと撫でてみた。

天窓てんまどから月が見えますね。」
 私はふと気づいて言った。

「あれは偽物にせものだ。上から侵入できてしまうので、天井に窓はない。」
「あれは夜になると月に見えるよう偽物にせものの月があそこに置いてあるのだ。」
 帝は静かにそう言った。

「私は10歳で帝になって以来、ずっと狙われている。」
 帝は自虐的じぎゃくてきな笑いを浮かべてそう言った。

「そうでございましたか。でも綺麗きれいですね。ね、サキ?」
 私はサキの背中を撫でながら偽物にせものの月を見上げた。

 そのまま、帝と私はサキのそばで眠りについた。サキの呼吸を聞いていると、私も安心できて帝の自室で初めての夜を過ごしたのだ。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

雨に濡れた犬の匂い(SS短文集)

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:596pt お気に入り:0

あわよくば好きになって欲しい【短編集】

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:18,276pt お気に入り:1,527

【NL】伯爵子息は専任メイドを手放したくない【子息×メイド】

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:725pt お気に入り:16

イラストから作った俳句の供養

現代文学 / 完結 24h.ポイント:497pt お気に入り:1

「欠片の軌跡」②〜砂漠の踊り子

BL / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:7

野良烏〜書捨て4コマ的SS集

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:1

今更魅了と言われても

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:20,491pt お気に入り:689

♡短編詰め合わせ♡

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:855pt お気に入り:38

処理中です...